2018年に上演された「悲伝 結いの目不如帰」で一区切りがついた舞台「刀剣乱舞」シリーズ。2019年6月より新作公演が上演されることになり、ネット上でも話題騒然となった。
刀ステはそれぞれの作品が独立した物語となっている一方で、シリーズ全体としては三日月宗近(鈴木拡樹)と山姥切国広(荒牧慶彦)の2人を主人公としたシリーズものとして楽しめるのではないかと筆者は考えている。そこで今回はこの2振りに焦点を当てて、これまでの刀ステについて振り返りたい。
なお、以下の内容については刀ステシリーズ全作のネタバレを含むため、これから配信やDVDで見たいと思っている方はご注意を。
山姥切国広の近侍就任から物語は始まった
シリーズ1作目「虚伝 燃ゆる本能寺」は山姥切国広が審神者の命令で近侍となるところから物語が始まる。
ある出陣以降、山姥切国広は近侍の任を解かれ、三日月宗近が近侍を勤めていた。虚伝は近侍、そして新しく本丸に顕現した不動行光(椎名鯛造)の世話係を命じられた山姥切国広奮闘の物語でもある。
出陣の地である本能寺に所縁ある刀剣たちはそれぞれに異なった思いを元の主に向けている。特に元の主である織田信長に屈折した感情を抱くへし切長谷部(和田雅成)と織田信長の小姓だった森蘭丸の持ち刀だった不動行光の間には争いが絶えない。
近侍として本丸をまとめる自信がない山姥切国広に助言する三日月宗近だが、彼のやり方はどこか回りくどく、どこまでが本気の手助けなのかも判別し難い。
本丸の刀剣同士による紅白戦で山姥切国広から飛び出した「このクソじじい」という言葉も、そんな三日月宗近に対する素直な気持ちだっただろう。
虚伝の最後には山姥切国広も近侍としての自信を取り戻した顔をしている。審神者が自分たち刀剣男士にかける「強くあれ」という期待をまっすぐに受け止めていた。
一方で、三日月宗近は「おれがいなくなっても安心して本丸を任せられるというものだ」という言葉を残している。この後の作品に続く伏線が一作目から忍ばせてあることに驚いた。
過去から未来へ。物語が動き出す
シリーズ2作目となる「義伝 暁の独眼竜」を経てより強く優しく成長していく山姥切国広。小田原城前でひと夜限りの上演となった「外伝 此の夜らの小田原」では、雨上がりの夜空と重なるような晴れやかな表情も見えた。
シリーズ3作目「ジョ伝 三つら星刀語り」では山姥切国広が近侍を降りる原因となった敗北が語られた。
一幕では過去の出陣を、そして二幕では時間軸が現在の本丸に戻り、かつて敗北した時代へと再び出陣する。そして、山姥切国広は過去を克服して、またひとつ強くなった。
舞台の最後で「俺たちの物語だ!」と高らかに宣言する山姥切国広に、かつての近侍という重荷に押しつぶされそうになっていた面影はない。
一方で山姥切国広に対して助言や手助けをする三日月宗近には不穏な影がつきまとう。
義伝では本丸が「いずれ来るやもしれぬ大きな試練」と向き合うことを予期している。いつか来る日のために強くあって欲しいという願いを山姥切国広に託しながら見守り続けている三日月宗近の物語はもう少し先だ。
そして別れ
「悲伝 結いの目不如帰」ではとうとう三日月宗近に焦点が当てられた。
時間遡行軍と共に行動し、本丸を離れたことから、時の政府から三日月宗近の刀解が命じられる。刀解という刀剣男士にとっての死を目の前にしながらも、本丸から離れて行動する三日月宗近。
彼は何者なのか。何を考えているのか。様々な刀剣男士がその問いを口にする中で、山姥切国広は三日月宗近に迫る。
三日月宗近は敵ではないのかと疑う刀剣男士たちの中で骨喰藤四郎(三津谷亮)と大般若長光(川上将大)だけは三日月宗近を信じ、寄り添おうとする。
その中で、山姥切国広はどちらでもなかったと筆者は思う。最後まで三日月宗近に対して「何を考えているのか」と問い続ける。
問い続けるということは知りたいということだ。疑うでも信じるでもなく、最後まで迷いながら真実を知りたいと進む山姥切国広の姿こそ、三日月宗近が好んでいたあり方ではないかと感じる。
そして、円環の果てで三日月宗近は山姥切国広と何度も繰り返してきた最後の手合わせをする。
最後にいつも三日月宗近が勝ち、山姥切国広が次こそは勝つという約束を残して別れる。この約束が果たされるのは「悲伝」53公演の中でたった一度、千秋楽公演だけだった。
ただ一度、山姥切国広は三日月宗近に勝利し、新しい約束を交わす。
刀を合わせる2振りを演じる鈴木拡樹と荒牧慶彦の気迫ある芝居と現実には存在しないどこかを表わすような静かな音楽と明るい照明に照らされた晴れた舞台。
完璧に整えられたこの別れのシーンは刀ステ屈指のシーンだと思う。
新作への期待
2019年6月から始まる新作公演のあらすじは公開されていない。
悲伝ではっきりと明かされることのなかった三日月宗近の真意や、最後に現れた三日月宗近が何者なのかなど、ここまでの刀ステを見ていると気になることは多い。
一方で、これまでの夜空を背景にすることが多かったキービジュアルとは対照的に青空を背にする山姥切国広とへし切長谷部の姿になっている。
このキービジュアル通りのさわやかな物語になるのか、それとも…とここまでの刀ステファンであれば疑うような気持ちになるだろう。ともかく、新作公演がどんな物語になるのか楽しみだ。
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