2008年の初演以来、熱狂的なファンに愛されてきた峰倉かずやの『最遊記』『最遊記RELOAD』を原作とした『最遊記歌劇伝』シリーズ。2021年2月、いよいよ「ヘイゼル編」の完結編となる『最遊記歌劇伝-Sunrise-』が上演される。
2020年に上演された「Oasis」では別行動となっていた玄奘三蔵と孫悟空・沙悟浄・猪八戒が、本作で再び合流。ヘイゼルやガト、烏哭三蔵も加わり果たしてどんな結末を迎えるのか。楽しみにしているファンも多いだろう。
今回、シリーズ初演から玄奘三蔵を演じる鈴木拡樹、孫悟空を演じる椎名鯛造にインタビューを実施。13年間同じ役を演じ続けることへの想いや本作に懸ける意気込み、2021年の抱負などを聞いた。
『最遊記歌劇伝』は“学校”のような場所
――「ヘイゼル編」ラストとなる本作、上演を控えた今の心境を教えてください。
鈴木拡樹(玄奘三蔵役):原作コミック『最遊記RELOAD』のラストであり「ヘイゼル編」のラストとして、始まる前からこの回を一つの目標として見据えていた部分もあったので、「いよいよこれが上演できるんだ」ということで楽しみにしていますね。
とにかく作品を作り上げて皆さんにお届けするっていうことを重視して取り組んでいるところです。
椎名鯛造(孫悟空役):全く一緒ですね。
一同:(笑)
椎名:楽しみだけど寂しさもあって。目標としてきたところなだけに、目標の“その先”に何があるんだろうなって寂しくて、でも嬉しさもあって。複雑な心持ちで一日一日を噛み締めている感じですね。
鈴木:3作目の「God Child」の時だったかな。「RELOADもやりたいね」って口に出したのは。そこから、(「RELOAD」までやりたいというのは)ある種の共通認識みたいな目標でもあったので、まずはそこに辿り着けたぞっていうのは素直に嬉しいです。
その目標は達成できたので、あとは公演が実現しないと「やりきった」っていう方の目標は達成できないので、千秋楽まで頑張っていきたいですね。
――稽古場としても「ゴールを目指して」という空気なのでしょうか?
椎名:カンパニー全体としては、ちょっと違うかもしれないですね。初演から出演している僕ら二人と(烏哭三蔵役の)唐橋(充)さんが、特に強くそこを感じているというか。今作から参加する新キャストやアンサンブルのメンバーもいるので、全員が全員そう感じているというより、僕らの中でその気持ちが強いという感じです。
――長く携わっている作品とあって、思い入れもひとしおなんですね。
鈴木:いつも課題を与えてくれたり、次やるべきことだったり。常に超えていくための要素として携わってきた作品なので、何というか、“学校”みたいなものですかね。この学校を進級していって卒業したら、次は何を目標にしたらいいんだろう、みたいな(笑)。
これがもし小学校なんだとしたら、次は中学校に上がるわけじゃないですか。だから、その時にどんな目標が見えてくるのかなって楽しみですね。
――千秋楽を迎えた時に、次の目標が見えてくるかもしれませんね。
鈴木:そうですね。このシリーズがどういう継続の仕方をするのかっていうのも含めて、座組としても次の目標が見えてくるんじゃないのかなって思います。
――絶賛稽古中とのことですが、本作の見どころはどこでしょうか。
鈴木:どこかある?
椎名:やっぱり烏哭じゃない?
