2012年にNitro+CHiRALより発売されたBLゲーム「DRAMAtical Murder」を舞台化した作品、脳内クラッシュ演劇「DRAMAtical Murder」が2019年12月20日(金)に幕を開けた。
2012年の発売以降、ファンディスクやテレビアニメ、サウンドトラックやドラマCDと様々な広がりを見せている「DRAMAtical Murder」。今年7月にはお手軽価格になった普及版も発売されたばかりと、未だに人気の衰えを見せない作品である。
長い間根強い人気を保っている作品の舞台化とあって、楽しみにしていた方も多いのではないだろうか。筆者もその一人だ。
今回は、本公演に先立ち行われたゲネプロの様子をお届けする。脳内クラッシュ演劇とは一体何か、是非とも体感していただきたい。
個性的なキャラクター達が勢揃い! 最高のビジュアルを見よ
原作の「DRAMAtical Murder」は、シナリオの濃密さが大きな魅力である。交錯する様々な思いを2時間10分の芝居に濃縮した脚本は、内田裕基によるもの。
キャラクター達がテンポよく補足を入れてくれるため、原作を知らない初見の方もストーリーを楽しむことが出来るだろう。
舞台となるのは、日本の近未来のとある離島、碧島。碧島は東江財閥が有する「プラチナ・ジェイル」と呼ばれる総合リゾート地と、元々島に住んでいた原住民の街「旧住民区」に二分されていた。
主人公の蒼葉(演:永田聖一朗)は、旧住民区でジャンクショップ店員として働いており、祖母のタエと平凡な生活を送っている。
しかしその平凡な日々も、とある事件をきっかけに壊れていく――というストーリーは、原作準拠のもの。
今回の舞台では、内容の一部が回替わりで上演される。ゲーム同様、5パターンのルート分岐となっているのだ。
前半は、蒼葉とキャラクター達の関係性や事件が起きるまでのストーリーとなっている。
キービジュアル発表時にはTwitterでトレンド入りを果たすなど、公演前から強い期待が寄せられていた今作。
そのビジュアルは舞台に立っても損なわれず、むしろキャラクターがそこに生きているという感覚に感動を覚えたほどだ。
▲蒼葉役:永田聖一朗
原因不明の頭痛に悩まされているが、それ以外はごく普通の青年である蒼葉。怒ったり笑ったりと、平凡な姿が目立つ。
だからこそ、個性の強いキャラクターと掛け合わさることでお互いに魅力が引き出されているのだろうと感じた。
屈託のない笑顔は眩しくて、周りの心を掴んで放さないという説得力があった。蒼葉は最初から最後まで、始終舞台に出ずっぱり状態。5ルートもあるとなれば、その台詞量も膨大だろう。
しかしそんな大変さを少しも見せない、等身大の蒼葉がそこにはいた。別の自分が同居しているという、多重人格の芝居も必見である。
筆者も蒼葉の魅力に心臓を鷲掴みにされた一人なので、生の蒼葉を是非劇場で見てくれ! という気持ちでいっぱいだ。
▲紅雀役:小波津亜廉
蒼葉の幼馴染の紅雀は、女性に大人気の髪結い師。初登場シーンからキャーキャーと黄色い声援が飛んでいるが、違和感は一切ない。
これは間違いなくモテる。観劇しながら、筆者は思わず頷いてしまった。
頼れる兄貴分の紅雀だからこそ、蒼葉にだけ見せる優しい表情のギャップも見逃さないでいただきたい。キャラクター達の中で唯一長物を持っての立ち回りも見どころのひとつだ。
▲ノイズ役:富園力也
体中にピアスのあるノイズは、無表情でいることが多い。
普段は笑顔が眩しい富園だが、舞台の上では鋭い目付きが印象的であった。
クールなノイズを憑依させた演技で二幕でも活躍していたが、これで初舞台だと言うのだから驚きである。
蒼葉と触れ合う中で絆され、次第に心を開いていく様子をノイズルートで是非見て欲しい。
▲ミンク役:八巻貴紀
元囚人のミンクは、蒼葉を自分の目的のために利用しようとしたりと謎が多いキャラクターである。
体格は勿論だが、舞台に立った時の雰囲気に存在感がある。
蒼葉との生身のぶつかり合いは、舞台の上だからこそより映える演出となっているだろう。
