conSept 新作ミュージカル『SERI~ひとつのいのち』が、10月に東京と大阪で上演される。
本作は、娘・千璃(せり)の誕生と、それにまつわる医療裁判、繰り返される娘の手術などを記した倉本美香による『未完の贈り物(2012年刊)』が原作のミュージカルだ。
タイトルロールの千璃役を務めるのは山口乃々華。千璃の母・美香を演じるのは奥村佳恵。そして2人を支える父・丈晴役には、主に2.5次元作品で活躍する和田琢磨が、自身初となるオリジナルミュージカルに挑む。
2.5ジゲン!!では、稽古真っただ中の和田にインタビューを実施した。
原作では、異国の地でキャリアウーマンとして働く倉本の視点で、千璃を取り巻く8年間の物語が綴られているが、本作では父親・丈晴の存在も大きい。
このたびのインタビューでは、父親役を演じるにあたって感じていることや、千璃役の山口、美香役の奥村に対する思い、本作への意気込みについて語ってもらった。
素晴らしい音楽が、演者の感情を上手に引き出してくれる
――『SERI~ひとつのいのち』では、主人公・千璃の父親、丈晴を演じられます。原作は母親の美香さん視点で書かれていますが、今作では丈晴の存在がとても大きく感じられました。現時点で、ご自身の役をどのようにとらえられていますか?
僕は年齢的に子どもがいても不思議ではないので、初めて子どもが生まれるという瞬間に立ち会うことなど、状況の一つひとつを新鮮に感じていけば、自然に役を演じられるのではないかと思っています。
奥村さんが演じる美香がすごく素敵なので、彼女の演技や表情にしっかり反応できれば丈晴という人物像ができあがるのではないかと感じるぐらい、とても刺激的でいい夫婦関係が作れていると思っています。
――丈晴はとても良い父親で、なおかつ良い夫だと感じました。そして困難に直面しても前向きに捉えられる方なのかな…と思ったのですが、和田さんはどんなことを意識して演じられていますか?
直接ご本人にお会いしたことがないので、果たして僕が作り上げている丈晴が正しいのかどうかは分かりませんが、千璃が障がいを持って生まれてきて、美香が自分や周りを責めて自暴自棄になっている中、丈晴は一生懸命前向きに生きようとします。
その根底にあるのは、やはり美香に対する愛情だと思うんです。子どもがどういう状況であれ、夫婦の関係性が前向きでなければ今回のような話にはならなかったと思うので、とにかく前向きに、美香のために何をしてあげたらいいのかということを模索しながら、台本と照らし合わせて演じています。
――物語の中では、妻である美香さんとのやり取りがとても多くあります。先ほど、すごくいい夫婦関係が作れているというお話がありましたが、そうした雰囲気をたくさんの歌に乗せて演じるのはとても大変だと思いますが、何か心掛けていることはありますか?
桑原まこさんが作られた音楽がすごく素敵なので、芝居から歌へ入っていくつながりがとても自然なんです。僕たち演じる側の感情を上手に引き出してくれる音楽を作ってくださっているので、それといかに正確に向き合えるかというところが課題です。
歌が入ることで難しいというよりは、歌は僕たちの感情をより引き立ててくれるものだと思っていますので、自分自身の技術的な正確性や表現の仕方を、これからの稽古で頑張って追求できたらと思ってます。
――先日の取材で稽古を拝見した時、おっしゃるとおり桑原さんの音楽が、物語をとても盛り上げてくれる予感がしました。
本当に素敵な音楽ですよね。確かに日常では、夫婦喧嘩をしているのにいきなり歌い出すということはあり得ないんですが、そうした状況を納得させてくれる音楽なんです。
芝居と歌が別々になりがちだと僕の周りの役者の方々がおっしゃっているのを聞くことがありますが、この作品は全く不自然さがなくて、丁寧に作っている作品なんだなということを実感しています。ですからそういう繊細な感じがお客さまにも伝わればいいなと思います。
思いがけず土佐弁を披露することに
――ところで、和田さんは今回土佐弁を披露するシーンがありますね。
そうなんです。ちょっと話が脱線してしまいますが、僕はNHK大河ドラマ『龍馬伝』がすごく好きだったので、福山雅治さんが演じる坂本龍馬の真似をしていたんです。ですから今回、思わぬ形で土佐弁を話すことができるな…と(笑)。
主に丈晴が実家の母親と電話で話すシーンで土佐弁を使うのですが、誇張しすぎずに自然にできればと思っています。「土佐弁、しゃべっています!」という感じを出しすぎると、地元の方からすれば不自然に聞こえると思いますから。
――美香と話し合う時、感情が高ぶって土佐弁が出てしまうシーンがありますが、不自然にならないように話す難しさがあるのでは…?
