アニメ化もした人気BL漫画「抱かれたい男1位に脅されています。」の劇中劇から生まれた舞台「紅葉鬼」シリーズがついに完結を迎える−−。
3作目にして完結編となる舞台「紅葉鬼」~酒吞奇譚~にて引き続き西條高人/経若を演じる陳内将、今作が初登場となる東谷准太/酒吞童子を演じる加藤将の“ダブル将”対談が実現した。稽古場での爆笑エピソードに加え、本作の魅力や見どころを熱く語ってもらった。
――いよいよ完結編となります。完結を前にした今の心境を教えてください。
陳内将(西條高人/経若役):「紅葉鬼」完結のタイミングで、東谷准太っていうヒロイン?って僕は思っているんだけど…。
加藤将(東谷准太/酒吞童子):僕は高人さんがヒロインだと思ってた…!
陳内:(笑)。そんな彼が登場するのが、原作ファンの方も楽しみでしょうし、最初は関わっていなかった准太がこういう形で作品に関わってくるというのもメディアミックスならではの面白いところだなと。一気に華やかになりますよね。いい形で終われるんじゃないかな、そうしたいなって、まだ稽古序盤ですが楽しみに思っています。
――准太がいることで高人さんの気持ちもまた少し違うのかなと思うのですが、過去2作と比べていかがでしょうか。
陳内:高人さんと准太っぽさが垣間見える瞬間ってあると思うんですけど、かといって見せ過ぎるのも彼らのプロフェッショナル精神に背くんじゃないかという思いもあって。とはいえ、お客さまは観たいだろうなって思う部分もあって。役者が役者の役を演じるからこその、見せたいようで見せたくないようで、でも見せたいみたいな…。
加藤:そうですね。
陳内:ちょうどいい嘘のない塩梅を作っていきたいですね。
――嘘のないとのことですが、実際のところ現時点でお二人の関係はどれくらい深まりましたか。
加藤:舞台で共演させていただくのは今回が初めてで、ちょうど昨日、舞台稽古に初めて参加したんです。僕、人との距離のつめ方が異常だってよく言われるんですよ!
一同:(爆笑)。
加藤:だけど、それも自分としては嘘なく接していて、その中でさらに(陳内)将さんの魅力を知れたのが、昨日の稽古だったなって。稽古場でも常に高人さんで、もはやもともと陳内将さんが高人さんじゃないのかって錯覚しているんですよね。自分たちで話し合って決めていく場面とかでも、本当に速いんです。「これはこうで、こうしたら?」って。しかもみんながそれで納得するし。「ほんまの高人さん(西條高人)おるな~」ってずっと彼のことを見ていました。
陳内:それでいうと将の准太っぽさになるのかな? 彼、ずっと休憩しないんですよ。換気も兼ねてこまめに休憩があるんですが、その間もずっと質問とかしていて休憩しなくて。昨日は休憩中にトイレまで付いてこられたんですけど、ずっと質問攻めにあっていました。
加藤:はい! 付いていきました!
一同:(笑)。
陳内:ずっと質問をされていて、「ごめん、ちょっとトイレ行ってきていい?」って言ったら「付いていきます!」って(笑)。トイレまでついてこなくていいのに。
加藤:でも優しいんですよ。トイレの扉の前まで行ったら、(勝手に入らず)待っていてくれるんです。その優しさが嬉しかったんですが、出ずっぱりでトイレに行く時間もないから、これはさすがにまずいと思って「行ってください」って行ってもらいました。
陳内:それ以外にも着物のさばき方とか小道具の受け取り方とかをずっと研究していたり、演出の町田(慎吾)さんに質問攻めしていたり。「ちょっと休憩して?」っていうくらいで。准太もそういうところがある気がしていて、その一生懸命さとかひたむきさが見ていて微笑ましいなって思っています。率直に言うと、将はどちらかというと器用じゃないから、だからこそ数をこなして自分のものにするタイプの役者さんで。それを自分で分かっているから、何回も繰り返して見つけていくスタイルが素敵だなって。その姿をずっと見ていたくなるし、だけど休んでもほしくて…。不思議な感情です。
加藤:(嬉しそうに)ありがとうございます!
