インタビュー

「黒羽麻璃央の名刺となる役にしたい」20周年を迎えるミュージカル「エリザベート」ルキーニ役 黒羽麻璃央

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2020年4月9日、帝国劇場を皮切りに、ミュージカル「エリザベート」が四大都市で開幕する。記念すべき20周年の本作、ストーリーテラーのルイジ・ルキーニのトリプルキャストのうちの一人として選ばれたのが、26歳と歴代ルキーニ役の中で最年少の黒羽麻璃央だ。

若きルキーニの抜擢は驚きを持って迎えられ、SNSを中心に大きな話題となった。

楽しみにしているシーン、グランドミュージカルに対して思いを強めたきっかけなど、熱い思いでたっぷりと語ってくれた様子をお届けする。

「この舞台の一員になれることを誇りに思う」舞台「エリザベート」への憧れ、解釈、観劇体験

――記念すべき20周年の「エリザベート」。ルイジ・ルキーニ役に決まった時のお気持ちを教えてください。

まずは素直に、嬉しかったです。4月から、この20年続く作品の一員になれることを誇りに思います。

僕自身、2019年度版を劇場で何度か拝見してすごく「エリザベート」のファンになり、家にいる時はひたすらDVDを観ていました。

――これだけ長い年数「エリザベート」という作品が愛されるのには、さまざまな理由があると感じます。黒羽さんなりに思われる、この舞台の魅力を教えてください。

人の一生ですね。タイトルどおりエリザベートという人の波乱万丈な人生。舞台を一本観終わったというのではなく、一人の人生を観終わった感覚になります。

エリザベートとトートは、僕は「愛と死」と解釈しています。エリザベートが愛で、トートが死。極端な双方がお互いにどんどん近づいていって、一つに混ざっていく。そこが魅力的です。

一回だけではなく何度も見て深く考えさせられることもあり、何度も見て「なるほど」と思うこともあり、そこが人気になる理由のひとつではないかと思っています。

――素敵な解釈ですね。観劇されていて印象的なことや考えたこと、「すごい!」と感じられたのはどんなことですか?

死の瞬間、果たしてエリザベートは幸せだったのか? と考えています。自分で死んだのではないし、実際のところはわからないですよね。

それからトートについて。トートは本当に美しいです。誰にでも訪れる「トート」の存在……。非現実っぽいけれど、現実にも近いですよね。死の直前、自分にもトートの存在を感じる瞬間があるかもしれない、と想像を膨らませています。

トートは話が進むにつれて、人に近づいていっているように思えます。劇場ではオペラグラスを使わないと細かい表情が見えないので、DVDを観ていて分かったのですが、ラスト近くのトートの表情がすごいです。

僕が持っているDVDは城田優さんがトートを演じられているものなのですが、エリザベートが死んだとき、お母さんを見る子供のような表情をしていたのが印象的です。トートを抱きしめたくなりました。ただただファンです。

舞台全体の面では、アンサンブル・ダンサーの方々も含めて皆さん素晴らしい実力をお持ちで、お芝居やダンス、歌……圧倒的なパフォーマンス能力が素晴らしいです。

あと、セットも! 帝国劇場に初めて足を踏み入れて客席に向かっている時、芸術品のようなセットが見えて「うわ、すごいな!」と感じました。少しよどんだ雰囲気もあり、死を連想させる世界が美しく見えます。命を吸い取られるような、そんな気がしました。

キーマンのひとりであるルキーニ役への思い。演じるのを楽しみにしているシーンとは?

――ストーリーもキャストの皆さんもセットも素晴らしい舞台ですよね。その中で今回演じられるルイジ・ルキーニについてお聞きします。まずビジュアル。とても似合っていますね!

似合ってると思いました! これならいける、と(笑)。つけ髭なのですが、こういうビジュアルになったことは無いので新鮮でした。犯行時のルキーニの年齢に、今回は僕が一番近いんですよ。

――これまでルキーニを演じられた方は皆さんお兄さんなので、もう少し年齢が上の印象がありますよね。役のイメージについてはいかがですか?

