日本の演劇人を育てるプロジェクト 新進演劇人育成公演「中島鉄砲火薬店」が2022年1月20日に幕を開ける。伊藤栄之進が脚本・演出を手掛ける今作は、10年前に上演された作品の再演で、新撰組隊士だった中島登を主人公とした物語だ。
2.5ジゲン!!では、本作で中島登一郎を演じる小西成弥、甘利正太郎を演じる田村心にインタビューを実施。本作での役作りや見どころに加え、稽古場エピソードなどを聞いた。実に5年半ぶりの再会を果たした二人…出会った当時の懐かしい思い出話も交え、本番が楽しみになるエピソードを語ってくれた。
――本作は10年前の作品の再演となります。まずは出演が決まっていかがでしたか。
小西成弥(中島登一郎役):数年前に伊藤(栄之進)さんとご一緒させていただいていて、去年はミュージカル『刀剣乱舞』でご一緒させていただいて。個人的にストレートプレイのオリジナル作品でもいつかご一緒したいなと思っていたので、今回はその念願が叶ったという気持ちです。しかも新国立劇場に立ちたいというのもずっと思っていたことだったので、同時に叶って嬉しいなと。
この作品が上演された10年前というのが、ほぼほぼ僕がお芝居のお仕事を始めたタイミングなんですよね。その時期に上演されていた作品に、このタイミングで出られるというのも感慨深いものがあります。
田村心(甘利正太郎役):伊藤さんとはミュージカル『刀剣乱舞』でご一緒させていただいていて。脚本家とキャストって実はそんなに接点がなくて、稽古場にいらしているときに少しお話するくらいで、ちゃんとお話したことはなかったんです。
でも伊藤さんの脚本はすごく魅力的なので、いつか違う形でご一緒したいなと思っていて。そうしたらこうして伊藤さん演出の作品に呼んでいただけたっていうのは嬉しかったですし、今回、自分とかけ離れていて難しい役を頂いたので、同時に伊藤さんに試されているんだろうなって感じながら今稽古していますね。
――今回演じる役どころについて、ネタバレのない範囲で教えてください。
小西:僕は唐橋充さん演じる中島登の息子・登一郎を演じます。
田村:それくらい短めな説明で言うと、僕は悪役です。
小西:めちゃくちゃいい役だよね。
田村:そうなんです。すごくおいしい役なんです。僕が演じるのは甘利という役なんですが、先日も稽古で「この作品でマイナスな感情を表現しているのは甘利だけ」って言われて。周りは明るいお芝居をしている中、一人だけ負の感情を持っているので、際立つ役どころかなと思います。
――今作の役作りでこだわっている部分を教えてください。
小西:僕は父との関係性や距離感がリアルに出るといいなって思っています。僕自身、お父さんがずっと沖縄で事業をやっていて、僕は大阪に住んでいたので、本当に夏休みに一回会う程度だったんですよ。中学生の頃にお父さんが大阪に帰ってきたので、多分他の親子の距離感とは違うと思うんですね。中島親子とはもちろん違うんですけど、どこか似たようなところがあると思っているので、お芝居でもその親子の距離感というのを出せればいいなって思って今取り組んでいます。
田村:僕が稽古で伊藤さんに言われているのは「人の良さを消せ」です。
小西:出ちゃうからね(笑)。
田村:そう、出ちゃっているらしくて(笑)。「心の課題は人の良さを消すことだな」って毎日のように言われていて、若い兄ちゃんっぽさが出ないように作っているところですね。
――お二人は2.5次元作品でも活躍されていますが、原作のないオリジナル作品での役作りとの違いや、変えている部分はあるのでしょうか?
