異能力を授ける52枚の「エクスプレイングカード」をめぐる組織での活躍を描くメディアミックスプロジェクト『HIGH CARD』。2024年1月からはアニメ2期がスタートすると同時に、『HIGH CARD the STAGE – CRACK A HAND』として舞台版が上演される。
今回、演出を務める山本一慶、そしてノーマン・キングスタットを演じる久保田秀敏の仲良し対談が実現。演出家・キャストそれぞれの視点から見るお互いのことや、演出家としての思い、本作の意外な見どころなどを聞いた。
――今回、山本さんは2.5次元作品初演出となります。演出を手掛けることが決まった際の心境を教えてください。
山本一慶:昔からずっと2.5次元作品の演出をしたいなとは思っていて。僕自身2.5次元作品が好きですし、日本が海外に誇れるジャンルだと思っています。
役者としてもいつまでも携わっていきたいし、演出サイドとしても携わって、より多くの人に知っていただけたらなという思いがありました。なので今回は、夢が1つ叶うんだなって。
――今作、西森英行さん(脚本)やただすけさん(音楽)、MAMORUさん(振付)など、縁ある制作陣もそろっています。演出が決まって、みなさんからは何か言葉をもらいましたか。
山本:西森さんから「一慶なら大丈夫だよ」って最初に言っていただいた時は嬉しかったですね。長く一緒にやらせていただいて僕を理解してくれている方に、第一声でそう言っていただいたのはすごく心強かったです。
ただすけさんやMAMORUさんは「そうなんだ」「だよね」みたいな感じでした。役者仲間もわりと「あ、そうなんだ」という感じで、意外と驚かれない。それは、いい意味で「演出もやるよね」っていう感覚で見てもらっていたんだなと思えて…頑張ろうってなりましたね。
――山本さんが演出と聞いて、久保田さんはいかがでしたか。
久保田秀敏:近年、一慶が演出業をやっているというのは知っていたので、そこに出演できるのは単純に嬉しいです。
なにより自分にはない才能を持っている人と一緒にやれる環境が嬉しいので、彼からいっぱい盗みたいなっていうのはありますね。「山本一慶という人間にはそういう視点があるのか、面白いな、自分の中にはなかったな」みたいな部分を見つけて、役者としての肥やしにしていきたいと思っています。
――いよいよ稽古も始まりましたが、演出卓に座っていらっしゃる山本さんの姿は久保田さんの目にはどう映っていますか。
久保田:(いたずらな笑みを浮かべ)楽そうだなって(笑)
山本:おいおいおいおい(笑)誰よりもしゃべって、なんならちょっと喉枯れてるわ。
一同:(笑)
久保田:いや、でもすごく楽しそうにやっているなと。僕はプレイヤー側からの視点しか見えないけど、きっと演出側の視点として考えないといけないことも膨大な量があると思うし、なかには悩んだり妥協したりしなきゃいけない部分もあると思うし。そこらへんは座組として結束して作っていきたいなと思っています。
――一方で、演出卓から見る2.5次元作品の世界。新鮮に映る部分はありますか。
山本:新鮮ということはないかもしれないですね。役者としての自分の中にも“演出サイドから見てしまう自分”というのがいて。だけど、今回は100%演出サイドとしてこの作品を見ていいんだ、という部分で少し楽かもしれない。
――自分が演じる役を抜きにして作品を見られる?
山本:そうですね。自分の中にあった“演出脳”で今は生きていいんだなって思えるのが、楽ですね。やっぱりお芝居しながらそういう目線があると、ちょっとお芝居の邪魔になる部分だったり、どうしても冷静になってしまう自分がいたりしてしまう。そういうところの葛藤がないので、やりやすさは感じていますね。
――いま“演出脳”というお話がありましたが、その視点から見た役者・久保田秀敏の魅力とは?
山本:いやあ、さすがでしたね! 先日の稽古初日も、まだみんな緊張していて、言ったらまだ学校の新学期みたいな状態のカンパニーじゃないですか。ヒデくんは、そこを温める(声のボリュームを上げて)180%の芝居をしていただいて!
