「薄ミュ」の名で愛されて11年目。2023年も新たな桜が舞い散る季節がやってきた。シリーズ11年目にして初めて山南敬助をタイトルに冠した、ミュージカル『薄桜鬼 真改』山南敬助 篇が4月8日(土)に初日を迎える。
2.5ジゲン!!では初日を前に実施されたゲネプロの様子をレポート。ネタバレなしで、初の「山南篇」の見どころや、各キャラの魅力などをお届けする。記事後半では囲み会見の様子もレポートしているので、あわせて読んでもらえたらと思う。
自らの居場所を得たはずの者たちが、光の中で前に進み、闇の中でもがき、ときに居場所を失いながらも本当に大切な場所を見つけていく。これまで幾度となく隊士や鬼の生き様の中に見てきたそれを、シリーズ初となる「山南篇」では、これまで以上に色濃く描き出していた。
劇場が不穏な赤いライトに染め上げられ、暗転があけた直後、多くの「薄ミュ」ファンが息を呑むことになるだろう。そしてここから約3時間、新しい「薄ミュ」が待っている予感を感じるはずだ。
冒頭、本作の中心人物となる山南敬助(演:輝馬)の焦燥が劇場に立ちこめる。先の戦いで刀を振るえぬ体となった彼が手を伸ばす先には、人間を羅刹化させる変若水(おちみず)があり――。
▲主演を務める山南敬助役の輝馬
新選組における山南は、総長として知の面で組を支え、水面下で羅刹隊を率いる存在だ。ときに冷徹にも見える判断を下す彼は、その裏で何を考え、何に苦悩していたのか。これまでなかなか語られなかった彼の本当の姿の一端を、本作でようやく知ることができた。
前線で戦えなくなった山南がその先に選び続けていく道は、どれも険しいものばかりだ。果たしてその裏側にはどれほどの想いがあるのだろうか。きっとそれは重すぎて、命のやり取りを知らない我々が容易く理解できるものではないのだろう。しかし、輝馬の圧巻の歌唱力と表現力によって生み出される山南の歌声は、冷静な山南の人柄とは裏腹に多くのことを語りかけてくれた。
▲鬼の副長・土方歳三を演じるのは久保田秀敏
輝馬はインタビューで「持ったからこそ全部捨てる作業というのもやっていきたい」、その先に残ったシンプルな感情を表現したいと語っていた。そんな無駄を削ぎ落とした芝居と、歌の力との相乗効果に、「薄ミュ」が受け継いできた熱さの真髄を見たような気がする。
今回は「山南篇」だ。ということは、これまで観ることが叶わなかった、山南が千鶴にだけ見せる表情というものが、ついに本作で拝めるということだ。変若水に深く関わる立場上、どうしても険しい表情での登場が多く、なおかつ隊士の宴の場にも参加しない山南。そんな彼が千鶴に向ける柔らかい眼差しや、仲間への慈愛に満ちた表情などが堪能できるのも、間違いなく本作の見どころだろう。
新しいという意味では、実にシリーズ9年ぶりとなる南雲薫(演:星元裕月)の登場も、作品に新鮮な風を吹き込んでいる。雪村千鶴(演:青木志穏)と薫が並ぶシーンは一気に場面が華やぐ。1幕での可憐で所作の美しい乙女・薫はあまりにもかわいいのだが、かわいいからこそ、底の見えぬ恐ろしさを秘めていた。薫が登場する作品を初めて観るという人は、ぜひ1幕のかわいさをしっかりと記憶に留めて2幕を観てほしい。きっと大きな衝撃を得られるだろう。
▲沖田総司(演:北村健人)と南雲薫(演:星元裕月)
また、今作は階段を排したシンプルな八百屋舞台のセットとなっている。そのため、メインテーマ曲「雪風華」や池田屋御用改のシーンなども、一味違った仕上がりに。「薄ミュ」の醍醐味である殺陣も、八百屋舞台の傾斜によってこれまでとは違った迫力が楽しめた。
お楽しみポイントでいえば、公式ツイートが発信していたように、数年ぶりに客降りが復活。ここは劇場で味わってこその部分なので詳細は伏せるが、席によっては幕末を生きる者たちの“風”を肌で感じることができるだろう。
変若水と向き合い続けた男・山南敬助は、千鶴と出会って“何者”になるのか。孤独で長い戦いを終えた後に彼を待つ“居場所”に思いを馳せながら、11年目という新たな一歩を踏み出す「薄ミュ」の決意に触れてみてほしい。
ここからは各キャラ・キャストについてレポートしていこう。
意外にも今作が初主演となる輝馬。2015年にシリーズ参加となった彼は、今年で8年目。近藤勇役の井俣太良、藤堂平助役の樋口裕太とともに新選組の安定感を語る上で欠かせない人物だ。彼のどこまでも届きそうな芯の通った歌声と芝居には嘘がない。山南は多くを胸に秘めて行動することが多いが、単にミステリアスで終わらないのは輝馬の実直な芝居があってこそだろう。山南の知られざる一面を繊細に引き出す、輝馬という役者の芝居の幅広さを改めて実感する機会となった。
ヒロイン・雪村千鶴を演じるのは青木志穏だ。可憐でひたむきという言葉がぴったりな千鶴で、張りのある輝馬の歌声と温もり感じる青木のハーモニーが耳に心地よい。今作の千鶴は、薫が現れ、出自にまつわる苦悩にぶちあたる千鶴でもある。青木は一見するとふわっとしているのだが、心を決めたときの変化を好演。前述した星元裕月演じる南雲薫の二面性や、川本裕之演じる千鶴の父・雪村綱道の不気味さを感じる芝居との掛け合いにも注目してほしい。