鈴木:それは間違いないね。
椎名:今まですごく不思議な存在で、何を考えているのかよく分からなかった你健一が、だんだん烏哭三蔵法師として存在感を増して、過去が少しずつ分かってきて。三蔵一行を邪魔する目的も含めて謎だらけだった彼との直接対決が、ここへきて実現するんです。その結末も面白いので、烏哭との直接対決が見どころですね。
鈴木:脚本を読んだ時にびっくりしました。烏哭と戦うのは想像できていたんですけど、まさか「RELOAD」の最後で激突するとは思っていなかったので。そう考えると、作品としては早いタイミングでの対面になったなって。ついに唐橋さんがベールを脱ぐので、そこは見どころですね。
それに、ヘイゼル(演:法月康平)とガト(演:成松慶彦)も今作が一番彼らの過去に触れているので、彼らの過去を知った上で前回までの作品を振り返ると、より彼らの人柄や一緒に旅をする理由も見えてくるので、そこも楽しんでほしいですね。
――前作「Oasis」は三蔵不在の作品となりました。椎名さんは「Oasis」での主演を経て、改めて本作で三蔵一行が揃った際、どんなことを感じましたか。
椎名:皆が揃ったというより、三蔵が合流したという感覚に近いんですが、悟空というよりも一役者・椎名鯛造としての気持ちがすごく大きくて。
さっきの学校の話じゃないですけど、高校2年の時に鈴木拡樹が1年間留学して、高3になって戻ってきた時に学校がなくなってたらどうしよう、みたいな状況にならなくて良かったなって(笑)。
学校を存続させることができて、拡樹の戻ってくる場所があって、次に向かって突き進むための道を“守れた”って言ったらちょっと偉そうな感じになってしまうんですけど、彼が不在の期間、『最遊記歌劇伝』を問題なく存続させられたことに安心しましたし、今一緒に稽古できているのがとても嬉しいですね。
――一方で鈴木さんは「Oasis」を観劇されたとのことですが、観客として作品を観ていかがでしたか。
鈴木:『最遊記歌劇伝』ってミュージカルにしてはお芝居の部分が多いから、歌唱パートってもっと少ないのかなって思っていたんですけど、結構歌ってるよねっていうのを感じました。やっぱり「歌劇伝」って付くだけあって歌ってるんだなって。出演している身としては歌のナンバーが少なめだなって思っていたんだけど、全然そんなことなかったです。ちゃんと歌っていました。
椎名:僕もミュージカルあんまり出たことないから分かんないんだけど。
鈴木:僕もそんなに経験ないよ(笑)。
椎名:でもなんかやっている側としては、歌は少なく感じるよね。
鈴木:あれだけ状況を描くために結構なセリフを挟んでいるはずなのに、歌もちゃんとやっていて。改めてこの作品って大変だなって思いましたね(笑)。
初演から13年、貫いてきたそれぞれの想い
――お二人や唐橋さんは長年、本シリーズに出演されていますが、これまでに印象的だった出来事はありますか。
椎名:お客さまには伝わらない部分なんですけど、長くシリーズをやってきた中で、同じ劇場や稽古場を使うことが何度かあって。そうすると唐橋さんや拡樹と「懐かしいね、ここでこういうこと10年くらい前にやってたね」みたいな会話をするのがすごく面白いなって。
そういう懐かしさを感じるような会話ができるのも、これだけ続けてきた『最遊記歌劇伝』ならではのことなので、すごく印象的だなって思っていますね。
鈴木:今回もね、シアターBRAVA!とか行きたかったね。
椎名:そうね。いろんなところに思い出があるからね。
――初演の2008年から13年。同じ役を演じ続けていますが、演じる上で意識している部分があれば教えてください。
椎名:そんな難しく考えたことないんだよな(笑)。初演の顔合わせの本読みの段階で、僕は深く考えずに悟空をやっていて。
もちろんアニメの声優さんの声のイメージが皆さんの中にはあるっていうことを分かりつつ、当時は今みたいに配信もない時代だったのでレンタルビデオ屋さんでアニメを借りて観ていたんですけど、そのときに「あ、俺にはこの声出せないや」ってなったんですよね(笑)。それで、この役はもう「俺は俺でいこう」ってなったので、深く「こうやってやるぞ」って考えずに今までやってきましたね。
鈴木:僕もね、同じ壁にぶち当たったんですけど、答えの出し方が逆だったんです。
僕は地声は低い方ではあるんですけど、アニメの三蔵ほどドスの効いた低さではなかったんで、やっぱり無理をしつつなんですよね。セリフもそうだし、特に歌にはそれが顕著に表れていて。
これって実はある時点で気付いて修正することもできたんですけど、変えたくなかったんですよ。初演の頃のイメージを残しつつ、自分の中ではすごく負荷の掛かることをしてはいるんですけど、三蔵という役はそういう部分は変えたくないなって。最初に感じたものとか、信じてたものを生かしつつ、あの頃ではできなかった要素を入れてうまく作っていきたいなと思ってやっていますね。
