舞台『弱虫ペダル』SPARE BIKE篇~Heroes!!~ が、2021年3月19日(金)に幕を開ける。
「ペダステ」の愛称でおなじみの同舞台シリーズは2012年のスタート以来、一本のハンドルとマイムにより自転車ロードレースを見事に表現し、多くのファンに愛される作品だ。
今作ではスピンオフとなる「SPARE BIKE」を原作に、フレッシュな俳優陣や新たな試みも加え、本編とは一味違った魅力を舞台上に描き出す。
2.5ジゲン!!では、広島・呉南工業高校の名コンビを演じる注目キャスト、前田隆太朗(待宮栄吉 役)と田内季宇(井尾谷諒 役)にインタビュー。稽古の様子や公演への意気込みをじっくり聞いた。
稽古で実感、「ペダステ」の楽しさと大変さ
――「ペダステ」初出演となるお二人ですが、出演が決まったときのご感想は?
田内季宇(以下、田内):すでに多くの公演が行われてきたシリーズで、俳優仲間や先輩方から話を聞くことも多かったので、「あの有名な“ペダステ”に僕も加わることができるんですか!?」と嬉しい驚きでした。あんまりびっくりしたので、マネージャーに「本当ですか!?」と何度も聞いてしまいました。
前田隆太朗(以下、前田):僕もとっきーさん(=田内)と同じで、「自分があの“ペダステ”に!?」という気持ちが大きかったです。以前、総北高校・田所迅を演じた友常勇気さんと共演した際、DVDを借りて見たり、稽古や公演の様子を聞かせてもらったりしたこともあり、「勇気さんが言っていたあの作品に、自分も出るんだ」と感慨深く思いました。
――実際、稽古に参加してみてのご感想は?
田内:聞いてはいたけど「ものすごく汗をかく!」というのが率直な感想です。
前田:僕たち2人に関しては、原作「SPARE BIKE」の中では自転車に乗るシーンがほとんどないんです。だから稽古に入る前はちょっと油断していて…。でも兼役(=複数の役を兼ねること)の出番もあるので、実際は自転車をこぐシーンも結構多かったんですよ。
田内:油断しいてた分、余計に「すごい汗かくじゃん!」という実感が、ひしひしと。
前田:大変だけど、嬉しいです。稽古の最初にライド(=自転車に乗るマイム)を身につけるワークショップがあったんですが、そこで練習しながら「これは本番でもぜひやってみたいな」と思って。
田内:分かる。
前田:せっかく「ペダステ」に出るならがっつり自転車こぎたいなって、そのとき思ったので。大変だけど、やっぱり嬉しいです。
――その感覚は「ペダステ」ならではの楽しさ、大変さと言えそうですね。
田内:ライドも含め、演出・脚本の西田シャトナーさんがおっしゃっている「見えないものを見せていく、表現していく」という楽しさや大変さは、この作品ならではだと感じます。
そうした表現を稽古場で作っていくのは楽しいです。他のキャストが各々のシーンを作り上げていくのを見るのも楽しいし、頑張らなきゃなと気持ちを鼓舞されます。
前田:大変さの部分で言うと、ハンドルとマイムだけで自転車レースを表現する分、シーンに関するたくさんの情報をセリフで観客に伝えなきゃいけない面があります。情景が浮かぶように言葉で説明しながら自転車のマイムをするのは、頭も身体もフル回転している状態で。
特に今は(新型コロナウイルス感染予防対策として)マスクをつけたまま稽古をするので、レースシーンの多いキャストがぶっ倒れそうなほどペダルを回していると「大丈夫かな!?」って思うことも。そのくらい、命懸けで作っています。
田内:できるだけ息苦しくないように、マスクの下に装着する専用のカップをつけたり、工夫しながらみんなで頑張っています。
原作キャラクターへの愛、好きなシーンは?
――原作「SPARE BIKE」の呉南工業に関するエピソードで、特に好きなシーンはありますか?
