西田大輔が描く新たな船路は西部劇。DisGOONie Presents Vol.11 舞台「Little Fandango」が6月10日(金)に“出航”を迎えた。2.5ジゲン!!では初日に先立ち実施された初日会見及びゲネプロ公演の様子をレポートする。
本作は2015年に一度上演されているが、今回初めて観劇するというファンがほとんどだろう。本記事では役どころなどのネタバレも極力避けて紹介するので、公開されているキャラクタービジュアルからどんな人物なのかを想像しながら、劇場に向かってみてほしい。
ダブル主演を務める萩谷慧悟と長妻怜央の7ORDERのタッグを筆頭に、実力派からベテランまでを揃えた盤石なキャスト陣による西部劇。そこから想像する観劇前のワクワクを、今回も作・演出を手掛ける西田大輔がいい意味で豪快に裏切ってくれた。
舞台はかつてゴールドラッシュに湧いたニューメキシコ州。議員の息子ヘンリー(演:渡辺みり愛)とその親友マクスウェル(演:長妻怜央)が父の書斎で1冊の日記を見つけることから物語が動き出す。大人たちが語ろうとしない、かつてこの地に生きたビリー・ザ・キッドの物語が日記の中に記されているかもしれない。伝説のアウトローの本名は奇しくもヘンリー・マカーティ。カウボーイに憧れる少年ヘンリーは、同じ名を持つヘンリーに思いを馳せながら日記を開く。そこには伝説のカウボーイたちが綴った世界が広がっていて――。
▲西部開拓時代に思いを馳せる少年ヘンリー(演:渡辺みり愛)とマクスウェル(演:長妻怜央)
本作の見どころはなんといってもガンアクションだ。序盤から惜しみなく展開される手数の多いアクションは、まさに西田節。間合いの遠い銃撃戦ならではのセットの使い方や見せ方は、アクション好きならぜひ味わってもらいたい。意外にも西部劇をテーマとした舞台は多くない。拳銃を持つ男たちはこんなにも危険な色気を放つのかと、新たな気づきを得るファンが続出することだろう。
最初はガンアクションの迫力に気圧されてしまうかもしれないが、余裕が出てきたら、それぞれのキャラクターの戦い方の違いを比較してみるのもおすすめだ。
カリスマ性漂うヘンリー・マカーティ(演:萩谷慧悟)の無駄のない身のこなしに、天性のセンスの良さと派手好きな気質が見て取れるピート(演:長妻怜央)。
ならず者たちを束ねるリーダー役のティック・リチャード・ブリュワー(演:瀬戸利樹)の硬派なアクションに、彼が頭の良さを認めるドク・スカーロック(演:大海将一郎)の機転を利かせた戦い方、兄弟の絆を武器とするジョージ・コー(演:中村嘉惟人)とフランク・コー(演:横井翔二郎)。
▲血気盛んな一派をクールにまとめるリーダー、ティック・リチャード・ブリュワー(演:瀬戸利樹)
▲長銃のリーチを活かした豪快アクションに注目のドク・スカーロック(演:大海将一郎)と、彼を煽るプレディ郡保安官(演:村田洋二郎)
▲共闘アクションは目が足りないジョージ・コー(演:中村嘉惟人)とフランク・コー(演:横井翔二郎)
そして彼らを束ねるジョン・タンストール(演:松田賢二)は、慈愛ある言動でならず者たちが集まるレギュレーター(自警団)を一枚の岩としていく。レギュレーター陣を見るだけでも、多彩な個性が交錯しているのが分かるだろう。
▲ヘンリー・マカーティ(演:萩谷慧悟)に皆が慕う“タンストールさん”(演:松田賢二)
彼らと敵対するウィリアム・ローゼンバーグ(演:萩野崇)とその側に控えるジーニー(演:山口大地)の不気味さは、カウボーイとして生きるレギュレーターたちと実に対照的。そこにプレディ郡保安官(演:村田洋二郎)やモートン(演:内堀克利)、パット・ギャレット(演:校條拳太朗)、それぞれの思惑が絡み合い、後半に進むにつれ複雑な群像劇が浮かび上がった。
▲左からウィリアム・ローゼンバーグ(演:萩野崇)、プレディ郡保安官(演:村田洋二郎)、ジーニー(演:山口大地)
▲言葉ではなくアクションで語るジーニー(演:山口大地)
▲史実ではビリーを殺したとされるパット・ギャレット(演:校條拳太朗)はどう動く?
