メディアミックスプロジェクト「Zoo-Z」の第1弾として幕が上がった「Zoo-Z the STAGE -コンクリート・ジャングル-」。新シリーズ1作目ならではの緊張感の中、物語は動き始めた。
本記事では7月7日(水)に初日を迎える本作のゲネプロの様子をお届けする。ネタバレは含まないが、劇中ショットと公式から公開されている人物像や人間関係、あらすじなどには触れているので注意してほしい。
真正面から問う「生きる」ということ
本作を観劇して真っ先に思い浮かんだことは、「命の物語」の看板に偽りなし、だ。
多くの事情を抱えた人々が行き交う街・新宿を舞台に、人に紛れて生きる、動物から独自の進化を遂げたヒトではない人々「化人(けにん)」の群像劇が描かれていく。
昭和の刑事ドラマに登場しそうな熱血な刑事・新城大輔(演:中島礼貴)は、ある出来事をきっかけに異動を命じられる。異動先は憧れの警視庁。しかし彼を待っていのは、通称「動物園」と呼ばれている、警視庁内でもはみ出し者たちが集められた「警視庁生活安全総務課 生活安全対策特別捜査隊」だった。
▲左から藤堂礼央(演:五十嵐啓輔)と新城大輔(演:中島礼貴)
そこで初めて新城は、化人の存在について知らされることに。さらに、彼自身も非常にレアな後天性の化人であることを教えられるのだ。新城はどこかやる気のない藤堂礼央(演:五十嵐啓輔)とコンビを組んで、化人関連の事件を追っていくことに。
彼らが担当する新宿には、カリスマ・カオル(演:鮎川太陽)が率いるSquadや、昔気質のヤクザ・虎狼会、流れもののワケありの若者たちが集い、雑多な街らしい様相を見せる。その中でも、「喫茶キバタン」は化人の社交場となっており、化人独自のネットワークが形成されている。
▲「「喫茶キバタン」で出会う大学生3人組とSquadのシンジ(演:小栗諒)
騒がしくも一見調和が取れているこの街に、ポタリポタリと染みのような違和感が生まれ始める。数滴だった違和感はやがて波紋となって広がり、新城の過去をも巻き込んだ化人の命を脅かす大きな事件へとつながっていき――。
事件をきっかけに登場人物たちは、それぞれの胸にある「生きる」という言葉と向き合っていくことになる。「生きる」ことはある者にとっては前を向くための背中を押してくれる言葉であり、ある者にとっては呪いだ。初めて化人に触れた新城は、この一件を通して果たしてどんな答えを見出すのだろうか。ぜひ劇場で見届けてほしい。
荒々しく強烈な「生きる」というメッセージ
冒頭でも触れたように、本作は生きることをテーマとしている。生命という決して軽くはないものを描くとあり、重さと緊張感に包まれていたのが印象的だ。
同時にバディもの刑事劇の勢いと熱さも兼ね備えている。古くから愛されている王道の刑事ものの面白さは、いつの時代も廃ることなく観る者の心を熱くする。本作の「動物園」も、刑事ものの定石をしっかり押さえた設定になっていることで、予定調和の安定した面白さをもたらしてくれた。
刑事ものとしてみれば、とても王道な本作。それを良い意味で崩し波乱を生み出すのが、化人という未知の設定だ。観客は何も知らない新城と共に、化人について知っていくことになる。最初は「本性(何の動物に覚醒しているか)」や、化人ならではの「本能(動物由来の能力)」といった言葉に、ややファンタジーな世界を観ているような気持ちになる。
ところがストーリーが進み、化人として生きることの苦悩や、化人の個性を目の当たりにしていく中で、化人は私たちと同じであると気付かされるのだ。ヒトであれ化人であれ、生まれ持った自分を根本から作り変えることはできない。与えられた自分という存在の中で、外からは視えない気持ちや悩みを抱え、生きていくしかないのだ。
▲化人の久実(演:塙さより)とヒトのハヤテ(演:輝山立)の姉弟
“普通”とは一体なんなのだろうか。作中の化人が、姿形のない“普通”というものに絡め取られ苦しんでいた姿が、観劇後も胸にこびりついている。ヒトとして生きる観客も、化人たちが味わった生きづらさを、人生のどこかで味わったことがあるのではないだろうか。それに気がついたとき、本作はファンタジーではなく、無骨なまでに生きることを追求する物語だと痛感した。
強烈な「生きる」という意思で、思いっきり頭を殴られるような、そんな荒々しくも生命力に満ちた「Zoo-Z the STAGE -コンクリート・ジャングル-」。今後のメディアミックス展開の中で、誰のどんな物語がつづられていくことになるのか、楽しみで仕方がない。
各キャスト見どころレポート
ここからは各キャストのソロショットを中心に、見どころを紹介していく。
