『Allen suwaru Lab』は、劇団アレン座(以下、アレン)本公演の演出手法の一つでもある“アドリブ劇”の原点となる「イベント型舞台」のシリーズ。劇団メンバーである來河侑希、栗田学武、磯野大、演出・脚本 鈴木茉美4人で、演劇の研究所というテーマのもと、従来の演劇の型に囚われない、演劇の可能性を探っていく。
その最新作となるのが7月21日(水)に開幕するAllen suwaru Lab vol.7『ホウム。』である。
2.5ジゲン!!では來河・栗田・磯野の3人に独占インタビューを実施。演目についてはもちろん、他では決して読むことのできない個性豊かな劇団メンバーのプライベートな話も盛りだくさん。ぜひ最後まで読みすすめてみてほしい。
※本作のあらすじは後述
栗田初のプロデュース作、テーマは「アットホーム」
――本作『ホウム。』は、以前取材をさせていただいた『いい人間の教科書。』(第4回本公演)とはまた違った演出手法をとられるそうですね。
栗田学武(以下、栗田):そうなんです。本作は “Lab=研究所”の通り、上演中に様々なことにトライし、実験していければと思っています。
去年の新型コロナウイルス流行のあおりで、僕たちも「今後、どうしていく?」という話が出たんですよね。「こんな時にわざわざ重たいテーマなんてやってどうするんだ」という気持ちが団員の中で沸き起こったんです。ただただ笑えて、楽しい舞台をやったほうが良いよね、と。
そのタイミングですでに『ホウム。』という演目に関しての方向性が見えていました。そしてその後、今年の1月くらいに劇場を抑えて、栗田のプロデュースでやってみよう、ということになったんです。構想から約1年で実現しました。
來河侑希(以下、來河):はじめは舞台にする予定ではなくて。完璧な住居空間を作って、その中で僕たちのホームドラマをライブ配信で延々と流し続けようという計画だったんです。
三兄弟という設定もその頃にはまだ決まっていなかったんですが、1シチュエーションで完結する“家族”がテーマのハートフルドラマをやれたらいいなとは考えていました。
これまで僕がプロデューサーを担当することがほとんどだったんですが、劇団の成長のためにも今後は他のメンバーにもチャレンジしてみてもらおうと思って。そこで今回は栗田にやってもらうこととなりました。
栗田:僕はあとから乗っかったっていう部分もあるんですけどね(笑)。
アレンではこれまで『家族もののあったかい演目』というのをやったことがなかったため、メンバーからは企画会議で「ベタなのはやりたくない!」という意見も飛び出したりしたんです。
磯野大(以下、磯野):だって、照れくさいじゃないですか(笑)。
栗田:これまでアレンではSF風だったり、ありそうでなさそうな非日常な世界だったりが多かったんですよね。だから、『ド直球なホームドラマ』には免疫がなかったんです。はじめのうちは「ホームドラマってこういうものなのか?」という葛藤とかもあったりして。
“家族もの”ってなんとなく既視感があったり、行き着く先が似ていたりするんですよね。僕たちの演劇スタイルであるエチュードは、予測不可能な顛末も多々あるため、この演目はそういった意味でも異質でした。
ただ、僕個人の性質からするとハートフルなテーマは演じている最中に脳が働きやすくて。『栗田学武プロデュース』の味は出せるんじゃないかなと思います。
――先ほど“照れくさい”というお話も出ましたが、長年一緒に臨んできた団員同士だからこそ、ひとつの「家族」としての形が垣間見られるように感じました。
栗田:まさに。アレンのみんなだからこそ実現できるだろうし、このみんなでやり遂げたいと考えます。
來河:今回、最初にこの3人で家族をテーマにしたエチュードをやってみたんです。そしてそこで出た(アドリブの)言葉や動きをもとにして台本を作り上げていきました。一般的なお芝居の作り方とは順序が逆ですよね。
栗田:でも、これって自分が普段どういうふうに芝居をしているのかということに気付けるんです。「あれ? 俺、なんでここでこんなこと言ったんだ?」とか、台本になった途端に分からなくなるっていう(笑)。
その場の衝動で出たセリフをアウトプットできるわけですから、自分自身の演技と向き合えるんですよ。
來河:この手法をとったのには理由があって。(鈴木)茉美さんの中では、これまでの公演を通して「エチュードで最後まで仕上げていくと“役者の言葉”になってしまう。主観が強すぎて作品として届かなくなってしまうのではないか?」という思いがあったんです。
エチュードだと、全てではないですが…本来ラストシーンで届けたかったはずのメッセージを見失ってしまうのではないかと。先ほど栗田が言っていたように“Lab”だからこそ、新しい劇団の試みとして、エチュードで作り上げたものを台本にして作家のメッセージを更に付け加えて作品を仕上げていく。そして、逆に台本通り演じた時に、どのようなお芝居が出来ていくのか? を試してみようということになりました。
――家族がテーマとなると、メンバー間のコミュニケーションもまた重要になってくるのでは?