歌は昔に比べて随分キーが上がったものをもらっているので、歌唱パートに入った瞬間にキーが切り替わる状態になるんですけど、どういう補完の仕方をしようかなって考えつつ臨んできていて、そういう面では成長していると思います。
でも他の作品だったら、ここまで意固地になってないかもしれないです。それくらい、この作品に関しては当時から感じていたものを大事にしたいなって思って役作りしていますね。
椎名:なんでだろうね。変えるタイミングもいっぱいあったんだけどね(笑)。
悟空でいうと、原作と髪型が違うんですよ。本当は金鈷(悟空が額に付けている妖力制御装置)の下にも前髪が出てるんですけど、当時ウィッグの技術もそんなに発達していなかったし、地毛でやるってなると金鈷の下に髪を入れていると覚醒したときにペタンとなってしまうので、結局髪を出そうっていうことであの形になったんですよね。
多分、今の技術だと原作通りの髪型にできると思うんですけど、もう頑として「やらない」ことにしてる(笑)。
鈴木:それでいうと僕も、この作品以外だったら絶対やるはずなのにカラコンにしてないですね。
椎名:あ~たしかに!
鈴木:三蔵なら本来は紫の眼だし、セリフとしても言われるので、入れるべきなんだろうけどやってない。
椎名:俺も「金色の眼」って言われるけど真っ黒のままでやってるしね(笑)。
――そういう部分はあえて初演のままの姿にしているんですね。13年というと短くない年月ですが、その中でお互いに変わったと感じる部分、また変わらない部分はありますか。
椎名:出会ったときすでにいい大人だったので、すごく変わったなって思う部分はないですかね。
鈴木:変わらないことに驚愕することの方が多いかもしれないですね。鯛造くんだったら、運動能力の低下を感じないところとか。本人は低下を感じてるんだろうけど(笑)。13年経っても衰えるどころか、なんだったら更新されているもんね。
椎名:そうだね。13年前はたいして動けなかったから、成長はしているかな。拡樹は出会ったときから、ずーっと謙虚だよね。
一同:(笑)
椎名:なんか謙虚なんだよな。でも作品が進めば進むほど、責任感が強くなって帰ってくるなっていう変化はあるかもしれない。主演として作品を背負う覚悟が、他の作品を経て帰ってくる度に大きくなっているような気はしますね。
――鈴木さんご自身、そこは意識されているんですか?
鈴木:そうですね、最初に座長って難しいなって感じちゃったから、どこの現場に行っても自然と「どうすればいいんだろう」っていうのは考えちゃいます。「どういう心持ちでいればいいのかな」っていうのを、自分が座長じゃないときも周りを見るようになりましたね。
座長は難しいですよね……。「全責任取ってやる!」みたいな気合いで立っていたとしても空回っちゃうし。でも、何か起こったとしたら最終的には責任を取れるようにっていう心持ちでいながら、普通に接してカンパニーの中にいられたら、ちょうど良いバランスなのかなっていうのが分かってきたので、いつも通り平常心っていうのを心掛けています(笑)。
役者人生における「玄奘三蔵」「孫悟空」とは
――役者人生において、「玄奘三蔵」「孫悟空」とはそれぞれどんな存在でしょうか。
椎名:代名詞的な感じかな。孫悟空イコール椎名鯛造って思ってほしいし、自分自身もそう思っているから、“イコールな存在”でありたいかなぁ。
鈴木:向き合い続けてきたし考え続けてきた役で、年数も一番長いです。やっぱり僕にとっても代名詞なんでしょうね。なんていうか、今でも“気になる存在”ですね。すべてを把握しきれているわけじゃないし、どんどん気になる存在になっていっている感じがします。
――本作は2月上演の作品となります。2021年の抱負を教えてください。
椎名:趣味を見つけたいなって思っています。
鈴木:お、なんか始める気だ(笑)。
椎名:そう、始める気なの。ありがたいことに、デビューのときから恵まれていて、次から次へと縁が縁を呼んですごくお仕事させていただいていて。だけど去年の半分くらい、自粛期間があって、自分の時間ができたんですよね。
そのときに、仕事以外に没頭できるものが「少なっ!」って思って。人生を生きる上で、仕事以外で没頭できることを探すのが今年の目標ですね。
鈴木:去年があったからこそだね。なんか発表があるかもしれないから楽しみにしてる(笑)。
椎名:発表できるかなあ……(笑)。
鈴木:趣味がすぐ見つかればいいんですけどねぇ。僕もそういうのがあんまり得意じゃないなっていうのが、このコロナ禍で分かったというか(笑)。始める前の時点で、何やろうかなって考えるのも大変。
椎名:じゃあ俺が目標あげるわ! 「時間ができたときに、誰かに連絡してみる」っていうのを今年の目標にしてみたら? 拡樹から「今なにやってる?」ってメール来たら、俺すぐ電話するもん! 「どうしたの? なにかあったのか?」って。
一同:(笑)
椎名:人と人との繋がりを大事にするっていうのを目標にしようよ。
鈴木:「ちょっと意見ちょうだい」とかでもいいってことだよね?