田村:僕は特に違いを意識していなかったんです。だけど、普段はあんまり言われないんですけど、今回の現場では「声出そうか」って言われるんですね。今までマイクがある環境に慣れていたんだなっていうのは気付かされましたね。役作りでの違いというわけではないんですが、環境の違いは今、実感しています。
小西:「ヒロステ」(「僕のヒーローアカデミア」The “Ultra” Stage)観に行ったけど、結構大きい声出していたと思うけどね。
一同:(笑)。
田村:たしかに声は出していたと思うんだけど(笑)。多分今回はテンションの低い役だし、悪さも出さなきゃいけないし、そういう違いも関係しているのかなって思います。
小西:2.5次元作品でもオリジナルでも、どちらも自由っていえば自由なんですけど、オリジナルの方がお客さんがその役に対してこだわりや先入観がないので、その分やっぱり自由度は上がるなって思います。原作があれば、やっぱりお客さんもそうだし、自分自身も原作から離れたキャラクターのあり方っていうのは違うなって思うので、忠実にやりたいなって意識していますね。今回はすごく自由にやらせていただいていて、とくに僕は父が唐橋さんなので、毎回いい意味で変化があってすごく楽しくやらせてもらっています。
――アドリブのシーンもありそうですか?
小西:どうだろうな~。アドリブというわけでもないんですけど…。
田村:現段階では唐橋さんがふわっとしているのも大きいんじゃないですか?(笑)
小西:その可能性が高いかも。
一同:(笑)。
田村:セリフのニュアンスは合っているんですけど、毎回唐橋さんから違う言葉が出てくるから、不思議な空気になるというか。
小西:そうそう、笑っちゃうんだよね(笑)。だから本番ではシュッとまとまっているかもしれないんですけど、現段階ではいい意味でふわっと自由で面白いです。
――本作は一言で表すとどんな作品ですか?
小西:基本的には笑える楽しい作品ですね。僕が感じたのは、一人一人の役が誰かに対して愛を持っていて。だからすごく愛に溢れた作品だなって思います。
田村:伊藤さんの脚本は毎回そうなんですが、一人一人にスポットが当たっておいしいシーンがあるんですよね。今回もそういう台本で、全員にバランス良く素敵なシーンがあって、みんなでつないで最後に向かっていくっていうのがすごく素敵な作品だと思います。
小西:いや~終盤に心くんと唐橋さんの殺陣のシーンがありまして。それがめちゃくちゃかっこいいんですよ。
田村:唐橋さんかっこいいですよね!
小西:いやいや心くんもかっこいいよ。
田村:まじですか!? 良かった~(笑)。
――先日舞台の公式Twitterにも掲載されていた殺陣のシーンでしょうか?
小西:そうです! そうです! 殺陣ももちろんかっこいいんですけど、すごく“いいシーン”なんです。そこにこう物語がぎゅっと詰まっていて、いいんですよ。
田村:あとラストもいいですよね!
小西:いいね! どこまで言っていいか分からないんですけど、みんなで刀を持つシーンがあるんです。そこに行き着くまでの物語を見届けてもらいたいですね。
――お二人は2016年上演の「あんさんぶるスターズ! オンステージ」以来の再会で、本格的な共演は初めてですよね。
小西:もう5〜6年経つんですね。「あんステ」が終わってから今作まで、1回も会ってないよね?
田村:そうですね。
小西:会ってないんですけど、僕は一方的に彼のすごい活躍を見ていて。僕が刀ミュに出ることになったので、どこかのタイミングでご一緒することもあるのかなって思っていたら、今作で共演できることになってすごく嬉しかったです。当時は何回かしゃべったかなっていうくらいで、深く関われていなかったので、今回の共演は楽しみでしたね。
田村:僕も「あんステ」にアンダーで入ってからは、キャストのその後の活躍を追っかけたりしていて、その中で今回、成弥さんとの共演が決まって。稽古に入って再会したときに、僕から「覚えていますか?」って聞く前に、成弥さんの方から「覚えてる?」って言ってくれて、それがすごく嬉しかったですね。
――かなり前のことになりますが、当時の印象は覚えていますか?
田村:すごくしっかりしている方だなっていうのは当時思いましたね。
小西:それはあるかもですね。同じユニットのキャストが年下の方が多かったので、引っ張らないとって頑張っていた気はしますね。
田村:成弥さんと一緒にやれることで、僕としてはすごく懐かしい気持ちになるのと同時に、初心に帰れるのでありがたいなって思います。でも、当時はすごくしっかりしていると思ったんですけど…。
小西:けど…!?