僕の場合は、土佐弁にプラスして焦ると「さしすせそ」がうまく言えなくなるという設定もあるので二重に忙しいんですよ。ですから、ひたすら練習するしかないですね。僕は山形県出身ですし、気持ちが高ぶると方言が出るという感覚は想像できますから、僕自身の想いを土佐弁に変換していくしかないと思っています。
ただ「土佐弁を話す丈晴」というのはメインのテーマではありませんから、あくまでも見どころの1つとして皆さんに観ていただきたいですね。
本音を言えない丈晴に共感も
――丈晴とご自身で共通点はありますか?
物語の中盤で彼自身の葛藤といいますか、それまで言えなかった自分の弱みを美香に告白するシーンがあります。
僕はどちらかというと本音を言わずに我慢してしまうタイプで、そういうところを克服したいと思っているのですが、なかなか簡単に変わることができません。言いたいことがあっても我慢して溜め込んで物事を進めていくところがありますから、そこは丈晴に共感できます。
――丈晴が美香に弱みを告白するシーンは「夫婦って何だろう」と考えさせられる人もいるかもしれませんね。
人はそれぞれ生まれも育ちも違うわけですから、自分が下だと捉えるのか、それとも人と違うだけと捉えるかで変わってくると思います。今回は曲の中にもそういう歌詞の歌があったりして、作品の中にも散りばめられていますから、刺さる方には刺さるのではないでしょうか。
僕も演じながら、夫婦間の問題についていろいろと考えさせられました。年齢的にもそういうことを考えていい時期ですし、芝居では難しいことを話していますが、本当に身近な話題として美香を演じる奥村さんと会話ができているので楽しいです。
千璃と美香が転ばないよう、支える丈晴を演じたい
――稽古が始まって改めて、千璃を演じる山口さん、美香を演じる奥村さんの印象をお聞かせください。
まず奥村さんはとても素敵な役者さんですし、せりふを発してる時はもちろんですけども、せりふを言っていない時の佇まいや目線にも説得力がある方です。そういうところを見て僕も常に心が動きますし、近くで見ていて本当に素敵だなという印象を持っています。
山口さんは今回せりふがあまりなくて、なおかつ生まれた時から6歳までの子どもを演じるということで、ものすごくプレッシャーがあると思います。でも彼女の性格がそうさせるのかもしれませんが、子どもを演じることの不自然さがないんですよ。物語の中で、千璃を美香と丈晴で囲むシーンがあるのですが、山口さんは大人の女性なのに全く違和感がないのです。
その自然な雰囲気というのは、彼女の持って生まれた柔らかさや純粋さというものがとても影響しているんじゃないかなと思います。そして踊りをたくさんやってきた方なので、彼女が踊っている姿を近くで見るとすごく感動するし、その姿からまるで言葉が聞こえてくるような、表現力の豊かな方ですね。
――稽古場取材でも、まるで言葉を発しているように踊られる方だと感じました。
もちろん(演出を担当する)下司さんの振り付けが、そういうところを重視されていると思うのですが、「言葉にならない感情を身体で表現するということは、こういうことなんだな…」と勉強させてもらってます。
――そんな素敵な女性2人を、丈晴は守ってグイグイ引っ張っていくんでしょうか。
僕は性格的に、先頭に立って「ついてこいよ!」みたいなタイプではないんです。
この作品の原作者である倉本美香さんは、千璃ちゃんが生まれたあと、3人のお子さんに恵まれています。最初に生まれた千璃ちゃんの時に大変な経験をされたけれども、そのあと3人のお子さんの親になるというのは、とてもエネルギーあふれる生命力の強い方だと僕は感じています。さらに美香さんは、ものすごく行動力があって、周りから羨ましがられる女性です。
そういう人と人生を共にする男性ってどんな人なんだろうと考えた時に、やはりとても優しくて、何よりも美香さんのことが大好きなんだろうという印象を受けました。
だから先頭に立って引っ張っていくとか、率先して何かをするというよりは、千璃や美香が転ばないようにできることは何だろうかと考えるような、いわば黒子の役割というか縁の下の力持ちのような男性を演じられたらと思っています。転びそうになるときに、まるで地面から飛び出してくるクッションのような…(笑)。
――最後にファンの方へメッセージをお願いいたします。
今回の作品は物語もすごく素敵ですし、4人の方が生演奏をしてくださる、ものすごく贅沢な内容となっています。観終わった後、自分の家族や身近な人たちを大切にしたいと思えるような作品だと思います。
僕たちも精いっぱい、皆さんの心が豊かになるようにこの作品の魅力を届けたいと思っております。東京・大阪で上演いたしますので、ぜひ劇場にいらしてください。
取材・文:咲田真菜/撮影:遥南碧
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