椎名:そう、全然いい! 「自分はこう思うんだけどさ」とか「あのことについてイライラしたんだけど、どう思う?」とか!
鈴木:なるほど……。たしかに自分としても言えたら楽なんだよね。
椎名:そうでしょ!
鈴木:「なにか始めたいと思うんだけど、いいの思いつかないんだよね」とか電話すればいいんだよね。
椎名:そうそう。そうしたら「じゃあ今度一緒にこれやってみようよ」とか、広がっていくかもしれないじゃん。
鈴木:電話掛けて「え……急にそんなこと言われても」みたいなことになったらどうしようって思っちゃうんだけど、そういうところ変えていこうかな。
椎名:じゃあ拡樹の今年の目標は「1カ月に1回、違う人に電話を掛ける」で。
鈴木:……それは難しいな。
一同:(爆笑)
椎名:これは変わらないな(笑)。
鈴木:ハードルが高いよ(笑)。でも頑張って、どうでもいいことでも電話してみようと思います(笑)。
――今年の目標が無事に決まったところで、最後になりますが、本作への意気込みとファンへのメッセージをお願いします!
椎名:集大成、一区切りとなる作品です。2008年に立ち上げたときよりも若さは失っていますけど、気持ちは大きくなっていて、全身全霊を込めて。ラストの殺陣とか烏哭との直接対決は“気持ち”で戦おうと思っているので、ぜひそれを劇場で感じてくれたらなと思っています。
我々スタッフ・キャスト一同、健康に気をつけて本番をお届けする予定でいますので、ぜひ楽しみにしていただけたらなと思います。
鈴木:13年もやっていれば「歌劇伝」のファンの方もいらっしゃると思いますが、やっぱり『最遊記』ファンの方に支えられていて。そういう方に対して僕が言う言葉じゃないかもしれないんですけど「烏哭ファンの皆さん、お待たせいたしました」という感じの回です。これまでの作品であれだけ前フリのようにおちゃらけてきたので、今作の格好いい烏哭に痺れてほしいなと思いますね。
こんな時期だからこそ、ひと時でも日常を忘れて楽しめる空間を提供したいなと思っています。劇場に入る際は感染症対策でご協力をお願いすることもありますが、座席に座ったら我々と一緒に『最遊記』の世界観に浸っていただきたいなと思います。劇場でお待ちしていますので、皆さんお気をつけてお越しください。
* * *
終始和やかな雰囲気で進んでいった、気心の知れた二人の対談。柔らかな言葉の裏にも、この作品と向き合ってきた長い時間や苦悩、喜びが感じられ、並々ならぬ本作への意気込みが感じられた。
「ヘイゼル編」完結という一つの区切りを迎える『最遊記歌劇伝-Sunrise-』。二人が語ったように、“集大成”となる作品なだけに見逃せない作品だ。三蔵一行の旅はどこへ向かうのか、その行方を見届けよう。
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