インタビュー

【台詞の中の軌跡】杉江大志「こんなにお芝居にハマると思っていなかった」 10年を振り返って今思うこととは

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2013年のデビュー以来、多くの舞台や映像作品にて活躍を続けている杉江大志。溌剌(はつらつ)・ひょうひょうとした明るさの中に重い過去や深い感情をにじませるなど、人の心の明暗を鮮やかに描き出す彼の芝居は、10年かけて進化し続けてきた。

2.5ジゲン!!では、このたび杉江にデビュー10周年記念インタビューを実施。自身がどのように成長してきたのかを振り返りながら、今とこれからについて語ってもらった。

気づき、とがり、を超えての許容

――デビュー10周年おめでとうございます。大きく振り返って今のお気持ちを教えてください。

不思議な感覚です。あっという間でしたが「これだけやってきてもまだ10年か」とも感じます。役者を始めたころよりは、やれることや分かることが増えてきました。しかし今でも、すごいお芝居を見るたびに「まだ知らない、分からないことがたくさんある!」と驚きます。

お芝居を少し分かったつもりになったときもあったけれども、そんなことはなく、道半ばにもいません。まだまだ新人のような気持ちでいます。

――では、デビューから3年目くらいまでを振り返っていきます。

ミュージカル『テニスの王子様』(2ndシーズン/一氏ユウジ役)、『Messiah メサイア』(加々美いつき役)、ミュージカル「ヘタリア」(中国役)などに出演されていたこの頃、どのようなことを感じていましたか?
※2013~2015年、Messiah メサイアは映画『深紅ノ章』舞台『鋼ノ章』、ミュージカル「ヘタリア」は~Singin’ in the World~

デビューして間もないころは、根拠もないのに「俺はできる」と自信に満ち溢れていました(笑)。演出家の方から出されたオーダーに、周りよりも少しだけ速く対応できていたので、自分はすごいと思ってしまっていたんですよね。言われたことや望まれたことを素早くできる、それがすべてだと思っていました。

でも、『テニミュ』の長い公演期間の中で考え方が変わっていきました。これと決めた1つの芝居の繰り返しに、ふと疑問を感じて周りを見てみたところ、「あれ? みんなはずっと同じことをしていないな」と。“できる”と思っていた自分よりも、周りはもっといろいろなことを考えて、挑戦したり探究したりしていたんです。

それに気づいて、仲間たちとお芝居についてのディスカッションをもっと深くかわすようになってから、どんどんお芝居が楽しくなっていきました。

相手はこう思っているのか、じゃあ自分はこうしてみよう…今思えばごく健全で建設的なやりとりなのですが、その時にやっとそれが分かって。ひたむきに作品と向き合い芝居を探求するようになって、周りから吸収することをそこで学びました。

それから、今思い返してみれば「その時の自分にちょうどいい役」を与えてもらっていたと感じます。難しい役であっても若さゆえのパワーと勢いで演じ切れました。逆に、最近演じた舞台「HELI-X」シリーズのイモータルのような役を当時いただいても、自分なりに料理できなかったと思います。

同世代の仲間たちがいた『テニミュ』、さまざまな経歴を持つ先輩たちに囲まれていた『メサイア』、主に2.5次元舞台で活躍している先輩たちとの「ヘタミュ」…ほかのどの現場でも多くのことを経験させてもらえました。

やればやるだけ課題も出てくるけれど、一生懸命向き合えばクリアできる。探求する楽しさを知って、自分がどんどん成長するのをあの3年で実感できたからこそ、お芝居が大好きになったのかもしれません。

――続く3~4年は、引き続き『メサイア』や「ヘタミュ」のシリーズとともに、舞台『刀剣乱舞』(虚伝 燃ゆる本能寺/鯰尾藤四郎役)、ダンガンロンパ THE STAGE(石丸清多夏役)、ミュージカル「スタミュ」(主演:星谷悠太役)などにも出演していた大変忙しい時期でしたね。この頃はいかがでしたか?