▲クリア役:山縣悠己
蒼葉のことを「マスター」と呼び慕うクリアは、常にガスマスクという出で立ちをしている。
その不思議な言動とは裏腹に一挙一動がキュートで、思わず目を惹かれてしまう程の愛らしさに溢れていた。
しかも山縣のクリアは、可愛いだけではないというのが卑怯だ。劇中、そしてEDのダンスのキレも要注目。今回が初舞台とは思えないクオリティであった。
▲ウイルス、トリップ役:富永勇也、吉岡佑
双子のようにそっくりだが、双子ではない二人。
蒼葉の近くによく姿を現す謎の存在として登場する二人は、物語のストーリーテラー的なポジションも担っている。
凛と伸びた背筋が美しいウイルスと、気だるげな雰囲気でそこはかとなく色気を漂わせるトリップの二人が並んだ際の対比は、きっと原作ファンの胸にも刺さるはず。
▲蓮&セイ役:山﨑晶吾
オールメイトの蓮の人間体、そしてセイという二役を兼ねる山﨑は演じ分けの繊細さが光る。
特にライムでの蓮の姿は、肉体美も眩しく格好いいの一言に尽きる。オールメイトの可愛らしさとのギャップに、ときめくこと間違いなしだろう。
▲ミズキ役:岩城直弥
一幕で大活躍のミズキは、蒼葉のことを何かと気にかける友人。リブチーム最大勢力のヘッドであるミズキは、仲間思いの姿が眩しい。
そんなミズキがチームへの思いを吐露する姿には、思わず涙腺が熱くなってしまった。
他にもアクの強い悪島(演:守谷勇人)がメガホンを振り回す姿、演出の一端を担うアンサンブルのキレのいいダンスなど見所が多くある。
全部を追いかけようとするうちに、筆者は何度脳内をクラッシュされたかわからない。
キャラクターの魅力が光る第二幕
後半は、物語の真髄に迫ることになる。各キャラクターが抱えている過去や想いに焦点を当てたシーンは勿論、蒼葉との絡みなど、それぞれの魅力が十分に発揮されている。
いわゆる推しカプの回は勿論だが、筆者は他の回の観劇も強くおすすめする。回替わりの内容は、それ程魅力的だった。
公開ゲネプロでは、ノイズルートが公演された。ネタバレの関係もあり全てをお伝えすることが出来ないのがもどかしいが、見どころをいくつか紹介させていただこう。
18禁部分は、読者が気になるシーンの一つだろう。蒼葉とノイズの絡みには、原作ほどの肌色要素はない。
だからこそ、音楽や照明による表現に想像力が掻き立てられるという印象を受けた。二人のダンスが漂わせる淫靡な雰囲気は、生で観劇してこそグッとくるはず。
お互いを思うがあまりに相手を遠ざけようとする蒼葉とノイズの姿は、胸が苦しくなるほどの愛を感じた。
時に暴力的にぶつかり合うのも、この二人ならではだろう。
ちなみにキスシーンについては、惜しみなく表現されている。噛みつくようなキス、思いを通わせ合った後のキスなど、ひとつも同じものはない。しかしその全てが、心臓をぎゅっと締め付けるような切なさを訴えてくる。
照明も相俟って、美術品を見ているかのような美しいシーンに心を奪われる観客も多いだろう。
数々の試練を乗り越えて迎える二人の結末は、是非とも劇場で見届けていただきたい。
脳内をクラッシュされる、新感覚の演劇!
EDは、スタイリッシュな音楽と共にキャラクターが勢揃いする。キレのあるダンスに圧倒されること間違いなしである。
脳内クラッシュという単語に最初こそ筆者は首を傾げたが、観劇後には「なるほどこれが……」と納得してしまっていた。
演出の中屋敷法仁や脚本の内田裕基をはじめ、魅力的なキャスト陣に頭を掻き混ぜられたような感覚は、まさしく脳内をクラッシュされた、これ以外の表現が見つからない。
なお今回は、残念ながらDVD化の予定はないとのこと。生きている彼らに会えるのは、今のこの瞬間だけである。その生きざまを、網膜に焼き付けることをおすすめする。
もし観劇を迷っている方がいるならば、是非劇場に足を運んでいただきたい。この新世界の目撃者になって欲しいと、切に願う。
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