「才能をつなぐ者(パトロン)」と「才能を持つ者(シュガー)」の2人で構成されるヒーロー・パトレイサーが、“ココロが停止した人々”を救う物語『おねがいっパトロンさま!』。舞台化第2弾となる『おねがいっパトロンさま! The Stage ~ココロを詠え~』が、1月26日(木)から東京・新宿FACEで上演される。描かれるのは、原作の前日譚となるオリジナルストーリーだ。
2.5ジゲン!!では、自身初となる座長を務める岩城直弥(アサキ役)と脚本・演出のキムラ真にインタビューを実施。稽古開始前の2人に、公演に向けての意気込みなどを語ってもらった。
――お2人がじっくり対面されるのは本日が初めてとのこと。脚本・演出のキムラさんから見て、主演の岩城さんの印象はいかがですか?
キムラ:岩城さんは、周囲の人を自然と「この人のために何かしたい」と動かしてしまう役者さんだと感じてます。キャスティング前から、スタッフさんの行動や表情を見ていると「この人に良い衣装を着せたい」「この人を最高にかっこよく見せたい」という熱意がすごく伝わってきて。脚本を書いた僕も「この人にこのセリフを言ってみてほしい」と思いました。
岩城さんを通して、キャラクターがいきいきと動く姿が想像できました。ある意味「表現媒体」と言える役者として、とても魅力的な人だと感じますね。
岩城:ありがとうございます、嬉しいです。緊張と嬉しさで呼吸が止まってました、今(笑)。
――岩城さんにとって今作は初主演作となりますが、出演が決定した際のお気持ちは?
岩城:やっぱり、今までとはひと味もふた味も違う感覚がありました。プレッシャーも責任も大きいけれど、逆にそこを楽しめるようになりたいとも思ったんです。自分に任せられた役柄(キャラクター)と座長の役割を、どちらもしっかり楽しみたい。初めての主演だからと萎縮(いしゅく)せずに、自信を持って「こんな作品できました!」とお客さまにお披露目したいと思っています。
――今作を上演する上で、岩城さんが大事にしたいと思っていることは何ですか?
岩城:今作に限ったことではないですが、「一生懸命やること」を大切にしたいです。当たり前のことですし、一生懸命やっていれば何でも許されるというわけではないとも思いますが、やっぱり観る人の心は一生懸命やっている姿にこそ動かされると思うので。
――「ココロを動かす」というのは、おねパトとおねステという作品のキーワードでもありますね。
岩城:はい。とは言え、自分が座長としてどんなふうに動いていけるのかというところは、まだ想像もできないですね…。
――これまでの舞台で、「こんな座長が素敵だな」と思ったエピソードはありますか?
岩城:本当にみなさん素敵な座長ばかりでしたが、とくに印象に残っているのは「Dr.STONE」THE STAGEで共演した木津つばさくんです。親友の役を演じていたので常に近くで見ていたから、というのもあると思います。
つばさくんはすごくお茶目な人で、どちらかといえば「黙って俺についてこい!」と引っ張るタイプではありませんでした。でもやるべきことはしっかりやるし、キメるべきときには絶対キメる。芝居に対してものすごく真剣で、誰よりも熱くて一生懸命だから、周りがみんな「あいつのためにも頑張ろう」って思えるんです。ちゃんと座長らしい部分と、いい意味で座長らしくない部分の両方を持っている、すごい人だなと思いました。
つばさくんをはじめ、いろんなタイプの座長を見てきました。ただ、「こういうタイプの座長になりたい」と憧れるのではなくて、僕にしかできない頑張り方を見つける必要があると思います。作品とカンパニーに全力で向き合って、自分らしくやり切りたいです。
――原作『おねがいっパトロンさま!』は、キムラさんにとってどんな作品ですか?