とがっていましたね!(笑) というのも、それまでの怒涛(どとう)の3年で得た経験が、よくない方向に作用してしまって…。自分が“良い”と思ったもの以外は見ない、受け入れない。こんなに必死に芝居に向き合っているのだから、もっと建設的に舞台を作っていきたい。そんな頑固な考えになっていて、演出家の方に意見をぶつけることも多かったです。

その一方「この人は」と見込んだ先輩には、積極的に教えを乞いに行っていました。ダンガンロンパでは、相方役のような(村田)充さんや松風雅也さんと仲良くさせていただいて。飲みにいってはお芝居や人生についてたくさん話した思い出があります。

多くの作品に出演させていただき、大変忙しく、でもすべての役に必死に取り組みました。少しでも時間があれば台本を読み込んで役と向き合う。いろいろなことが少しずつ分かってきたからこそ頑固になり、そして周りにも同じ意識を求めてしまっていたのだと思います。

でも、このころにたくさんのぶつかり合いを経験したからこそ、人との向き合い方を学べて、人間として成長できました。大人の方々があえてぶつかってくれたからだと感謝しています。

――近年はいかがでしょうか? この3年ほどを振り返ってお聞かせください。

楽になったと感じています。これまでに、人との意見のすり合わせ方や自分の考えの伝え方などを学んできたからこそ、さまざまなものを許容できるようになりました。

よく「“正しい芝居”はないけれども、“だめな芝居”はある」と言われますが、“だめな芝居”すら無いのではないか、と思うようになって。100人いれば100通りのお芝居と100通りのすてきな表現があります。技術があればいいわけではなく、未熟ささえも武器にして魅力的な作品を作り上げるケースも目にしてきました。だからこそ、その人なりのその時々のお芝居があるだけで、“だめな芝居”なんていうものはないんじゃないかな、と。

自分が良いと思ったもの以外は受け入れないという考え方から、多くを受け入れて「さまざまな良さがある」と尊重できるようになって、舞台に立つのがそれまで以上に楽しくて仕方なくなりました。

以前は、劇的なお芝居をしてお互いの心を動かすのが楽しかったし、それをやりがいにしていました。でも今は、ただセリフを交わして言葉のやりとりをしているだけで楽しいんです。相手の知らない部分が見えるのが楽しい。もっと知らない相手を引き出したいし、知らない自分を引き出してほしい。そう考えるようになって、自分のお芝居も変わっていきました。

同時に、人との付き合い方も変わりました。それまでは「役者として自分の求めているものを持っているか否(いな)か」を基準にしていたのですが、いろいろな“おもしろい”人がいるんだな、と思うようになって。周りからは「丸くなったね」とよく言われますが、自分でもそう感じています(笑)。

「目標は具体的に」年を重ねても口に出していく勇気を持って

――デビュー前に想像していたご自分と、現在のご自分に大きな違いはありますか?

それが、まったく違うんです。 実は10代の頃は「戦隊ヒーローになって人気が出て、連続ドラマの主役オファーが舞い込んできて…」なんて夢を見ていました(笑)。多くの人からちやほやされたり、街を歩くにも顔を隠すのが必要になったり…そういうのが楽しいのだろうと想像していたのですが、今やそんなのはどうでもよくて。

こんなにもお芝居にハマるとは思わなかったです。今は役者同士で芝居を交わすのが本当に楽しい…。デビュー前はこんな気持ちになるなんて想像もしていませんでした。

でも、デビューしてお芝居を好きになってからは「こういう役者の道を」と自分がイメージしたものに近い道を歩んでいると感じています。

――そんな順調とも言える今、大きな壁と感じるものごとがあれば教えてください。

歌です!(笑)

――ミュージカルのお仕事も増えていますね。それだけに強化したい点だと感じているのでしょうか。

技術がついてもっと自由に歌えるようになれば表現の幅が広がりますからね。歌うことも近頃では楽しくなってきているんですけれども、「歌にお芝居を乗せる」となるとふだんの倍の力が必要なので、稽古では苦労しています。でも、お芝居以外でこれから大きく伸ばせるのは歌だと感じているので、努力あるのみです。

