数多くの人気2.5次元作品シリーズの音楽を担当する和田俊輔さんにお話を聞く、「2.5次元の舞台裏」インタビュー後編。
前編(https://25jigen.jp/interview/90446)では、和田さんが舞台音楽に出会うまでや、脚本から音楽を生み出すプロセスなどについて話を聞いた。
この後編では、原作ファンに愛される2.5次元作品だからこその苦労や挑戦、音楽を生み出し続けるための工夫、舞台音楽という仕事のやりがいなどを掘り下げた。ぜひ、前編を読んでから本インタビューを読んでもらえたらと思う。
――今まで手掛けてきた舞台音楽の中で、手応えを感じた、または記憶に残っている作品はなんでしょうか。
いっぱいありますね。思い入れは本当にどの作品にもあるので…。ん~でも、やっぱり「ハイキュー!!」(ハイパープロジェクション演劇「ハイキュー!!」)は自分にとっては欠かせないメモリアルな作品ですね。
自分の音楽性ってすごくニッチで、そんなにメジャーな方向に振っていないオタク気質な音楽を書くと自分では思っていたんです。
「ハイキュー!!」はそんな自分の等身大でやったつもりなんですが、本当にいろんな方が「大好き」って言ってくださって。自分の音楽に対する考え方がガラッと変わりました。オタクっぽい曲を書いていたと思っていたんだけど、大衆受け…というと変な言い方かもしれませんが、多くの人の心に馴染む曲を書けたんだなと思いました。
あとはミュージカル「刀剣乱舞」も大きかったかな。この作品は僕が携われるとは思っていなかったので、今でもちょっと不思議だし、奇跡が続いているという気持ちがあります。なんて言ったらいいのかな。
「刀剣乱舞」こそ、ファンの持つ原作愛やキャラクター愛が強いので、僕はそこを大切にしたいし、僕も同じように愛したいと思って取り組んでいるのですが、果たしてファンぐらい好きでいられているのか…ずっと自問自答しながら曲を書いています。みんなの愛に負けないように書いているつもりです。
――やはりそこはファンに負けないぐらいの愛じゃないと、ご自身としては納得がいかない?
そうですね。納得いかないし、あとは怖さですね。ファンが怖いとかじゃないですよ(笑)。「刀剣乱舞」や「刀ミュ」の世界を壊してしまうことへの怖さです。ここまで築かれてきた確固たる世界があって、それを自分の勝手な解釈とか、自分のエゴで壊したくないっていう怖さがずっとあるんですよ。
だけど、守りに入って書ける作品でもなくって。誰かがこのキャラクターの曲はこんな感じだよって言っているものをそのまま踏襲すればいいわけでもなくて、自分なりの解釈が必要なんですよね。
そこの自分なりの解釈と、作品を愛する人たちみんなが作ってきた世界観との1番いい接点を、もうなんとかして見つけたいって思いながらやっています。
――長年、第一線で活躍されていますが、壁にぶつかることはありましたか。
めちゃめちゃあります。壁だらけです。僕は独学なので、そこがやっぱり最後に壁になっています。独学であることは、めちゃくちゃ大きな武器であり、同時にめちゃくちゃ大きなハードルというか、コンプレックスというか。
たとえ仕事がなくなったとしても、僕自身は曲作りが大好きなので一生曲を作り続けることはもう確定している、だけど、どこかで枯渇してくると思うんですよね。作りたいもの自体もそうですし、あとは前に作ったものを再生産しちゃう恐ろしさもあって。
で、そういうのを回避できるのがやっぱり、知識や勉強だったりするんですよね。ちゃんとした理論を知っていると、自分をもっともっと広げていけるんだろうなと思って、落ち込むことはありますね。
――壁にぶつかった際は、そこからどう脱出していますか。
そうなってしまったら、もう自分を好きになるしかないんですよね。壁にぶつかっている時って、結局「自分のことを否定しているとき」なんです。
なので、1回ぶつかって自分を否定はするけれども、一旦寝るとか、ちゃんとおいしいもの食べるとかして、もう1回自分の作った曲を聞いたり、もう1度新たな気持ちで取り組んでみたりして、自分が作った曲に自分が救われたと感じられると、次に行ける感じですね。
――音楽を生み出し続けるために、日々意識していることや大切にしていることはありますか。
そうですね。たくさんの情報に触れられるので、Twitterは欠かさず見ていますね。あとは音楽以外のインプットをとにかくしています。
音楽じゃなくてもそうだと思うんですが、自分が生業にしているものを絶えずアウトプットすることって、絶えずインプットしていることと同じだと思っていて。だから音楽に関しては、やればやるほど情報や発見、気づきが入ってくるんですよね。アウトプットとインプットは表裏一体だと思っています。
でも、音楽以外の部分を磨いていかないと、音楽に対しての広がりは出ないとも思っています。だから、本も読んで、ちょっとした休憩時間にドラマもニュースも見て、ということを積極的にやっています。
――読者のなかには舞台音楽の仕事を目指したい人もいるかと思います。和田さんからアドバイスを送るとしたら?