久保田:(笑)
山本:僕がこれまで共演して知っているヒデくんは、いわゆるクールな役が多くて。だけど今回、ノーマンを演じるヒデくんを見て、新たな一面を見させてもらいましたね。はっちゃけている役のお芝居をするヒデくんはすごく生き生きとしていました。
久保田:へへへへへ(笑)。
山本:「みんなもっと遊ぼうぜ」って言ってくれているようなお芝居で、みんなの気持ちを上げてくれたので、「さすがだな、頼れるな」って思いましたね。でも、怪我はしないでほしいなと思いました(笑)
――それほどのはっちゃけ具合だったんですね。キャストとして山本さんの演出作を盛り上げたい、といった気持ちの表れだったのでしょうか?
久保田:いえ。ただ、好き勝手やってみただけですね。
一同:(笑)
山本:僕が勝手に深く感じていただけか(笑)
久保田:深い考えがあってのことではなく、自由にやっていました。例えば僕が以前演じた役でいうと(ミュージカル『憂国のモリアーティ』の)アルバートのような役は“静”の人間で、その場合は決まった動きというのをちゃんとベースに持ってなきゃいけない。
だけど自由に動けるキャラは、空間を掌握して自由に作ることで周りを動かしていくということもできるので、今回のノーマンや、実は他にも何役か演じるんですけど、そういった役でこの作品の底上げもしていきたいと思っています。
まあ今回、自由にできるキャストっていうと、僕ぐらいになってくるんですよね(笑)。それもあって、ノーマンの自由さをどんどん広げて深掘りしていきたいなっていうのと、縮こまりがちな初日の1発目からバンといった方が、みんなもやりやすい空気になるだろうなっていうので、自由にやっていました。
――いまちらっとお話にもありましたが、久保田さんは今回、ノーマン以外も兼役で複数演じられるとのこと。その兼役も含め、本読みの段階で大変盛り上がったそうで、見どころの1つになるのでしょうか。
久保田:ノーマンとプラス数役ありますね。
山本:多い(笑)。よくあるじゃないですか、1役プラス兼役でちょろっと出ますとか。だけど今回は全然ちょろっとじゃない。
久保田:そうね(笑)
山本:わりと重要な役をヒデくんにやってもらっています。
――役づくりも人数分必要になりそうですね。
久保田:そうですね。でも考えすぎないようにやろうと思います。原作があると、その原作に沿わないといけないのかなという固定観念がどうしてもあるじゃないですか。そこをいい意味で崩していきたい。
本読みの時に原作の方がいらっしゃったので「ノーマンのポイントはどこですか?」と聞いたら、「もう好きなようにやってください」って(笑)。了承を得たので、自由にやろうかなと思います。
――そこのさじ加減は、今後の山本さんのお仕事に?
山本:そうなりますね。
久保田:1回マックスまで振って、そこからマイナス作業をしていく段階までいかないと。
山本:そうだね、そこまで振ってくれたほうがありがたい。そうやってアプローチしてもらったものを、「ここは抑えてみようか」ってする方が、振り幅もできてきますし。
後から「もっと出そう」って言われると、みんな考えて悩んでしまうと思うので、楽しくリラックスしてやってもらって、そこから信頼関係も築いていきたいですね。
――どんな作品に仕上がるのか俄然楽しみになりました! 改めて原作についてお伺いします。先に展開しているアニメや漫画への印象は?