栗田:そうなんです。今回、稽古の前後で3人でいる時間を多くとったんですよね。一緒に筋トレをしたりだとか、他愛もない話をしたりだとか。
別に何か新しい発見があったとかじゃないんですけど、「この人、こうよな」って再確認する場面はあったりしましたね。
磯野、先輩に気を使いすぎて珍事件へ発展
――ぜひ、団員それぞれの人物像をお聞かせください。
磯野:栗田さんははじめてお会いした時は「おお、格好いい人だな」って。
栗田:おお、なんや急に。ありがとう。
磯野:でもね、知れば知るほど、「んんん〜〜〜???」って。
栗田:なんでなん!?
磯野:頑固なんですよね。
來河:ああ〜。確かにね。自分のプラン通りにいきたい人だもんね。
磯野:役者向きの変人ですね(笑)。
一同:(笑)。
栗田:大はなぁ…神経質で、真面目すぎ?
來河:あと記憶力がめっちゃすごい。本作の台本って70ページくらいあるんですけど、もうすでに(内容が全て)入っているんですよ。怖い。
栗田:怖い通り越してキモチワルイ(笑)。
來河:一人だけ台本を持たずにやりはじめるから、俺ら2人のプレッシャーがやばい。
栗田:彼のスペックが高すぎるんです。
一同:(笑)。
栗田:はじめて会った頃から考えると、大は俺らに対しての警戒心がなくなってくれたよね。ふとしたことで頼ってくれるようにもなったし。このタイミングだからこそ本作の兄弟役ができたのかもね。
磯野:僕は、アレンに関係なく、基本的にパーソナルな部分へは踏み込まれたくないタイプで。(相手が)ガってきたら、スッと引いちゃうというか……、でも人に構われなさすぎると「すげぇヤダ」っていう、めんどくさい人間なんですよね(笑)。ずっと盛り上がっていると疲れちゃうから、一回リセットする場所がほしいだけなんですけれど。
栗田:大はめちゃめちゃ周りに気を使っちゃう人なんですよ。
來河:あ、例えば、車で一緒に帰ったりするじゃないですか。大を先に降ろした時は、俺たちの乗っている車が見えなくなるまでずっと降りた場所で立ったまま見送ってるんです。雨とか降ってても!
磯野:(苦笑)。
栗田:最近あった出来事、もう一個話してもいいですか?
磯野:もうやめて(笑)。
栗田:この前、來河さんがみんなのためにお弁当買ってきてくれたんです。「優しいな、ありがとうございます」ってなったんですけど、僕、ちょうどその時に急ぎの作業があったんで「すみません、あとでいただきます〜」って言ったんですよね。だから、來河さんや他のスタッフさんたちには先に食べはじめたんです。
作業が終わって「さあ、食べよ」と思って、お弁当を見に行ったら2つ残ってて……あれ?って思った瞬間に横から「栗田さん、どっち食べます?」って、大がっ!