前田:待宮の心情、井尾谷を止めるシーン、ストーリーの全部が好きですが、ちょっとコアな部分で言うと格別好きなコマがいくつかあります。
一番好きなのは、屋上で命綱代わりにされた待宮のシャツの襟のところが、胸元までびろ〜ん!と伸びているところ。一瞬びっくりするほど伸びているんだけど、よく考えたら「人間一人分の体重支えたら、そりゃこうなるよな」って納得しちゃうんですよね。細かいところまですごく丁寧に表現されていて、大好きです。
田内:りゅう(=前田)は、そういう技術的な部分がすごく好きだね。
前田:他にもいっぱいあります。
井尾谷と待宮が初めてケンカした後、教室で授業受けているシーンで、机に向かってウダウダ丸まっている井尾谷と背筋ピシッと伸ばして黒板を見ている待宮の対比とか。
井尾谷と仲のいい友達同士の会話が「バカみたいだけど、かわいいな」と思える絶妙なさじ加減だったり、続く井尾谷の「ワシら もうオワっとるよ」というセリフの何とも言えない雰囲気だったり……。
田内:ディテールがツボなんだね。
前田:そうなんです。
田内:僕も原作のストーリーまるごと好きですが、一番好きなのは終盤に出てくる、井尾谷と志木(=井尾谷の友人)のシーンです。志木が井尾谷を陰ながら支えていたというか、「最後の一線」を踏みこえないようにずっと教えてくれていたんだ、と井尾谷が気づくシーンがあって。
井尾谷は待宮との出会いや関係性を経て、もともと仲のいい友達の思いまで分かるようになった。彼のその変化が印象的でした。
――ご自身の演じるキャラクターについて、特に「いいな」と感じるポイントは?
前田:僕から見た待宮は、「男から見てもかっこいい男」です。高校一年生のとき、三年生でのインターハイ、大学生になった後…とずっと待宮を見てきて、一本芯が通っている「変わらなさ」がほんとにかっこいいなと思います。
もちろん、井尾谷や箱根学園・荒北との出会いで、マインド的な成長や気付きはいろいろあったと思うんです。でも真ん中に一本筋の通った“THE・漢(オトコ)”という部分は変わらない。そこが大好きです。
田内:待宮はほんとにかっこいいですよね。実力的にもすごい人だし、「もっとる(=運がいい)」ところもかっこいい。それに、いつも前にいて引っ張ってくれる。
そんな待宮を支える「影の立役者」を貫くところが、井尾谷のかっこ良さだと思います。
――なるほど!
田内:井尾谷は、最初嫌っていた待宮をあるきっかけで尊敬することになる。で、その後はもうブレずにしっかりと尊敬し、後押ししていく。こうと決めたらその姿勢を貫くところが好きです。
前田:井尾谷は、自分自身の中で戦って勝っていく姿がかっこいいよね。待宮はもともと「これがしたい」と思って自転車競技部に入ったけど、井尾谷の場合、最初は部活にも自転車にも興味なかった。
なのに「やる」と決めた後は、自分に負けそうになるたびにちゃんと戦って、決めたことを貫こうとする。まっすぐ進んでいこうという気持ちの強さが素敵です。
田内:佳奈ちゃんに関するエピソードも好きなんですよね、僕。待宮と佳奈ちゃんのために影で動く、あの心意気のかっこよさ。すごくいい!
――演じるキャラクターとご自身で、似ているところはありますか?
前田:僕と待宮は、頭の回転が結構早いところが似ているかなと思います。学校の勉強ができるという意味ではなくて、「勘が鋭い」というか。わりと周囲にそう言っていただくことが多くて、そこは待宮と共通していそうです。
田内:僕と井尾谷は、性格的なところはあまり似ていないかなあ……。しいて言えば、ちょっと根に持つタイプなところが近いかもしれません(笑)。稽古などでりゅうくんだけが褒められたとき、井尾谷みたいに「あ〜〜〜〜イラつくわ!」とひそかに悔しがっています!(笑)
――稽古中ではありますが、現段階で、彼らを演じる上で「一番大切にしたいこと」は何ですか?
前田:待宮として、井尾谷にどれだけの影響を与えられるかを常に意識して演じています。井尾谷にとって待宮は大きな変化のきっかけなので、とっきーさんの井尾谷がどれだけ「ついていきたい」と思える待宮になれるか、というのは大切にしたいです。
田内:僕は、井尾谷の変化をきちんと表現したいと思っています。
さっきも話に出たとおり、待宮はある意味ずっと変わらない不動の存在です。だから呉南の2人の関係性の変化は、井尾谷の変化で見せていかなくてはいけない。それを原作から全部受け取って、全部出していきたいです。
(今回はアクションシーンがあるので)ただ殺陣として綺麗にこなすのではなく、井尾谷の心情や悲哀を込めて演じたい。芝居の全てを通して、井尾谷の中身を表現したいです。
前田:そうですね。僕らは殺陣のケイデンスを上げていくので、観客の皆さんにも何か感じていただけたら嬉しいです。
田内:殺陣のケイデンス、かっこいいな!
