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新しい世界に、価値観がひっくり返ったあの日――わたしの沼落ち物語 vol.2 広瀬有希

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「2.5次元にハマったのはいつ?どうして?」と聞かれたら、間違いなく「初めて見たテニミュがテニスの王子様そのものだったから」と答えるだろう。

役者・原作・舞台の構成やストーリーなど、ハマる理由は人それぞれにあるが、ここではあくまでも個人的な「ハマった理由」について語っていく。

プロフィール 広瀬有希

演劇と映画と小説を愛するエンタメ系フリーライター。たくさんの感動を、熱い思いとともに、読んでいてワクワクするような文章にしてお届けします。趣味は吉祥寺のカフェとショットバーの開拓。

「5分!5分頑張って!」その言葉が終わりで始まりだった

2003年。「テニスの王子様」がミュージカル化されると発表があった時、ファンの間では、「なにそれ」「歌って踊るの」という声ばかりが囁かれていた。

舞台や若手俳優に特別興味があるわけでもなく、普通に漫画やアニメが好きだっただけの私にとっても、チケットを取り、時間を作って劇場に行くということはとてつもなくハードルの高い娯楽のように感じられ、公演に足を運ぶことはなかった。

しかし、それから追加公演と不動峰公演が行われ、ほんの半年ほどの間にファン層がどんどん広がっていった。恐ろしいほどの熱狂っぷりだった。

「5回行った」「全通した」そんな声を、ずぶずぶといってしまった周りからちらほらと聞きながらも「いやいいわ」と逃げていたのだが、ついにつかまってしまった。友達の家での「テニミュ円盤鑑賞会」である。

「5分!5分いければ大丈夫だから!」

そう言いながら友達はDVDの再生ボタンを押す。

――『知ってるかい?』

私のまったく知らない「テニスの王子様」が始まった。

そしてほぼ2時間後、私は「次のルドルフ観に行くにはどうしたらいい?」と友達に泣きついていた。

原作ファンであった自分の心をテニミュが掴んだ理由を考える

外すことの無かった役者のキャラ解釈

家に帰る途中も、ずっと頭がふわふわしていた。画面の中にいたのは生身の役者であるのに、確かにリョーマがいた。自分の中にある理想像とはまた別モノのリョーマだった。

今でこそ2.5次元舞台の役者は、アニメとなっているものに関してはアニメの声優に声を寄せてくることも多い。

それに反して柳浩太郎のリョーマは柳本人の声だった。しかし、負けず嫌いで生意気で、自信たっぷりでツンとすました中にもあどけない13歳の少年らしさをちらりと見せる、リョーマそのものがそこにいた。

ビジュアル面では皆メイクも薄く、ウイッグも現在のように精巧な作りではない。それでもキャラクターは皆、出てきた瞬間「あ、分かる」と納得してしまう存在感だった。

おそらく、役者たちそれぞれが原作を読み込み、作り上げたキャラクターが、ファンが求めるものとぴったり合致したのだろうと考える。

しかしそれなら、ミュージカルではなくとも「演劇」の舞台でも良かったはずだ。なぜミュージカルだったのか。突然歌い踊りだす、と当時抵抗感があった人が多かったであろうミュージカルを選んだ理由、そして原作のファンだった自分がそれを受け入れられた理由とは何だったのか。

キラキラまぶしいまっすぐなテニミュの歌詞とダンス

テニミュの歌詞はどれも、ひねりや難しい言葉は使われていない。

あらためて文字にして読めば恥ずかしくなってしまうほどの、まっすぐな少年たちの気持ちが書かれている。三ツ矢雄二の歌詞は、純粋な原作ファンはもちろん、いろいろな沼にいる人たちの心に突き刺さる。

また、歌い方も、観客が既成概念として持っていたであろうオペラ的な歌い方ではなかった。

あれがもし、全員が朗々と歌い上げるミュージカルであったなら、受け取られ方が違ったであろうと考える。受け入れられなかったかもしれない。既成概念としてイメージにあったミュージカルとは違うミュージカル、そこに惹かれたのだろうと考える。

ダンスも、宝塚のように洗練された美しいバレエが下地にあるものではない。

試合を表現するためのステップ、軽々とした動き。キャラたちが自由に跳ね、飛び、走り回る動きが、激しいダンスで表されていた。

「テニスの王子様」の原作にある奔放さと派手さ、エンタメ性を表現するには、じっくりと味わう舞台ではなく、単純にスカッと楽しいミュージカルが圧倒的に向いていた。

2.5次元作品があふれる今、舞台化・ミュージカル化と表現方法はさまざまであるが、「テニスの王子様」はミュージカルでなければならなかったのだ、と今は考えることができる。

そして本命のルドルフ公演へ足を運ぶー2.5次元ナマ初体験

翌年の夏、原作でも本命だった聖ルドルフ学院の公演に足を運んだ。

池袋の芸術劇場、2階。オペラグラスを持って行くなどという知識もなく、もちろん舞台は遠かったが、キャストたちが出てきた瞬間から終わりまで私は、隣にいた友達の手をずっと強く握りっぱなしだった。

左手は友達に、右手はタオルをずっと口にあて、声と嗚咽を何とかそこに流し込み、耐えていた。

本命が生身の人間となって目の前にいる。喋り、歌い、踊る。そのすさまじさをほぼ二時間、とくと味わった。

毎日でも池袋に通いたいと思ったが、残念ながら私の手元にあったチケットはその1枚限りだった。

それまで、舞台はおろか同じ映画を複数回見ることも無かった私に刻み込まれたのは「明日はきっと違うものが見られるはずなのに」という悔しさだった。

舞台は生物とよく言われるが、まさにそれだ。今でも思う。行かれるものであれば何度でも見たい。

初めての人にもベテランにも、安心と信頼のテニミュ

2019年の今、2.5次元はさまざまな作品で上演がされるようになった。

大きなひとつのジャンルとして確立もしているが、今でも、初めて2.5次元に触れるという人には私はテニミュをおすすめしている。

もちろん、自分が好きだからという理由もあるが、公演数の多さ・全国展開・チケット代の手軽さ、そして「それほど原作を知らなくても何となく楽しめてしまう」エンタメ性はやはり強い。

2.5次元のパイオニアであり最前線をずっと突っ走るテニミュは、老若男女問わず単純に楽しめてしまう。

「面白かった」「何かすごかった」それでいい。そこから興味を持ち、原作を好きな他の2.5次元舞台に足を運んだり、時には役者沼にハマっていくのも良いだろう。

「いきなり舞台は」と、興味はあるものの何となくしぶっている人は、ぜひ初代公演の冒頭5分だけでも見てほしい。

冒頭5分、それはテニミュを象徴する歌「THIS IS THE PRINCE OF TENNIS」が始まり終わるまでの時間だ。それがイケればきっとあなたもこちら側。ようこそ2.5次元の世界へ、だ。

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WRITER

広瀬有希
							広瀬有希
						

金融・印刷業界を経てフリーライターへ。エンタメメディアにて現場取材・執筆の他、日本語・日本文化教育ソフト監修、ゲームシナリオ、ノベライズなどで活動中。感動が伝わる文章を目指して精進の日々を送っています。

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