ミュージカル「ヘタリア〜The world is wonderful~」(通称:ヘタミュWW)が12月16日(木)に大阪・COOL JAPAN PARK OSAKA WWホールで開幕する。
本作は「ジャンプ+」(集英社)にて連載中、日丸屋秀和の『ヘタリア World★Stars』を原作に、ミュージカル「ヘタリア」新シリーズとして、キャストは旧シリーズからの続投で上演される。
2.5ジゲン!!では、旧シリーズ第1弾から手掛ける演出・吉谷晃太朗と脚本・なるせゆうせいに対談取材を実施。今作で描かれるテーマ、第1弾で感じた手応え、お互いに対して日ごろから感じていることなどを聞いた。
ヘタミュのこれまでを振り返って
−−今作はどのようなお話になるのか教えてください。
吉谷晃太朗:イタリアがメインの話になります。「in the new world」から少し間が開いたので、もう一回、イタリアの成り立ちから振り返ってみようと。テーマは大きな意味での“愛”ですね。なるせさんは愛とかラブって言わないと思うから僕が言うけれど(笑)。イタリアとロマーノのつかず離れずの関係性を中心に描いていきます。
なるせゆうせい:様々なことがあるけれど、今のこの世の中が少しでも明るくなるように、少しでもいい方向に向かえるようにというのを意識して脚本を書きました。世界がざわついているこの状況の中でヘタミュが目を覚ましたというのは、運命的なものを感じますね。
−−これまでのシリーズ3作とは大きく変わった作品になりますか?
吉谷:新しいものを作りたいという思いと同時に、いい意味でマンネリズムも大事にしています。「帰ってきた」の気持ちは大切にしたいので、これまでを大事にしながらも、今までは表現できなかったものを見せたり、新しい見方ができるようなものを作っていきます。
それから、キャストの皆さんのパフォーマーとしての成長も見せたいですね。これまではキャスト全員の総合力で作り上げている意識があったんですけれど、今回は皆さん個々に力をつけて成長しているので、あえてそれぞれに見せ場を作らなくても結果として自分で見せ場を作ってくれるはずです。
−−今回から参加するロマーノ役の樋口裕太さんについてはいかがですか。
吉谷:樋口くんの参加は作品にとって大きいですね。パフォーマーとしての能力が高い彼が入ることで舞台の見せ方の幅が広がるので、これまでよりもさらに質のいいミュージカルをお届けできると思います。ちゃんとしたミュージカル感が強くなっているので、それに見合うようにセットも今までとは傾向の違うものになっています。
−−今作で満を持して登場のロマーノですが、これまでも登場させようかという話はあったのでしょうか。
なるせ:実はありました、「The Great World」の時だったかな。でもロマーノを登場させると、そのときに描こうとしていた話から軸がブレてしまう可能性があったのでいったん保留になったんです。
吉谷:「in the new word」の会議の時にもその話になりましたね。でもドイツとプロイセン方面の話を軸にしよう、ということになって見送ったので、今回は満を持してですね。
−−多くのファンから支持されている「ヘタミュ」ですが、これまでを振り返って、手応えを最初に感じた瞬間を教えてください。
なるせ:現場は吉谷さんに任せているので頻繁に稽古場に足を運ぶことはないのですが、「Singin’in the World」の通し稽古を観に行った時に「あ、いい匂いがする」と感じました。
吉谷:僕はいくつかあるのですが、最初の台本の読み合わせの時には手応えを感じていました。その時点で笑いが起きることは普段の舞台ではあまりないんですけれども、なるせさんの脚本が巧みでね。それをイタリア役の長江崚行くんが読んだ瞬間に場がどよめいて、これはいけると確信に変わりました。
なるせ:そうね。まんまやないか! と思いました。もうイタリアそのものにしか見えなかった。
吉谷:「Singin’in the World」公演が終わって、皆さんに受け入れられたと改めて手応えを感じたので、次作「The Great World」では臆せずに様々なことに挑戦できました。歴史に関してはセンシティブな問題もありますので、一歩踏み込んでしっかり描くには勇気が必要だったんです。第1弾の反響を感じたからこそ、第2弾ではもう少し深いヒューマンドラマを描けました。
でもやっぱり第1弾は手探りでしたね。皆さんが期待しているであろう“ザ・ヘタリア”というものを作ろうと苦労しましたし、セットにも分かりやすく「ヘタリア」と入れたりしました(笑)。
−−舞台化するにあたって特に難しかった点はどこでしたか。
なるせ:単発の読み切りストーリー漫画である原作をどう一本の物語に組み立てようか、という点が難しかったです。ショートストーリー集のような舞台にすることもできたのですが、会議で意見を出し合って、歴史を紐解いてキャラクター同士の関係をしっかり描いていく舞台にしたいという方針になったので。
方針が決まったはいいものの、そこからが大変でした(笑)。一つの舞台の中で時間軸をしっかりさせるために、原作の話を並べ直して、脚本にする上で描かれていない空白の部分はオリジナルの要素を入れなければいけない…今回もそこが難しくて、脳が耳から出てきそうになりました(笑)。
−−そもそもなのですが、「ヘタリア」を舞台化するにあたって、なぜミュージカルになったのでしょうか。
なるせ:音楽って、国民性と結びついているでしょう。だから音楽とヘタリアという作品はすごく相性がいいんですよね。…いいこと言うなぁ、私(笑)。
吉谷:ミュージカルという言葉自体の持つ華やかさと明るさもヘタリアに合っていますよね。シリーズを通した主題歌を大きなテーマと指針として、そこに向かって作品を作っていく意識でやっていました。
お互いの魅力と共通点
−−なるせさんは「吉谷さんならこう演出してくれるかな」と考えながら脚本を書かれることはありますか。
なるせ:いい意味で気にしていないです。僕は脚本を書くときに舞台の“絵”が見えていることがあるんですが、自分自身で演出する作品であれば、見えていた絵をそのまま形にする作業になります。でもヘタミュでは吉谷さんに演出をお任せしているので「どうなるんだろうな」というワクワク感があります。だからあえて余白を作ったりもして、出来上がったものを見て「こうなったのか、なるほど」と楽しんでいます。面白いですね。
−−吉谷さんは、なるせさんから上がってきた脚本を読んで「このシーンの演出はどうしようかな」と悩んでしまったことはありますか?
