5月17日(火)にIHIステージアラウンド東京にて開幕するミュージカル『るろうに剣心 京都編』。1994年から「週刊少年ジャンプ」(集英社刊)にて連載された和月伸宏の漫画「るろうに剣心-明治剣客浪漫譚-」のミュージカル化で、原作の中でも特に人気の高い「京都編」が小池修一郎の脚本/演出で上演される。
2.5ジゲン!!では、主人公・緋村剣心の師匠である比古清十郎役の加藤和樹にインタビューを実施。原作ファンという加藤の作品愛をはじめ、2.5次元作品で意識していること、2.5次元の世界の変化などについて語ってもらった。
――はじめに、本作に出演が決まった時のお気持ちから教えてください。
嬉しかったですね。僕は原作が大好きで、もちろんコミックスは全巻持っていますし、アニメもリアルタイムで見ていたんです。その大好きな作品にまさか出演できるとは思ってもみなかったし、驚くとともに、比古清十郎という重要なキャラクターをいただけて本当に嬉しかったです。
――比古清十郎の好きなところと魅力についてお聞かせください。
比古は最強の実力者で、クールで強面で自信過剰。取っつきにくそうで取っつきやすい不思議な人です。自分が最強だと自負しているのは、剣心が本気でかかっていっても敵わないほどの実力が伴っているからこそですね。経験に裏打ちされた自信が、表情や佇まいに全て表れています。
大人になって原作を読み返したら、剣心とやりあっている時に見せる姿に人間らしさを感じました。この年齢になったからこそ演じられる人物だとも感じるので、年齢を重ねるのも悪いことではないですね。
――比古清十郎は剣心の師匠ですが、ご自身にも“師匠”と呼べる人はいますか?
今回共演する山口馬木也(斎藤 一役)さんが、僕の殺陣の師匠です。初めて舞台で殺陣をすることになった時に殺陣のイロハを教えてくださったのが、馬木也さんなんです。師匠と言っても過言ではありません。また共演できて、馬木也さんの殺陣を見られるのがとても嬉しいです。今回も色々と勉強したいと思っています。
――本作では、比古清十郎の得意技・九頭龍閃(くずりゅうせん)などさまざまな奥義や技が登場しますね。
九頭龍閃は、すれ違いざまに9つの斬撃を同時に放つ技ですね。実際には難しいので、映像を使って小池先生がどう演出してくださるのか楽しみにしています。キャラクターごとにさまざまな技がありますが、実際にできそうなのは斎藤一の牙突(がとつ)くらいじゃないですかね(笑)。
多分「るろうに剣心」が好きな人だったらみんなやっていると思いますが、僕も昔、相楽左之助の二重(ふたえ)の極みを実際に練習していました。石などにこうして拳をガガッと当てて。でもできるはずもなく「いてえ!」となったりしていました(笑)。
――原作のある舞台の難しさと、特に意識されていることは何でしょうか。
そのシーンに存在しているけれども原作では描かれていない、という時の舞台上での居方や佇まいが非常に難しいです。漫画やアニメは、コマやカット割りなどでシーンを効果的に見せていますが、舞台ではそれができません。描かれていないけれどもそこに存在している場合、どうやって自分がその場所に存在しているのかをイメージしなければいけないんです。
それから、原作ファンであればあるほど、理想があるが故にそのキャラクターのイメージを崩せないのが難しいです。ミュージカル『テニスの王子様』(跡部景吾役)、2021年の ミュージカル『フィスト・オブ・ノーススター〜北斗の拳〜』(トキ役)もそうでした。あくまでもミュージカル版、と分かってはいても、名シーンや名セリフなどはアニメで見ていたものからどうしても踏襲してしまうんですよね。でも僕は、それをいかに崩せるかが舞台化・ミュージカル化する上での醍醐味だと思っているんです。
役に命を吹き込むのは、原作の有無に関わらず同じです。その場で起こることを新鮮に感じて、生身の人間が演じる面白さを体感しながら作っていきたいです。
――今作の脚本/演出は、これまで何度もご一緒されている小池修一郎さんです
小池先生は不思議な魅力をお持ちの方です。頭の中で描かれていることが壮大で、正直なところ初めは理解できない部分もあります(笑)。でも、やっているうちにどんどん道筋が見えてきて、「無理だろう」と思っていたことでもやれてしまう。だからこそ役者たちもやる気を刺激されて、無理難題に思えても努力してしまうんですよね。この人についていけば…と思わせてくれます。