最近は僕のDMにもよく相談がくるので、舞台関連の仕事をしたいって思っている子が多いのはすごく感じますね。すごく素敵な時代になったなって思います。僕がやり始めた頃は、そんな時代じゃなかったので、舞台関連の職業が1つの夢のジャンルになったんだなって思うとうれしいですね。
アドバイスとしては、もう続けてほしいとしか言いようがないです。続けることでしか、周りから認められたり尊敬されたり、それを生業にできる道ってないと思うんですよ。
一部の天才以外は、やり続けてやり続けて、トライアンドエラーを繰り返して、自分を磨いていくしかないんですよね。
そうやっていたら、僕はいつの間にか周りからすごいって言ってもらえるようになりましたが、僕自身はまったくそうは思っていないし、その“すごい”の正体は時間でしかないと思っているんです。何十年もかけたから、すごいと思ってもらえている。みんなにも「すごいって言われるだけ時間をかけてみなよ」ということは言いたいですね。時間だけは裏切らないと思います。
――まさに継続は力なりですね。和田さんは2021年に株式会社OTO.LIKOも設立されて国産ミュージカルや後進の育成にも注力されています。今後の展望や夢をお聞かせください。
めっちゃありますね。僕、2人ミュージカルを立ち上げたいんですよね。今まで出会ってきたなかで、この人に声をかけたいなって思っているキャストさんも何人かいるので、実現したい…というか実現させます!
まだ構想の段階ではあるのですが、第3弾くらいまで連続でやりたいんですよ。そして、OTO.LIKOがプロデュースとしてやる以上、必ずサウンドトラックを最初に先行発売したい。曲を知ってもらったうえで、劇場に来てもらいたいんです。
日本でこういう形のミュージカルをしたいっていう僕の夢の1つなんですが、他の運営ができないなら、自分でやろうと思っています。まだ声をかけたい役者さん本人にも伝えていないのですが(笑)、絶対実現させるので、楽しみにしていていただけたらと思います。
――和田さんが思う理想の舞台音楽とはどんなものでしょうか?
難しい! 舞台音楽としてというか、僕自身が理想の音楽を目指して作っているから、自分の目指したいところっていう話になるのですが、“音楽も出演者の1人だったと思ってもらえる”というのが目指したい場所ですね。
僕の音楽がなくてはならなかったし、1つのピースだった。そうなるのが理想ですが、音楽の力ってやっぱり強いので、主張が強すぎると作品を壊してしまう時もあるんですよね。
それがさっき「刀ミュ」を例に出してお話した“特に気をつけているところ”なのですが、あまりにも「これを表現したいんだ」っていう思いの強い曲が舞台にかかると、その吸引力が強すぎて、作品の本質やキャストさんの魅力を奪ってしまうので、それはやりたくない。
あくまで音楽は音楽で、作品や脚本、演出、キャストさんを観客の皆さんには楽しんでもらいたいんですが、同時に「だけど、音楽がなかったら違うものになってしまったよね。出演者の1人として、音楽がそこにあったよね」っていう、その絶妙なバランスをいつも目指したいなと思っています。それが多分、自分にとっての理想の舞台音楽だと思います。
――理想ということは、やはりそのバランスを実現させるのは容易ではない?
そうですね、塩梅(あんばい)が難しいです。僕、エゴサが好きなのでよくSNSで検索するんですよ(笑)。時々、「音楽が強かった」っていう意見や、「音楽にはもっと支える側に回ってほしかった」っていう意見もあって。その意見も自分としてすごくわかるので、やっちゃったなって思うこともあります。
なので、そこのうまいバランスを保ちながら、それでいて音楽は耳に残るっていう最高の位置にいきたいですね。
――これからの観劇がもっと楽しめそうな興味深いお話、ありがとうございました! では最後に、舞台音楽という仕事に感じる魅力を教えてください。
これは冒頭の演劇をやってきた話につながるんですが、演劇って総合芸術なところが僕は1番好きなんです。
1人ひとりのパワーを集めて、全員で1つの作品を作っていくので、寂しくないし、楽しい。ずっと文化祭をやっているような感じというか。
対して、音楽を作るのって、結局ずっと1人きりなんですよね。自分との戦いだし、自分を嫌いになったらおしまいだし、自分の曲で自分が救われるようにしたりして、とにかくずっと自分との対話をしている。
そのなかで、舞台チームのスタッフさんやキャストさんたちと会えたり、喋ったり、同じ目標を持てる稽古場に行ったり、初日っていう最初のゴールを迎えられたり、大千秋楽っていう最後のゴールを一緒に迎えられたり。そういうのって、もう本当に救われる瞬間ばっかりなんですよ。
その瞬間があるからこそ、舞台音楽もやめられない。
舞台音楽、そして舞台の魅力に取り憑かれて、今ここにいるんだと感じています。
***
和田さんの言葉からは、存分に演劇への愛を感じた。同時に、短いインタビュー時間でも感じられるほど、原作作品やキャラクターへの愛の深さも伝わってきた。
音楽は目に見える形では舞台上に登場しないが、今回のインタビューを読んだ読者はぜひ、音楽を登場人物の1人として感じながら舞台を楽しんでもらいたい。音楽を通じて、新たな解釈や作品の魅力に出会えるかもしれない。
※2018年10月~12月上演:ハイパープロジェクション演劇「ハイキュー!!」〝最強の場所(チーム)〞
取材・文:双海しお/撮影:ケイヒカル
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