2001年に連載スタート、2010年までに実写ドラマ&映画化、アニメ化、原作完結と一大“のだめ”ブームを巻き起こした二ノ宮知子の音楽ラブコメ漫画『のだめカンタービレ』。
完結から13年の時を経て、シアタークリエにて初のミュージカル化。しかも“のだめ”こと野田恵役はドラマで同役を演じた上野樹里が再び演じると聞いて胸踊らなかった原作ファンはいないのではないだろうか。1音1音に青春をかけ、未来を託す音大生たちの物語は、ステージ上で広がる音ともに鮮やかに色づいていった。
2.5ジゲン!!では、初日を前に実施されたゲネプロの様子を見どころとともにレポートする。
指揮者を目指すエリート音大生・千秋真一(演:三浦宏規)にとっては最悪の、“のだめ”こと野田恵(演:上野樹里)にとってはおとぎ話のような、運命の出会いから物語は動き出す。この出会いによって、2人の音楽への向き合い方や未来は少しずつ変わっていき――。
のだめの汚部屋や、千秋のゴミを見るようなのだめへの視線など、序盤はラブコメの“ラブ”にはあまりにも遠いところから2人は始まる。そのちぐはぐなやり取りは、一見すると不協和音のようなのだが、本物を知る千秋はのだめの天賦(てんぷ)の才へ否が応でも惹かれてしまい、対するのだめは汚部屋に舞い降りた俺様イケメンの容姿と音楽の才能の虜となる。
音楽という、2人にとっては心の真ん中にある部分を互いに刺激しあう関係は、次第に2人しか出せない音色で調和していく。三浦がそっとにじませる千秋の俺様なオーラのなかにある一瞬の柔らかさや繊細さ、上野が生み出す空回りしながらも千秋先輩と一緒にいられる未来のために殻を破るのだめの懸命さ。
コミカルな関係から始まった2人だからこそ、三浦と上野の熱演によってじわじわと染まっていく恋の色に、胸が高鳴らずにはいられない。
上野樹里以上に、この変わり者ののだめをキュートに演じられる人物はいないのではないだろうか。「おなら体操」でおならをしているのだめ、「プリごろ太」に夢中になっているのだめ、「ぎゃぼー」と叫ぶのだめ…。少し浮世離れしたのだめの変わり者な雰囲気が、彼女が演じることで不思議とリアルに感じられる。
その第一声を聞いただけで、ドラマ版を観ていたのがつい先日のことのような錯覚さえ覚えるのは、それだけのだめ役が天性のはまり役ということなのだろう。
三浦は、俺様な態度の裏にトラウマという脆(もろ)さを隠し持つ千秋の繊細さを、その伸びやかな歌声とともに表現。物語が進み、千秋自身が変わっていくことで響きが豊かになっていく歌声の変化にも惹き込まれた。ピアノの先生だという三浦の母仕込みのピアノ演奏シーンでは、そのカリスマ性あふれる姿にぜひ注目を。
本作の魅力は2人のキャラクター性や関係性だけにとどまらない。彼らの周りに集う個性の強い面々も、まるで漫画から飛び出してきたかのようなインパクトを放っていた。
ロック志向なヴァイオリン奏者・峰龍太郎役を演じるのは、先日28歳の誕生日を迎えたばかりの有澤樟太郎。クレバーな役も似合う有澤だが、本作ではとびきり熱い姿を堪能できる。
実力派美人ヴァイオリニスト・三木清良を演じたのは、元宝塚歌劇団花組トップ娘役の仙名彩世。登場するだけでステージ上を華やかにする彼女の存在感は、国際的に活躍する清良にぴったり。自信たっぷりな振る舞いの合間に、ふと見せる弱気な姿からは、清良の等身大な魅力を感じられた。
存在するだけでかわいくてついつい目で追ってしまったのは、アフロが印象的な乙女ティンパニー奏者・奥山真澄役の内藤大希。一挙手一投足が乙女でかわいらしく、ある意味本作のヒロインとも言えるかもしれない。とはいえかわいいだけでなく、クセが強いのが真澄ちゃん。抜群の歌唱力もあわさって、演奏同様に作品のリズムキーパーとして物語に良い波を生み出していた。
ピアノ科講師のハリセンこと江藤耕造役は、多くの舞台作品でピリッと効くスパイスのような存在感を放つなだぎ武が演じる。個性的な味付けのキャラクターで笑いを生み出し、観客とともに舞台空間を作っていく手腕はさすが。それでいて演技派らしく魅せる芝居で、のだめの葛藤と成長を盛り上げてみせた。
そして高名なドイツ人指揮者、フランツ・フォン・シュトレーゼマンを演じるのは、上野とおなじくドラマ・映画で同役を演じた竹中直人だ。シュトレーゼマンの姿が現れる度に客席のそこかしこから笑い声が漏れてくるほど、そのインパクトは絶大。相変わらず、竹中自身の怪演とシュトレーゼマンのつかみどころのなさが見事にマッチしていて、別格の存在感を放っていた。
ゲネプロでは自由な竹中に、三浦が振り回されそうになる一面も。そんな“師弟対決”も見どころになりそうだ。
これ以外にも、劇中アニメ「プリごろ太」のキャラクターを演じる子役たちや、オーボエ奏者の黒木泰則、のだめのトラウマと関連するピアニスト・瀬川悠人なども登場するのでお楽しみに。なかでものだめの演奏の世界観を可視化した、高熱にうなされながら見る夢のような光景を体感できるのは、舞台作品ならではの醍醐味だろう。
オーケストラの演奏シーンも多く、東宝ミュージックのオーケストラの面々が、衣装なども変えながらSオケやR☆S(ライジングスター)オケのメンバーとして作品を組み上げている点にもぜひ注目してみてほしい。
すでに何度もミュージカル化されてきたかと錯覚するほど、ミュージカルと親和性の高い『のだめカンタービレ』。音楽に文字通り心血注いで道を切り拓こうとする若者たちの輝きは、改めてミュージカルひいては音楽の素晴らしさを観客へと伝えてくれる。
音楽、友情、笑いをバランスよく描きながら、最後はしっかりとときめかせてくれる、そんな作品を味わいたい人は、ぜひミュージカル『のだめカンタービレ』に触れてみてほしい。
公演は、10月29日(日)まで東京・シアタークリエにて、11月3日(金)、4日(土)に長野・サントミューゼにて上演される。
取材・文:双海しお
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