2012年の初演から桜の季節を彩ってきたミュージカル『薄桜鬼』シリーズが、2022年でついに10周年を迎える。そんな10周年を飾るのは、ミュージカル『薄桜鬼 真改』斎藤一 篇。初演以来となる「斎藤一 篇」が、2021年から動き出した新章「真改」の2作目として上演される。
2.5ジゲン!!では、主人公・斎藤一を演じる橋本祥平と風間千景を演じる鈴木勝吾の対談取材を実施。かつて共演した当時の思い出話を交えながら、間もなく花開く「真改 斎藤一 篇」への思いを語ってもらった。
――橋本さんは2016年ぶりの出演、そして念願の「斎藤一 篇」となります。どんな思いで今、稽古に臨まれていますか。
橋本祥平(斎藤一 役):必死に毎日食らいついています(笑)。ミュージカル『薄桜鬼』って本当にすごくて、これまでいろんな作品をやらせていただきましたけど、その中でもトップクラスにやることが色々あるなと。必死ですけど、本当に楽しいです。なんだか不思議な感じもしますね。まだ「薄ミュ」に出られたっていう実感が完全にはなくて、ここから通し稽古とか衣裳つき通し(稽古)をする中で、その思いが濃くなっていくのかなって思っています。
――「薄ミュ」の現場にいる久しぶりの橋本さんの姿は、鈴木さんから見ていかがですか。
鈴木勝吾(風間千景役):すごく「強いな」って思いますね。殺陣一つ、動きのキレ一つ、セリフの一つをとってもそう感じる場面が多いです。祥平と一緒にやったのって何作だっけ?
橋本:僕は「藤堂篇」「黎明録」「新選組奇譚」と、「HAKU-MYU LIVE 2」の4作ですね。
鈴木:そっか。僕は「黎明録」には出ていないので、ライブを入れたら3作品一緒だったんだね。その当時から、絶妙に巧くなっているなっていうのを感じますね。
橋本:いやいやいや、そんな…。
鈴木:あとはやっぱり貫禄が出たなって。斎藤一というキャラクター自体がクールなので、今後、稽古の中で彼の持つ爆発力っていうのが生まれてくるとは思うんですけど、(今の時点で)すごく地に足がついているのは感じています。そこは以前彼が演じていた斎藤一とはまた違うなっていう印象ですね。
――逆に変わっていないと思う部分はどこでしょうか。
鈴木:そうですね、基本的には変わっていないと思いますよ。すごく純粋で真っ直ぐで、情熱を持って舞台に取り組んでいるし。なので、シンプルに大人になったんだなって。
一同:(笑)。
鈴木:昔はもっとはしゃいでいたし、まあそれは僕もなんですが(笑)。でも、もとから持っている真摯さとか真っ直ぐさは、数年経っても変わらず持っていてくれて良かったなって思います。共演自体がすごく久しぶりで、この作品でしか共演してないもんね?
橋本:そうですね。
鈴木:共演こそずっとしていないんですけど、いろんなところで名前は見かけるので、頑張っているなって思っていて。久々に共演できること自体が嬉しいし、それがこのミュージカル『薄桜鬼』っていうのは妙縁を感じて、なんだか感慨深いですね。同時に、少し偉そうに聞こえてしまうかもしれないんですが、彼が成長して大きく強くなった部分と、変わらず祥平らしい柔らかい部分を感じて、微笑ましい気持ちもあります。
――そんな橋本さんから見て、鈴木さんのいる「薄ミュ」の現場はいかがですか。
橋本:やっぱり嬉しいですね。勝吾くんとは、役者としてレベルが上がらないとご一緒できないと思っていて。それをミュージカル『薄桜鬼』が叶えてくれているというか。現場に勝吾くんがいるだけで、僕はすごく背筋が伸びるんです。頼りがいのある先輩なんですが、同時に役者として太刀打ちできるのか試したい自分もいますし。そう思わせてくれる方と一緒にやれるというのが、すごく嬉しいです。
――初共演は2015年の「藤堂篇」です。当時のことで覚えていることはありますか。
鈴木:当時、初演からの仲間たちと横並びで取り組んでいたし、初代・斎藤一を演じた松田凌にとってもすごく思い入れのある役を橋本祥平が受け継ぐというのは、最初の3日間くらいすごく懐疑的だったのを覚えています(笑)。それは僕があまりに(松田)凌を愛しすぎていた故で、祥平自身がどうこうということは全くないんですけど。
でもそのときに、彼の志というか、この作品をすごく大切に思っているのがにじみ出ているというか、それを感じてすごく安心したと同時に嬉しくなった思い出がありますね。あとは「HAKU-MYU LIVE 2」で一緒に卒業したんですが、あのとき一緒に泣けたことが僕たちの真実かなって。当時、卒業に関してすごくいろんな感情が渦巻く中、ライブ公演が幕を閉じて。そのときに改めて、同じ思いを持って一緒に歩くことができたっていうのを実感しましたね。
橋本:勝吾くんに限らずなんですが、僕は割と皆さんにビクビクしてた覚えがあります(笑)。当時キャストが変わったのが、僕と土方歳三役の井澤勇貴くんで。勇貴くんは勇貴くんで器用でデキる人だから、すごく馴染むのが早かったんですよね。だけど僕はもう、とにかく必死で、毎日「このままでいいのかな」って思っていましたし。皆さんもちろん温かかったんですけど、どこかで孤独を感じている自分もいて(笑)。僕は勝手にビクビクしていたんですけど、でも勝吾くんも含め皆さんが優しくて、いろんなアドバイスをもらったのを覚えています。
