舞台「湊横濱荒狗挽歌~新粧、三人吉三。」の登場人物は、誰一人としてまともではない。
2021年8月から9月にかけて上演された舞台で主演した玉城裕規は、「(主役ながら)台詞は一番少なかったのではないか」と振り返る。その上、「台本で(自分の台詞が)敬語で書かれていた」という。
そんな難しい条件の中、玉城はどう「悪さ」を表現したのか。話を聞くと、そこに役者としての成長、2022年への展望があった。
「湊横濱荒狗挽歌〜新粧、三人吉三。」(みなとよこはまあらぶるいぬのさけび〜しんそう、さんにんきちさ)は、歌舞伎「三人吉三」をモチーフにしたハードボイルド現代劇だ。劇作家の野木萌葱が、歌舞伎の人気演目を現代に置き換え、書き下ろした。
横浜にある古いホテル、鯨楼が舞台。話は、悪徳刑事の柄沢正次(演:渡辺哲)、切れ者やくざの弁才三郎(演:山本亨)、不器用なやくざ・矢部野光男(演:ラサール石井)の親世代3人の関係から始まる。そして、その世代のしがらみの中で生きる子世代、刑事・柄沢純(演:玉城裕規)、弁財瞳(演:岡本玲)、矢部野晶(演:森優作)の葛藤が描かれる。
「台本を開いたら、『敬語かい!』って気持ちになった」
玉城はそう振り返る。
今回の舞台では、演出のシライケイタから全員に「荒ぶる」ことが求められたという。劇中の格好は、常にスーツ姿。ほかの役と比べると、一番見栄えがまともだった。その中で、「抑えようとしているけど、ちょっとおかしい部分」を醸し出そうとした。
「台本のほとんどが敬語なんです。その中で、普通じゃない部分を見せようとする。敬語という縛りの中で、自分が荒ぶろうとしている。親に近づこうとしている。哲さん(父・柄沢正次役の渡辺哲)の化け物じみた芝居を見て、そこに近づこうとしている。でも、敬語があるからそういうふうには行かない。その葛藤が自然と、そっちに流れた」
表情や動きから、常人ではない何かが流れ出ていた。それだけに、演技とそれ以外の切り替えはきっちりできていると思っていたが、「切り替えられていないよ」と言われることがあった。「ちょっとスイッチの切り替えが甘いときがあったらしいです」と苦笑したものの、それだけ役になりきっていた証しでもあった。
だからこそ、芝居を見てくれた知人から「人間の中身がまともじゃない。中が普通じゃないよね」と言われたときはうれしかった。舞台の最中には自覚していなかったが、終わってみれば「役者としての幅が広がった」と感じた。
こうした表現は、今後の俳優人生で、自在に出せるのだろうか。玉城は「コントロールしたいですけど、その作品の台詞を話すと、ぶっとぶ」という。
だからこそ、2022年はこう進化を誓うのだ。
「この舞台で、個性は改めて感じた。この人がいるからこその味。そこを常に追求して、個性を濃くして進化していきたいと思います。全員が素敵すぎた。こんな恵まれた環境でお芝居できるのは幸せで、刺激的だった。この機会を生かせるようにしたい」
舞台「湊横濱荒狗挽歌~新粧、三人吉三。」は2022年1月23日(日)、CS 放送局「衛星劇場」でテレビ初放送される。番組の情報はこちら(https://www.eigeki.com/series/S73209)。
撮影:宮川舞子
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