西田作品とあって本作も例に漏れず、登場人物全員の人間ドラマを克明に描こうという気概に溢れていた。その人物の登場シーンの量に依らず、一つのセリフ、一つの動きに、そこまで生きてきた彼の背景が透けて見えるような見せ方は見事。役者陣も各々の作り込みを感じさせる熱演で、隙なく面白さが敷き詰められていた印象だ。それだけに、本作は繰り返し観たくなる作品と言える。どの人物に主眼を置いて観るかによって、観客は観劇の度に違った景色が見えてくるはずだ。
人間ドラマという点では、ホアニータ(演:渡辺みり愛)とアポリナリア(演:吉川友)からも目が離せない。カウボーイを取り巻く愛の物語は、2人を軸に展開。妖艶ながらも内に秘められた思いの強さは、カウボーイ顔負けだろう。
▲ピートがべた惚れしているアポリナリア(演:吉川友)
▲1人2役を演じる渡辺みり愛のホアニータ
開幕直前SP配信で話題になっていた長妻演じるピートによる「ピート劇場」も見逃せない。特に前半は長妻の持つ軽快なトーク力が炸裂。ゲネプロと初日公演でもネタを変えてきていたので、千秋楽までにどんな進化を遂げていくのか楽しみだ。彼を中心に生まれる西部の陽気な雰囲気もまた、後半で重くなっていくドラマへの良いスパイスとなっているように感じられた。
▲「ピート劇場」だけでなく「マクスウェル劇場」も。さながら長妻の独壇場だ
開幕直前SP配信は公演期間中、アーカイブの視聴が可能だ。アンサンブル以外の全キャストが出演しており、それぞれの見どころや注目ポイントなども語っている。本編ではクールなアウトローを演じているキャストの、意外とお茶目なところや天然な部分も垣間見える配信となっていた。すでに視聴したというファンも、観劇後に再度見返してみると、彼らが語っていた言葉の解像度がグンと上がることだろう。
▲あまりに楽しそうなタンストール一派
人生は一度きり。そのたった一度のチャンスを、どうやって自分にとって意味のあるものにしていくのか。カウボーイとして生き、戦い、愛し愛された者たちの物語は、違う時代を生きる私達に、「どう生きたいのか」という強烈なメッセージを届けてくれることだろう。
筆者にはそう感じられたこの物語を、それぞれの眼と心で解釈してみてはどうだろうか。
西田大輔「新たな船出」初日会見レポート
ゲネプロ前の初日会見には、ダブル主演の萩谷慧悟、長妻怜央をはじめ、渡辺みり愛、校條拳太朗、瀬戸利樹、萩野崇、松田賢二、そして作・演出の西田大輔が登壇。直前に迫った初日に向けて、その意気込みを軽快なトークとともに語った。
――まずは作・演出を務める西田大輔さんから本作に掛ける思いをお聞かせください。
西田大輔:今回は萩谷慧悟くんと長妻怜央くんを中心に、本当に出会いに恵まれた作品だなと感じています。ディスグーニーとしては11作目となります。10回目を終えこれが新たな船出だと思っていて、そういう意味でもこの奇跡的なチームと尊い時間を過ごしてきました。とにかく疾走感溢れる物語の中で駆け抜ける彼らの心を観てもらえたらと思います。
――ではキャストの皆さんには、ご自身が演じる役柄や見どころについてお伺いします。
萩谷慧悟:ヘンリーは影のある役で、自分の本質とは真逆にある役に挑戦させてもらいました。いわゆるビリー・ザ・キッドなんですが、若くして伝説を作った人物。さらに西部劇を演じる機会自体も俳優人生の中でそうあるものではないと思うので、こうして演じることができて光栄です。僕はすごくおしゃべりなんですが、マカーティーは一匹狼でそう喋るタイプではないので、観ていてなんだか気になる人物だなと思ってもらえるように頑張っていきます。
長妻怜央:(昨晩からずっと考えていたというボケを披露しながら会場を盛り上げるも、司会の響・長友光弘からやや滑りという判定に…)ここからは真面目にいきます(笑)。この作品は以前も上演されたとのことですが、西田さんが僕に当てはまるようなキャラクターとして改めて書いてくださったので、僕はただまっすぐお芝居させていただいています。気持ちの落差が激しい役なのでやりがいがあります。皆さんにどれだけ心を動かしてもらえるのかが醍醐味だと思うので、一生懸命やっていきます。
渡辺みり愛:ヘンリーは少年役で、ホアニータは女性役で。性別も性格も真逆で演じ分けが難しいのですが、頑張りたいと思います。