陳内:昨日も二人の殺陣の立ち回りのシーン、何回もやったよね。
加藤:僕がやっていると「(一緒に)やろうか?」って声を掛けてくれるんですよ。それがほんまに心強いしありがたいし。昨日は(動きが)付いた立ち回りが1カ所だったんですけど、これが5カ所に増えたら、5回付き合ってもらうことにはなると思うし…。5回と言わず、ずっとやると思うんですが、僕は最強なんですよ! これをやったら「作品が良くなる」っていうバックがついているので! 作品のためなら絶対将さんは「NO」なんて言えないんで! 僕は作品をバックに「練習一緒にしてください」って言いに行く覚悟です!
陳内:(爆笑しながら)別に僕は「NO」って言わないし、いいよって言うよ。
加藤:優しい~!
――稽古が始まったばかりとのことですが、すっかり仲が深まっていますね。
加藤:僕は昨日が初回稽古で、将さんが2回目だったんです。稽古入るまで、酒吞童子としては(術で化けていた)いぶきのことも知らないといけないと思って、いぶきのセリフをすごい読み込んでいて。だから、将さんの初回の稽古がいぶきとのシーンだと知って、「どうして僕は稽古場にいないんだ」って居ても立ってもいられない気持ちになって、将さんにLINEしたくなったんです。でも今LINEしたら(稽古前で)集中している将さんの邪魔になる、送っちゃダメだ、負担になっちゃだめだってすごい我慢して、送りたい気持ちを抑え込んで…。結果、いぶきにめちゃくちゃ嫉妬しました。
陳内:で、結局その日の夜に「僕は今日の稽古に行きたかったです」っていうLINEがきて…。全然気持ちを抑えられてないんです。
一同:(笑)。
陳内:そんなところも含めて愛嬌のある子だなって。
――陳内さんが経若を演じるのは3作目となります。今作でこだわりたい部分はどんなところですか。
陳内:過去2作でいろんな人たちから受け取った思いを背負って経若は生きているんですよね。母の思いや渡辺綱から託された不殺の刀・髭切、保名から託された守るための力…。
1作目の1幕の経若はどこか子どもじみていて洗練されていない棘(とげ)のようなものがあったと思うんですが、そこから多くの出会いと別れを経て挑む3作目なので、今作は出演していない梅ちゃん(茨木童子役の梅津瑞樹)や涼太郎(渡辺綱役の小坂涼太郎)が観てくれたときに、満足してくれるような作品を作らないといけないなって。「出たかった」って言ってもらえるような舞台を作れたら、正解かなって思います。
――一方で加藤さんが演じる酒吞童子は初登場となります。現段階で役をどう捉えていらっしゃいますか。
加藤:情報がないからこそ、自分なりに考えて作っていく作業をしているんですが…。酒吞ってある怨念を持っているんです。野望や思いを持ち続けることってすごく難しいことだと思うんですが、酒吞はある意味まっすぐにそれを持ち続けて、進んでいっている。やっていること自体は周りからやばいと言われることであっても、怨念という芯があるからこそブレずにいられる。そういうところが自分と似ているなと思っていて。
僕は絶対、有言実行するし、そのために努力するけど、とはいえ2~3年のレベルの話なんですよ。だけど酒吞はもっと長い間その気持ちを持ち続けていて、そういう思いが彼の中にあるっていうことをちゃんと自分なりに認識して、大切に演じていきたいと思っています。
――改めて感じる「紅葉鬼」の魅力とは?
