インタビュー

演劇の本質とは シライケイタ×玉城裕規、KAAT『湊横濱荒狗挽歌〜新粧、三人吉三。』対談

広告

広告

2021年4月よりKAAT神奈川芸術劇場の新芸術監督に就任した長塚圭史は、今年度から同劇場にシーズン制を導入。一年目のテーマを「冒」とし、その起首を飾るのが「湊横濱荒狗挽歌〜新粧、三人吉三。」(みなとよこはまあらぶるいぬのさけび〜しんそう、さんにんきちさ)だ。8月27日(金)に初日を迎える。

本作は歌舞伎作品「三人吉三」をモチーフとし、脚本は野木萌葱、演出はシライケイタと、河竹黙阿弥の因果の名作がハードボイルドな現代劇として生まれ変わる。

2.5ジゲン!!では和尚吉三を基とした役の柄沢純を演じる玉城裕規とシライケイタに単独インタビューを実施。制作の真っ只中の2人に、本作誕生のきっかけや見どころを深堀りした。

研ぎ澄まされた感覚でつくる『三人吉三』

――このキャスティングのきっかけは?

シライケイタ(以下、シライ):僕が10年前に書いて舞台化もした『BIRTH』という作品が、昨年、千葉哲也さんの演出で上演されたんですよね。かつて僕が演じていたユウジ役を玉城くんが演じているのを見て、ものすごく面白かったんです。僕とは違ったアプローチで攻めてくれていて、「良い俳優さんだなぁ、いつか一緒にやれたら良いなぁ」と思っていたら、その後すぐに本作のお話が舞い込んできて。それで提案したんです。「つい最近見た俳優さんの中に面白い方がいらっしゃるよ」って。彼を交えた3人ならば、この物語の新たな広がりが見えてくると感じたので。

――玉城さんは『BIRTH』当時を振り返っていかがですか?

玉城裕規(以下、玉城):初めは「今の人はもう(「BIRTH」の題材となった)オレオレ詐欺にひっかからないよ」と(笑)。

シライ:そうだよね、なかなかね、今はね(笑)。

玉城:(笑)。舞台上で4人が入り混じって繰り広げる人間模様はすごく楽しくて。とても男臭い現場で面白かったです。当時、新型コロナウイルスの流行があって、僕自身『BIRTH』が久々の舞台だったので、内にあるものを全てぶつけられた作品でした。

ユウジという役は杉江大志くんとダブルキャストだったので、お互いの役を見ながら良い部分を取り入れていく、ということをして。とても刺激的でした。僕は登場人物の4人の中でユウジを演じられて本当に良かったと感じています。

シライ:俺が書いた中で(ユウジは)最も悪人だからね(笑)。自分でも「こいつは駄目だ」って思うほど。

玉城:(笑)。

シライ:ユウジのような役は、ひっくり返して見た時に、こういうやつも世の中にはいるんだなって思えるんですよね。一番自分勝手なやつが「お前、自分勝手だよ」って他人に言ってしまうのは芝居でしかやれないことですよね。

玉城:いっそあれは気持ちが良かったです(笑)。

――本作の稽古場の雰囲気はいかがでしょうか?

玉城:日々楽しいといいますか、見て勉強させていただいてます。その中で自分はどういうふうに演じて、(その場の)居方をどうするのか、というのを考えながら。出来上がった台本の続きを見て「(物語は、役は)こうなっているのか」と、考えながら、ゆっくり、徐々に踏みしめて作り上げている感じですかね。

共演がはじめましての方がほとんどで。以前にご挨拶だけしたことがあった方もいらっしゃったんですけど。経験を積まれた方々ばかりなので、稽古が始まるとスイッチが切り替わり、一切の無駄がない。そして皆さま優しいんです。先輩方が多いのでリラックスできますね、甘えられるというか。僕自身が後輩気質なので安心します。

例えば2.5次元系の舞台をやらせていただくと若い方ばかりなので、僕は隅っこでおとなしくしてますね…。2.5次元の作品の出演回数って最近はそこまで多くないので、現場入りすると挙動不審になる部分があるというか。「あ、年上だ、俺」って(笑)。

シライ:切り替わる時に戸惑うよね?