キムラ:初めて『おねパト』に触れて以来、僕はこの作品にずっと惚れ込んでしまっています。この物語の中では、人のココロの奥底に劇場があって、最も重要な思い出がそこで上演されている。何らかの原因でココロが停止してしまった人の中では、その上演も止まってしまっている。そこに2人のヒーローが訪れ、再現劇を上演する形で、またココロが動き出す…。
本当に素敵な物語だなと。まさに僕らの職業である演劇やエンタメ、その存在意義がテーマになっているんですよね。
コロナ禍が続く昨今、“ココロの停止”を身を持って経験した方も多いのではないかと思います。楽しむことが「不要不急」と呼ばれ、生活から排除されてしまうこともあった。その状態がどれだけ苦しいか。「それでは生きていられないんだ」という切実な思いを持っているのは、エンタメの作り手である僕らだけでなく、それを愛して劇場にきてくださる方たちだって同じですよね。
おねパトは、そんな演劇ファンには絶対に響く作品です。第2弾としてオリジナルストーリーを書くにあたっては、この作品を通して「エンタメの再起動」をしたいと強く念じながら書きました。
――原作でも、人の「ココロを動かす」というテーマが繰り返し描かれていますね。
キムラ:僕はもともと、目の前の人を楽しませることが大好きです。1対1で会話するときも、舞台を通して大勢のお客さまと対峙するときも、「楽しませたい」という気持ちがいつも根底にあります。おねパトというコンテンツに出会って、その「楽しませたい」という思いがさらに大きくなりました。
気軽に「観にきてください」とは言えない状況がまだまだ続いているけれど、それでも今できる最大限の形で「楽しもう」と叫びたい。今回の脚本には、「楽しませたい」「楽しもう」という思いを全部込めました。
――岩城さんも、コロナ禍ではやはりもどかしさを感じたのではないでしょうか?
岩城:(しみじみと)感じましたね……。もちろん配信コンテンツにも独自の良さがあるけれど、やっぱり舞台で、お客さまと同じ空間で一緒に楽しみたいという気持ちが強くなりましたし、お客さまへの感謝の思いも高まりました。今作を通じて、「いつもありがとうございます」という気持ちも伝えられたらいいなと思っています。
――脚本を書く上で、とくに大切にした部分は?
キムラ: 今回はオリジナルストーリーということで、原作の根幹にある2つのテーマを意識しました。1つはパトレイサー、つまり「パトロン関係」のポジティブな在り方を、観客の皆さんにしっかり伝えること。もう1つは、「ココロの中に入って助ける」というユニークなシチュエーションをどう魅力的に描き出すか、ということです。
ただ、僕は脚本を書くときと演出をつけるときとで使う脳の場所がまったく違うんですね。なので今、自分で書いた脚本ながら「これ、どう演出すればいいの?」と非常に悩んでいるところです。どうお見せしたらより楽しくなるか、より演者さんが素敵に見えるか、ということを、最近はずっと考え続けています。
岩城:そうなんですか! 台本を読んで、いろんなシーンで「ここはどう表現するんだろう?」と空想していたんですが……。
キムラ:じつは僕にもまだ分からない、という(笑)。しいて言えば、ストーリーを演者さんに託す気持ちでやっていこうとは思っています。自分は演出として、全体のテイストをまとめたり方向性を定めたりすることに徹して、ストーリーや個々のキャラクターについては演じる皆さんがどう育ててくれるかワクワクしながら作っていこうと。
この作品がおもしろいものになったら演者さんのおかげ、万が一そうならなかったら僕の責任だぞ、というスタンスで稽古に臨むつもりです。
――お話を伺っていると、今作にはさまざまな角度からの見どころが発見できますね。
岩城:ストーリーやテーマそのものも素敵ですけど、2人で1つの相棒関係もすごくいいんですよね。おねパトには「パトレイサー」と呼ばれる2人組のヒーローがいて、役割として支援する側が「パトロン」、支援される側が「シュガー」と呼ばれているんですけど、両者が補い合っている関係性がすごく素敵だなと思います。
キムラ:日本では“パトロン”っていう言葉が偏った意味で使われがちだけど、おねパトは本来の意味でのパトロン(=支援者)の魅力が浮かび上がってくるストーリーだよね。
岩城:僕たち役者の生き方とも深くリンクする部分があると感じますね。役者としての自分は、応援してくださるファンの方のおかげで舞台に立てているから。支援してくださる方々がいるからこそ、僕はお芝居で誰かのココロを動かすことができている。そういう意味では、僕とお客さまもパトレイサーと同じ関係性だと思ったんです。
キムラ:前作(舞台第1弾)は、原作の世界観や用語、キャラクター同士の関係性をお客さまに伝える第一歩。今作(第2弾)はそこからさらに踏み込んで、おねパトの世界をさらに広げていくような、今後の展開にもつながるような作品にしたいですね。ストーリーもキャラクターもオリジナルでありつつ、原作のキャラクターたちともつながっています。原作を知っている方も、今作で初めておねパトの世界に触れる方も、どちらにも楽しんでいただけるようにしたいです。
岩城:ビジュアル撮影で着用した衣装はすごくかっこよかったし、(音楽バンドユニットの生ライブのような)ライブパート もあるとのことなので、今からワクワクしています。
キムラ:ライブパートでは、芝居パートで披露しきれない曲も楽しんでいただければと! 主人公となるバンド「RALLUS(ラルス)」の魅力を存分に発揮して、お客さまと演者の境なく、会場のココロが一体化するような「ザ・エンタメ」をお届けしたいです。
岩城:まだどんなライブになるか想像がつかなくて、僕自身もほんとに楽しみです。ポップアップでポーン! と飛び出したりできますかね?