新選組では、今作から山崎烝役として新たに田口司が出演。普段からSNSにアクロバット練習動画を多数投稿するほどアクロバット好きの田口とあって、今作も宙に舞う山崎を楽しめる。八百屋舞台を音もなく縦横無尽に駆け回る姿は、まさに監察方だ。
▲本作から参加となる山崎烝役の田口司
「HAKU-MYU LIVE 3」には出演していたが、本編は「真改 相馬主計 篇」ぶりの出演となるのは斎藤一役の大海将一郎。斎藤が得意とする居合を駆使して寡黙に敵を切り伏せる迷いのない太刀筋は健在。加えて、宴の席での最年少幹部らしい様子にも注目を。
▲本編には久々の登場となる大海将一郎演じる斎藤一
カンパニーのみんなに愛されている「薄ミュ」の大黒柱・井俣太良演じる近藤勇、厳しさの中に愛を感じさせる久保田秀敏の土方歳三、薫との問答での好戦的な瞳が印象的だった北村健人演じる沖田総司、年々色気が増しているのだが今作では器の大きさがよりいっそう感じられた川上将大の原田左之助、宴の席で誰よりも張り切るいたずらっ子のような表情が魅力の小池亮介演じる永倉新八。
▲息ぴったりの川上将大演じる原田左之助と小池亮介演じる永倉新八
そして「山南篇」でのキーパーソンの1人となるのが、樋口裕太演じる藤堂平助だ。ともに「薄ミュ」歴の長い輝馬と2人、並び立つシーンでは感慨深く感じるファンも多いことだろう。2人の信頼のうえに生まれる芝居の熱量を感じ取ってみてほしい。
▲藤堂平助(演:樋口裕太)が雪村千鶴(演:雪村千鶴)に声をかける名シーン
鬼の頭首・風間千景は、中止となった「真改 相馬主計 篇」に出演予定だった佐々木喜英が演じる。佐々木は「HAKU-MYU LIVE 3」でも美しい殺陣を披露してくれたが、やはり本編で観る殺陣は別格。高貴で美しいという言葉がぴったりな、舞のような殺陣に注目を。脇を固める天霧九寿役の横山真史、不知火匡役の末野卓磨の安定感もあって、今作でも勝てそうにない最強の鬼の軍団ができあがっていた。
▲鬼の頭領・風間千景(演:佐々木喜英)
ミュージカル『薄桜鬼 真改』山南敬助 篇は4月8日(土)に東京・シアター1010にて初日を迎える。劇場付近の桜の多くは散ってしまったかもしれないが、西田大輔演出の「薄ミュ」に欠かせない大量の桜吹雪が、その散りゆく美しさを観る者の心に刻んでくれることだろう。
囲み会見レポート
ゲネプロ実施前に、囲み会見が実施され、山南敬助役を演じる輝馬をはじめ、雪村千鶴役の青木志穏、土方歳三役の久保田秀敏、藤堂平助役の樋口裕太、南雲薫役の星元裕月が登壇した。
――ご自身の演じる役のおすすめシーンや、それ以外での見どころを教えてください。
輝馬:僕はオープニングがすごく好きです。今までにないオープニングですし、言ってしまうとかなり華やかさとはかけ離れております。そこから始まり、どう終わっていくのか、ぜひ注目してほしいです。なかにはびっくりする「薄ミュ」ファンの方もいるかもしれませんが、これも1つの魅力として好きになってもらえたら嬉しいです。楽しい曲ももちろんあって、なかでも宴は男たちが踊り狂っています。
樋口裕太(藤堂平助役):ありがとうございます!
輝馬:(笑)。僕は宴ナンバーに出たことがないんですが、今回の楽曲も過去のものに負けないくらい楽しい感じになっているので、過去の宴と見比べながら楽しんでもらえたらと思います。
青木志穏(雪村千鶴役):どのシーンって決めきれないのですが、千鶴目線としては隊士のみなさんそれぞれの心の通じ合いや関係性を大切にしているので、そういったところを観てもらいたいです。
久保田秀敏(土方歳三役):今作では大事なキーワードがいろんなところに散りばめられています。“今この場所にいる意味”、“自分って一体何者なのか”っていうことを、観劇前に心の中に置いといていただけると、観た時に色々感じるものが出てくると思うんですね。散りばめられたキーワードを集めることによって、最後にいろんなものがつながって大きなメッセージを感じ取ってもらえたらと思います。
樋口:僕目線だと、山南さんが千鶴と…って思うと、今まで一緒にやってきた分、恥ずかしくてたまらないんです(笑)。僕は恥ずかしくて直視できないんですが、皆さんはぜひ注目してみてください。あと、山南さん僕との一騎打ちがあるので、真剣だけどこの2人だからこそ楽しんで戦っているみたいなところも楽しんでもらえたらと思います。
星元裕月(南雲薫役):薫はドロドロした部分にフューチャーされていて、そこに関しては志穏ちゃんと2人でたくさん話し合いました。私達だからこそ紡ぎあげられる薫と千鶴になったんじゃないかなと思っています。
フォトセッションから和気あいあいとした雰囲気で囲み会見は進んだ。最後に座長を務める輝馬が「いち役者として観たときにすごくおしゃれな作品です。同時に、命のやり取りをする新選組の熱量や生き様という、おしゃれとはまたかけ離れた部分もあって。そんなミックスされているところにもぜひ注目してみてください」と締めくくった。
取材・文・撮影:双海しお
広告
広告