2020年5月6日から、ハイパープロジェクション演劇「ハイキュー!!」〝最強の挑戦者(チャレンジャー)〞のゲネプロ映像の配信が始まった。
惜しくも東京公演のみで中止となってしまったため、配信を待ち望んでいたファンも多いだろう。筆者も早速配信にて観劇をしたのだが、2回、3回、と繰り返し再生をする手が止まらず今に至る。
今回は、ゲネプロ映像を観劇してのおすすめポイントをお届けする。もしまだ未視聴の方の後押しになれば幸いである。既に観劇済の方とは、この感動を少しでも分かち合うことが出来れば嬉しい。
新しくも懐かしい演出 冒頭から鳥肌必至
過去作品からの演劇「ハイキュー!!」ファンならば、思わず興奮してしまうポイントがたくさん盛り込まれていた。
そのひとつ目が、演劇「ハイキュー!!」でお馴染みの八百屋舞台。傾斜のついたこの八百屋舞台と映像演出が重なると、まるで登場人物が画面から飛び出してくるかのような臨場感を味わうことが出来る。また、足元が円形に回る演出も久しぶりの復活を果たしている。
前作〝飛翔〞では、合宿や練習を通し、キャラクターたちそれぞれの成長をメインに物語が描かれていた。成長の結果が、この舞台を使った試合でどのように発揮されるのか。冒頭から期待が高まる。
毎回予想外の演出で観客の予想を裏切ってくれる演劇「ハイキュー!!」だが、今回もそれは健在。最初に舞台上に現れたのは、なんとDJブース。〝東京の陣〞で話題となった派手な衣装に身を包んだ木兎がステージを盛り上げ、木葉がMCを務める形で過去の試合内容を振り返る。
烏野高校と稲荷崎高校、両校が舞台上に登場して流れるのは演劇「ハイキュー!!」でおなじみのあの音楽。前作〝飛翔〞で今までの音楽が使われていなかったため、「新生烏野」はすべてが一新されたのかと思っていた。しかし帰ってきた和アレンジの楽曲に、動く足元の舞台装置。
演劇「ハイキュー!!」が始まった!とうれしくなってしまう。プロジェクションマッピングを用いてのオープニングも健在だ。「新生烏野」が全編通して試合を行うのは、今回が初めて。合宿を経て成長した姿を見ろという宣戦布告のようで、鳥肌が立ちそうなくらいカッコいい。
手に汗握る、怒涛の試合展開
観客の興奮が最高潮に達したところで、試合が始まる。試合開始当初から、アクロバティックなダンスを取り入れた動きに魅了されてしまう。
宮 侑(演:松島勇之介)の強力なサーブやブーイングなど、早くもリズムを崩され劣勢を強いられてしまう烏野。一筋縄ではいかない稲荷崎の迫力に圧倒されてしまいそうになるが、そんな状況を打破してくれるのは烏野の応援団。
和太鼓と共に舞台上に現れた田中冴子(演:安川里奈)の鉢巻き姿に、思わず冴子姐さん…!と叫びたくなってしまう。ここから続く烏野と稲荷崎の応援合戦も、見どころのひとつだ。
今作では、烏野は和太鼓や笛が多く用いられている。対する稲荷崎は、ブラス調の音楽となっていた。臨場感たっぷりの音楽とともに進む試合に、実際に観客席に座っているような錯覚を覚えるほどだ。
もう『新生』ではない 烏野高校排球部
演劇「ハイキュー!!」は、先述したように役者の身体能力を活かしたパフォーマンスや最新の演出が印象的だ。だがそれも、胸を締め付けられるような熱いシナリオがあってこそ。ステージの上に立つ彼らは全員が等身大の高校生で、だからこそ観客の胸を打つ。全員にそれぞれの魅力があるのだが、やはり今回は日向翔陽(演:醍醐虎汰朗)の成長を推したい。
試合後半。日向の一本のレシーブが、試合の流れを変える。まぐれでもなんでもなく、何千という練習を積み重ねてきた末のレシーブだ。今までずっと、影山飛雄(演:赤名竜之輔)は日向のことを「下手くそ」と言い続けてきた。
そんな影山から向けられる「ナイスレシーブ」の一言に、思わず涙腺が熱くなる。バレーに貪欲な日向の姿は、周囲にも影響を及ぼす。上へ上へと進む日向に、小さな巨人の片鱗を見た気がした。
