「世界名作劇場」第21作目として1995年に放送された「ロミオの青い空」を原作としたミュージカル「ロミオの青い空」が、3月31日(木)に初日を迎える。
無事開幕の日を迎えられたことにホッとしているファンも多いだろう。2.5ゲジン!!では、初日を前に実施された最終リハーサルの様子をレポート。劇中ショットとともに本編の様子をお届けする。
その勇気は青空よりも広く澄み渡る
勇気と友情の物語として長年愛されている往年の名作アニメ「ロミオの青い空」。両親のために煙突掃除夫として出稼ぎに出た少年・ロミオの波乱と冒険に満ちた日々を描く本作は、アニメでは33話をかけて描かれた。膨大なストーリーは音楽と融合しながら約3時間45分の物語として見事にまとまり、終演の緞帳が降りた瞬間、胸に迫る感動と共に、たしかにあの「ロミオの青い空」を観たのだと、懐かしい気持ちが広がった。
物語は、ロミオ(演:大薮丘)やアルフレド(演:新里宏太)の困難な行く末を暗示するかのような舟の難破シーンから始まり、導入へ。死神と呼ばれるルイニ(演:和泉宗兵)の罠により怪我をした父のために、ロミオは自らをルイニに売って煙突掃除夫になる決意をする。
▲人身売買を生業とするルイニ(演:和泉宗兵)
▲母ジェシカ(演:大月さゆ)と別れを惜しむロミオ
故郷を離れたロミオは道中、同じく煙突掃除夫となるためにミラノに向かうアルフレドと出会う。短い時間で意気投合し、2人は永遠の友情を誓い合うのだった。しかしミラノに着くと2人は別の親方に買われバラバラに…。
こうしてミラノでのロミオのつらい日々が始まるが、誓いに導かれるように2人は再会を果たす。やがて街の不良少年・ジョバンニ(演:塩田康平)率いる「狼団」に対抗すべく、2人は仲間たちと「黒い兄弟」を結成するのだが――。
▲不良の集まり「狼団」
▲煙突掃除夫たちは「黒い兄弟」を結成する
ロミオを買ったロッシ親方(演:中本雅俊)とその一家とのトラブル。ロッシ一家が預かる天使のような少女・アンジェレッタ(演:北澤早紀/AKB48)との出会いと、彼女の叔母・イザベラ(演:久世星佳)との邂逅。そして、黒い兄弟と狼団との戦いと同盟の中で、日に日に硬く結ばれていくロミオとアルフレドの友情を超えた絆が生き生きと描き出されていた。
▲アンゼルモ(演:大野瑞生)、エッダ(演:あべこ)の勢いに押されるロッシ親方(演:中本雅俊)
▲ミラノでロミオを待つ過酷な日々
▲ロミオに文字を教えるカセラ教授(演:クラウス)
▲病弱なアンジェレッタ(演:北澤早紀(AKB48))
▲狼団と黒い兄弟との抗争
波乱万丈な日々の中で、ロミオは前を向き続ける。青い空のように澄んでいると同時に、折れない勇気を持つ彼は、知らず知らずのうちに周りの心を変えていく。曇り模様の心に、彼はその笑顔で光を射していくのだ。ロミオ役の大薮の温もりを感じるまろやかな歌声は、ロミオの内に秘めた強さを見事に表現していた。
一方でロミオが敬愛するアルフレドは知性と優しさにあふれ、同時に弱きを助けるヒーローのような人物だ。アルフレド役の新里の歌声は、どこか気品に溢れ人を惹きつける。凛とした高音が響く様は、まるでアルフレドの生き様のようだ。
包み込むようなロミオの歌声と、高く突き抜けるアルフレドの高音。この2人の声が重なり合う瞬間、なんとも心地の良いハーモニーが生まれる。躍動感を感じさせながらも、すっと心が凪ぐ。そんな不思議な引力のある歌声で、冒頭から客席を「ロミオの青い空」への世界へと誘う。
20曲を超えるナンバーが用意されている本作。ミラノの陽気な街並みを歌う曲から、魂の叫びをぶつけるような悲痛に満ちた曲まで実に多彩だ。どのナンバーからも、音楽の持つ力を貪欲なまでに真っ直ぐ届けたいという気持ちが伝わってきた。物語や芝居だけでなく、音楽に圧倒されたいという人にも、ぜひ観てもらいたい作品と言えるだろう。
