2001年のデビュー以来、舞台や音楽活動と歩みを続け、今年でデビュー20周年を迎えるKIMERU。初演から出演するシリーズ最新作、ミュージカル『青春-AOHARU-鉄道』4~九州遠征異常あり~では銀座線・常磐線の2役を演じる。
ミュージカル『青春-AOHARU-鉄道』(通称:鉄ミュ)は、鉄道路線を擬人化した鉄道トリビアコメディコミック『青春-AOHARU-鉄道』の舞台化。今回はその第4弾となる。
2.5ジゲン!!ではKIMERUにインタビューを実施。郵便局に勤めていた彼がステージに立つことになった経緯、「鉄ミュ」への深い愛、40歳になった現在の気持ちなどを聞いた。
デビューのきっかけ、夢をかなえるために
――今年、デビュー20周年おめでとうございます。元々は郵便局にお勤めだったそうですが、芸能界を志したきっかけを改めて教えてください。
僕が郵便局員に憧れたのは、中学生のころ、全国に文通相手がいたからでした。配達員さんのバイクの音がすると走って手紙を受け取りにいくほど、手紙が届くのを楽しみにしていたんです。
それからずっと「郵便局で働きたい」と思い続けていたのですが、高校2年生の時にバンド好きの友達にライブに連れて行ってもらったんですね。それがもう楽しくて! でも結局、公務員試験を受けて郵便局に就職しました。
勤めてからは地域の皆さんにもとてもかわいがっていただいたのですが、ある時ふと気づいたんです。夢がなくなっちゃったなと。
――郵便局員という夢が叶ってしまったからですね。
郵便局員になったその先を考えていなかったんですよね。そうして先の道が真っ白になってしまった時、もう一つの夢だった“ステージに立ちたい”という思いが湧いてきました。19歳の頃です。
それからは郵便局に勤めながらオーディションを受ける生活を送っていたのですが、いいところまでいっても落ちてしまったりとなかなかうまくはいかず。ああ、もうこれは諦めた方がいいのかな…と思っていたとき、ある音楽仲間が「夢、目指しているんだよね。オーディションを受けてみない?」と声を掛けてくれました。
何のオーディションか知らされないまま履歴書やデモテープを送ったところ「決まりました」と。それがアニメ「テニスの王子様」の主題歌だったんです。
――大人気漫画のアニメ主題歌でデビュー。相当な驚きだったのではないでしょうか。
「…ん? はい? どういうこと?」でした(笑)。「テニスの王子様」のアニメ化は極秘で話が進んでいたので何も教えてくれなかったのですが、僕が常々夢を口に出していたから声を掛けてくれたんですよね。
でもデビューしたものの単発の契約だったので、その後のことは決まっていなくて。東京でアルバイトをしながら生活をしていました。
そんな時、アニメの声優さんたちとお茶をしていたら、そこにちょうどキャスティングの方もいらして、「今、『テニスの王子様』でミュージカルを作ろうと思っているんだけど、今度オーディション受けてみない?」って。
そのままオーディションを受けて、ミュージカル『テニスの王子様』の不二周助役に決まってステージに立つことになりました。たくさんのご縁のおかげで今の自分があるのですが、一つ、とても大事なことがあります。
――大事なこととは何でしょうか?