玉城:戸惑いますね。

シライ:俺もずっと後輩でいるほうがラクで、「あ、やべぇ、上の方にきた!」って思った時、その心構えをしていなかったんだよね。

玉城:そうなんです。だから僕の場合はその場で静かになるっていう(笑)。一回様子を見てます。

――本作は『三人吉三』をテーマにした“現代劇”。一見複雑にもとれる作品ですが、その制作の裏側を少し伺っても?

シライ:そうですね、物語の舞台が現代の横浜なので、まるっきり“今”ですね。

現在は稽古が始まって約3週間ほど経っていますが、実はね、まだ結末部分の脚本は完成していないんです。今書いていただいている最中。リミットも迫ってきて、なかなかに現場は熱いです。

野木さんはプロットを作ってそれに沿って書いていくタイプではなく、頭の中で構想したもの、ひらめきや降りてきたものを基に書いていくという手法を取られる方なんです。しかも全て手書きなんですよ。ものの作り方が唯一無二。

手書きの場合は、少し前に戻って書き直して、ということが何度もできない。今回のように書けたところから現場に出していくという場合は、なおさら前に戻って書き直すなんてことはできないわけですよね。一文字一文字に対する責任と重みが僕のようなパソコン作家とは違います。先行きがどうなるか分からない中、今の精一杯の責任を持って文字を置いていくという。だから自分にも保険をかけないで、その場その場で削るように、そしてご自身にも(結末は)まだ分からない、一寸先は闇、といった状態で書いてらっしゃるんです。

――まさに唯一無二な作り上げ方ですね。そうなると、続きの台本を手渡された際に、予想してなかった展開が待っているということもあるのでは?

玉城:予想と違っていて驚いた瞬間はキャスト陣全員にあると思います。でもそこがすごいといいますか。話す内容だったり意味合いだったりが(続きの台本をもらって)「あ、違ったんだな」というのはありますが、役としての居方にズレはないので、そこがすごいなと。

人それぞれにつかめる・つかめない部分ってあると思うので、「あ、こういう役なのか」と分かって進める部分があったり、まだまだ見えてこない部分もあったり、現状は模索しています。

――“柄沢純”という人間の印象は?

玉城:僕は今、胸のあたりがずっとグルグルしていて。彼の親が親なので。今の段階で僕が考えているのは「犯罪者になるのってこういう人かな」と。普段抑圧されていたものが、たまにバンッと弾けて外に出てしまうんですよね。ある拍子に飛び出すからこそ、一番怖いのかなって。

ただ、その抑圧が自分自身でコントロールできているのか、無意識下でリミッターがかかっているのか、まだ現時点では分かっていないんですよね。結末が分かっていない分、僕自身もその部分は固めないようにして、留めておいた方がいいのかなと考えます。「コレだ」と思ってやってしまうとそれが癖づいてしまうかもしれないので。新井役の筑波竜一さんとよくお話をするんです、「考えると、余計考えちゃうからなるだけ考えないようにしよう」って。

シライ:竜一くんの話は聞かない方がいいよ(笑)。彼は特殊な生き物だから。

玉城:でも今回、特殊な生き物しかいない…。

一同:(笑)。

玉城:僕は論理的な作り方というのをできなくて、セリフをはく時にちゃんと考えて反映できるかというと、それは難しくて。これは台本が持つ全てに対してであり、そしてどの現場でも同様です。

同世代ではいるんですよ、ちゃんと意味を理解してしっかりとお客さまに伝えることができる人間も。職人気質というか。でもその方と以前、一緒に取材した時に「型にはきっちりはめられるけど、はみ出すことができない」っておっしゃっていて。逆に僕はその型が綺麗に作れないんだよなぁと考えてしまったり。