鈴木:いろんな思いがみんなあったと思うんだよね。続投のメンバーが多かったし。新しく入ってくる子たちに対して、言葉を選んでいるつもりだったけど、僕らも若かったから、今思うとけっこう厳しく言っちゃったなって思う部分もあります。だけど、やっぱり斎藤一を語る上で、どうしても松田凌って欠かせなくて。その凌の後だからこそ、良くも悪くもいろんなことを祥平に言ったなっていう記憶はあります(笑)。当時、演出の毛利(亘宏)さんもイジっていた気がする。「凌を超えろ!」「凌を倒せ!」って。
橋本:ありましたね(笑)。
――では、「真改 相馬主計 篇」のキャストが多く残る今のカンパニーの雰囲気はいかがですか。
橋本:演出が毛利さんから西田(大輔)さんに変わっているし、キャストも当時から変わっている方がほとんどなんですけど、(近藤勇役の井俣)太良さんがいることによって、不思議と当時とあんまり変わらないなって(笑)。そこは戻ってきてすごく安心したし、懐かしいなってほっこりしました。
鈴木:太良さんはどこにいても太良さんだから、祥平の言っていることはすごく分かる。僕がヒデくん(佐々木喜英)からバトンを受け継ぐ形になった「真改 相馬主計 篇」は、いわばイレギュラー公演というか。「相馬篇」っていうのを体感したことがなかったので、そこはすごく新鮮だったのを覚えています。あとは音楽、殺陣、振付が全部変わっているっていうのが、以前の「薄ミュ」から大きく変わったなって思う部分でしたね。
橋本:あ~分かります。
鈴木:俳優が変わるということよりも、音楽、殺陣、振付が全然違うことで、雰囲気が大きく変わるなって。ミュージカル作品でメインテーマが変わるっていうのもすごく大きくて。今作でも、前回の「相馬篇」で生まれた新しい血が、新たに受け継がれていくんだなっていうのを感じています。
――本作で見えてきた斎藤一、風間千景の新たな一面はありますか。
橋本:今回、斎藤一を演じてどう変わったのかっていう変化は、自分ではなくて周りの皆さんが判断するものだと思うので、なんとも言えないんですが…。ただ、以前自分が演じていた頃はキャラクターに忠実にっていうところに重きを置いていた気がするんです。
だけどそこからいろんな現場を経験して、いろんな先輩に出会ってきたことで、向き合い方や本の読み方は、自分の中では変わったようなつもりでいます。今回は「真改 斎藤一 篇」ということで、彼を中心に物語が動くので、気持ちとしては以前演じていた頃よりも、深く濃く演じたいなと思っています。
鈴木:役の切り取り方という部分で、演出家が変わったことでの変化の大きさを感じています。風間自体が「~篇」によって求められるものが変わるところがあるんですが、今回は「人とは違う鬼である」という部分が強いかな。
これまで僕が演じてきた風間は、人を突き放しながらもどこか寄り添うというか、憂いを感じる部分があったんですが、今作ではそれを天霧九寿が担当していて。その分、風間に関しては非道な鬼でいるべきか、それとも人に理解を示して哀愁を漂わせていくべきか、今の段階ではまだちょっと悩んではいますが、そこらへんが今作ならではないかなと思います。
――本番でどう表現されるのか楽しみにしています。では、最後に公演を楽しみにしているファンへのメッセージをお願いします。
鈴木:ミュージカル『薄桜鬼』は10周年なんですね。原作は女性向け恋愛ゲームなんですが、演じる側はその要素とは別のところで物語が進んでいって、割と男たちの生き様の話になっていくと思うんです。それでも愛し続けてもらえているのは、原作の持つキュンキュンだけではない、男たちの生き様の部分も好きでいてくれているからこそだと思うので、そういうところを大切にしながら、今回も斎藤一の生き様をミュージカル『薄桜鬼』を通して感じてもらえたら嬉しいですね。
こういうご時世ではありますが、やっぱり舞台は生で観ていただくことを前提につくっているので、ぜひ劇場での空気や音を感じてもらうのが一番かなと思います。もちろん配信や円盤でも観ていただけたら嬉しいです。
橋本:10周年という節目で「斎藤一 篇」をやらせていただきますが、この10年の中に歴代の先輩方の思いや、ファンの方の応援や支えが詰まっていると思います。10年って本当にすごいことで、これだけ続く作品ってそんなに多くないと思うんです。それだけこの「薄ミュ」の持つ力や愛ってすごく大きいんだなって実感しています。
この節目に作品に戻ってこれて、勝吾くんと刀を交えることができて、いろんな縁に感謝しながら、桜降るこの季節に、作品としても満開の桜を皆さんにお届けできるように頑張りたいと思います。斎藤一の言葉を借りると、ただただ微衷を尽くしたいと思います。
* * *
静かに言葉を紡ぎながらも、その中には静かな炎が垣間見えるインタビューとなった。それはまるで新選組隊士たちの生き様を彷彿とさせる。4月22日に迫った初日がますます待ち遠しくなった。
前作「真改 相馬主計 篇」で新たな一歩を踏み出した「薄ミュ」。継承と進化の波の中で新たに生まれる斎藤一の生き様を、舞い散る桜とともに見届けてみてはどうだろうか。
取材・文:双海しお/撮影:梁瀬玉実
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