夢を積極的に口に出していくことです。オーディションの声が掛かったのも、ステージに立ちたいと周りの人に話していたからです。
夢は自分一人だけではなかなか叶うものではありません。でも、周りの手助けがあればチャンスは大きく広がります。可能性が1パーセントでも上がるのであれば、どんどん口に出した方がいいと思っています。
ただ、できるだけ具体的な方がいいですよ。例えば「仕事ください!」よりも「こういうことができる。だから〇〇をやりたい!」とか。その方が自分の方向性も見失わないですし、相手にも伝わりやすい。
「鉄ミュ」も「(とある作品で一緒だった)このメンバーで何かやりたい」とずっと口に出していたからご縁を頂いた経緯があります。言葉には力がありますから。運命を導いてくれたり、ご縁をより強く引き寄せてくれるように感じます。
「鉄ミュ」の思い出と信頼できる仲間たち
――「鉄ミュ」初演はKIMERUさん演じる西武池袋線が会場を巻き込みながら「会長万歳!」で幕開けでした。登場の直前はどんなことを考えていましたか。
“新しい扉が開くぞ!”というワクワクにも似た気持ちでいました。扉の向こうにいるのは、この作品を好きで楽しみにしてくださる皆さまなんだ…そう思えば怖いことは何もありませんでした。
舞台の上には信頼できる仲間たち。場内にはわざわざ足を運んでくださったお客さま。緊張することはない、さぁ安心して飛び込もう! と。
――あのコールアンドレスポンスで場内がいっきに一つになったのを感じました。
まるで西武の集会でしたよね(笑)。初演のオープニングだという大きなものを背負ったプレッシャーや悪い意味での緊張感はなかったです。
ただやはり、最初に強く印象付けたいという思いはありました。「うわぁ、何か来た!」って圧倒させるくらいがちょうどいいかなとか(笑)。
――今回の公演に西武池袋線が出演しないこともありますが、この状況下ではコーレスができなくて寂しいですね。
もし登場していたとしても、“無言万歳”も面白くていいですよね(笑)。音響さんにお願いして僕のコールに合わせて群衆の万歳音声を流してもらったり。そういう面白いことも今だからできるかもしれません。
――これまでも九州新幹線に関してのネタ振りがありましたが、今作で満を持しての登場になります。
さまざまな事情で難しいなと思っていたのですが、やっと出ることができましたね。
初演、第2弾、第3弾、西武のスピンオフ、コンサートの「Rails Live」、公式フォトブック。これで1章が終わったという意識でいます。
「九州遠征異常あり」は、僕たちの中では鉄ミュの第2章という位置付けです。キャスト変更もあり、新しいキャラクターもたくさん出てくるので、さぁ、いいスタートを切ろう! と思っていたところで延期になってしまい…。
――2020年夏に予定されていた公演の延期ですね。
公演が延期になったと聞いたときは、ご時世で仕方ないとはいえ本当に残念に思いました。僕は熊本県出身なので、同じ九州である長崎公演があるのを心待ちにしていたんです。大好きなこの座組のみんなと一緒にあちこち回れるのも楽しみでした。
この状況ではありますけれど、今回やっと延期公演ができることになって「舞台をやろう!」と動けることに改めて嬉しさを感じています。
「今、エンタメって必要なの?」という人もいるかもしれませんが、むしろこんな時だからこそ、キラキラしたエンタメが人の心に必要なんじゃないかなって思うんです。
新型コロナウイルスは、人と人とを物理的に離してしまうものですよね。だからこそ、僕たち座組を通して、絆の大事さを改めて感じていただけるようなエンタメを届けたいです。
ある作品の出演者でほぼ構成されてる座組ですから、今のコロナ禍であっても仲を深め合う工程を踏まなくていい。同じシーズンで共演していなくても大体どこかで共演していますし、そうでなくても僕が間に入って「こことここ、はじめましてだね!」と繋げたりしています(笑)。
――お見合いの仲人さんのようですね(笑)。
まさにそうですね。みんなの連絡先も押さえています(笑)。
ただ「鉄ミュ」は多くの2.5次元舞台と違って、原作キャラクターを想定してキャスティングされているだけではありません。だからこそ、より原作とキャラクターに正面から向き合い、深くキャラ作りをする必要があるんです。
このメンバーでお芝居をやれる。それは僕たちにとってとても楽しいことですし、キャストのファンの皆さんにも喜んでいただける。でもそれだけでは、原作「青春鉄道」のファンの皆さんに対して失礼になってしまいますし、それは僕自身も嫌でした。
僕たちは過去を引きずりたくない。新しいものに挑戦して、愛のある素晴らしい舞台にしたい。昔からの仲間たちでわちゃわちゃとしているだけの舞台にはしたくない。そう強く思って、プロデューサーさんや脚本・演出の川尻恵太さんとも話し合いを重ねました。
原作をリスペクトしながらも、人間が演じる意味のある、熱量を直に感じさせる舞台にする。そうでなければお客さまの期待には応えられないし、飽きさせてしまう。強い愛を持って作品に取り組もうと思いました。
こうして第4弾まで公演が続き、スピンオフやコンサートまでさせていただけたのは、僕たちのその姿勢を原作ファンの皆さんが評価してくださったからだと思っています。
約6年「鉄ミュ」と共に…作品の魅力は?