キムラ:どうかな~?(笑)
岩城:できたらいいなあ(笑)。
――楽しみですね。続けて岩城さんに伺います。ご自身が演じる主人公「アサキ」の印象はいかがですか?
岩城:アサキは天才肌のアーティストで、「永遠の小学5年生」と言われるほどマイペースで奔放な人。不器用でちょっと尖ってるところもあるけど、だからこそ才能を発揮したときの姿がすごくかっこいいです。子どもみたいに純粋な普段の姿とのギャップが素敵ですね。
――アサキとご自身との共通点はありますか?
岩城:僕自身は「いろんな意味で天才だね~」と言われることがあるんですけど、これってどちらかといえば天才というより天然って意味ですよね…(笑)。でもまあ、言い換えれば天才ということで!
まじめな話をすると、アサキと僕で似ているところがあるとしたら、やっぱり「不器用なところ」だと思います。アサキはかっこいいし根はいいヤツなんだけど、本当の気持ちとか「ありがとう」とかを人に伝えるのが下手なんです。素直になれない、というか。
キムラ:思いを言葉にするのが苦手そうなところ、岩城さんとアサキは似ているかもしれないね。でも、だからこそ岩城さんは俳優に向いているんだと思いますよ。言葉以外の方法で表現するのが役者だから。いい役者さんって、舞台上でふっ…とスイッチが入るでしょ。僕、あの瞬間が好きなんです。とても美しい。見ていると、岩城さんもそういうタイプの役者さんなんじゃないかなと感じます。
岩城:わあ、嬉しいです。そんなふうにできているかは分からないけど、そういう役者になりたいですね。僕はもともと、人前に出るのがあんまり得意じゃなくて。舞台の上に立たせていただいているからこそ、人前で喋ったり動いたりすることができる、という感覚がずっとあります。初舞台から今年で7年目になりますが、デビューした頃は人の目を見て話すことすら苦手で、「(相手の)鼻を見ろ、鼻を見ろ」って自分に言い聞かせながら会話していたんですよ。
あの頃から比べると少しは成長できたのかな…できていたらいいなと思います。今回は初めての主演ということですごく気合が入っていますが、視野が狭くなりすぎてもいけないと思うので、適度に肩の力を抜きながら頑張りたいです!
――改めて、今作をどんな作品にしたいか、意気込みや思いをお聞かせください。
キムラ:観客の皆さんに「感じて」いただける作品にしたいです。世の中には素晴らしいストーリーがたくさんありますが、今作はとくに、観てくださる人にとって身近で共感できるテーマだと思います。ココロが停まってしまうことは、色々なシチュエーションで起こり得る。逆に言えば、ココロが停まってしまいそうなときこそ「お芝居を観たい」と感じる方も多いと思うんです。
共感も、感動も、言い方を変えれば「ココロが動く」ということ。今作を観て、どこかでハッとココロが動く瞬間があれば嬉しいですし、そんな作品にしていきたいです。そのために、作品と真剣勝負で向き合い、今作ならではの演出を練り上げてまいります。楽しみにしていてください!
岩城:座長として抱いている目標は、「何度も観たくなるような作品にする」ということです。それに加えて、おねパトの世界をさらに広げられる作品にしたいです。舞台化シリーズ第3作、第4作…と続いていったら嬉しいし、今回は登場しないニャオーズ事務所の仲間たちとのコラボ企画もしてみたい! いろんな楽しみ方をどんどん生み出していける作品にしたいと思います。
観にきてくださるお客さまには、ひたすら楽しんでほしいですね! キムラさんと同じく、僕も「楽しんでもらうこと」が大好きで、お客さまのココロを動かしたい。それが役者としての原点です。アサキ風に言うなら「最高に熱くてかっこいい俺たちを観にきてくれ!」という気持ち。ぜひ劇場で、僕たちと一緒に楽しみましょう!
取材・文:豊島オリカ/撮影:MANAMI
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