2010年の完結後も長年愛されてきた葉鳥ビスコによる漫画『桜蘭高校ホスト部』が、2022年に歌劇『桜蘭高校ホスト部』として帰ってきた。豪華絢爛でドタバタで、ラブありハートフルありな少女漫画の名作は、歌劇としてどう表現されるのか。
2.5ジゲン!!では1月15日(土)の初日に先立ち実施されたゲネプロの様子をレポート。扉の向こうに待っていたホスト部の活動をお届けする。
芝居・歌・衣装…おもちゃ箱のような“ホスト部らしさ”
ステージに待っていたのは、紛れもない桜蘭高校ホスト部の騒がしくも愉快な日常だった。
物語は藤岡ハルヒ(演:山内優花)とホスト部の出会いからつづられていく。もちろん原作の全エピソードが描かれるわけではないが、登場するのはいずれも原作ファンにお馴染みのエピソードばかり。
どのエピソードが舞台化されるのか楽しみにしているファンも多いだろう。ここでは具体的なエピソードは明記しないが、原作の醍醐味のひとつである色々な服装を楽しめる、という点はこの歌劇でも共通していることを記しておこう。どのエピソード、どの衣装が観られるのかはぜひ劇場や配信でドキドキしながら楽しんでみてほしい。
彼らの衣装チェンジの多さも、ファンからしてみれば“おもてなし”の一つだ。初回観劇時のワクワクに、ホスト部を訪れた紳士淑女の気持ちを重ねてみると、よりディープなホスト部体験ができるだろう。
原作は学園コメディを縦糸に、友情や家族愛、人としての成長などが横糸として交わり、多彩な表情の布が出来上がる。そんな色彩豊かな作品だ。
本作ではその彩りを、芝居に加えて衣装や楽曲で多面的にに表現している。歌劇と銘打たれているとあって、ナンバーももちろん多いのだが、特に楽曲ジャンルの振り幅の広さが印象的だ。優雅な楽曲から、ロックでメタルな楽曲まで、実にバラエティ豊か。一見すると統一感がないのだが、そのごちゃまぜで何が飛び出すか分からないところこそがホスト部らしさなのだろう。まさに“おもちゃ箱”のような作品なのだ。
おもちゃ箱なので、賑やかにホスト部の営業をしたかと思えば、ふと次のシーンで各キャラクターの心が覗けるようなシーンが飛び出したりもする。緩急激しいジェットコースターに振り落とされないよう、「これからホスト部の世界に飛び込むんだ」と心の準備をしておくことをおすすめする。身も心も委ねてホスミュの世界観に浸ることができれば、劇場にだけ開店するサービス満点なホスト部のおもてなしを体感できるはずだ。
学園コメディのまっすぐさに心打たれる
ここからは各キャラクターの見どころを紹介する。具体的には書かないが、「ここは!」という見どころのあるキャラクターに関してはそのシーンについて簡単に触れているので、観劇前の人は注意して読み進めてほしい。
まずはホスト部の面々。須王環(演:小松準弥)&鳳鏡夜(演:里中将道)は、インタビューで2人が語っていたように、うちから滲み出る陽と陰の雰囲気がそのままキャラクターの魅力へと繋がっていた。
環は陽気でおバカな殿として振る舞う中で、部員への友達以上の家族的な愛を覗かせる。太陽のような大きな愛が、彼の笑顔から溢れて客席までも包んでいた。その隣に立つ鏡夜からは、色気をまとった鋭い視線が投げかけられる。鏡夜ファンは中盤に訪れるあるシーンを心して迎えてほしい。舞台上で観たいと願っていたであろう、悶絶必至のあのシーンが登場する。
シンメトリーな常陸院ブラザーズこと常陸院光(演:二葉勇)と常陸院馨(演:二葉要)は、リアル双子と歌唱力の高さを武器に、奔放でいたずら好きで、実は寂しさを抱えているその脆さを好演。気ままな猫のようないたずらっ子の笑顔は必見だ。1年生トリオとしてハルヒと距離が近いのも可愛くて、思わずにやけてしまうことだろう。
3年生の凸凹コンビ、ハニー先輩こと埴之塚光邦(演:小西詠斗)とモリ先輩こと銛之塚崇(演:加藤将)は、濃いキャラ設定に負けない存在感が光っていた。ぴょんぴょんふわふわと動くハニー先輩と直立不動なモリ先輩の対比が面白く、特に前に出てきていないシーンでも思わず目で追ってしまうオーラがある。中盤で見せるアクションシーンや、たまに登場する“ハニー先輩・オン・モリ先輩の肩”シーンは必見。寡黙なモリ先輩はセリフが少ないからこそ、僅かな所作で感情を表現しているのでお見逃しなく。
そして圧巻の表現力を誇るのが、山内演じるハルヒだ。誰よりも小さな身体で、舞台を所狭しと動き、自由な部員たちに振り回されつつも、知らずに周りを振り回している芯の強さを表現していた。他の部員たちとの身長差も理想的で、7人が並んだときのバランス感に原作ファンは両手を叩いて喜びたくなることだろう。
そんなハルヒの父であり母である蘭花こと藤岡涼二(演:良知真次)は、序盤からストーリーテラーとして活躍。ハルヒとの親子愛を感じさせるソロナンバーもあり、客席の涙を誘う。
桜蘭高校生徒として登場するのは、猫澤梅人(演:大海将一郎)、宝積寺れんげ(演:斉藤瑞季)、九瀬猛(演:柏木佑介)の3人。ホスト部のマネージャーを自称するれんげは登場シーンも多く、オタク女子高生としてファンの心を代弁していく。思わず「それな」と内心うなずきたくなるシーンも多いだろう。
黒魔術部部長の梅澤とアメフト部部長の九瀬は、ホスト部の面々に負けず劣らずの濃いキャラの持ち主。大海と柏木がそれぞれ振り切った怪演で、出番は多くないながらも魅せてくれたのが印象的だ。梅澤は中盤、九瀬は2幕でそれぞれ見どころとなるシーンが登場。彼らのアクの強い芝居をお楽しみに。
普通の人より数段階振り切った登場人物たちが織りなす、とんでもなくセレブな桜蘭高校での日常を描く本作。たしかに個性豊かなキャラクターが揃っているのだが、超人や異能が登場するわけではない。そういったド派手さはないものの、まっすぐな芝居がスッと心に染み込んでいくような、学園ものならではの素朴さが根底にはある。そのうえで、『桜蘭高校ホスト部』らしい賑やかさがスパイスとなって、寒い冬にそっと心を温めてくれるような作品に仕上がっていた。
賑やかでハートフルで華やかな桜蘭高校ホスト部へとつながる扉は劇場に存在していた。その扉を叩きに、劇場へと足を運んでみてはどうだろうか。歌劇『桜蘭高校ホスト部』は2022年1月15日(土)〜1月23日(日)天王洲 銀河劇場にて、1月29日(土)・1月30日(日)にメルパルクホールにて上演される。
取材・文:双海しお
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