レポート

『忘却の彼方で再会を』ゲネプロレポート 愛を巡る人間模様…タイトルに込められた意味とは 

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劇団天の河神社第5回本公演『忘却の彼方で再会を』が、6月22日(水)に東京・中野 ザ・ポケットで開幕した。

俳優としても活躍する鳥居和真が主宰・劇団天の河神社は「何がなんでもハッピーエンドにする」をキャッチコピーに、2018年に旗揚げ。当初は熱さや泥臭さを劇団カラーとしていたが、2021年よりそれまで持っていた色に加え、非日常の世界観が足された独自の世界を確立。エンターテインメント性に特化した、観客を置いていくことのないわかりやすい舞台を創り上げている。

『忘却の彼方で再会を』は、構成・演出を主宰の鳥居和真、脚本を同劇団員の中島千尋が手掛け、八島諒、柴田茉莉らが出演する。

2.5ジゲン!!では、初日に先立ち実施されたゲネプロを取材。ネタバレを控え、その模様を舞台写真とともにお伝えする。

本作の舞台は、蒸気と歯車によるギアシステムが発展した街・エイダ。時計技師の少年・ノア(演:八島諒)と壊れかけのからくり人形の少女・ララ(演:柴田茉莉)の姿が描かれていく。

エイダの街は1日ごとに姿を変え、二度と同じ姿を見せないことから「姿なき街・エイダ」と呼ばれている。舞台上には、蒸気と歯車を思わせるセットが置かれている以外は何もなくシンプルな作り。エイダの街がどことなく無機質で冷たい雰囲気があることを思わせる。

エイダの街で、街のギアシステムを管理する時計技師として、少年・ノアは働いていた。内気で誰とも関わらないノアのことを街の人々は気味悪がり避けていた。ノア自身も「僕は街の人すべてに嫌われている」と諦めモードだ。

そんなノアがある日、壊れかけのからくり人形のララと出会う。ノアはララを修理するのだが、そんなノアにララは深く感謝し、懐くようになる。ノアは、からくり人形なのに言葉を話すララのことをいぶかしく思いながらも、2人は次第に絆を深めていく。

そんな2人が住む不思議な雰囲気がある街・エイダに、さまざまな人々が集まってくることで物語は展開していく。

元冒険家で、現在は重い病気で余命宣告を受けている麗奈(演:桜井理衣)とその弟の大和(演:荻野未友治)、冒険家でかつては麗奈の相棒として一緒に冒険活動をしていたアイザック(演:深澤悠斗)、エイダの街に潜む大きな秘密を暴こうとやってきた新聞記者を名乗るレオ(演:岡田健)。

彼らがエイダの街にやってきた目的は? そして街で何が起きようとしているのか…?

ノアを演じる八島は、おどおどして不器用な時計技師を持ち前の表現力で繊細に演じた。これまで八島が演じてきた役は明るいキャラクターが多かったような気がするが、今回はまるで笑顔を見せない。それもそのはず、ノアは両親から愛情を受けることなく育った悲しい少年なのだ。真面目に時計技師として働いているし、壊れたからくり人形を見て修理しようという優しい心も持っているが、どこか人生に投げやりで「どうでもいい」と思っている様子がうかがえる。

ところが、からくり人形のララと出会うことで、ノアの気持ちに変化が生まれていく。それは劇的に変わっていくものではないのだが、少しずつ少しずつノアが変化していく様を、八島は抑えた演技ながらも感情豊かに表現していた。笑顔が印象的な八島の、また違った一面を見ることができる役だといえるだろう。

そして、ノアの心に変化をもたらすからくり人形・ララを演じる柴田は、立ち姿が人形そのものでとにかく可愛らしい。人間と同じように話はするものの、そこはからくり人形らしくぎこちなさを出しているところもうまい。

物語の中で、ララはダンスが上手なからくり人形として描かれている。操り人形のルカ(演:沼田駿也)とダンスをするシーンは、モダンバレエを長く経験してきた柴田の最大の見せ場といえるだろう。スッと足を挙げて華麗にクルっと回り、踊るところはさすがの実力だ。

エイダの街を訪れた姉弟・麗奈と大和を演じる桜井と荻野は、スラっとした立ち姿が舞台映えする。特に荻野は長身を生かしたダイナミックな演技が目をひいた。そして麗奈を演じる桜井は、その華やかな容姿から病弱なイメージはあまり感じられなかったが、そこは演技力でうまくカバーしていた。

麗奈の元相棒のアイザックを演じた深澤は、爽やかな声が印象的。好青年で麗奈や大和をサポートする存在として登場したのかと思いきや、実は…という難しい役どころをしっかりこなしていた。

そして新聞記者を名乗る男・レオを演じる岡田も、滑舌のよいせりふまわしで好演。レオも物語の終盤に思いがけない正体を見せるので要チェックだ。

物語のキーとなる忘却の魔女・オリビア(演:藍川きあら)、人形使いのティア(演:中島千尋)、時計技師のエイミー(演:宮沢雪乃)といった、さまざまな人物の人生模様が絡み合う本作。そこに共通しているものは「愛」で、愛を巡って、それぞれが理想とする世界を求め、エイダの街へやってくる。

タイトルの「忘却の彼方で再会を」というものが何を意味しているのか。そこには少し悲しい物語があるのだが、「何がなんでもハッピーエンドにする」をキャッチコピーにしている劇団天の河神社らしいラストが待ち受けているので、目まぐるしく展開していく物語にしっかりとついていってほしい。

劇団天の河神社 第5回本公演『忘却の彼方で再会を』は、6月26日(日)まで上演。

取材・文・撮影 咲田真菜

公演情報

■タイトル
劇団天の河神社 第5回本公演『忘却の彼方で再会を』

■公演期間・劇場
2022年6月22日(水)~6月26日(日)
東京・中野 ザ・ポケット

■出演
八島諒(青年座映画放送)、柴田茉莉(合同会社舞台裏)、荻野未友治、桜井理衣(ネオ・エージェンシー)、藍川きあら(イトーカンパニー)、深澤悠斗(えりオフィス)、沼田駿也、岡田健(opcebo)、中島千尋(劇団天の河神社)、宮沢雪乃(劇団天の河神社)

■脚本
中島千尋

■演出
鳥居和真

■公式サイト
https://amanogawa77.amebaownd.com/

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