シライ:でも、僕は圧倒的に玉城くんのようなタイプの方が俳優として魅力的だと思いますよ。そりゃあだって、論理とか整理するのはこっち(演出)側の仕事だから、俳優が自分でやりだした時ほどつまらないものはないです。

「どうぞご自由に、感覚で生きてください」で大丈夫。その感覚に、手かがりを効果的に提案・提示するのはこっち側の、スタッフの役目だから。

そういった環境なら彼のような俳優がやるものは必ず面白くなるに決まってる。そして本作では彼だけではなく、こういった感覚で生きる人たちばかりが集まって作品を作っているんです。

玉城:すさまじいですよね。

――シライさんと玉城さんは本作で満を持してご一緒となったわけですが、改めてお互いの印象は?

玉城:僕、勝手にすごいいかつい方かと。

シライ:(笑)。

玉城:近寄りがたくで無口な方かと思っちゃってたんですよね。実際にお話しすると全然違いました。自然に甘えちゃえる方というか、「あ、良かったらパン買ってきましょうか?」って聞けるくらいの方で(笑)。なんでも言えちゃう。

シライ:なんでいかついと思ってたの?

玉城:なぜだろう…、『BIRTH』という作品や現場の雰囲気からか、お会いする前は勝手にそう思ってたんですよね。

シライさんは役者さんのことをとってもよく考えてくださるので、僕は居心地良くさせていただいてますし、もちろんご期待に応えられるようにしたいですし、自分自身も楽しみながらやりたいなと思います。稽古終わりに飲みに行けない状況の中では、距離の近さって助かりますよね。

シライ:本当は飲みに行きたいんだけどねぇ(笑)。

玉城くんは思っていた以上に、すごくクレバーな俳優なんだなと。さっき本人が言っていたこととは逆になってしまうかも知れないけど。

ようやく少しずつ役柄が台本上で分かってきて、ここからどうやって作っていくのかなと眺めていたんです。彼は「分からないものは分からない」「分かるものは分かる」を示すことを決して無理しない。うまいこと器用に分かったふりをしない…そういうとこがとても素直で、気持ち良いですよね。

“分かったふり”というのは、「こっちが言っていることに分かったふりをする」ということもですが、「自分自身の中で分かったふりをして、納得していないのに見た目の整合性だけ追いかけて、稽古場で出す」ということも指します。これをされてしまうと、内側から出るものを基に作りたいのに、そこにたどり着けないままで終わってしまうことが往々にしてあるんです。単にそこに触られたくないって思う人もいますし。でもそれって実はあんまりものを作る上で意味がないんですよね。「本当はどう思ってる?」っていうところで話がしたいのに、何か綺麗なもので取り繕ってしまっては元も子もない。

意気込みとファンへメッセージ

――最後にファンの皆さんへ意気込みとメッセージをお願いします。

シライ:色々な新しい表現に挑戦している若い世代の方はたくさんいますよね。そういった存在はとても心強いです。そして今までになかった表現は常に改革されていくべきではあるんだけれども、一方で、演劇の持っている根源的な面白さ、力強さといった本質と向き合い続けるというのも大切なんじゃないかなって。僕自身はそういう造り手だと思っているんですよね。

今回特にそういったことに、この素晴らしい環境とスタッフ、役者さんたちと一緒に「演劇ってこうだよね」という面白さを追求し、チャレンジしていきたいんです。見ていただく方には「いい大人が揃いも揃ってこんなふうにこだわってものを作ってるんだな」って感じていただきたい。

演劇の本質的な面白さっていうのは人が作り出すアナログな面白さであり、役者が目の前で生々しくその場を生き、客席と時間を共有していくということにありますよね。

演出的にどうこう面白いというよりも、僕はやはり俳優さんを見てしまうんですよね。俳優の面白さに惹かれるんです。俳優というのはすごいんですよ。舞台上で世界を作ることができるし、時間を早めるのも遅らせることも、止めることもできますから。