高い歌唱力を持つキャスト陣が揃うとあって、歌唱シーンはいずれも圧倒されるほどののクオリティ。加えて印象的だったのが、ミラノの街並みを表現した舞台装置だ。
このセットには、煙突掃除夫として働くロミオを描く本作ならではの工夫が随所に施されている。煙突を登る様子が表現されたり、煙突を通って屋根の上にいる様子が表現されたり。中でもロミオがセットの最上部からミラノの青い空を見渡すシーンは印象的だ。彼の真っ直ぐな瞳に映っているであろう青空を、観客も心の目で感じることができるだろう。
世界観への敬意と役者の熱演が生み出す良質な空間
長い上演時間の間、ほぼ出ずっぱりなのが主人公のロミオだ。大藪のまさに全身全霊と呼ぶにふさわしい芝居が、この「ロミミュ」の芯となって作品全体を支えていた。
そして、それを隣で支えていたのが新里のアルフレドだ。アルフレドの優しいまなざしと、覚悟を決めたときの燃えるような瞳のギャップが印象的で、特に終盤ではまさに魂を燃やす芝居で会場全体の涙を誘った。
黒い兄弟として原作でもおなじみの少しお調子者のダンテ(演:南部海人)や兄貴分のアントニオ(演:小波津亜廉)、末っ子で泣き虫なミカエル(演:輝山立)らが登場。中でも、いつもミカエルを守ってあげているアントニオの頼りになる背中や、弱虫なのに仲間のために勇気を出して頑張るミカエルの健気な姿が印象に残った。
▲ミカエル(演:輝山立)とアントニオ(演:小波津亜廉)
狼団ではリーダーのジョバンニのヒールな男気を塩田康平が好演。紅一点のニキータ(演:七木奏音)は序盤からその歌唱力で狼団を盛り上げ、巧さを見せた。
▲狼団のリーダージョバンニ(演:塩田康平)
▲かっこよくもありキュートでもあるニキータ(演:七木奏音)
また七木と同じく2.5次元作品でも活躍する田上真里奈はアルフレドの妹・ビアンカを担当。熱量ある役に定評のある田上が、幼いながらも勝ち気で、兄譲りの強さを持つビアンカを好演していた。
▲駆け回るとより魅力的になるビアンカ(演:田上真里奈)
気の強いニキータやビアンカとは対照的なアンジェレッタを演じたのは北澤早紀(AKB48)。病弱な彼女を表現する清廉な歌声と持ち前の透明感で、天使と称されるアンジェレッタの可憐さを表現。イザベラ(演:久世星佳)とのデュエットでは、愛する者への思いを歌い上げるナンバーをしっとりと聴かせた。
▲北澤早紀(AKB48)演じるアンジェレッタ
どのキャラクターもそれぞれのバックボーンを感じさせる瞬間があり、小さな仕草も見逃せない。登場人物が多くミラノの街を所狭しと走り回っているので、ぜひ機会があれば何度も劇場に足を運んでそれぞれの細かな芝居も楽しんでみてほしい。
原作の世界観やキャラクター同士の関係性を大切にしながら、正統派ミュージカル作品として完成度の高い作品に仕上がっていたミュージカル「ロミオの青い空」。陽気なイタリアの風土とミュージカルとの相性は抜群で、つい口ずさみたくなる朗らかなナンバーも多い。しかし音楽に浸っている暇はなく、余韻も惜しいといった様子で、次々と原作での山場が描かれていく。
大いに揺さぶられる自身の心を感じると同時に、その渦中にいるロミオとアルフレドの胸中は、観客とは比にならないほど大きくうねっているに違いない。その感情の渦を、圧倒されるハーモニーと共に体感してみてはどうだろうか。
観劇後、心には澄み切った青空のような清々しさが広がることだろう。
ミュージカル「ロミオの青い空」は東京建物 Brillia HALLにて4月3日(日)まで上演予定。新年度を迎えるにふさわしい、新生活へ踏み出す勇気をくれる作品を味わってみてほしい。
取材・文・撮影:双海しお
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