今回はとある作品がそのタイトルを冠するうえでもっとも欠かせないものーー“原作の存在”について触れてみたい。原作を愛しているから観える世界、舞台で初めて出会うから味わえる世界。
予習する場合としない場合、それぞれの醍醐味を少しばかり覗いてみよう。
もくじ
SCENE1 予習する人
「予習」という言葉は、役者ファンの立場に立ったかなり偏った言い方である。なぜなら原作ファンには基本的に予習という概念が生まれないからである。原作ファンにとって、その作品はすでに耕してきた畑であり、入るべき墓であり、心に燦然と輝くバイブルだ。
一方、キャストや脚本家のファン、友人に誘われて……といった場合は、予習すべきか否かという問いが発生する。
原作を予習する派の人は、ストーリーの大筋を掴んでおきたい、どのキャラクターにどんな見せ場があるか知っておきたい、あらすじを頭に入れたうえで演技に注目したい、なんとなく知っておかないと原作ファンに失礼な気がする……といった理由の場合が多いんじゃないだろうか。
とくに推しの役者がいるなら、そのキャラクターに注目して原作を予習する人も多いだろう。
「このシーンのこの台詞、どうやって演じるんだろう」とか、「これを演じている推しを個の目ではやく観たい!」とか。予習がモチベーションに直結して、情報解禁から公演初日までの日々に彩りを添えてくれる。
幕間 予習するメリット&デメリット
予習した場合に得られる楽しさは、「答え合わせ」の楽しさだ。ステージ上でお気に入りキャラや推しが決めポーズ・台詞を発動した瞬間、あなたはどうなるだろうか?
「原作で見たヤツ!!」「完璧に再現されてる……!」「これぞ舞台化……(尊い)」とテンションが沸騰するんじゃないだろうか(筆者はわりとそうなる)。そうなるには、前知識があってこそなのだ。
また、ストーリーにも答え合わせの楽しさが詰まっている。
原作のストーリーをそのまま脚本にしている舞台はそう多くない。3時間弱の上演時間におさめるために、オリジナルの結末が用意されていたり、シーンが変動していたりということはよくある。
「お気に入りのシーンがカットされた」という悲しみを背負うこともゼロではないが、その違いも含め「そうまとめるのか」「こちらとあちらのシーンをつなげたのか」と多くの気付きが得られる。
この答え合わせの楽しさは、予習するメリットでもあり同時にデメリットにもなり得る。いわゆる「解釈違い」が発生しやすくなるのだ。
「私の知っているそのキャラは、そんなことをしない」「そのストーリーのまとめ方だと辻褄が合わなくなる」等。どこかで味わったことがある読者もいるんじゃないだろうか?
原作を深く知れば知るほど、愛せば愛するほど、舞台という第三者によってもたらされる新しい解釈に翻弄されてしまう。
だがしかし、この解釈違いの部分をクリアできれば、熱心な原作ファンほど舞台を楽しめるだろう。
なぜなら、ステージ上は小ネタの宝庫だ。スポットライトの当たらないところ、暗転間際、舞台袖に捌けていく瞬間。そんなささやかな瞬間にも原作ファンなら気づくことができる演技や演出が仕込まれていたりする。
当然目が足りないだろうし、全部は拾いきれないだろう。それでも「この作品の原作を知っていてよかった」と思えるシーンに出会えるはずだ。それこそが予習した者の醍醐味なのだ。
SCENE2 予習しない人
次に「予習」をしない人について考えてみる。
これだけ世の中に2.5次元作品があふれている時代、いろんなタイトルを観る人にとってはすべてを予習するのは物理的に難しいかもしれない。予習したくても、学校や仕事で忙しくて予習できないまま観劇日を迎えることもあるだろう。
あえて予習しない人も、もちろんいる。
結末を知ってしまうと面白みを感じられない、推しが演じるキャラクターをなんのフィルターを通さず受け取りたい、なんともいえない初めてのドキドキを味わいたい。
知らないからこそ抱く高揚感を胸に、劇場に向かうのである。
幕間 予習しないことのメリット&デメリット
まっさらな状態で得られるのは「新鮮」な楽しみだ。
推しのことで興奮して記憶がどこかに行ってしまうことも稀にあるかもしれないが、基本的に人は「知った」ことを「知らない」ことにはできない。
一度知ってしまうと、知らない状態には当然だが戻れない。だからこそ、1回目の観劇でしか味わうことの出来ない「知らない」状態での観劇を、最高にドラマチックに楽しもうと思うと予習しないというスタイルに行き着くのだ。
原作があるため、先の展開を予想できてしまう作品が多い。予定調和を楽しむのもひとつの楽しみ方だが、結末を知らないからこそ感情移入して楽しめる場合もある。
「え? 次、どうなるの?」「このフラグ、もしかしてあのキャラクターが裏切るの!?」と、のめり込めるかもしれない。
それに、予習すると起こりやすくなる解釈違いを極力避けられる。先入観なく観られるため、純粋に自分の好みに合うかどうかで判断できるのだ。これもメリットといえるだろう。
初見は予習なしで観るが、2度目の観劇までに原作に触れるというパターンもある。まっさらな状態で初回は楽しんで、次からは原作の知識を入れてストーリーを追うことで新たな発見をしたい、というタイプの人だ。
何度も観劇を予定しているなら、こういった味わい方もいいかもしれない。
LAST SCENE 選ぶのはあなた
予習するのもしないのも、観客に委ねられている。
その日、その時間、その劇場で上演される演目は、その場でしか生まれない唯一の空間だ。そして、チケットに印字されたその座席を持っているのはあなただけだ。
どうしたら最大限に楽しめるか? それを考えると、作品ごとに向き合い方も変わってくるだろう。
味わいたい気分に合わせて、ぜひ予習のさじ加減を調整してみてほしい。2つの異なる絵が浮かぶだまし絵のように、原作との付き合い方によって違った景色を受け取れるだろう。
広告
広告