そいう役者の魅力、人の手のぬくもりが見える作品作りに本作ではこだわりたいと思います。KAATの新しい芸術監督のプログラムとして、このメインシーズンに俳優力の復権と、演劇の面白さを横浜の地で高らかに宣言できたらいいなと。

玉城くんのファンの皆さんには「こういう演劇もあるんだよ」というのを知っていただくきっかけになれば嬉しいです。これまで見たことのない玉城くんを知ってもらいたいし、触れたことのない作品の質感を体感してもらいたいです。どうか横浜までお越しください。

玉城:シライさんがおっしゃったことが全てではあるのですが、シライさんの庭で僕は精一杯生きます。

演劇全体にも本作にも、人が「生きているんだ」っていう生命力であったり、生きようとしている熱量だったりがあります。そして今回のキャスト陣からは、その力が、とてつもないくらい溢れ出ているんです。

この座組を見られるのは今回だけ。見ないと損な作品だと思います、間違いなく。ただこのご時世もあって「見に来てください!」と大きい声では言えませんが、なかなかない挑戦だと思うので、ご自身の無理のないよういらしていただけたら嬉しいです。どうぞよろしくお願いいたします。

* * *

「湊横濱荒狗挽歌〜新粧、三人吉三。」は9月12日(日)まで上演予定。野木とシライの手によって引き出された俳優・玉城裕規の新たな一面は決して他では見ることができないだろう。ぜひ一度新たな扉を叩いてみてほしい。そうすれば、きっと、これまで踏み込んだことのない世界が広がるはずだ。

取材・文/ナスエリカ

登場人物
柄沢純(からさわじゅん)…歌舞伎版では和尚吉三:玉城裕規
柄沢正次(からさわまさつぐ)…純の父で悪い刑事:渡辺哲
新井淳史(あらいあつし)…正次の部下で悪い刑事:筑波竜一

弁才瞳(べんざいひとみ)…歌舞伎版ではお嬢吉三:岡本玲
弁才三郎(べんざいさぶろう)…瞳の父でキレ者ヤクザ:山本亨
奈良郷統介(ならごうとうすけ)…三郎の相棒ヤクザ:若杉宏二

矢部野晶(やべのあきら)…歌舞伎版ではお坊吉三:森優作
矢部野光男(やべのみつお)…不器用ヤクザ:ラサール石井
竹野克哉(たけのかつや)…光男の舎弟ヤクザ:伊藤公一
行山由香子(いくやまゆかこ)…光男の女房:村岡希美
人形師(にんぎょうし)…舞台となる古いホテル鯨楼の老支配人:大久保鷹
人形(ひとがた)…鯨楼の従業員:那須凜

歌舞伎作品「三人吉三」とは
河竹黙阿弥作。『三人吉三廓初買(くるわのはつがい)』として1860年初演されたのち、『三人吉三巴白浪(ともえのしらなみ)』と題名を変え、人気狂言となり現在でも上演されている。和尚吉三、お坊吉三、お嬢吉三という三人が節分の夜に出会い、因果に巻き込まれていく物語。江戸の市井の人々の暮らしの中にあるドラマを描いた世話物(せわもの)を代表する演目のひとつ。盗まれた名刀庚申丸と百両をめぐって、次々と糸がからまるように3人を引き寄せていきます。悪事を重ねながら生きるアウトローを主人公とした作品は「白浪物(しらなみもの)」と呼ばれ、昔も今も観るものの心をつかみます。

広告

広告

公演情報

タイトル

KAAT神奈川芸術劇場プロデュース『湊横濱荒狗挽歌〜新粧、三人吉三。』

日時・場所

2021年8月27日(金)~9月12日(日)
KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオ

野木萌葱

演出

シライケイタ

出演

玉城裕規、岡本玲、森優作/渡辺哲、山本亨、ラサール石井
村岡希美、大久保鷹、筑波竜一、伊藤公一、那須凜、若杉宏二

KAAT公式サイト

https://www.kaat.jp

WRITER