校條拳太朗:パットは簡単に言うとバーテンで、異質なキャラクターとなっています。レギュレーターと深い関係があったり、史実ではビリーを射殺した男となっているので、そんな人物が本編でどうなっているのかお楽しみに。
瀬戸利樹:リチャードはレギュレーターのリーダーで、まとめ役ではあるんですが、熱いものを届けられたらと思います。
萩野崇:僕の役は本作の舞台となる街の権力を牛耳ろうとしている悪役ですね。西田さんの書かれる悪役なので、一筋縄ではいかないキャラクターとなっています。
松田賢二:レギュレーターというカウボーイ軍団のボスですね。萩野崇くんが悪者のボスで、僕はその反対側にいるボスですね。生き様や死に様を含めて、1番のカウボーイになりたいと思っています。
――初日を迎える今の気持ち、稽古場でのエピソードなどをお聞かせください。
萩谷:2週間前に稽古場に入りまして、2週間で作ったんだっていうのが率直な感想です。ディスグーニー作品でゲネプロができるのは奇跡と聞いたので、ゲネプロ含め奮闘していければと思います。
長妻:勢いがあって素敵だねって先輩方が言ってくださるんですが、油断すること・忘れちゃうことの2つは弱点だと言われています(笑)。なので忘れないように頑張りたいと思います!
渡辺:この座組はすごい方たちが揃っているので、稽古中もすごく勉強になってお芝居が楽しいと思わせてもらいました。ただ女性がすごく少ないので最初は全然しゃべれなくて…。そこを皆さんに助けていただいて、すごく感謝しています。
校條:稽古場の段階から皆さん本当に格好良くて。いよいよお客さんに観ていただけるのが楽しみです。
瀬戸:稽古中、自分が出ていないシーンを観ているだけでも、ふつふつと燃え上がるものがありました。その熱量は絶対皆さまにも感じていただけるんじゃないかなと思います。
萩野:本当に若さが輝いているんですよね。照明やセットがあわさって、本当に光っているんじゃないかっていうくらい彼らのきらめきが美しいんですね。本作が11作目でディスグーニーはセカンドシーズンという新たな船出に挑んでいくタイミングです。今までは尺に関しても豪快にやってきたんですが、今回は3時間を切るというスピーディーなものになっていて。尺も含め、ディスグーニーとして挑戦している作品なので、さらに素敵になったと思いますし、夢中になっていただけると思います。
松田:ただただ若い方たちのエネルギーとスピードに圧倒されつつも、西田さんの描くカウボーイの美学、アウトローの美学、人の美学っていうのをちゃんとお伝えできればと思っています。
――見どころとなるガンアクションについてはいかがですか。
萩谷:西田さんの作られる舞台はアクションや殺陣が素晴らしいんですが、今回西部劇ということでどんなふうになっているのかなって想像つかない方も多いと思います。銃やナイフを使って視点が移るようなアクションになっていて、その分細かなタイミングで苦労はありましたね。
長妻:僕は銃を回すのをめっちゃ練習しましたね。ずっとやっていたので落とすことはないんじゃないかと思うので、そこも注目してほしいです。
渡辺:私も一応銃は使うんですが、どう使うかは観てのお楽しみです。
校條:大変だなと思ったのは距離感ですね。撃つ方も撃たれる方も息を合わせないといけないので、それが大変でした。キャラクターは多いのですが、それぞれの味が出ている殺陣をつけてくださったので、そこを楽しんでいただきたいです。
瀬戸:最初にガンアクションだと聞いたときは、「すぐ撃って終わっちゃうんじゃない?」って思ったんですが、そこはうまく西田さんが芝居をつけてくださって。自然と銃を構えたくなるような気持ちの作り方ができているんじゃないかと思います。
萩野:これまで刀が多かったんですが、銃になるとやっぱりさっぱりしているんですよね。すぐ殺せてしまうので。だから爽やかです(笑)。
松田:ド派手なアクションは若い方たちにおまかせして、おじさん組としては僕の話す言葉がアクションになっているのかなと。
一同:おお~。
DisGOONie Presents Vol.11 舞台「Little Fandango」は、6月10日(金)~19日(日)に東京・EX THEATER ROPPONGI、7月2日(土)~3日(日)に大阪・COOL JAPAN PARK OSAKA WWホールで上演予定。
取材・文・撮影:双海しお
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