文豪の名を持つキャラクターたちが架空の都市“ヨコハマ”を舞台に異能力バトルを繰り広げる「文豪ストレイドッグス」。
そのアニメを原作とした舞台「文豪ストレイドッグス」シリーズは、2017年12月に初演の幕を開けて以降、再現度の高いキャラクター・演劇的手法をふんだんに取り入れた異能演出・並々ならぬ原作愛といった魅力でファンに愛されてきた。
そんな「文ステ」が2023年6月・7月に上演される舞台『文豪ストレイドッグス 共喰い』をもって終劇を迎える。
2.5ジゲン!!では、武装探偵社の中島 敦を演じる鳥越裕貴、ポートマフィアの芥川龍之介を演じる橋本祥平にインタビューを実施。初演からシリーズに参加する2人から見た「文ステ」の魅力や中島 敦と芥川龍之介としての6年間の積み重ね、本作の見どころなど、終劇を迎えての心境を聞いた。
――ついに終劇です。実際に稽古が進んだいま、作品への手応えはいかがですか。
橋本祥平(芥川龍之介役):まだ作っている最中ではあるのですが、異能バトルを演劇として表現するっていうポイントでは、今回もだいぶ攻めたことをいっぱいしてるなっていうのは感じていますね。
鳥越裕貴(中島 敦役):今までの作品は爆発的なものが結構あったんですけど、今回はわかりやすい爆発というよりは、内なるものがそれぞれにあるような感じがしていて。今までにない、またちょっと種類の違う作品になっているんじゃないのかなって感じました。
――初演から敦・芥川として共演してきたお2人ですが、今作における関係性の変化はどう捉えていますか。
鳥越:そうですね。役自体がまた成長してるっていうのもありますね。ここの2人で言うと、最初に演じていたガミガミしたぶつかり合いみたいなものが、お互い大人になって、さらに芥川がちょっと1歩前にいるじゃないですけど…敦としてそれを感じることがあって、完全に当初のお互いの関係性とは違うなと思います。
橋本:そうですね。たしかに。初演の関係性からはちょっと進んだというか、お互いに否定しつつも理解しようとしている部分とかもあって。「あ、今回本当に役としても成長しているし、今までの物語があって、今こういうことを思ってるのか」とか…。
そう思うと結構感慨深い部分がたくさんあります。
――2人のシーンを作っていく際は、どんなふうにお互いに声を掛け合っていますか?
鳥越・橋本:う~ん…。
鳥越:特にないかな~。もう、やりながらの、そのときの感覚でやってるかな。
橋本:そうなんですよね。でも、僕の感覚では、鳥越さんがすごく合わせてくださってるというか。例えば、芝居で僕(芥川)がちょっと離れたら、「(中島)敦はこっち行ったほうが見ばえ的にいいんだろうな」っていうのを、鳥越さんが感じ取って移動してくれていたり。僕から言わずとも、行動でやってくださってるっていうのは感じています。
鳥越:それも意識しているっていうよりも、まあ、これだけ長い年月一緒にやってるから、バランス見ながらっていう感じですね。
でも、あからさまな「ここ、こうしようぜ!」みたいな共有はしてないかもしれない。
――言葉にせずとも、な信頼関係のたまものでしょうか?
鳥越:(真顔で)信頼があるかは…わからない。
橋本:(笑)
鳥越:やっぱりお仕事ですからね。ちゃんとやらせてもらっています(笑)。
――2017年の初演を振り返ってみて、今と違いを感じる部分はありますか。
鳥越:当時のことはもうあんまり覚えてないですけど、とにかく「自分が突き進まなきゃな」っていうつもりで、何事にも思いきり、「こういう感じで行くぞ」っていうのに全力でしたね。祥平ともそんな感じで芝居をやってたなっていうのは、感覚として残ってるかな。
橋本:そうですね。芝居面では鳥越くんが「全力で来い」って、すごく間口を広げてくださって、僕もやりやすくてっていうのがあったんですけど。
でも、その感覚っていうのは今でも変わらないなって。全部を受け止めてくださって、かつ、その倍のエネルギーを出してくれるから、こっちもまたさらに出せるっていう、いい関係なのかなと思っています。
芝居以外では昔の方がちょこちょこかわいいことはやってましたよね。
鳥越:まあ実際にかわいかったからな。今は節々に歳を感じる。
橋本:そうですね(笑)。
鳥越:みんな感じているよな。
橋本:そうだ。思い出したんですけど、鳥越くんもだんだんちょっとボケてきてて…。
鳥越:お、なんだ?
橋本:稽古場にサブレがあったんです。で、鳥越くんが「これ、有名だよね。神奈川の鳥サブレ」って。「鳩サブレ」なんですよ。鳥サブレなんて言わないんですよ。
一同:(笑)
橋本:もう、そういう天然なエピソードがいっぱいあって。僕らも「もう年だな」ってなってます(笑)。
鳥越:疲れてたんだろうな。
橋本:疲れてたんでしょうね。
――毎回、異能のシーンを含め演劇的な見せ方へのこだわりが印象的でした。過去作品を振り返って印象的なシーン、自分が演じてみたかった異能シーンなどはありますか。
鳥越:圧倒的に「檸檬爆弾」(梶井基次郎の異能)ですね。爆弾はやっぱやっときたいですね。
橋本:いいですね~!
