市川けいによるボーイズラブコミック『ブルースカイコンプレックス』が実写ドラマ化。この一報に浮足立ったBLファンは多いだろう。しかも圧倒的包容力をまとう寡黙メガネ男子・楢崎元親役を砂川脩弥、意外に一途な不良・寺島夏生役を坪倉康晴という布陣。
原作の持つ、甘く切なく、それでいて清々しい青春の爽やかさを“映像美”として描きだそうという意欲を感じるキャスティングだ。期待をするなというほうが難しい。
この記事では、VR・360度動画配信サービス360Channelにて2月27日(月)より配信開始となったドラマ『ブルースカイコンプレックス』の1話・2話を視聴した筆者の体験レポートを紹介。原作ファンでもある筆者が、360度で味わう本作の魅力や見どころを全力でレポートするので、購入するか否か迷っている人がいれば、ぜひ参考にしてもらえたらと思う。
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この物語は、一見すると正反対な2人の男子高校生が悩みすれ違い葛藤しながら、心に芽生える思いに“恋”もしくは“愛”という感情をつけていく過程を丁寧に描いていく青春ラブストーリーだ。1話は、接点を持つことなく過ごしてきた2人の出会いの場となる学校の図書室から始まる。
まず印象的だったのが、音の表現だ。視聴する際はぜひイヤホンをして観てもらいたいのだが、窓の外でけたたましく鳴くセミの声と、2人しかいない図書室の静けさが混ざり合い、放課後特有の気だるさが画面に漂う。ほどよい静寂はどこか非日常的で、学校という慣れ親しんだ場所にあるはずの図書室が2人だけの特別な場所に思えてくる。
この最初の数秒で、視聴者は一気に作品の世界へと引き込まれるだろう。
本作は1話に対し、「楢崎」と「寺島」のそれぞれの心情にフォーカスした映像が用意されている。例えば、図書室で寺島が本を選ぶシーン。前者の映像では、楢崎は淡々と読書をしていて、寺島が本を選んでいるな…という温度感に観えるのだが、このシーンを後者で再度観てみると、楢崎の視界の外で寺島が感情ダダ漏れでソワソワしている様子が見て取れるといった具合になっている。
最初に観るのはお好み次第なのだが、1話に関して言えば筆者のおすすめは、楢崎フォーカスを視聴してからの寺島フォーカス、そして楢崎フォーカス…というループだ。
原作でも先に楢崎の視点が描かれ、そこから寺島の視点へと移るので、この流れで観るとより得られる養分が多いのではないかと思う。
楢崎は感情の起伏があまりない飄々(ひょうひょう)としたタイプの人物。そんな彼から見た寺島がどう見えるのかを、楢崎フォーカス版で観ることができる。「楢崎が見た寺島」を知ってから、改めて寺島フォーカス版で寺島の気持ちに触れると、本作の“もだキュン”ポイントをより堪能できるだろう。
2人のやりとりでもやはり音が印象的で、小さく漏らす吐息、ヒュッと緊張で息を吸い込む音などが、決して口数多く語るわけではない彼らの心情を繊細に物語っていた。寺島に至っては、心臓の音まで聞こえてくるのではないかと思ったほどだ。
そして、それぞれの映像ごとに切り取られた2人の視線も多くを物語る。序盤ではまだ自分の感情に名前をつけられずにいる楢崎だが、3話以降、彼の目に宿る熱量がどう変化していくのかも見どころとなるだろう。
2話は2人の関係にとって大きな転機となる散歩中のできごとを描いていく。1話と違い公園でのロケとなっており、広い青空の下で2人の心が揺れ動く様子が甘酸っぱく表現される。
寺島が食べていたサイダー味のアイスのような、甘くて爽やかで、同時に気を抜けばどろりと溶けてしまいそうな危うさも感じられ、3話への期待を高めてくれた。
本作は全5話となっていることもあり、ドラマならではのまとめ方をしている部分もある。そこが気になるファンもいるかもしれないが、『ブルースカイコンプレックス』で感じるべきは、1にも2にも楢崎と寺島の心の機微ではないだろうか。
そういった意味では、本作は丁寧に原作の核を捉えて映像化していると筆者は感じた。
視線や呼吸といった些細な仕草での感情の表現、2人の間に流れる絶妙な空気感と間、モノローグで語られる本音など、原作の持つ魅力をドラマとして最大限に引き出しているのがこのドラマ『ブルースカイコンプレックス』だ。
演出や音響はもちろんだが、なんといっても砂川と坪倉の繊細な芝居が魅力的なのだろう。2人とも舞台に立てば観客の視線を惹き付ける存在感と華があるが、本作ではその華やかさとはまた違う、自然体でいて等身大な芝居で彼らの新たな魅力を見せてくれている。
また、360Channelで配信されるという点も本作の大きな見どころだ。多くのBLファンは、主人公たちの恋を部屋の壁となって見守りたいと考えているだろう。それが実際に叶うのが、この作品なのだ。
1話では図書室の壁や本棚、2話では公園の木々のつもりで、2人の表情や距離感を360度から見守ってみよう。通常の映像作品では味わえないドキドキを味わえるはずだ。1周目は2人に近づいて、2周目は距離を取って俯瞰で、など自分なりの楽しみ方を見つけてみるのもいいかもしれない。
恋して、焦れて、悩んで。悩んだ分だけ、相手のことで心のなかはいっぱいになる。
そうやって1歩ずつ恋を始める楢崎と寺島の物語を描くドラマ『ブルースカイコンプレックス』は、純愛もの、みずみずしい青春もの、スローテンポな恋愛ものを欲している人にぴったりの作品だ。本作はBL初心者でも観やすい作品であり、「他の誰でもなくこの人だから好きになった」という愛しい感情を教えてくれることだろう。
相手の真意が分からず焦れた状態で突入する第3話は、3月6日(月)配信スタート。こちらもお見逃しなく。
取材・文:双海しお
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