――2015年の初演から続く「鉄ミュ」ですが、KIMERUさんにとっても長いお付き合いになっています。
“卒業制度”のない作品ですからね(笑)。もう初演から6年になりますし、座組はファミリー感が強いです。その公演に出演しなくても、また帰ってきてもいいという懐の深さがあります。
そういう思いで繋がっている座組ですから「青春鉄道」への愛も強い。原作ファンの方もキャストのファンの方も楽しんでいただける舞台になっていると思っています。
――KIMERUさんは第3弾「延伸するは我にあり」で、西武池袋線、常磐線、銀座線の3役を演じられました。
西武池袋線はパワー重視、常磐線は天真爛漫、銀座線は優雅。それぞれ誇張するくらいの気持ちで演じ分けていました。特に西武池袋線は、はじめは一人でしたからね。軍団だけれども「西武」を一人で背負って出てきているわけですから、それはもう強いパワーで(笑)。
――3役の演じ分けは大変ではないかと感じるのですが、どのように役作りされていたのでしょうか。
そのキャラクターとしてポーズを取りながら着替えをしたり、立ち方にしても動き方にしても、常にキャラクターを意識することで発声も変わってきます。
歌に関しては、より気持ちを乗せるために“歌”というよりセリフの延長として意識しています。なので、自然とそのキャラクターの歌声になっていくんです。
――初演から出演されていますが、「鉄ミュ」の魅力をどのようにお考えですか。
身近さとアットホーム感です。鉄道って多分、誰でも乗ったことのある身近な乗り物ですよね。それを僕たちアットホームな座組で演じている。その温かさが大きな魅力なんじゃないかなと思っています。
歌は優しくて覚えやすい歌詞。ダンスも難しいものはないし。観ている方に「私にも歌えそう、踊れそう」と感じてもらえそうな、いい意味での緩さも素敵ですよね。
堅苦しくなく、息苦しくなく。日常の延長線上で何も考えずに観ることができて笑えて楽しい。そんなところがすごくいいなぁと感じています。
それから、ギャグ要素が大きい一方で、震災や戦争など鉄道の歴史に絡めたシリアスな要素もあります。人間の歴史と鉄道の歴史が重なって融合している、そこも作品として大きな魅力ですね。
KIMERUの哲学、ファンへのメッセージ
――改めて、これまでの歩みを振り返って大事にしてきたことをお聞かせください。
“KIMERU”としてはもうすぐ20歳になるのですが、やっと大人になれるのかな?という気持ちでいます。
今回の「鉄ミュ」もそうですが、一つ一つのお仕事を大事にしながらしっかりと歩んでいきたいと、19歳のあの頃のことを思い出して初心にかえっているところです。
目標を遠い先に設定するよりは、一つずつ噛みしめながら。20年になるので派手にいこうかなとも思ったんですけれど、逆に堅実にね。改めて土台作りをしていこうと思っています。
40歳だから“これはできません”ということはなしに、お話を頂けるのであれば何でも挑戦していきたいですし、そのチャンスは逃したくない。お芝居だからこそ、ランボさん(『家庭教師ヒットマンREBORN!』the STAGE)のような5歳児の役もできますからね。
2020年からこういう状況になってしまい、当たり前のようにやっていたライブやステージがこんなにも大事なものだったんだと再認識しました。
でもマイナスなことばかりではなくて、今だからこそできることにもたくさん気付けました。例えばオンラインでのイベントもそうです。こういう時だからこそ楽しめることを見つけながら進んでいきたいです。
――今だからこそできることですね! でも、ライブで歌うKIMERUさんに会いたいと高ぶる気持ちを抑えているファンも多いと思います。
そうなんです。ファンの皆さんから「枯れそう」という声を頂いています(笑)。なのでもう、3月にライブをやろう!と決めました。
こんな時ですので、来られる方は会場で、難しい方は配信で。それぞれ楽しんでもらえたらと思っています。
やっぱり僕は人の顔を見てお芝居をしたいし、歌を歌いたいんです。究極、1人でもいいんです。届ける相手がほしい。だから一緒に楽しんでもらえたら嬉しいですね。
――たくさんの貴重なお話をありがとうございました。最後に、ミュージカル『青春-AOHARU-鉄道』4~九州戦線異常あり~の見どころとファンへのメッセージをお願いします。
新しい章の始まりです。新しく頼もしいキャストを4人迎えて、新しい路線も登場します。
気分が沈みがちなこんな時だからこそ、人の熱を感じるステージでキラキラしたものをお届けします。ぜひ僕たちと一緒に心から楽しんでください!
撮影:ケイヒカル
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