お芝居の面では、「課題を見つけること」が大きな課題です。自分で伸びしろを見つけていかなければ成長が止まってしまいます。お芝居を知れば知るほど「何が分かっていないのか」「何が見えないのか」を見つけるのが難しくなってきていると感じていて。

立ち止まりたくないんです、常に成長し続けていきたい。だからこそ、課題を見つけていかなければと思っています。

それから、「壁」とは違うのですが「これも課題であり、目指すべきことだ」としていることがあります。例えば「こういう役、こういう芝居をやってみたい」と思ったとしたら、3~4年経ってからそういう役をいただくことが多いんです。ただ、その時点で挑戦したい芝居と求められているものにズレを感じると、将来的には演じられるかも…と思ってもやはり、もどかしくなります。

いくら自分で希望したとしても、結局はオファーでもオーディションでも「選ばれる」身ですから、役とイメージが合致しないとその役はいただけません。だからこそ、どんな役でも「杉江ならやれる」と見込んで役を与えていただけるように、さまざまなお芝居を見せていきたいと思っています。それが自分の希望しているタイミングとぴったり合えば、そんなすてきなことはありませんね。

――では、“今後”の話をお聞きしていますね。まずは直近の具体的な目標を教えてください。

役者生活11年目になる2024年は、舞台と映像を含めて15本の作品に出るのを目標にします!

――15本となると、毎月1作以上何かに関わることになりますね。

まだまだ増やせますよ!(笑) やればやっただけ成長できますしね。

それから、来年とは限定しないのですが具体的に目標としているのが、NHKの大河ドラマと朝の連続テレビ小説出演です。目標は具体的に口にしていかないと!

――最後に、将来的にどうなっていきたいかお聞かせください。

「あの人の芝居はいいよね」と言われる役者に。それから「いい芝居をする役者は?」という問いがあったとしたら名前があがる役者になりたいです。立ち止まらず常に成長し続けて、何十年後かにそうなれたら幸せです。これからもずっと、大好きなこの道を探求しながら歩み続けていきます。

***

過去のインタビューでも杉江は「自分から芝居を取ったら何も残らない」「ずっと芝居をし続けていきたい」と、手の中にある宝物をそっと見せてくれるような表情で、穏やかに口にしていた。ひとつの区切りである10年を迎え、11年目からの杉江大志はどんな進化を遂げていくのだろうか。これからも彼のさらなる成長を期待してやまない。

取材・文:広瀬有希/撮影:泉健也

各種概要

■出演

・ミュージカル『狂炎ソナタ』
S役
2024年2月2日(金)~11日(日)
東京・品川プリンスホテル ステラボール

・Action Stage「エリオスライジングヒーローズ」第二弾
シャムス役

2024年3月7日(木)~16日(土)
東京・シアター1010

2024年3月23日(土)、24日(日)
京都・京都劇場

・『青山オペレッタ THE STAGE ~メッザ・ルーナ/光と影~』
相良明之介役
2024年3月28日(木)~31日(日)
東京・シアター1010

■レギュラー配信番組

・釣りビジョン倶楽部(VOD)「杉江大志の釣りたいしっ!~Anglers, be ambitious~ シーズン2」

・キャストサイズチャンネル『大志と理人の 10年タイトル決まらへん ~猪突猛進マジメに体当たり~』
2016年より月1回レギュラー出演

■杉江大志オフィシャル・ファンクラブ「Be Ambitious」
https://sugietaishi.com/

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WRITER

広瀬有希
							広瀬有希
						

金融・印刷業界を経てフリーライターへ。エンタメメディアにて現場取材・執筆の他、日本語・日本文化教育ソフト監修、ゲームシナリオ、ノベライズなどで活動中。感動が伝わる文章を目指して精進の日々を送っています。

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