レポート

15歳の青さと葛藤、文ステ「太宰、中也、十五歳」観劇レポート 描かれる“双黒”の起首

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文豪の名を懐いた魅力的でクセのあるキャラクターと異能バトルアクションが人気の『文豪ストレイドッグス』。舞台化第6弾となる舞台『文豪ストレイドッグス 太宰、中也、十五歳』が10月5日(火)、初日を迎えた。

2.5ジゲン!!では本公演の観劇レポートをお届け。ネタバレは避けた上で、本作の魅力やキャスト陣の見どころを紹介する。

15歳の青さと葛藤、“双黒”始まりの物語

舞台『文豪ストレイドッグス』シリーズを観劇する度に実感するのは、観ることで作品全体への解釈が深まり、キャラクターたちの輪郭がよりくっきりと浮かび上がる点だ。コミックスから始まり、小説・アニメという2枚のレンズを通して観てきたものに、舞台というもう1枚のレンズが重なることで、作品への視点が一歩奥へと押し広げられ、登場人物たちの生き様がより鮮明に感じられる。そんな作品ではないだろうか。

シリーズ最新作となる舞台『文豪ストレイドッグス 太宰、中也、十五歳』も、その例に漏れず、作品を知っていれば知っているほどその深みを感じられる内容に仕上がっていた。

物語は、後に「双黒」と呼ばれる中原中也(演:植田圭輔)と太宰 治(演:田淵累生)の出会いを描く前日譚。本編から7年の時を遡り、当時15歳だった二人の最悪の出会いと、そのきっかけとなったある出来事を描く。

中也は未成年の互助組織「羊」で「羊の王」と称されるリーダー格の人物。一方で太宰は、自身を拾ったポートマフィアの新首領・森 鴎外(演:根本正勝)から指示を受け、初任務に就く。二人はそれぞれの目的のため、ヨコハマの街に広がる「アラハバキ」の噂を追いかけ、そして出会い――。

前作で初タッグを組んだ植田と田淵の揺るぎない信頼関係が、芝居の狭間から匂い立つようにあふれ出ていた。出会った瞬間から気に入らない、まさに“犬猿の仲”である二人が、森 鴎外の思惑でバディとなる。二人を観ていると、前作で二人が『DEAD APPLE』を演じた意味について思いを馳せてしまう。

本作の見どころは、なんといっても15歳の彼らだ。15歳といえば、無邪気な子供でもなく、聞き分けのいい大人でもないという、葛藤するお年頃である。「異能」と特殊な過去を背負っている二人を一般的な15歳に当てはめて考えるのはナンセンスかもしれないが、それでも15歳の中也と太宰には、彼らなりの未熟さと青さが見て取れた。

強さに信念を求め、強さで仲間を守りまとめていこうとした中也の挫折と葛藤。諦観の中に一筋の光を見出す太宰の心の動き。そういった15歳が抱えるにはあまりに重いものを内に秘めながらも、普段の二人のやり取りは思わず微笑ましくなってしまうほど幼い。15歳らしい子供っぽさが見事に表現されているからこそ、その影に潜む闇の深さに息を呑んでしまう。

二人の実に子供っぽい言い争いを永遠に観ていたい気持ちになるが、本作にはさらに「双黒の共闘」という見どころもある。冒頭からアクションシーンが多く、特に中也のこれだけの手数が観られるのは『太宰、中也、十五歳』ならではだろう。

中也は冒頭の登場シーンから、アクション全開。佇まいだけで前のめりな勢いと強さを表現できてしまうのは、初演から同役に向き合い続け、原作を愛してやまない植田だからこそ。登場時の演出も含め、その痺れる空気感がたまらない。安定した体幹から繰り出されるアクションは、ときにこれが生身の人間の動きなのか? と疑ってしまうほどだ。序盤と終盤でのアクションの違いを楽しんだ上で、過去作品を見返して15歳と22歳のちょっとした動作の違いを見比べてみるのもいいかもしれない。

二人を父のような眼差しで見守っているのが、今作初登場となる根本正勝が演じる森 鴎外だ。コミカルで飄々とした一面を見せつつも、組織というものの本質を捉え、先を見据える切れ者の顔を不意に覗かせる。森が中也や太宰にかける言葉は重く、現在の二人に至る過程で、彼の言葉が大きな意味を持ったことは間違いないだろう。深みと説得力を感じる芝居はもちろん、「新米パパ」的な表情もぜひ楽しんでもらいたい役どころだ。

大人な雰囲気といえば、同じく初登場の細貝 圭演じる蘭堂も魅力的。繊細でいて力強い芝居が、中也や太宰と交わる中で、色合いが変わっていったのが印象的だ。長年培ってきた表現力が、本作で遺憾なく発揮されていた。

