2.5次元舞台に笑いの新風を巻き起こした演出家のひとり川尻恵太。
今回は彼の演出の魅力や、その手腕が存分に発揮されている2.5次元舞台を紹介しようと思う。
役者の新たな魅力を引き出す演出家・川尻恵太
まもなく深夜1時からJUNKサタデー エレ片のコント太郎です。今週、タイ土産持って行きましたので是非聴いてください。
今週も面白いですよ!#elekata pic.twitter.com/UwzHccIGCU
— 川尻恵太 (@sugarboykiller) 2019年6月1日
SUGARBOYの主宰も務める彼は、2000年に北海道で劇団ギャクギレを旗揚げ。
劇団作品の脚本演出を手がけながら、自身もお笑いとして活動してきた。
上京後は、お笑い関連の演出や構成作家を数多く手がけ、その笑いのセンスを活かした演劇作品も多数生み出している。
2.5次元作品においても、彼の手がける作品はやはり“笑い”にこだわっているという印象が強い。
ギャグというジャンル以外の作品も、シリアスな展開のなかにふっと肩の力を抜けるようなシーンが自然と差し込まれている。
「ここは笑わせたいシーン」という空気が前面に出ていると、ちょっとシラけた空気になることもある。
しかし、川尻作品においては押し付けがましくないのに、抜群に面白い。
という体験ができる。
彼自身がお笑いをやってきたこともあるだろうし、ちょうどいい具合に面白い地点を探すアンテナが特別に敏感なのだろうと筆者は感じている。
また俳優自身が持つ面白みを引き出す手腕にも長けているのだろう。
もともとギャグテイストが強い俳優の場合は、そのまま本人の面白さを作品に反映している。
この際、2.5次元作品ではキャラクター崩壊が起こる危険性を秘めているのだが、不思議なことに彼の作品はそうならないのだ。
これも先述の優れたバランス感覚がなせる技なのだろうか。
キャラクターがやりそうだけど、俳優の個性も乗っかっている、ちょうどいいところで笑わせてくれるのだ。
彼の演出にかかれば、これまでコメディな顔を観たことがなかった俳優の新たな一面も観られるだろう。
川尻恵太演出の2.5次元作品を観てみよう!〜舞台「モブサイコ100」〜
超能力を操る中学生を主人公としたギャグ漫画「モブサイコ100」。
この作品の舞台化を川尻が手がけている。
原作のゆるっと力の抜けたキャラクターデザインと独特のテンポ、それに加えときどき展開される主人公の成長物語としての熱いエピソード。
それらを見事に演劇らしく再構成したのが「モブステ」こと舞台「モブサイコ100」だ。
これまでシリーズ2作品が上演されているが、いずれも舞台にはつきもののアンサンブルキャストがいない。
しかし、原作に数コマだけ登場するモブキャラクターまで登場するのだ。
一体どうしているのか?
それは、モブキャラクターをメインキャストの面々が担当することで成り立っている。
観ていると、「え!? それだけ!?」という一瞬の出番しかないキャラクターまでわざわざメインキャストで演じているのだ。
原作のモブキャラクターがアクが強いというのもあるのだが、それをうまく笑いのエッセンスに変えて劇中に散りばめているので、クスッと笑えるシーンが非常に多い。
この作品については以前こちらのコラムでも紹介したので、気になる読者はあわせて読んでみてほしい。
川尻恵太演出の2.5次元作品を観てみよう!〜ミュージカル「青春鉄道」〜
鉄道路線の擬人化作品「青春鉄道」をミュージカル化したのがこのシリーズ。
原作は基本的にショートストーリー形式となっている。
こういった作品を舞台化するとなると、オリジナルの展開で人間ドラマを描く長編にしたり、ひとつのエピソードを新規要素を加えながら掘り下げたりすることが多い。
しかしこの「鉄ミュ」は潔い。
ショートコント的に次々とエピソードが展開されるのである。
このテンポが「青春鉄道」の持つ空気感と見事にマッチ。
原作のページを読み進めているときに感じる、「クスッ……さあ次のエピソード読むぞ……ふふふっ」といった感覚を舞台でそのまま体感できるのだ。
この作品が原作ファンからもおおいに支持されている理由のひとつだろう。
ショートコント風といったが、とはいえそこは演劇らしくひとつの作品として1本筋が通っている。
各エピソードが意外なところで繋がっていたり、ときには繋がっていなかったり(!?)
まるで首都圏に張り巡らされた路線図のように、全体を俯瞰で思い返すときちんとテーマが浮かび上がってくるのはさすがの手腕である。
楽しい、を体感する作品
彼が手がける作品のバックステージ映像を観たり、ゲネプロで役者とコミュニケーションを取っている姿を見かけたりすると、とにかく「楽しそう」なのである。
自身が手がけた作品の千秋楽ではステージ上から挨拶をすることもあるので、キャスト陣と仲が良さそうな雰囲気を感じたことのある人も多いだろう。
「おもしろいじゃん」「いいね」とフットワーク軽くより面白いものを目指していく姿が印象的だ。
彼に引っ張られるように、キャスト陣もまた面白くなりそうな案を出す。
そうして出来上がった座組の空気感は、確実に作品の面白さに繋がっているように思う。
ストーリーがシリアスでもコメディでも、川尻作品は芝居の楽しさがひときわ伝わってくる。
脚本や演出だけでなく、座組の空気感さえも醸成しまさしく“エンターテインメント”を生み出す、それが川尻恵太という演出家の魅力なのだろう。
他にもおすすめ作品として観客を巻き込むような脚本が話題となった体内活劇「はたらく細胞」や、兼ね役のオンパレードでカオスな世界観を生み出すおん・すてーじ「真夜中の弥次さん喜多さん」シリーズもぜひ観て欲しい。
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