久保田:いい意味で万人受けする作品だなと思いました。スピード感があって真面目なお話もちゃんとあるし、おバカっぽいお話もある。かたよっていないというか。
人間が生きる上で大切なことをちゃんと提示してくれている。そこがぐっと胸に刺さる作品、という印象です。
山本:ビジュアルがクールで綺麗なんですけど、僕の最初の印象は、キャラクターたちがすごく純粋だなと。かっこいいビジュアルに反して、すごくもろい人間たちがそれを隠すことなく悩み支え合う姿が面白い。全然クールじゃないなと。
久保田:だからより親近感を持てるのかもしれないね。
山本:そうだね。クールなものって「うわーかっこいい」ってなるじゃないですか。だけど僕、今回「かわいい」って思ったんです。もちろんかっこいいところもありますよ。だけど純粋にキャラクターたちがかわいくて愛しい。それがこの『HIGH CARD』の魅力だなって思います。
――その印象を踏まえて、演出するうえで「ここは外せない」と考えている作品の魅力はどこでしょうか。
山本:もちろん舞台として視覚的にも面白くしたいなっていう思いで作っていますけど、それよりも、愛すべきキャラクターたちの心情をしっかりお芝居で届けられたらいいなと思います。
一般的に「考えたらわかるじゃん」となりそうなことも、純粋で未熟な彼らは、本当にわからなくて悩んでいる。そうやって生きている姿が舞台上で“現実”に見えて、親のような気持ちで「かわいい」とか「頑張れ」とか、応援したい気持ちが生まれてくれたらなと。
それはもう演出というより、みんなのお芝居の力が1番なので、僕はそこに寄り添っていくだけです。舞台だからお芝居を大事にするのは当然なのですが、この『HIGH CARD』ではよりいっそう、人間性でみなさんに届けていきたいなと思いました。
――ここまでのお話からもすでに固い信頼関係があることが分かりますが、お互いに「信頼できるな」と強く感じたタイミングというと…。
久保田:やっぱり(ミュージカル『憂国のモリアーティ』で)兄弟役をやったことが1番大きいんじゃないかな。
山本:そうだね。
久保田:兄弟としてたくさん話して、セッションして。自分らの引き出しをどんどん開けていくうちにそれが信頼につながって、特に会話がなくても、お互いが頭の中で見てるビジョンがそう違わないのかなって思えることも増えてきた。
だから今回ノーマンを演じる上では、ただ自由にやるだけじゃなくて、想像の範囲プラスアルファのところまで持っていきたいですね。一慶の中にある“久保田秀敏像”にはない、新たな一面を見せていきたいし、そう思えるのも、今まで積み重ねてきたことの結果でもあるのかなって思います。
山本:ヒデくんが言ったプラスアルファをすでに稽古初日で感じさせてもらって嬉しいですね。
久保田:まだまだ出していませんよ。
山本:本当ですか!? アルファのこの先、まだ長いんですか?
久保田:まだまだありますよ!
山本:そうなんだ…。もしかしたら最後はもう信頼が崩れているかもしれないです(笑)
久保田:そこまで行けるように出し切りたい(笑)。そこまで行けたら“勝ち”ですね。
山本:でも僕はそんなところも愛せる人だなと思うので…。僕の信頼はそうそう崩れないっすよ。
一同:(笑)
――お二人の熱い信頼関係が垣間見えたところで、最後にファンへのメッセージをお願いします。
久保田:(底抜けに明るい声で)ええっと、何役もやりまーす! 本役はノーマンではないかもしれません(笑)。今回のノーマンは普段の僕にないような異質な役で、いい意味でかき乱していけたらなって思っています。少しでもハッピーになれるように、座組一丸となってお届けしたいと思います。ぜひ、劇場にお越しください。
山本:僕自身、初めて2.5次元作品を演出させていただくにあたって、みなさんに楽しんでいただけるよう尽力しますので、ぜひ劇場で観ていただきたいです。
愛らしいキャラクターを筆頭に、愛しい要素がいっぱいつまっている原作を舞台化することによって、キャストが演じる役をさらにさらに愛して、この作品もさらにさらに好きになってもらって。みなさんの一部になれるような作品を目指していますので、ぜひ劇場でお楽しみください。
――2024年、楽しみにしています。インタビューは以上となります。
久保田:あ、あと一言! 僕の初日の姿勢と千秋楽の姿勢を見比べてみてください。
山本:どういうこと?
久保田:ノーマンの右肩がどれくらい下がってきているのか、ここ要チェックでお願いします。
一同:(笑)
山本:ずっと言っているね。衣裳の右肩重いって。5キロくらいあるもんね。
久保田:うん、そこまではない(笑)。そこまではないけど、結構なボリュームがあるので、千秋楽を迎える頃には…。
山本:もしかしたら右肩下がりになってるんだ(笑)
久保田:そう、傾いているかもしれない。なんならまっすぐ歩けていないかも。
山本:じゃあぜひそれも確認しに、何度もお越しください!
***
それぞれお互いのフィールドでの勇姿を誇らしく、かつ穏やかに見守っているような雰囲気が印象的な取材となった。2人のファンにとっては新たな発見がいくつもありそうな『HIGH CARD the STAGE – CRACK A HAND』は2024年1月開幕。軽快かつまっすぐな人間ドラマが、2024年の観劇初めを晴れやかに彩ってくれるだろう。
取材・文:双海しお/撮影:梁瀬玉実/ヘアメイク:車谷結(zhoosh)
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