ポートマフィアに関しては、尾崎紅葉や広津柳浪が久々に登場。尾崎の所作は一つ一つが妖艶で思わず見入ってしまうし、広津に関しては今作ではアクションも楽しめる。

一方で羊では白瀬(演:伊崎龍次郎)が初登場。伊崎が生み出した白瀬の人間臭さがあったことで、中也との関係性がよりリアルに肉薄するものになっていた。

敬意と愛で広がる舞台『文豪ストレイドッグス』の世界

初演から演出を手掛ける中屋敷法仁は、本作でも演劇的でダイナミックな動きと想像を掻き立てる余白で、「異能」の力と異能者たちの心の内を浮かび上がらせていた。8人の「ドッグス(アンサンブル)」が生身で表現する世界観は今作でも健在。

アナログで体温を感じる世界観と、プロジェクションマッピングを駆使したデジタルな「異能」表現、そして、そこに熱量を持った役者の芝居が掛け合わされることで、舞台でしか感じられない息遣いがステージ上に生まれていた。

冒頭で触れたように、観る度に作品へのピントがより合っていく舞台『文豪ストレイドッグス』シリーズ。その根幹には脚本・演出や芝居に宿る、原作への敬意と愛の存在が大きいのだろう。各メディアミックス作品で描かれたこと、描かれなかったこと。それらを内包しつつ補完しあうような形で、『文豪ストレイドッグス』という作品自体が大きく成長していっているような印象だ。

もちろん、本作『太宰、中也、十五歳』だけを観ても、内容は十分に理解できるし面白い。しかし前述したような性質を持っているからこそ、本作で得たレンズの上に、さらに過去作品や他媒体の『文豪ストレイドッグス』が持つレンズを重ねて、より深いところまで作品を覗いてみてはどうだろうか。

ついに描かれた双黒の始まりの物語。二人の序章を目の当たりにしたことで、観劇後、改めて過去作品を見返したい気持ちがふつふつと湧いてきた。今作を観ることで、現在の中也や太宰に対して新たな視点が生まれるかもしれない。

『太宰、中也、十五歳』ならではの未完成で発展途上な15歳の中原中也と太宰 治を、ぜひ劇場や配信で味わってみてほしい。

取材・文:双海しお/舞台写真=撮影:田中亜紀/(C)舞台「文豪ストレイドッグス 太宰、中也、十五歳」製作委員会

配信情報
■対象公演
1.10月9日(土)13:00公演(全景配信)
2.10月9日(土)18:00公演(全景配信)
3.10月23日(土)13:00公演(スペシャルスイッチング配信:中原中也)
4.10月23日(土)18:00公演(スペシャルスイッチング配信:太宰 治)
5.10月24日(日)13:00公演(大千穐楽スイッチング配信)
■配信媒体
Streaming+
■チケット詳細・申し込み
https://eplus.jp/sf/word/0000121779

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公演情報

タイトル

舞台「文豪ストレイドッグス 太宰、中也、十五歳」

ライブ配信特設サイト

https://eplus.jp/sf/word/0000121779

日程・会場

2021年10月5日(火)~12日(火)
東京・よみうり大手町ホール

2021年10月16日(土)~17日(日)
大阪・COOL JAPAN PARK OSAKA WWホール

2021年10月21日(木)~24日(日)
東京・シアター1010 大ホール

原作

TVアニメ「文豪ストレイドッグス」

脚本・演出

中屋敷法仁

協力

朝霧カフカ・春河35

出演

中原中也役:植田圭輔
太宰 治役:田淵累生

広津柳浪役:加藤ひろたか
尾崎紅葉役:夢月せら
森 鴎外役:根本正勝

白瀬役:伊崎龍次郎
蘭堂役:細貝 圭

アンサンブルキャスト:大石 樹、大津朝陽、岡村 樹、山中啓伍、有光麻緒、窪田夏朋、美守 桃、望月さあや

企画

舞台「文豪ストレイドッグス 太宰、中也、十五歳」製作委員会

制作

バンダイナムコライブクリエイティブ/ゴーチ・ブラザーズ

協賛

アンビション/アルジャーノンプロダクト/タピオカ/エフドットハート

公式サイト

http://bungo-stage.com/

公式Twitter

https://twitter.com/bungo_stage

(C)舞台「文豪ストレイドッグス 太宰、中也、十五歳」製作委員会

WRITER

双海 しお
 
							双海 しお
						

アイスと舞台とアニメが好きなライター。2.5次元はいいぞ!ミュージカルはいいぞ!舞台はいいぞ!若手俳優はいいぞ!を届けていきたいと思っています。役者や作品が表現した世界を、文字で伝えていきたいと試行錯誤の日々。

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