ルキーニには、さまざまな役割があります。空間を支配しなければいけないし、一人だけ時空が曲がっていて……一人ぼっちで別の空間にいます。

お客様の目線に立って、色々なものを運んだり、逆に、引きずり込んだりする役でもあります。力が無ければできない役だと思っています。

その役に選んでいただいたからには、しっかり力をつけたいです。今はまだ稽古前なので、体重を増やしてボイトレをしています。ノートを作ってルキーニのことを調べて、役作りをしている段階です。

――稽古はこれからなんですね。稽古で楽しみにしていることや、演じられるうえで楽しみにしているシーンがあれば教えてください。

ルキーニを演じている時の自分が、どんな気持ちになるのかが楽しみです。どう感じて、どういう感情で眠ったりするのか。ルキーニのポジションに立って舞台を回し始めた時に、キツいと思うのか、楽しいと思うのか。でも、楽しいと思える自分でありたいと思っています。

楽しみにしているのはやっぱり、最後のシーンです。エリザベートを殺害するシーンと、その前後。上の方からトートにポン、とナイフを落とされて……。刺す瞬間、それから舞台上からいなくなるまで。

――そのシーンを「こんな風に演じたい」という思いはありますか?

(にやりとしながら)「……どうやってやろうかな?」と思っています。

例えばエリザベートを刺しに行く前、もしフランツに止められたら? 「エリザベートしか見えていない!」とフランツを完全に無視して彼女に向かって行くのか、「フランツを殺しても構わない」という気持ちでいるのか、それとも挑発するのか? どう演じようかな、といろいろと策が出てきます。

ルキーニが逮捕され、連行されていく実際の写真があるのですが、すごく堂々と歩いているんです。でも、それを再現しなければいけないわけじゃない。完全におかしくなってしまっているルキーニでも成立するでしょう。

僕は人を殺したことがないので、あくまでも想像なのですが――人の命を奪った瞬間というのは、どういうものなのだろう、と思っています。どういう風に過ごしていったら良いんだろう? と。それによってルキーニが全く変わってきます。

本当に、恨みだけでいくのか……? いろんなことができる楽しみがあります。

のびのびと演じさせてくれた小池修一郎先生。「ロミジュリ」の思い出を語る

――お芝居・稽古の話から、演出・小池修一郎さんについてお聞きします。2019年2月から4月に出演された「ロミオ&ジュリエット」で小池さんとは初めてだったと思うのですが、どのように感じられましたか?

とても自由にさせていただきました。「それは違う」というようなダメ出しは頂かなかったです。「のびのびやらせてあげよう」ということだったのかもしれません。間違った方に行かないように、だけでした。とても助かりました。

みんなが「先生」という方だから「……どんな方なんだろう?」って緊張して入ったのですが、役者が演じやすい環境を作ってくださいました。それすらも「演出」だったのかなと感じています。

演出面では、繊細な部分までとても細かくこだわりを持っていらっしゃいます。例えば手の動き。絵作りですね。「どうしてこんなに細かいのだろう?」と思ったこともあったのですが、客席から観た時に理由がよく分かりました。

ダブルキャストなので、自分が舞台に立っていない時は客席から観られたんです。とても説得力がありました。綺麗なものはより綺麗に、ドロドロした部分はよりドロドロと見えて、「ああ、だからこういう風にしなければいけないんだ」と。

人間の感情がよく見えるように、頭の中で計算しつくされているんですね。やっぱり「小池先生」だ、と思いました。

ルキーニに選んでいただいたからには期待に応えたいです。帝国劇場のデビュー作にルイジ・ルキーニという大きなポジションを与えていただいて、それができると見込んでくださっているのですから、裏切りたくないです。

「黒羽で良かったな」と、思っていただける存在になりたいです。

帝国劇場のグランドミュージカルを意識し始めたきっかけとは? 仲間、後輩……多く出演してきた2.5次元舞台

――帝国劇場デビュー、わくわくしますね。帝国劇場やグランドミュージカルに対しての思いは以前からお持ちだったのでしょうか?

憧れの劇場であり、ミュージカルでいつか立ちたいなと思っていました。最高峰の場所……野球で言うと東京ドームですね。野球をやっている少年が東京ドームに憧れるような。俳優として、「いつかこの場所でお芝居をしてみたいな」という大事な劇場です。

意識し始めたのは、三浦宏規(ミュージカル『刀剣乱舞』で共演)くんがきっかけでした。可愛い可愛い、愛すべき後輩の彼が、19歳の若さで「レ・ミゼラブル」のマリウス役で帝国劇場に立つ、となった時――。なぜか分からないのですが、僕も負けていられない、と強く思いました。

僕の帝国劇場デビューは2020年4月11日。僕が宏規に思ったように、僕に対してもそう思ってくれる後輩や先輩がいてくれたらいいなと思っています。

2019年版に続いて今回もトートを演じられる古川雄大さんなどもそうですが、ミュージカル『テニスの王子様』出身で、2.5次元と呼ばれる舞台に多く出てきた自分としては、グランドミュージカルに興味を持ってもらえるきっかけや、最初の存在でありたいと思っています。

