「笑ゥせぇるすまん」THE STAGEが3月26日(金)、東京・品川プリンスホテル ステラボールで開幕。前日に行われたゲネプロの様子を劇中写真と共にレポートする。
本作は、藤子不二雄(A)による日本のブラックユーモア漫画「笑ゥせぇるすまん」の舞台化作品。主演の佐藤流司が「ドーーン!!」という印象的な台詞でおなじみの喪黒福造(もぐろふくぞう)を演じる。
演出は、2.5次元ミュージカルで独特の歌・ダンスに加え、笑いを創出する小林顕作。若干のネタバレをしつつ、作品の魅力を舞台写真とともに見どころをお届けする。
なお本作は元々、2020年4〜5月に公演が予定されていたが、新型コロナウイルスの影響により全公演中止となっていた。それを経て上演ということで、出演者・関係者共に万感の思いだろう。
今回描かれる原作エピソードは「イージー・ドライバー」「化けた男」「夢に追われる男」「社長幼稚園」「夜行列車」。どれも人間の心の隙間と欲望を描写し、特に「夜行列車」は短いエピソードながら人間賛歌とも呼べる名作である。
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この世は老いも若きも男も女もココロの淋しい人ばかり…。
舞台冒頭では、サラリーマンに扮装したキャストが電車通勤やパソコンのタイピングをしているような振りを組み込んだロックナンバ―が披露された。
これが冒頭にぶつけられるため、固定概念をしっかりと壊してくれ、やわらかい頭で本作に臨める緩衝材となっている。
また、原作はブラックユーモア作品であり、人間の痴態をあざ笑うようなことが多いわけだが、普通にお笑い的なノリで笑えるポイントが随所に埋め込まれているので、肩の力を抜いて楽しんでもらいたい。
スタイリッシュな喪黒福造が魅せる
佐藤流司が演じる喪黒福造は、予想以上に人間らしく、愛嬌のあるキャラクターだ。
原作の神出鬼没でひょうひょうとしている部分は踏襲しつつ、完璧に佐藤流司が演じる新しい喪黒福造になっていた。それは見た目としての表情であり、立ち振る舞いであり、歌も歌えば、華麗にダンスも踏む。
これまでの原作のイメージを覆す喪黒福造ではあったのだが、不思議と全編を通しての鑑賞後の感想は「喪黒福造」を見たといえるものだった。佐藤流司が佐藤流司として役に向き合っているからなのかもしれない。
彼ならではの「ドーーン!!」をぜひ目の当たりにしていただきたい。
心の隙間が埋まるエピソード「夜行列車」
人間の情けなさが「笑ゥせぇるすまん」の醍醐味ではあるが、SALE5「夜行列車」は、初期アニメシリーズでも第2シーズンの最終回を飾った名作で、他とは一線画している。
喪黒福造の関与は薄いものの、人間の“生きる”ということに真摯に向き合っており、それまでのサラリーマンや社会人の悲哀や滑稽さと相まって輝く、構成の妙といって良いだろう。
また、エピソードの合間にちょっとしたコーナーが入る部分がある。喪黒福造による心の隙間を埋めてくれる「ドーン」サービスや、空気循環のためキャスト(この日は松田昇大)が大きなうちわで客席を仰いでくれる。
息の詰まるようなエンディングを迎えるエピソードもあるので、いったん一息付けるのも嬉しい。緊張と緩和の相乗効果で、より本編にのめり込むことができた。
観る前はどうなるのか不安半分、期待半分で臨んだのだが、不安を完璧に払拭する出来に感動させていただいた。この時代だからこそ、喪黒福造という人間に意味を感じてしまう、そんな作品だった。
会場に足を運ぶのも、配信で視聴するにもどちらもお勧めである。必見の作品である。
文:木皿儀隼一
撮影:ケイヒカル
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