小池先生とのエピソードで忘れられないのが、今作でも主演の小池徹平くんとダブルキャストでやらせていただいた「1789 -バスティーユの恋人たち-」(2016年)の時のことです。帝国劇場で初めての主演を務めることに気負ってしまい、こんな自分がセンターで歌わせていただいていいのだろうか…と思っていたところ、小池先生がご飯に連れて行ってくださいました。そこで言われたのが「お前はもっと自信を持っていい」と。小池先生のその言葉と、ダブルキャストである徹平ちゃんの大きな支えもあり、心が軽くなって舞台に立つことができました。
僕はいつも自信を持てずにいます。簡単に自信を持ってしまっては、過信してしまうように思うからです。だからこれからも、時間をかけて努力して物事に向かい合って、結果で示していこうと思っています。
――これまで2.5次元ミュージカル・舞台は若手俳優がメインでしたが、この数年で、多彩なバックボーンの役者さんが活躍するようになりました。
僕もそれはすごく感じています。
出演する俳優にジャンルの垣根や壁がなくなってきていますよね。多くの経歴を持つ岸祐二さんがミュージカル『新テニスの王子様』The First Stage(2020年)に出演されたり、僕や城田優や古川雄大などのように、2.5次元舞台からグランドミュージカルに進出していく俳優も増えてきました。
今でも2.5次元舞台が若手の登竜門であることに変わりはないと思うのですが、もっと色々な可能性が広がっていってくれたら、と思っています。
また、色々な制作会社さんで様々な漫画やアニメなどが舞台化・ミュージカル化されるようになってきたのは、日本の漫画やアニメの世界的な認知度がさらに上がってきたことが要因の一つではないかと。それから、原作ファンの方々にも舞台が受け入れられてきているからだと感じています。
我々役者や制作陣は、原作と真剣に向き合い誇りを持って舞台を作り上げています。その本気度を感じてもらえれば「もっと他のシリーズ作品や、他の原作の作品を見てみたい!」と興味を持ってもらえると思うんです。
僕がミュージカル『テニスの王子様』に出演していた2005年頃以前にも、SMAPさんの『聖闘士星矢』(1991年)や『美少女戦士セーラームーン』ミュージカル(1993年)などもありましたが、当時はまだ、少し特殊なものとして存在していたと思うんです。「2.5次元」という言葉もなかったですしね。でも今は、特殊だったり色物ではない。立派に認められたジャンルになっていると感じています。
あれから17年か18年くらいですね…長い年月がかかりましたが、2.5次元ミュージカル・舞台の作品が多く上演されている今を、とても嬉しく思っています。
――改めて、「るろうに剣心」の作品としての魅力をどのように捉えられていますか。
剣心は、ただ強いだけの人間ではなく、人の心の痛みと悲しみを知っている人物です。物語が始まった時、すでに剣心は悲しみを背負っています。物語が進んで剣心の過去が徐々に明かされていくことによって、読み返した時に剣心の台詞一つ一つを「こういう気持ちで口にしていたんだ…」と改めて噛みしめられますし、その剣心が時代に立ち向かっていく姿に魅力を感じます。
それから、幕末から明治初期という、時代が大きく変わる頃が舞台である点にも魅力があります。原作漫画が連載されていた1990年代から2020年代になり、現実の世界でも時代は大きく変わりました。携帯が普及してSNSが発展するなど、急速に色々なことが変わっていっていますよね。「るろうに剣心」は、そんな時代の激流の中において見失いそうになる大事なものに気づかせてくれる作品だと思っています。
――最後に、ファンの皆さんへメッセージをお願いします。
歴史があり、今も「ジャンプSQ.」(集英社刊)で(続編である「北海道編」の)連載が続いている「るろうに剣心」に出演させていただけることを本当に嬉しく思っています。
新型コロナウイルスの影響で公演自体は一度中止になりましたが、お客さまがいてくださるからこそ、こうしてもう一度立ち上がることができたのだと思います。エンターテインメントが皆さんから求められているということに、我々は勇気をもらっています。
この作品が皆さんの生きる活力となるように、誰一人欠けることなく全力でやりきりたいです。ファンの皆さんの期待を裏切ることなく、予想以上だったと言ってもらえるような作品になるよう、カンパニー一同で命を懸けて頑張っていきます。楽しみにしていてください。
取材・文:広瀬有希/撮影:友野雄
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