吉谷:いっぱいありますよ! …というのは冗談です(笑)。
なるせさんは演出家でもあるので、実際にはできないような荒唐無稽なものは上がってきません。例えば、台本を読んで「これ、上演時間内におさまるのかな?」と思っても、現場でやってみるとテンポよく進んでちゃんと収まるんですよ。他の舞台でもご一緒していますが、やりにくさを感じたことはないですね。
でも現場で実際にやってみて少し変えたいなと思うことがあれば、ちょこちょこ連絡をして軌道修正のオーダーを出させてもらっています。急に「明日までにできますか」とか(笑)。
なるせ:吉谷さんから連絡が来ると「…きたな」ってなりますね(笑)。でも、現場でやってみないと分からないことや気づくことはたくさんあるし、いい方向へ進むための修正なのでもちろん応えます。大人なので(笑)。
−−お二人は他の作品でも一緒に舞台を作られています。なるせさんは吉谷さんの演出についてどう思われているのでしょうか。
なるせ:吉谷さんの演出にはリズムのようなものがあって、元々は音楽畑の人なのかな? と思うことがあります。俺もセリフを書く時には言葉のリズムをすごく大事にしているのだけれど、吉谷さんはリズムが体にしみこんでいる感じ。そこが俺にはない部分なので、すごいなと思っています。
吉谷:リズムはね、ダンサーさんの影響を若い頃に受けたからかもしれない。ダンサーさんたちって音楽と一緒になって自らも変化して場面を変えていく力があるでしょう。舞台は“芝居”だけで構築していくのではない、という考えなのですが、その影響があるのだと思います。
−−逆に、吉谷さんが考える、なるせさんの魅力を教えてください。
吉谷:なるせさんのことをギャグ畑の人だと思っている方も多いかもしれませんが、実はそうじゃないんですよ。ヘタミュに限らず、素材となるものをちゃんと研究して吸収して、作品として落とし込んでくれる。物語が分かりやすいし舞台としてすごく見やすい。そこにギャグの要素を入れてくるんですよね。しかもセリフ回しだけで成立させている。僕は視覚的に表現することが多いから、その成立のさせ方がすごいなと思っています。
なるせ:ただの笑いにはしたくないんですよね、物語がきちんとあって、その中に生まれる笑いにしたい。皆さんが思っているよりも真面目ですよ、ちゃんと考えているし(笑)。
吉谷:僕の方がふざけているかもしれないです。ヘタミュだと怖がらずにギャグをやれるし、何かあっても全部なるせさんのせいにして責任をかぶせちゃう。
なるせ:なんてことを(笑)。
−−お互いに感覚が似ていると感じたことはありますか?
吉谷:感覚は似ていないかもしれないけれど、根幹の部分は似ているかもしれないですね。ロマンチストと人見知りという点。それから、直球に物事を伝えられないから舞台に乗せて表現して伝えたいという点(笑)。
なるせ:恥ずかしいけれどそうですね、ロマンチストだし人見知り(笑)。
吉谷:それから、なるせさんは、例えば登場人物たちがふざけていても、たった4行で物語の芯に戻れる言い回しのセリフが書けるんですよね。そのスピード感があるから芝居のリズムが保てるし、エッジも効かせられます。僕も脚本を書いているから分かるけれど、芯への戻し方がすごいです。
なるせ:吉谷さんは、僕の書いた脚本をきちんと読み取ってくれるのでありがたいです。実は色々計算して作っているのにカットされて、泣いちゃうこともあるんで。あと、出演者たちに「パパ」って呼ばれてすごく慕われていて羨ましいと思っています(笑)。
−−最後に、今作の見どころとメッセージをお願いします。
なるせ:皆さんの期待を裏切らないように…という思いはありますが、変に気負わずに自然体でいようと思っています。ヘタミュが、世界が今こういう状態の中で上演できるのは運命だろうし、それを作り上げる我々がまた集まれたのも運命で、必然です。今のヘタミュがどういうものなのか、ぜひ観てもらいたいなと思っています。
吉谷:「愛っていいよね」ということを伝えたいと思っています。手作りとアナログにこだわって、ヘタミュとしての根底はぶらさずに、でも冒険は忘れずに。今までとはタッチの違う「ヘタミュ」になっているかもしれません。ぜひ期待していてください。
取材・文:広瀬有希
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