劇団おぼんろ第21回本公演『瓶詰めの海は寝室でリュズタンの夢をうたった』が、8月18日(木)〜8月28日(日)に東京・Mixalive TOKYO Theater Mixaにて上演される。
2.5ジゲン!!では劇団主宰であり同公演の脚本・演出を務める末原拓馬とラッコ役の瀬戸祐介へのインタビューを実施。お互いへの印象や作品に込める想いについて話を聞いた。
――お互いの第一印象を教えてください。
末原:去年の4月に僕が脚本演出の舞台に祐介が参加してくれたんだよね。
瀬戸:その時がはじめましてでしたね。末原さんの他にも同い年の演出家っているにはいるんですけど、一緒に仕事したことはなかったんですよ。当時は末原さんの名前も知らなくて、何の情報もないまま稽古場に入ったんですが、末原さんの稽古スタイルとか人に考えを伝える姿を見て、この人はすごいなと思いました。一気に尊敬しました。同い年なのに芝居を見る力がめちゃくちゃあるなって。その時はコロナもあって作品を世に出せなかったので、今回は嬉しいですね。この舞台は一緒に盛り上げたいという気持ちです。
末原:当時、祐介が務めていた役は大事な役なんだけど出番は多くなくて、でもずっと稽古を見ていてくれたんです。印象的だったのは、主演の2人のシーンの稽古を粘っていたとき、他のキャストが帰っていく中で祐介はずっと稽古を見ていたんだよね。だから「ごめんね、ちょっと手伝って」って言ったら、スッと入ってきてくれて、「芝居が好きなんで」って言っていて。
瀬戸:そんな渋いこと言っていました?
末原:言っていたよ(笑)。芝居を最短時間で仕上げて、どんどん現場を回るっていう俳優の仕事のなかで、疲れているだろうし、ドライに仕事をこなす人もいるんだけど、祐介はめちゃくちゃ熱いんだなと思った。それが、普段稽古場にいる祐介からすると意外だったね。
我々の世代ってまだ演劇の世界を作ってないんですよ。今あるのは10個くらい上の世代が作った世界で、じゃあ次は演劇でどんな世界が来るのかみんな想像できていないんですよ。だから、自分達の世代で盛り上げていきたいねという話はずっとしていたから、今回一緒に舞台を作れるのは嬉しいですね。今は2.5次元とかミュージカルとかが流行って、商業的な基盤もできている中で、小劇場はアマチュアみたいな扱いになっているんですよ。2.5次元のすでにある原作の強さを使うんじゃなくて、また古い演劇みたいにオリジナルの物語が広がっていくっていうのをやらなきゃいけないなと僕は思っていて、祐介みたいに2.5次元で戦ってきた人と、うちのさひがしジュンペイさんやわかばやしめぐみさんみたいな渋々の世界でやってきた人たちがうまく混じる場所があるのは大事だなと思いますね。
――新しい風という意味で瀬戸さんに期待されているんですね。
末原:期待していますね。
瀬戸:実は僕も渋々な演劇が好きなんですよ。お尻とか出したいくらい(笑)。僕は別に2.5次元俳優だという自覚はないので、いろんなジャンルを知りたいし、いろんな世界を見てみたい。そして、今回はおぼんろさんに参加して、やっぱり独自のスタイルを持っていますよね。僕結構末原さんの言葉選びが好きなんです。大人になった自分に改めて語りかけてくれるようなセリフが結構あって。“波の端っこ”とか、生きてきた中で初めて聞くような単語で、読んでいて楽しいんですよ。僕らも結構いい年なんですけど、末原さんは童心をずっと持っていて、それがすごく素敵だなと思っています。稽古中も自由研究みたいなんですよ。演出とか装置の移動にも悩んでいて、夏休みしているなって感じますね。僕は今学生時代に戻れたら演劇部に入りたいと思っているタイプなんですけど、この稽古場でそういう体験をしているなって思えて楽しいです。
――瀬戸さんの演技の印象を教えてください。
