観客を魔法と冒険の世界へ誘うミュージカル「マギ」の最新作、ミュージカル「マギ」-バルバッド狂騒曲-が、初演から1年を経て6月9日(金)に幕を開けた。
原作は大高忍によるアラビアン冒険活劇。壮大な冒険ストーリーのなかに、絆と成長、異なる価値観の衝突と共鳴が丁寧に織り交ぜられ、どのキャラクターも生き生きと内面が描かれていく作品を、脚本・作詞を浅井さやか、演出・吉谷晃太朗の布陣で美しくも大胆にミュージカル化。物語の世界に入り込める躍動感ある作品づくりで、2022年上演の初演では多くの観客を虜にした。
2.5ジゲン!!ではゲネプロの様子をレポート。本作の見どころを劇中ショットとともにお届けする。
「組曲」を冠した初演は、それぞれ違う人生を歩んできたアラジン(演:宮島優心(ORβIT))、アリババ・サルージャ(演:猪野広樹)、モルジアナ(演:岡田奈々)が出会いぶつかり合いながら、友情という1つの“曲”が生まれるまでの物語だった。
社会的な騒ぎや狂乱を意味する「狂騒曲」を冠した今作は、アリババの母国・バルバッド王国に起こる一連の騒動を、アリババとその幼馴染・カシム(演:廣瀬大介)を軸に描いていくストーリー。
前作で描かれた第7迷宮「アモン」攻略から少し後。王の悪政で苦しむバルバッド王国では、アリババがカシム率いる義賊「霧の団」の頭領「怪傑アリババ」として活動していた。混乱極める同国には、アリババを探すアラジンとモルジアナ、貿易再開の交渉が目的のシンドリア王国国王シンドバッド(演:廣瀬友祐)もやってきていた。アラジンはアリババとの久々の再会を喜ぶものの、そこにはまるで別人のようなアリババがいて――。
本作ではついに、アリババがバルバッド王国の王子という出自と過去が明かされる。苦しむ人を救いたいという一心で、自分の心を削ってまで人のことを思う、どこまでも優しいアリババの姿が、猪野の熱演によって表現されていく。アリババが優しすぎて心配になってしまうのと同様に、あまりに魂のこもった芝居に思わず猪野の身体が心配になってしまうほど、本作のアリババは苦しみもがいていく。
▲アリババ役の猪野広樹
観ていて苦しくなるという点は、廣瀬が演じるカシムについても言えることだろう。長年アリババに対して抱えてきた劣等感が、ススのように心に降り積もり噴出する。実際に黒煙が見えてきそうな鬼気迫る芝居で、猪野とともに作品の中核をなしていた。
▲カシム役の廣瀬大介
お調子者な振る舞いで場を明るくしてくれていたアリババに代わって、重いストーリーに軽やかな空気を運んできてくれるのは、今回が初登場となるシンドバッド役の廣瀬友祐だ。作中で伝説と称される7つの海とダンジョンを制覇した男・シンドバッドは、余裕と余白を持ち合わせる底の見えない圧倒的強者なオーラをまとっていたのが印象的。とくに歌唱パートでは、その力強い歌声がシンドバッドの強さに説得力を持たせていた。
▲シンドバッド役の廣瀬友祐
一方で、今回もっとも遊びを取り入れているのもこのシンドバッドだろう。葉っぱ1枚という身体を張った芝居から、アラジンや家臣のジャーファル(演:山﨑晶吾)を巻き込んでのアドリブまで、廣瀬自身がとにかくこの作品を楽しんでいることが伝わってきた。
▲忠誠心は八人将でも1番のジャーファル(演:山﨑晶吾)
初登場キャラとしては、シンドバッドのほかに臣下のジャーファルとマスルール(演:吉原雅斗)、煌帝国の皇女・練紅玉(演:田中真由)、アリババの兄で現国王のアブマド・サルージャ(演:町田慎之介)、副王のサブマド・サルージャ(演:村井成仁)が登場。ミュージカル作品に多数出演するキャストも多く、本作の見どころの1つである歌唱パートをおおいに盛り上げた。原作ではシンドリア王国や煌帝国を舞台としたエピソードもあるので、続編が制作され、そこで再び彼らに会えることを期待しよう。
▲モルジアナと同じファナリスのマスルール(演:吉原雅斗)
新しい風が吹き込むことで、初演から続投する面々がよりいっそうキャラクターと馴染んでいる様子も感じられた。
成長という意味で目を見張ったのは、以前行ったインタビューでも「スポンジのような吸収力」と評されていた宮島だ。
舞台初出演となった前作のゲネプロでは緊張も感じられたが、今作では主人公として作品を支えていこうとする気概と安定感を見せた。実際に、アラジンが登場すると、ふっと空気が柔らかくなる。目には見えないが大量の白いルフをまとっているに違いないと確信させてくれるあの雰囲気は、長い時間アラジンと向き合った宮島だから生み出せるものなのだろう。今作ではアラジンにとって1つの転機となる出来事が、大切な友達・ウーゴくん(声の出演:森川智之)との間に起こる。
そこでの演技にはグッと込み上げるてくるものがあるので、ハンカチはぜひ膝上にスタンバイを。
▲宮島演じるアラジン
猪野のアリババを一言で表すなら深化だろうか。アリババのバックボーンが明かされるストーリーと、猪野の緻密でいて熱い芝居が重なり、バルバッド王国に生きる人々の存在を肌で感じることができた。ファンタジーな世界観をリアルに受け取れるのは、猪野の人間臭い芝居があってこそだろう。
メインキャラ紅一点の岡田演じるモルジアナは、鋭さが増していたのが印象的だ。アラジンとアリババという大切な仲間を持ったことで生まれた強さは、周りを圧倒していく。仲間を助ける力が足りないと悔しさをにじませながらも、決して折れない強さは、その歌声からも感じることができた。
▲モルジアナ役の岡田奈々
初演でジュダル不足だったファンはご安心を。今回はジュダル(演:手島章斗)の戦闘シーンもたっぷり用意されている。自身の正義や守るもののために戦う他の者たちと違い、純粋な戦闘狂としての気味悪さを好演。その肉体美と、観る者の想像力を刺激するアラジンとジュダルとのマギ同士の戦いの演出にも注目を。
▲アラジンと敵対するジュダル(演:手島章斗)
映像と可動式セットを駆使した演出は、今作も観客を魔王の世界へいざなってくれた。魔法ものの冒険ファンタジーと聞くと、ついつい魔法に目がいきがちだが、「マギ」のおもしろさは、人と人とが出会い響き合い成長していく姿にこそあると筆者は思っている。
1つの言葉や行動が誰かの心に響き、人を動かしていく。そんな人間ドラマを求めている人にこそ、観てほしい作品といえるだろう。もちろん、魔法もののバトル&冒険ファンタジーとして完成度が高いのは言うまでもない。
ミュージカル「マギ」-バルバッド狂騒曲-は、18日(日)まで東京・品川プリンスホテル ステラボールにて、24日(土)・25日(日)に大阪・森ノ宮ピロティホールにて上演される。
取材・文・撮影:双海しお
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