「2.5次元との出会いが人生を変えた」。そう感じている人は、決して少なくないだろう。
かく言う私も、そのひとりだ。
私は、物心ついたときには2次元に没頭するのが得意な子どもだった。小説、映画、漫画、アニメ、ゲーム……。フィクションの世界に入り込んで遊ぶのが大好きで、暇さえあれば本を読み、アニメを見ていた。
そんな私が2.5次元の魅力に気づいたきっかけは、ミュージカル『テニスの王子様』だった。
「3次元ではヒーローになれない」と思っていたあの日
2008年。私は、人生の壁にぶち当たっていた。
いわゆるブラックな企業にうっかり入社してしまったため心身ともに消耗していたし、悪いことにプライベートでも追い打ちをかけるような出来事が重なった。
「もう何もかもどうでもいい」という気持ちになることもしばしば……。そんな私を癒してくれたのは、やっぱり2次元の「物語」だった。
物語の中では、キャラクターたちが信念を持ち、自分の意志に基づいて行動を選択している。学生だろうが子どもだろうがサラリーマンだろうが関係なく、2次元に住む彼らはその点で、私にとって全員「ヒーロー」だったのだ。
ただ同時に、彼らに比べて自分がとても情けなく思えた。自分には立派な信念もないし、これと言って誇れる特技もない。目先の空気に流されて自分の意見を引っ込めるのも、日常茶飯事だった。
「でもそれは、現実世界ではよくあることでしょ?」と自分に言い聞かせてもいた。だって私は彼らと違って、3次元の住人なのだ。3次元にはあっと驚く展開でピンチを脱するシーンはないし、努力が報われるシーンも少ない。
「私は3次元の人間だから、彼らみたいにはなれない」なんて投げやりな気持ちで暮らしていたわけだが、それを変えたのがミュージカル『テニスの王子様』との出会いだった。
初テニミュの感想は「パワフルな光のシャワー」
ミュージカル『テニスの王子様』、通称テニミュ。私はこの作品を、友達からの紹介で知った。
最初は「チケットが1枚余っているから」と誘われて、「The Treasure Match 四天宝寺 feat. 氷帝」の青学5代目VS四天宝寺B公演を観劇した。
初めて触れるテニミュの世界は、とにかくパワフル!の一言だった。キャラクターの再現性の高さ、華やかな群舞、ドラマチックな音楽と歌詞、音と光を使った演出……。すべてがひたすら楽しくて、胸が高鳴った。
見終えた後は、まるで光のシャワーを浴びた後のような気持ちになった。私はテニミュファンの友人にねだって、過去公演のDVDを何本も借りた。
2次元の力を信じる「3次元のヒーローたち」
ステージ本編はもちろん、DVDに収録されたバックステージもとても印象的だった。
とくに驚いたのは、一瞬にして変化するキャストたちの姿だ。舞台袖でふざけ合っている姿はどう見ても普通の人間なのに、出番が来てステージに立ったとたん、スッとキャラクターそのものになる。
表情、立ち姿、振る舞い、喋り方、声、そしてアドリブのリアクションまで、彼らはキャラクターそのものだった。
ステージの上は不思議な空間だ。そこは確かに3次元なのに、いるはずのない2次元の王子様たちが(私にとっての「ヒーローたち」が)存在している。
そして、私はようやく気づいた。この舞台を作り上げるために、いったいどれだけの人が力を尽くしてくれているのだろう?……それも、この3次元で。
キャスト、スタッフ、舞台に関わるすべての人が、私と同じ3次元の住人だ。もちろん原作者もそうだ。彼らは2次元の持つ「人を動かす力」を心から信じていて、それを私たちと同じ次元にリサイズしてくれている。
今考えれば、恥ずかしいほど当たり前の事実だ。でも私は、そのときようやくその事実に思い至った。感動すると同時に、「3次元ではヒーローになれない」なんてふてくされていた自分が心底恥ずかしくなった。
諦めていないで、もう少し頑張ってみてもいいんじゃない?……そう思えたから、その後の私の人生は変わったのだ。たぶん。
2次元×3次元のキラキラが重なる地点、それが…
勇気、希望、友情、努力、正義。3次元ではときに「きれいごと」と言われてしまうそんな要素が、2次元にはキラキラと溢れている。
そのキラキラを生身の役者にまとわせる2.5次元は、紛れもない3次元の住人が力を合わせて作り上げている。「きれいごと」をきれいなまま表現しようと奮闘する彼らの姿は、2次元に負けずキラキラしている。
2次元と3次元、ふたつの世界のキラキラが重なり合う地点、それが「2.5次元」なのだと思う。
ひとの人生を変えてしまうほどの魅力を持つ、2.5次元。まだ生まれ落ちて数十年にも満たない、でも物凄いパワーを秘めたこの世界を、私はこれからも敬意とともに追いかけていきたい。
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