陳内:生きている以上、誰しもつらいことはあって。経若はきっと死んだほうが楽なんだろうなと思うんですが、彼は生きることを選んでいるし、生きることで誰かの救いになろうとしていて。でもそれってすごくつらいことで。この作品を通して、生きることはつらいし困難なことがあるかもしれないけど、それでも誰かと歩いていけるっていう希望をお客さまが抱けるんじゃないかなって。
1作目はおまんと母が亡くなり、2作目も綱が亡くなり最後に茨木童子も亡くなり、多くの人を失いました。だけど、そこから得る絶望ではなく、それを乗り越えた先にある希望の方がお客さまの心に残る、そんな作品だと思います。あと2作目では登場しなかったキーアイテムの小烏丸。怨念を断ち切ってくれるこの刀が今回出るのか出ないのかとか。史実と絡めた人物や刀も登場するので、歴史好きな方とか刀好きな方もテンションが上がると思うんですよね。髭切とか、小烏丸とか。
加藤:いやぁ分かります!
陳内:あとは原作の桜日梯子先生が描いてくださったデザインに沿った衣装がすごく舞台映えするんですよ。そういった部分も本作の魅力かなと思います。
――ほかに今作ならではの見どころがあれば教えてください。
陳内:先ほどの希望を感じられるというのもそうなんですが、一度亡くなる役者がまた別の役で登場するのが「紅葉鬼」の面白いところですかね。
一同:(笑)。
陳内:とみしょーさん(保名役の富田翔)としゅんりーさん(星熊役の髙木俊)という先輩二人は蘇生してきたので。前作でとみしょーさんが摩爬から保名になって登場しましたけど、今回はしゅんりーさんがどんな登場の仕方をするのかっていうのもぜひ楽しみにしていてほしいですね。
加藤:星熊ですよ。気になりますよね。今回はほかに「熊」がつく人がたくさんいるので、そことの関係とかもお客さまは気になっていると思うんでね、ぜひ楽しみにしていてほしいです!
――加藤さんの思う見どころはどこでしょうか。
加藤:「紅葉鬼」という作品自体、お客さまに「楽しんで!」というタイプのエンタメ作品ではないと思っていて。だからこそ観た後に、いろんなことを考えてちょっとでも希望を感じてもらえる作品に…なったらいいな! したい! 僕としては魂レベルが上がる舞台だと思っているので、絶対皆さん死ぬまでに「紅葉鬼」は観ておいた方がいいと思います!
陳内:そうだね。
加藤:いやいや、僕は本気ですよ。
陳内:めちゃくちゃおもろいわ~。
――息ぴったりな二人の紡ぐ3作目がますます楽しみになりました。では最後に、本作への意気込みとファンへのメッセージをお願いします。
加藤:今作からの参加ですが、僕は過去2作品を一ファンとして観てすごく面白かったです。3作品目は役者としてみんなでより良い作品にしようと努力しているし、絶対に良くなるので、めちゃくちゃ面白くなるこの舞台「紅葉鬼」~酒吞奇譚~を観にきてください!
陳内:1作目から紡いできて、集大成となる作品です。3作品目で完結ですという情報解禁をしたときに、ファンの方が続編を喜ぶと同時に完結してしまう寂しさも持ってくださったので、舞台「紅葉鬼」~酒吞奇譚~で一区切りとなりますが、また違う「紅葉鬼」の世界につながるような、あの世界にまた帰りたいと思ってもらえるような作品にしなきゃいけないと思っていて。だから将には厳しくするけど。
加藤:もちろんです! 厳しくしてほしいです!
陳内:信じられる仲間と一緒にこの期間は命を削って挑むので、まずはこの舞台「紅葉鬼」~酒吞奇譚~の完結を見守っていただいて、次への希望を一緒に抱いてもらえたらいいかなと思います。
* * *
人と鬼の住む世界を物悲しくも情熱的に描く「紅葉鬼」シリーズがついに完結する。だが、本インタビューでは作風とは裏腹に笑い声に溢れる時間が流れた。「だかいち」のキーパーソンである東谷准太が加わることでどんな変化が生まれるのか。舞台シリーズのファンはもちろん、これまで以上に原作ファンも見逃せない作品となりそうだ。
舞台「紅葉鬼」~酒吞奇譚~は5月8日(日)~5月15日(日)に東京・シアター1010で上演される。
取材・文:双海しお/撮影:井上ユリ
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