この前、木村達成(2019年版「エリザベート」ルドルフ役/ミュージカル『テニスの王子様』2ndシーズンなどで共演)に会ったのですが、「自分がなぜここにいるのか、自分がこの空間にいていいのか、分からなくなる瞬間があるよ」と言っていました。

そうですよね、だってすごい皆さんですもの。――でも、大丈夫です。

――素敵なルキーニになると信じています。2020年はオリンピックイヤーでもありますね。興味のある競技はありますか? 福岡公演と被ってしまっているので、ゆっくり見られないとは思うのですが……!

そうですね、見る余裕があるかどうかは分かりません!(笑) 何かの競技に詳しい、ということは無いのですが、同じ日本人の方がメダルを取ったりすれば嬉しく思います。興味で言えば、僕は野球をやっていたので、やっぱり野球に一番興味があります。

――バスケやテニスはいかがでしょう?(笑)

すごく見ています!(笑)。僕たちがやってきたのは舞台表現ではあるけれど、うまいなぁ、すごいなぁ、と。それから「さすがに2人にはならないか」とか「手塚ゾーン無いのかな?」とか(笑)。

――ラケットさばきが気になったりもしますよね(笑)。2.5次元舞台の話になるのですが、2.5次元舞台をよく見られている方の中には、グランドミュージカルに対して少し気後れを感じる方もいると思います。

色んな作品を知って欲しいな、と僕は思います。演劇が好きな人間として。

2.5次元舞台とグランドミュージカルの境界線を感じてはいません。確かに、どっしりとしたものを背負っているし、話の内容もすごく重いです。でも、男女や年齢は関係なく、素晴らしいものは素晴らしいです。

例えば逆に、グランドミュージカルを普段観られている方が、キラキラした2.5次元の舞台を観ていただけたら、年齢の若い子たちが一生懸命演じている姿にすごく感動すると思います。また、作品としての質も年々上がっていると感じています。

良いものは良い、そうではないものに人は集まらない。すごくはっきりとした世界です。「気軽に」というのは難しいかもしれないですが、「いいものを観た」と思えるはずなので、ぜひ観てほしいです。

橋渡しのような存在やきっかけに僕がなれたらいいな、と思っています。

運命を感じる2020年。ルキーニ役を「俳優・黒羽麻璃央の名刺になるように」

――黒羽さんのルキーニをきっかけに、ですね。2020年、大きな節目の年になりそうですが、一年の目標や、成し遂げたいことはありますか?

実は「2020年の目標」というものはまだ無いんです。目の前のものが大きすぎて! 「エリザベート」一色になりそうですね。すべて捧げます。なかなかそこまで自分を捧げる役というのも少ないと思うので、本当に楽しみですね。

「ロミオ&ジュリエット」の時、心の底から「うまくなりたい」と思いました。このままじゃダメだ、と。表現者として高い所に行きたいと思っています。

お芝居や仕事以外では、スカイダイビングをしてみたいです。飛びたい!(笑) それを経験する前と後では、人生観や価値観が変わるのだろうなと思います。

――忘れられない一年になりそうですね。

「エリザベート」20周年、2020年、オリンピック、それから僕自身、10周年を迎えました。色々なことが重なって、運命的なものを感じます。

今回このようなチャンスを頂けて、――稽古であがいて、苦しい経験もするだろうけれども。

トリプルキャストなので、稽古中に先輩たちのお芝居も見られます。ルキーニ以外の役者の皆さんからも、学び、盗んで、噛み砕いていきたいです。

配役が発表された時、とても喜んでくださっている方、それから厳しいご意見も目にしました。僕自身まだ若く、グランドミュージカルの経験が無いのは事実ですから。しかしそういったことも全部ひっくるめて、プラスのエネルギーになっています。

今回のルキーニが、俳優・黒羽麻璃央の名刺になるような役にしたいと思っています。名刺にできるかどうかは自分次第なので、「黒羽麻璃央で良かった」と言っていただけるようなルキーニをお届けして、結果を残したいです。頑張ります。

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WRITER

広瀬有希
							広瀬有希
						

金融・印刷業界を経てフリーライターへ。エンタメメディアにて現場取材・執筆の他、日本語・日本文化教育ソフト監修、ゲームシナリオ、ノベライズなどで活動中。感動が伝わる文章を目指して精進の日々を送っています。

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