桜が咲き、つつじが咲き、緑深まっていく春。今回はそんな春にぴったりな、花の演出が印象的な2.5次元作品を紹介していこう。
ミュージカル『薄桜鬼』シリーズ
春といえば桜、そして桜から連想される作品のひとつが「薄桜鬼」だろう。
「薄桜鬼」は舞台化もミュージカル化もされているが、今回はシリーズとして長く続いているミュージカル版、通称「薄ミュ」シリーズを紹介しようと思う。
『薄桜鬼』は新選組隊士たちが激動の時代を生き抜く姿とともに、彼らの姿に惹かれていく主人公との恋模様を描く乙女ゲームが原作となっている。
「薄ミュ」での恋愛要素は公演でメインとなるキャラクターによって濃度は様々だ。ルートによって糖度が異なるのもまた、乙女ゲーム原作ならではといえるだろう。
このシリーズが2012年の初演以降長く愛されているのは、きっと恋愛だけではなくもうひとつの軸ーー信念を背負った男たちの戦いという軸があるからだ。
恋愛ドラマと人間ドラマの比率はタイトルごとに変わるが、どちらの軸も決してぶれない。それがこの作品の魅力なのだ。
『薄桜鬼』というタイトルに込められた本当の意味。これは原作や舞台に触れて、ぜひその由来を知ってほしいのだが、“桜”にまつわるとある意味が込められている。それだけに、「薄ミュ」でもたくさんの桜の花びらが舞う演出がつけられている。
はらはらと、雪のように舞い落ち、降り積もる桜の花びら。出会いと別れを象徴する桜に彩られた「薄ミュ」は、旅立ちの寂しさを感じる心に優しく寄り添ってくれるだろう。
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MANKAI STAGE『A3!』
大人気アプリ『A3!』を原作とした舞台「MANKAI STAGE『A3!』」、通称「エーステ」。もともと原作が花をモチーフにしているため、この作品もまた花に縁がある2.5次元作品といえる。
つぶれかかった劇団MANKAIカンパニーを舞台に繰り広げられる新人劇団員たちの葛藤と稽古と青春の日々。所属する劇団員たちは演劇を通じて、それぞれ自分に向き合っていくこととなる。
「咲きたい」ーー彼らは舞台の冒頭で口々にこの言葉を口にする。
劇団にいる理由や目指す方向は違っている劇団員たちだが、ステージの上で叶えたい思いはこの一言に尽きるのだろう。
「エーステ」では原作ゲームに登場した上演作品がそのまま劇中劇として登場する。
つまり観客は、「エーステ」を観る客であり、同時に劇中劇を上演するMANKAIカンパニーの観客にもなる。そして、彼らが咲き誇る瞬間を目に焼き付ける、さながら生き証人となるのだ。
ステージ上で、文字通り満開の笑顔をこぼす彼らは本当にまぶしい。演じきった誇りと自信に満ち溢れ、原作の開花エフェクトがついているのかと思うくらい、ぱっと花が咲いたように雰囲気が鮮やかになるのだ。
筆者は「エーステ」を、“ひとつ前に進むこと”をとても丁寧に観せてくれる作品だと感じている。
人の数だけ物語があり、人の数だけ咲かせられるものがある。自分にもなにか、そんな蕾がひとつくらい眠っているかもしれない。咲かせてみたら、どんな色や形をした花が開くのだろう。そう思わせてくれるのだ。
自分の可能性を信じたいとき、この「エーステ」はあなたに大きな力を与えてくれるはずだ。心の花を咲かせたい時、おすすめしたい1本である。
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舞台『花咲ける青少年』
舞台『花咲ける青少年』は、2010年から2012年にかけて上演された樹なつみ原作の少女漫画を原作とした舞台だ。
世界的財閥の娘・花鹿が“夫捜しゲーム”を通じて、真実の愛と己の宿命に立ち向かっていくという、少女漫画といってもかなり壮大なストーリーを描く内容になっている。
ヒロインの花鹿を男装モデルとして有名なAKIRAが凛々しく演じ、さらに立人役を久保田悠来、夫候補の王子・ルマティ役を大河元気(1作目のみ)、その兄・ソマンド役を鈴木拡樹(2作目から登場)、2人目の夫候補・ユージィン役を廣瀬友祐が演じていた。
現在それぞれのジャンルで大活躍しているキャスト陣が揃っているので、この顔ぶれというだけで一見の価値がある作品ではないだろうか。
どうしてこの作品が花にまつわるのかというと、それは本編のラストに答えがある。
この作品は舞台ではあるが、ラストにレビューが用意されている。メインキャラクターたちが次々登場し、ソロ曲やデュエット曲を披露していくのだ。
応援グッズとして配られたのがフラワーシャワー用の花びらだった。観客はラストのカーテンコール曲でいっせいにこの花びらを宙に投げるのである。
当時そのシステムにかなり驚いた記憶があるが、後にも先にも花びらを投げた観劇体験はこの作品のみだ。
映像で見返すことはできても残念ながらこのフラワーシャワーは体験できない。しかし、花と形容されるほど見目麗しい花婿候補たちが上品にヒロインをエスコートする姿は、少女漫画のTHE 王道といった感じで、観ていて頬がゆるんでしまうだろう。
美しく優雅な花を味わいたい人には、ぜひこの作品をおすすめしたい。
花の持つ、儚さ・希望・美しさ。それらを表現している3作品を筆者の独断と偏見で選んでみたがどうだっただろうか。
外を歩いていてふと花が目についたとき、「帰ったらあの作品観てみようかな」と思うこともあるだろう。そんなときの作品選びにぜひ役立ててみてほしい。
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