一同:(笑)。
栗田:「え? 食べなよ?」って言ったら「いや、栗田さん、どっちか好きなほうを選んでください」って〜〜! 待ってくれてたんよな。
磯野:ちょっとそれ、僕、覚えてないです(笑)。
栗田:なんでや! でも、嬉しかったなぁ。
――四男役には豪華ゲスト俳優が登場するとのことですが。
栗田:起承転結の“転”の要素を担ってくれる感じですね。お話に変化が生まれるというか、彼らの登場によって新鮮さが加わっていくんです。
來河:ゲストの皆さんには大筋(の台本)はお渡ししているのですが、基本はアドリブでやっていただくようにお願いしていて。でも、また最後には台本に戻っていくという、とても難しい構成になっています。
栗田:この構成は綱渡り的でもあるのですが、皆さんと過去に共演したことがあるし、僕たちの考えやテイストを理解していただいてる方ばかりなので信頼感があります。例えばですが、松田岳くんとかは観客の皆さんの予想の斜め上を行くかもしれないです。
彼は稽古で僕たちの空気感や出方を見て「ここは安心できる場所だ」というのを分かってくれたみたいで、本番でもスイッチをバチッと入れて狙いに行ってくれるはずです。
とはいえ、きっとこの來河・磯野・栗田の3人ならば、アドリブで予測不能なことが起きたとしても、上手くストーリーのレールに戻っていけると思うんですよ。
公演に向けてのメッセージ
――最後にファンの皆さんへ意気込みとメッセージをお願いします。
栗田:このインタビュー中には納まりきらないほど、お伝えしたいことはたくさんあるのですが、本作では絶対に「マジか!」と思う出来事をご用意しています。実は僕たちもそれに対して、やや焦りを抱えながら稽古をしているんです。きっと観劇終わりに「こいつら、やったな…」とつぶやかれるはずです(笑)。
アレン的にも、僕たち役者としても次に繋がっていく新しい挑戦を本作ではしています。ストーリーを楽しんでいただけるだけではなく他にも見どころがたくさん。飛び道具も多くて必ずお腹いっぱいになれる舞台なので、どうぞ楽しみにしていてください。
よろしくお願いいたします。
來河:自分たちがやっていることを信じて稽古を進めていますが、期待と同じくらい不安もあります。奇をてらったことをやるからこそ、本作を観た方がどう思われるのかなという緊張感があるんです。しかし僕たちがやっていることの本質はこれまでと変わらないと思います。この先どんどん膨らんで、未来を切り開いていく作品にしていきたいなと思います。
また野田河家三兄弟の設定を生かして、この舞台以降の展開も考えています。ひきつづき劇団アレンの動向を見守っていただけたらなと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
磯野:Labらしく、そしてアレンらしく。本作を観ていただけたならきっと全てを分かっていただけると思います。本当に、どうか観てほしい。
生が難しくとも配信もあります。色々な形でお届けできるように準備をしています、そしてもちろん色々な対策もしています。どうぞよろしくお願いいたします。
* * *
本作は7月21日より開幕。豪華なゲストを日替わりで迎え、全10公演を駆け抜ける。この、温かくも衝撃満載の本作にぜひ生で、配信で、触れてみてほしい。
撮影・取材・文/ナスエリカ
あらすじ
突然三人がパパになる?!野田河家の父・幾三が死んだ。
葬式で久しぶりに集まった三兄弟は、そんな父の思い出話をしている。少し抜けているが責任感の強い長男・のぞみ。
父に似てその日暮らしでいい加減なバツ2の次男・たけし。
仕事優先で家庭を全く顧みない真面目な三男・まさる。まるでバラバラな三人に、父・幾三が残した衝撃的な遺書は彼らの事態を急転させた。さらにまさるの妻が突然赤ん坊を置いて出ていく……
置いて行かれた赤ん坊の世話に三人は四苦八苦。
オムツもかえることもできなければ、ミルクを作ることもできない。
そしてまさかの四人目を名乗る兄弟の出現!?果たして彼らは一致団結し、遺産を無事?相続……できるのか??
鈴木茉美の書き下ろし新作、劇団アレン座がお送りする初の家族の絆を描くハートフルコメディは、あなたの心に大切な何かを思い出させる。
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