末原:祐介は芝居で嘘をつかないですね。表面上の演技についてはみんな技術を磨いてくるんだけど、ある意味当たり前なんですよね。10年くらいよっぽどサボらなければある程度の上手さは備わってくるんです。もちろんその技術は大切なことなんだけど、祐介はそのさらに中にある感情とそれを表現する方法に嘘がないんですよ。祐介本人の持っている個性は人間的な暖かな個性で、でも頑固なんです。すごく強くて頑固で暖かい中にとても脆いものがあって、その繊細さが見え隠れしながら舞台上で役を演じているというのが、多分祐介の個性なんだろうなと思います。そればっかりはどんな天才だろうと他人から引き出せないじゃないですか。そういった生まれてから祐介が培ってきたものを表現するために技術を磨いてきたんだなと思うと、彼は他の作品ではどんなふうになるんだろうって考えますね。
瀬戸:僕についてみんな、「セティって明るいね」っていうんですよ。脆いところがあるって言ってきた人って人生で数人しかいないんです。だからちょっと末原さんすごいなって思いました。僕はみんなでワイワイ明るいのも好きだし、僕自身明るいところもあるんですけど、実は陰キャなんですよ。色々怖いなって思っているんですけど、意外とみんなは気づかないみたいで。
末原:祐介は明るいもんね。
瀬戸:別にわざと明るくしているんじゃないんですよ、体育会系だし。でもやっぱり興味のあることにはグっと集中しちゃいますね。末原さんすごい。2回稽古場が一緒になっただけで、こんなに人を見ているなんて。
――昨日から瀬戸さんが現場入りされましたが、稽古場の雰囲気は変わりましたか。
末原:現場の空気はすごく良く変わりましたよ。みんなもちろん楽しみにしていて、早くきてほしいって言っていました。祐介自身も誠実に準備をしてきてくれていて。そういう仕事だと言われたらそうなんだけど、前日まで千秋楽やっていただろうにリュズタンの段取りもセリフも全部入っていて、キャラクターについて丁寧に作り込めば大丈夫って状態でした。
――瀬戸さんは脚本を読んでどう感じましたか。
瀬戸:前回、末原さんに演出していただいたのは原作のあるものだったので、この人が自分の劇団で書いて演出した時はどんな世界になるんだろうって気になって、前回のリュズタンを配信で見たんです。これがこの人のやりたいことかってすごく感じました。その時はこの作品が再演するとも、まさか自分が出演できるとも思ってなかったんですけど、ちょうどその頃から1年後に再演することになって、台本を読んでみるとやっぱり舞台で受けた印象と活字になったときの印象って結構違っていました。この脚本をこうやって舞台で膨らましていたんだってすごく感じましたね。
前回配信で見たときは間口がすごく広い作品だなと思ったんですよ。話の初めは、夏休みの宿題の出し忘れというポップな感じなんですけど、実はそんなにポップな話じゃないんです。衣装や舞台装置も絵本とか童話のような雰囲気なんですけど、本質はとても崇高なんです。それが台本で活字になるとすごくわかりました。間口が広い中でもやっていることが崇高で、皆さんのお芝居のレベルも高くて、突き詰めているものがあって、なのに、世界観はとっつきやすい。あとはミックスキャストっていうのもあってお芝居の面ではそれも楽しみですね。
――最後にファンに向けて一言お願いします。
末原:演劇をどんな人にも楽しんでほしいと思う一方で、とても特殊で特別なものとして演劇を体験するのもいいなと思っています。僕らは贈り物として、毎日この物語を準備しているんだけれども、1番大切なのはこの物語を受け取ってくれたあなたの中にどんな物語があるかなんですよね。生まれてから今日までの自分の物語があって、そこにその日観てくださったリュズタンが加わるんだなと思います。それで劇場を出てから皆さんの中にどのような物語が続くのか、ということが大切なんです。どうかこの物語があなたの物語でありますように、と願いながら我々は自由研究を続けてお待ちしております。
瀬戸:僕は昨日から稽古に参加して、皆さん全力で演劇しているなと思いました。自由研究という言葉も出ましたけど、本当に試行錯誤しながら作っています。何より、今回は命がテーマになっているんですけど、誰しも感じるものがあると思います。こういう世界があったらいいなって感じるし、皆さんの中に引っかかる部分があると思うので、今回劇場で見られるチャンスを皆さんに受け取ってもらいたいなと思います。絶対に面白い作品にするので、ぜひ来てください。
撮影:井上ユリ
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