劇団主宰の荒木太朗が脚本・演出を手掛け、八島諒、AKB48・大森美優らが出演する、劇団シアターザロケッツ第十三回舞台公演『恋はカットがかかるまで』が2022年3月16日（水）、シアター・アルファ東京にて開幕した。
2.5ジゲン!!では、初日に先立ち実施されたゲネプロを取材。極力ネタバレを控え、その模様を舞台写真とともにお伝えする。
劇場に入ると、まず目に飛び込んでくるのは、そのままカフェとして使えるのではないかと思うほどのオシャレなセット。物語の舞台は、テラスが自慢のカフェ「Knock the DOOR」だ。
カフェの店員として働く高原有為（演：八島諒）、椎名真紀（演：松田彩希）、的場利一（演：福原英樹）は、ちょっと調子の良い店長・大島亨（演：すずきつかさ）のもと、楽しく仕事をしていた。
ある日、カフェが映画のロケ地に選ばれ、なおかつ有為たちがエキストラとして出演することになり大騒ぎに。しかし主演カップルを演じる須賀杏奈（演：大森美優）と持田雅彦（演：佐藤弘樹）はプライベートでも付き合っていたのだが、破局報道が流れたことで現場のスタッフたちはピリピリする。
案の定、杏奈と雅彦は険悪な雰囲気で、撮影が順調にいく気配がない。雅彦はスタッフやエキストラに対して横柄な態度を取り、そんな雅彦を見てイライラする杏奈。雅彦を困らせるため、杏奈は監督の工藤（演：林里容）に、演出の変更を申し出る。それは、有為が演じるカフェ店員に一目惚れをするアドリブの演技だった。反発する雅彦だが、ベテラン女優の萬田典子（演：棚橋幸代）の後押しもあり、杏奈の提案どおり撮影が進められることになる。
杏奈の大ファンである有為にとっては、まさに千載一遇のチャンス！ ずっと憧れていた杏奈を目の前に緊張するものの、真紀や利一の助けもあって、エキストラとして奇跡の共演を果たす。そんな様子を見て心穏やかではない雅彦。有為、杏奈、雅彦の関係はどうなる…!?
作・演出を手掛ける荒木太朗が「恋と喜劇についてのお話」と語っているように、恋愛にオクテな有為、女癖の悪い俳優・雅彦を対照的に描き、そこに杏奈と真紀の存在が華を添え、出演者全員がアクティブに動き回る「恋愛喜劇」に仕上がっている。
カフェの店員・高原有為を演じる八島諒は、まさにぴったりの役どころといっていいだろう。恋愛にオクテだけれど、人の良さまるだしの好青年。杏奈と雅彦が険悪な雰囲気の中、ピリピリする現場で右往左往するものの、憧れの杏奈を目の前に緊張する姿をユ―モラスに演じている。杏奈に褒められ、嬉しさのあまり気絶してしまうシーンでは、身体を張った熱演を披露。「怪我をしないで～」というファンの声が聞こえてきそうだ。
人気女優の須賀杏奈を演じる大森美優は、帽子にワンピースという可憐な装いがよく似合う。雅彦にイライラしているところ以外は、カフェの店員やスタッフに気を遣う心優しい女性だ。雅彦に対する皮肉をこめた対応と、有為をはじめとした他の人たちへの柔らかな対応と、しっかり演じ分けた丁寧な演技をしている。
人気俳優・持田雅彦を演じている佐藤弘樹は、キザで女癖が悪く、嫌味なキャラクターで存在感を際立たせていた。何しろピンクのシャツに白のボトムスが長身に映えてよく似合う。それだけでも「軟派な優男」として出来上がっているといえるだろう。しかしキザだけでなく、杏奈の急な提案で振り回される姿は、なかなかのコメディーセンス。佐藤の演技のふり幅の大きさを感じた瞬間だった。
そしてカフェ店員として日頃から有為をサポートする椎名真紀を演じる松田彩希は、はつらつとした明るいキャラクターを存分に発揮していた。「こういうカフェの店員さん、いるな～」と思ってしまうほど、制服がよく似合う。雅彦に言い寄られてもビシッと断る芯の強さ。でも自身がエキストラとして出演することになると、からっきしダメな情けない姿を緩急つけて演じていた。
若い俳優の中で、萬田典子役の棚橋幸代やカフェ店長・大島亨役のすずきつかさといったベテラン勢が場をしっかり締めている。二人の間にもしかして恋が生まれるのか…と期待する場面もあり、その結末はぜひ劇場で確認してほしい。
そして、これだけ多くの出演者全員にそれぞれの見せ場を設けている荒木の脚本は見事だといえるだろう。何しろ上演時間100分の間、出演者が袖にはけることがほとんどない。つまり全員が舞台上に出ずっぱりというわけだ。常に観客の目がある中、出演者それぞれが舞台上でどんな表情をして演じているのか、そのあたりもじっくり観てほしいポイントだ。
演劇ではあるものの、出演者全員が音楽に合わせて踊ったり、映画の撮影シーンでは水を打ったように静かになったりと、静と動を感じられる本作。
有為、杏奈、雅彦の3人がそれぞれの「恋愛」にどう決着をつけるのか。タイトルどおり「カットがかかるまで」ぜひ劇場で見守っていただきたい。
劇団シアターザロケッツ第十三回舞台公演『恋はカットがかかるまで』は、3月21日（月・祝）まで上演。
取材・文・撮影：咲田真菜
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