前田:…かっこつけすぎた? ちょっと恥ずかしくなってきた(笑)。
お互いの第一印象は「できる子」「優しい人」
――他作品でも共演経験のあるお二人ですが、時を経てお互いへの印象は変化しましたか?
田内:僕のりゅうくんへの第一印象は、「とにかくできる子」でした。先日まで共演していた作品では敵同士として戦う役柄でしたが、りゅうくんは僕に限らず作品全体を引っ張ってくれていたんです。
前田:その作品は長く続いているシリーズで、僕は以前から参加していたので。初参加のキャストが多い中で「経験者として頑張らなくては」という思いもありました。
田内:頼りになる「できる子」という印象は、今も変わらずです。「ペダステ」ではお互い同時期のスタートになりましたが、やっぱり頭が良くて勘が良くて、新しく試すことや面白いアイデアをどんどん出してくる。稽古場でいつもすごいなと感じています。
前田:僕のとっきーさんへの第一印象は「優しい人」です。とっきーさんは僕より3つ年上ですが、年下の僕が何を言ってもちゃんと受け止めてくれるんですよ。
もし僕が年下から言われたらちょっと抵抗感を感じそうなことでも、とっきーさんはフラットに聞いてくれる。「こうしたい」って伝えたらすぐ順応してくれるし、「ああ、やってみよう」って受け入れてくれるので、思いや提案を安心して口に出せるんです。
何かを「言いづらいな」と感じることが一切なく、とても感謝しています。
――最近知った、お互いの「意外な一面」はありますか?
田内:意外かどうかは分からないですが、りゅうくんに関して最近知ったのは、某スポンジアニメのキャラクターが好きなことです。
前田:最近急にハマりましたね。
田内:僕としてはあまりイメージになかったので最初は驚いたんですけど、一方では「ああ、言われてみれば好きそう」という気持ちもあるので…やっぱり「意外な一面」ではないかも?
前田:とっきーさんはですね、いい意味でちょっとミステリアスというか、「何をしていてもおかしくない」というイメージがあるんですよ。たとえば何の脈絡もなく「俺、家でサボテン育てているんだよね」って言われても納得できるというか。
田内:サボテン、育てているよ。
前田:ほらね!?(スタッフ一同・笑)
田内:サボテンもだけど、アボカドも育てていますよ。水耕栽培。去年1回失敗しちゃったんですけど、その後やり方を工夫して、今3つ育てています。
前田:…こういうことなんですよ(笑)。お芝居では意外性を見せてくれるけど、普段の生活は謎めいている分、逆に何を言われても驚かないというか。
田内:今は(感染予防対策で)一緒にご飯を食べに行くこともできないから、プライベートはお互いあんまり知らないしね。
――いつか会食の機会が訪れた際には、また新たな一面を知り合えるかもしれませんね。
二人:そのときが楽しみです!
注目のシーンと本作への意気込み
――今作の見どころや、個人的に注目してほしいシーンを教えてください。
前田:キャストそれぞれの本役のシーンはもちろんですが、「選手1」「選手2」など兼役をしているシーンも多いので、ぜひそこにも注目してみてください。誰がどんな役を演じているのかな? と考えながら観ていただくのも、結構楽しいと思います!
田内:同感です。それから、原作ではオムニバス形式の「SPARE BIKE」を、一本の舞台としてどう表現するのかにも注目してほしいです。
エピソードとエピソードをつなぐシーンが面白かったり、クスッと笑えるものになっていたりもします。そういった脚本の妙もイチオシです!
――最後に、読者の方々へメッセージをお願いします。
田内:今回は新しいキャストも多く、カンパニー全体の雰囲気がフレッシュになっています。その分、ライドアドバイザーの河原田巧也さんや、(パズルライダーとして)ペダステ経験者の伊藤玄紀さん、村上渉さんなどを中心に、一つ一つのライドをみんなで丁寧に作り上げています。
僕ら呉南工業のシーンは今までの「ペダステ」にないものになりそうですが、エネルギーや声量を全力でぶつけて熱いものにしていきます。お客さまが「これが新しい“ペダステ”か!」と驚くような時間にできたらと思いますので、ぜひ楽しみにしてください!
前田:今まさに命を削りながら作っています。この作品を観て笑顔になっていただければ、僕たちは「そこで死んでも本望」という気持ちです。
この思いは、観ていただけばきっと伝わるはず。劇場でも配信でも、たくさんの方に届けられたら嬉しいです。頑張ります!!
取材・文:豊島オリカ
撮影:ケイヒカル
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