チームの中心となる日向の存在は、烏野全体の成長に繋がっていたようにも思う。勝ちだけを見て戦い続ける彼らの姿は、もう飛べない烏ではなかった。青葉城西や白鳥沢といった強豪校との戦いを経て、立派な強豪としての貫禄を纏っていた。
そしてそれは、キャラクターだけではなくキャスト陣も同様である。〝最強の場所(チーム)〞で烏野キャスト陣が卒業し代替わりになって以来、彼らは「新生烏野」と呼ばれていた。初々しさやフレッシュな若々しさも魅力のひとつだったが、今作ではそうした雰囲気は一変。彼らはもう、新生ではないのだと感じた。
一気に終盤へと加速を続ける試合展開からは、一瞬たりとも目を反らすことが出来ない。常に前だけを見続けている二校の決着は、ぜひその目で見届けて欲しい。
‶最強の挑戦者〟 稲荷崎の魅力が光る
画面越しの観劇であるにも関わらず、舞台からの熱気は十分過ぎるくらいに伝わってきた。VS稲荷崎戦は原作でも人気の試合だが、それを差し引いても〝最強の挑戦者(チャレンジャー)〞は熱い展開だった。
今作がこんなにも熱い試合展開となったのは、烏野に立ちはだかる稲荷崎の存在感も大きな理由のひとつだろう。‶飛翔〞での登場以来、稲荷崎は満を持してチームメンバーが揃うことになった。
まず稲荷崎、登場からして文句なしにカッコいい。原作32巻の表紙の如く、提灯を持った北 伸介(演:高田 舟)が先頭に立つ稲荷崎の入場シーン。立ち姿からして、強豪校の貫禄が伝わってくる。
侑や治は、新しいプレーに対しても迷いなく飛び込んでいく。この2人が“動”の主軸であるなら、北は“静”の主軸だ。トリッキーな動きや突出した能力を持っていないにも関わらず、相手チームに絶望を与え続ける役割を高田はうまく担っていた。
角名倫太郎(演:楚南 慧)は長い手足を活かしたブロックが原作さながらの不気味な雰囲気で、烏野高校を追い詰めていた。尾白アラン(演:大日向コリン)のビジュアルの再現度に、驚いた人も多いだろう。試合中の力強いスパイクはもちろん、二幕冒頭の漫才にも注目していただきたい。治と侑、アランの漫才から過去回想へと入る自然さに、思わずくすっと笑い声が零れてしまう。
そしてもちろん、欠かせないのが最強ツインズ宮兄弟。事前インタビューで、神里は互いのことを「言いたいことを言い合える関係」と語っていたが、その信頼が宮兄弟の関係に深みを持たせていた。シンクロダンスや、即興での変人速攻など、息の合った2人の演技は稲荷崎が強豪校たる所以を言外に物語っているようだった。
とはいえすべてがシンクロしているわけではなく、試合となると5歳精神年齢が下がる侑の無邪気さや、侑を補完する治(演:神里優希)の姿など、2人の違いも原作さながら。侑と治、それぞれが持つ魅力を存分に引き出してくれていた。
息を飲むような怒涛の展開でありながら、烏野VS稲荷崎の根底にあるのは、「バレーが好き」「バレーが楽しい」「試合が楽しい」という気持ちだろう。変人速攻を即興で取り入れる宮兄弟や、劣勢の中でも決して折れない日向の姿からは、たくさんの「楽しい」という気持ちが伝わってくる。
それを演じる役者からほとばしる熱や空気のうねりは、画面越しにも関わらず観客たちを魅了するだろう。登場するキャラクターたちは、総勢25名以上。ひとりひとりに物語があった今作は、演劇「ハイキュー!!」の中でも屈指の熱い作品となっていた。
本作のゲネプロ映像は、5月31日(日)までDMM動画サイトにて配信されている。詳細は公式サイトを確認してほしい。
バケモンたちの宴と呼ぶにふさわしい今作が、どうかひとりでも多くの方のもとに届くことを祈っている。
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