まずは「動物園」の面々。上述したように観ていて気持ちの良いベストバランスなチームだ。熱血漢な新城は、熱血キャラにありがちな自分の正義感を押し付けてくるような図々しさがなく、本当に気持ちの良い青年だ。熱血でありながら、柔軟性に富んでいて、すっと観る者の心に染み込んでくるような澄んだ存在感があった。
一方で五十嵐演じる藤堂は、なかなかやる気スイッチがオンにならないタイプ。序盤はとくにダラけているのだが、それでもにじみ出るキャリア組のエリート感がたまらない。彼も色々と抱えている事情が多そうだったので、今後の深堀りに期待したい。
チームのムードメーカー・山田一鉄(演:反橋宗一郎)は、反橋の面倒見の良いお兄さん的な一面が生かされている役どころ。きちんと言葉にして伝えてくれる彼がいることで、化人初心者である新城や観客は、化人の心の一端を知ることができる。
▲反橋の得意なアドリブの有無にも注目したい
温厚な上司・川田勉(演:川末敦)に、いい人オーラ漂う仙波美冬(演:松下軽美)は、本性の動物のエッセンスを混ぜ込んだ、細かな芝居に注目を。紅一点であり頼れる姉御肌な加藤澄江(演:音羽美可子)は、意外にも武闘派。刑事ものにつきもののアクションでの活躍を楽しんでもらいたい。
新宿を拠点とする若者グループ・Squad。リーダー・カオルを演じる鮎川が放つカリスマオーラが半端ではない。そこにいるだけで華がある彼のハマり役と言えるだろう。
▲周りとの身長差もカオル(演:鮎川太陽)の「本性」にぴったり
彼と一緒に行動しているのが、シンジ(演:小栗諒)とハヤテ(演:輝山立)の2人。あまりに生き方が不器用なシンジは、今にも消えてしまいそうな儚さが漂う。その危うさに、カオルやハヤテだけでなく、多くの観客が母性本能をくすぐられてしまうはずだ。
▲公式紹介の「幸薄」で想像していたものよりさらに儚い印象だったシンジ(演:小栗諒)
輝山演じるハヤテは、化人の姉・久実(演:塙さより)を持つヒト。化人本人だけでなく、その家族も別の苦悩を抱えているということが、ハヤテの存在を通して描かれていく。彼はヒト側の存在なので、観客にとっても感情を重ねやすい人物だろう。姉との関係性の変化は、2人の熱演によって涙なしでは観られない熱いシーンに仕上がっていた。
▲輝山の熱演光る回想シーン
昔から新宿にある虎狼会の若頭が、日向野祥演じる遠井仁だ。普段は地域の顔役としての立場もあり、鋭い眼光で街を見つめている。一方で幼馴染の山田と一緒にいるときは、空気が柔らかくなる。そのギャップや、若頭らしいスリーピースのスーツ姿は、刺さる人にはかなりグッとくるだろう。
▲幼馴染組はぜひ今後深堀りしてほしい
化人の社交場となっている「喫茶キバタン」。店主の木場宗一郎(演:塩崎こうせい)と、バイトの生田麻里(演:篠崎こころ)も化人だ。そこに常連としてよく顔を出している大学生3人組が、永峯佐喜人(演:上仁樹)と大平優(演:三谷怜央)、嶋村透留(演:石川翔)。
▲キバタン組
▲いつも一緒の仲良し3人組
事件の間に挟まる「喫茶キバタン」のシーンは、癒しの時間だ。立場や職業を越えて多くの化人が集まってくるのも納得の、アットホームな温かさが漂う。大学生3人組は、本人とシンクロするような役どころとなっていたのが印象的だ。上仁演じる佐喜人はニコニコと笑顔で3人のバランスを調整し、三谷演じる優は切れ味ある関西弁で真理を突いていく。3人の中では唯一ヒトの透留は、石川のフレッシュな芝居が活きた真っ直ぐで素直な青年に仕上がっていた。
▲カップの持ち方すらも可愛い佐喜人(演:上仁樹)
▲しっかりちゃっかりしている印象の優(演:三谷怜央)
▲人懐っこい笑顔でシンジの心を開く透留(演:石川翔)
外から新宿に流れ着き、「喫茶キバタン」にやってくるのがテル(演:秋葉友佑)と真鍋ちい(演:新川眞白)だ。居場所を無くし新宿にやって来た2人にとって、この場所がホームとなるのか。本作を観ると、不思議な縁と絆で結ばれている2人の今後が気になることだろう。
▲憂いを帯びているテル(演:秋葉友佑)の過去とは…
最後に紹介するのが、亜久津遼(演:成松慶彦)とオサム(演:宮岸泰成)のミステリアスな2人だ。一貫して謎めいた存在感を放つ2人は、劇場の高さを活かしたセットの最も高い足場から客席を見下ろすシーンが多い。
彼らは果たして何を見つめているのか。そんなところにも注目してみると、より一層本作を楽しめるのではないだろうか。
ヒトや化人の生命の数だけドラマがある。まずは舞台として動き出した「Zoo-Z」プロジェクトは、その生命の叫びをこれからどんな形で伝えてくれるのか楽しみで仕方がない。
取材・文・撮影:双海しお
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