田村:すごく、ちょける方なんだなっていうのを今回の現場で知りました。
一同:(笑)。
田村:視聴率ゼロの場所で、一人でボケていたりするんですよ! 隣にいる僕にしか聞こえない音量でボケたりするので、意外とそういう方なんだなっていう発見がありました。
小西:年上の方も多いですし、安心しているんです(笑)。
――稽古場のいい雰囲気が伝わってくるエピソードですね。他には松井勇歩さんや大見拓土さんが同年代ですね。
小西:そうですね、歳が近いのもあって4人で一緒に帰ったり話したりすることが多いですね。基本は勇歩くんがツッコんでくれるんで、僕は超絶雑なボケを投げて、捌いてもらっています(笑)。
田村:その4人でよく一緒にいますけど、それ以外の先輩方も含めてすごくいい雰囲気のカンパニーですね。
――ほかに稽古場での印象的なエピソードがあれば教えてください。
田村:この現場ですごくびっくりしたのが、稽古開始時間から1〜2時間は座談会なんですよ。「最近どう?」みたいな。しかも毎日。
小西:新年最初の稽古の日は、その座談会が3時間くらいあって(笑)。気付いたらそれくらい時間が経っていて、「じゃあそろそろ始めようか」っていうタイミングで、次の稽古時間の人たちが来たんですね。そうしたら、「その人たちまだしゃべってないじゃん」ってなって、せっかくだからみんなでしゃべろうってプラス1時間いきました。
一同:(笑)。
小西:それは伊藤さんがウォーミングアップ的にその時間を取り入れてくれているんですけど、僕はそのやり方がすごくやりやすくて。会話してほぐれた後にお芝居に入れるので、変に気負わずできています。
田村:僕も別作品の本番があって後からの合流で、人見知りなところもあるので、どうしようって思っていたんです。だけど、その座談会タイムがあるおかげで皆さんの人となりも分かったし、僕のことも分かってもらえてすごく助けられましたね。このご時世、稽古場でしか関係性を深められない中でそういう時間を設けてもらえて、毎日すごく有意義な時間だなって思っています。
――「日本の演劇人を育てるプロジェクト」にちなみ、今年成長したいことはなんでしょうか?
小西:僕は「腹筋を割る」です。
一同:(笑)。
田村:割とゆるめなハードルですね。
――2年くらい前のインタビューで田村さんはおうち時間で筋トレにハマっていると仰っていましたが、腹筋を割るアドバイスはありますか?
田村:定期的に筋トレにハマるんですけど、今は腹筋割れてないからな~。プランクとかけっこう効くと思います。
小西:僕、体幹強いんで、プランクをして今年は腹筋を割っていこうと思います。真面目なやつも答えた方がいいかな(笑)?
田村:じゃあそれは僕が…。毎年そうですけど、「お芝居を頑張りたい」ですかね。完成することがないものだから、毎年そうなっちゃうんですけど、今年もいろんな作品や役と出会って成長していきたいなと思います。今年は初新国立劇場小劇場での作品でもある、この「中島鉄砲火薬店」から始まるので、成長という意味では何か新しいものがつかめるんじゃないのかなって僕自身もすごく楽しみにしています。
――本番楽しみにしています! では、最後にファンへのメッセージをお願いします。
田村:オリジナル作品なので、前情報や前知識なく来ていただいて楽しめる作品です。観に来ていただければ、笑って泣けて楽しめるので、新年一発目の観劇にはぴったりだと思います。ぜひ気軽な気持ちで劇場に足を運んでいただければと思います。
小西:本当に楽しめる作品だと思いますので、迷っている方もぜひぜひ新年最初の作品としてこの作品を選んで、観にきていただけたら嬉しいです。よろしくお願いいたします!
* * *
気負わず会話を交わす二人の様子から、カンパニーの良い雰囲気が伝わってくるインタビューとなった。その稽古場から、果たしてどんな作品が生み出されるのか。新年最初の作品にぴったりと二人が太鼓判を押す作品なだけに、期待を胸に開幕のその日を待ちたい。
取材・文:双海しお/撮影:梁瀬玉実
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