鳥越:しかも2人でできるもん。
橋本:あ! あと、フランシスの後ろのバブリーダンサー。
鳥越:(笑)。あれもいいな。
橋本:異能シーンはもちろん全部感動してるんですけど、芥川でいうと、初演の「羅生門・彼岸桜」とか。
鳥越:あ~あれ良かった。
橋本:良かったですよね! ちゃんと持ち上げて、布の動きで突き刺さってるように見せていて「うわ、すげえな!」ってマジで思いました。
鳥越:ドッグス(アンサンブル)に感謝して!(笑)
橋本:常にしてますよ!
鳥越:彼らのおかげで、俺らは異能出せてますからね。
――今作の演出も非常に楽しみです! 今作でお2人が注目してほしいポイントをぜひ教えてください。
橋本:2017年から芥川としてずっと歩んできて、今回初めて、とあるシーンで衣裳チェンジがあります!
鳥越:まあ珍しい。
橋本:これまで本当になかったんですよ。キービジュアルになっている、あのシーンももちろん激アツなんで見どころなんですが、個人的には、一瞬なんですけど衣裳チェンジができてうれしいなと思うので、そこも楽しんでもらいたいですね。
鳥越:そうですね。僕はやっぱり、(孤児院の)院長と向き合うところですかね。映画(『映画 文豪ストレイドッグス BEAST』)では向き合ったんですけど、また向き合いたいと思っていたので、ここで新たに舞台の方でもそれができるのはすごくうれしいなと思います。
――2017年から続いてきた「文ステ」ならではの魅力をどう捉えていますか。
鳥越:人間力じゃないですかね。原作に対しての愛を含めて、個々の人間力がすごく素晴らしいっていうのはよく思いますね。
橋本:前、ニコニコ生放送で特番やったじゃないですか。そこで過去の映像が流れていて、みんな顔をぐっちゃぐちゃにしながら叫んでるなっていうのが、改めて観てみてすごく印象的で。
もちろんかっこつけるところはかっこつけるんですけど、なんかもう、それすらも超えて“何かを伝えたい”とか泥臭くいられるっていうのは、「文ステ」の魅力なのかなって思いました。
――終劇ということで、お2人の中にもやはり寂しさはありますか。
鳥越:そうですね。終劇を迎えても、このメンツとはどこかでまた一緒になることもあるんでしょうけど、お芝居ですごく遊べる演劇・遊び場みたいな1個のカンパニーがなくなるのは寂しいなっていうのはありますね。
橋本:そうですよね。これまでは終わってもまたあるんだろうなとか思う部分はあったんですけど、今回はもう帰る場所がなくなってしまうと思うと、やっぱり寂しさっていうのはありますね。
――ちなみに今の気持ちを100%とすると、寂しさと楽しみな気持ちの比率はどんな割合ですか?
鳥越:今は楽しみ100%かな。
橋本:お~おもしろい。
鳥越:なにがおもしろい(笑)? たぶん本番始まって公演を重ねていくごとに、「あと何公演か…」っていう寂しさが出てくるのかな。折り返したあたりからじわじわと。
でも、とにかく今は寂しさというよりは楽しみですね。
橋本:今は50%、50%ですかね。あ~でも、楽しみ・寂しさ・ありがたさが拮抗してますかね。
鳥越:“三社鼎立”してるんだ。
橋本:そうですね。
――きれいにまとまったところで、最後にファンへのメッセージをお願いします。
橋本:シリーズものの舞台はいくつもあって、いつかは終わるんだろうなとは思っていても、こうやって「終劇です」って銘打って公演をやれることってなかなかないので。もちろんさっき言ったように寂しさはあるのですが、同時に、作品をきちんと終わらせられる、見届けられることへのありがたさも混じった気持ちです。
皆さまの応援があって、この終劇を迎えられるわけなので、最後はもう皆さまと一緒に「文ステ」を楽しんで、盛り上げていけたらなと思っておりますので、ぜひ楽しみにしていてください。
鳥越:初演からいろいろつなげてきての終劇ということで。なんでしょうね、多くは語らないですけど。とにかく劇場で、この終劇である「共喰い」を目の当たりにしてくれたら悔いは残らないんじゃないかなと。
それまでに作品を見返してもらったり、過去の公演DVDを1回観てもらって、皆さんもこの作品に覚悟を持って来ていただけるとうれしいなと思っています。舞台上でみんな覚悟を持って演劇を、「文ステ」を昇華させますので、ぜひ劇場にお越しください。
***
長年の付き合いの2人とあって、終始リラックスした雰囲気が漂うインタビューとなった。シリーズが終わってしまうことへの寂しさは多くのファンが抱えているだろうが、このインタビューを通じて、終劇への期待を少しでも膨らませられていたら嬉しく思う。「文ステ」らしく飾られる有終の美を楽しみにしたい。
取材・文:双海しお/撮影:梁瀬玉実
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