プロジェクトが発表され、キャストが発表され、キャラクターとキャストが一心同体となり一歩一歩着実に歩んできた「ARGONAVIS from BanG Dream!」。初の舞台化となった「ARGONAVIS the Live Stage」は、彼らの軌跡と奇跡を丸ごと詰め込んだ作品だ。
本記事では同作の観劇レポートを紹介。舞台版ならではの見どころや魅力をお届けする。
音楽が全ての真ん中に、細部までこだわりぬかれた演出
物語は開演前からすでにスタートしている。客席に座っていると、舞台裏から聴こえてくるチューニングの音。普通の舞台ではなかなか味わえない臨場感が劇場を包み、観客の期待をあおっていく。
そしてついに幕が開くと、ガツンと全身を揺らすビートに乗せて、Argonavis(アルゴナビス)のライブが始まる。音楽が大好きで、奏でたくて、届けたくてたまらないんだ。そんな心の声がサウンドからほとばしっていた。
今のArgonavisがステージ上に存在するためには、ここへとつながる過去がある。ボーカルの七星蓮(演:伊藤昌弘)の語りにより、物語は彼らの始まりへと戻り、最初の一歩から描かれていく。
昔からのファンは記憶を一つずつ掘り起こしながら、目の前で改めて始まる5人の物語に目頭が熱くなるだろう。本作で初めてこのコンテンツに触れるという観客にとっても、導入編として綺麗にまとまっていたのが印象的だ。
そしてもう一つ目を引かれたのが舞台セットである。本作の舞台セッティングは舞台のものではなく、完全にライブをするためのそれだ。ステージ両端にはセットが組まれており、ライブ以外はこのセットを多用する演出となっていた。
決して広くはないこの両端のセットが、普段声優として活動しているキャストが多いこのカンパニーの強みを引き出していたように思う。そのセット上では大きく動けない分、観客の意識が自然と声にフォーカスされるのだ。声での芝居は彼らの主戦場とあって、舞台経験の有無に関わらず、すんなりと芝居を堪能することができた。
そしてステージ中央にドンと置かれたライブセットからは、彼らの心の真ん中にバンドがあることがひしひしと伝わってきた。彼らにとって何よりも大切なものが音楽。そんな無言のメッセージを受け取ったような気がする。視覚情報から受け取ったものを自分なりに解釈するというのも、舞台ならではの楽しみ方だろう。
もう一つ、音楽が核にあると感じたのが、楽器の使い方だ。本作ではSEやBGMが極端に少ない。代わりにキャスト陣の生演奏によってBGMがつけられていた。そういった細部まで行き渡っている音楽への真摯な取り組みが、作品に漂う音楽愛へとつながっているのではないだろうか。観劇の際は、感情とリンクする楽器の使い方にも注目してみてほしい。
ダブル橋本が魅せる役者としての存在感
本作では摩周慎太郎役の輝馬を除き、キャラクターボイスとキャストが同一人物となっている。これも本作の大きな魅力だろう。
誰よりもキャラを知る彼らが演じるのだから、これ以上ないほど“正解なキャラクター像”が浮かび上がるのだ。ファンにとって、こんなにも安心して観られる作品はなかなかないのではないだろうか。
そして、舞台版を語る上で欠かせないのが、舞台をホームとする白石万浬役の橋本祥平と里塚賢汰役の橋本真一の存在だ。彼らの舞台での魅せ方、観客の視線の引き込み方の巧さは、思わず感嘆のため息が漏れるほど。セリフ一つをとっても、その裏にあるドラマや感情を感じさせる。輝馬も含め、休みなく舞台にひっぱりだこの彼らの実力を感じずにはいられなかった。
カンパニーにこの2人がいることは、舞台化にあたり大きな意味があったのではないだろうか。その意味を、ぜひ劇場や配信で感じ取ってみてほしい。
音の化学反応で生まれる新たなアルゴナビスの世界
夜空を包む星あかりのような優しさと温もりを感じるArgonavisのパフォーマンスと、対照的に命を燃やすように魂を絞り出すGYROAXIA(ジャイロアクシア)のパフォーマンス。色の違う蓮と旭那由多(演:小笠原仁)のボーカルが混ざり合う光景は、直前までそれぞれの物語が描かれていただけに、心に刺さるものがある。
始まりの物語という下地の上に塗られていく色鮮やかな音。その音と音がぶつかり合い、ライブ中に新たな物語が生まれていく。この化学反応は、年単位で絆を深めてきた彼らだからこそ出せるものなのだろう。
生の芝居×生のライブ。これは極上のエンタメだ。生だからこその感動をいいとこ取りしているこの作品、味わわないのはもったいない。ここからもう一度、ArgonavisやGYROAXIAと共に歩き始めてみてはどうだろうか。そして観客の声援が、「ナビステ」第2弾、第3弾へとつながっていくことを願ってやまない。
取材・文:双海しお
広告
広告