日常的に舞台観劇をしない知人に「同じ作品また観るの? この前もそれ観に行ってなかった?」と言われたことのある観劇ファンは多いだろう。
もちろん観劇体験は、1回の観劇でも十分な感動を与えてくれる。だが筆者は今回、「複数回観劇のすすめ」として同じ作品を何度も観劇することを全力でおすすめしてみようと思う。
もくじ
複数回観劇をする理由→「舞台は生き物」だから
ドラマでも映画でもなく舞台を選ぶ、その理由。あなたの場合はなんだろうか?
お気に入りの役者が出演しているから、原作が好きな作品だから、脚本や演出が気になるから。
いずれにしても、他のメディアに比べてもかなり高いお金を払って私たちは劇場に向かう。その2時間や3時間に、他では替えの効かない“体験”を求めて。
どんなジャンルの舞台であれ、共通しているのは「舞台はなまもの」というよく耳にするこのフレーズだ。“なまもの”というのは、目の前で生で繰り広げられるものという意味でもあるし、まったく同じものは二度と繰り返せないという意味でもある。
1つの上演のなかで絶えず進化していく舞台作品は、公演期間中、1公演ごとにじわじわと形を変えていく。成長していくのだ。
初日が100%の完成率だったとしたら、日を追うごとにそれは120%にも180%にも進化していく。
その歩みを一度味わってしまうと、次の作品からまた成長を見届けたくなってしまう人も多いだろう。そうして、気がつけば複数回観劇がデフォルトになっていくのだ。
今回はその観劇タイプによってどんな楽しみが味わえるのかについて、それぞれ紹介していこうと思う。
【タイプ1】全通型
全通とは読んで字のごとく、全て通うことだ。どの作品にもきっと何人かは全通をしているファンがいるだろう。
変化を全部見逃したくない、という願いをもっとも叶えられるのがこの全通だ。初日挨拶に日替わりのカーテンコールでの挨拶、ちょっとしたハプニング、とっさのアドリブに演出の変更点なんかも知ることができる。
2.5次元作品でときどき見かける、追加で発表される終演後アフタートークやお見送り、ハイタッチ会なんかにも慌てずに済む。なぜなら、いつでも劇場にいるからだ。そういう意味ではなにも怖くない。
怖いとすれば、全通したいのにチケット倍率が高くてまったくご用意される気配がないときや、チケット代引き落とし時の口座残高だろう。
【タイプ2】バランス型
初日・中日・千秋楽とバランスよく日時をバラけさせて観劇するタイプを、ここではバランス型と呼ぶことにする。
すべての変化を網羅することはできないが、成長を追いやすい観劇タイプではないかと思う。
観る日時をバラけさせているので、間に“観劇しない日”が発生する。これによって、脳がいったんクールダウンして、前回の観劇で得た情報を整理する余裕が生まれる。
観られない日は、ファンにとってはもどかしいかもしれないが(その日に限って推しの挨拶があったらどうしよう……なにかアドリブをしたらどうしよう……等、おたくの悩みは尽きない)、次回の観劇で少しばかり冷静になれるというメリットがあるのではないだろうか。
冷静に前回の内容を反芻できていれば、次の観劇でより多くの情報をインプットして比較できる。
それに、一度落ち着いてからまた観られるので鮮度を保ちやすい。同じものを繰り返すと、好きなものでも飽きちゃう! という人にはおすすめしたい。
【タイプ3】情熱加速型
「とりあえず1回」と観劇したが最後、終演後に大慌てでチケットを確保し始め、気がつくと手元に半券が溜まっているタイプだ。
情熱が爆発して上演期間の後半で回数が増えていくので、「予定は未定」になりやすい。
最初に観たときにしっくりこなければそのままフェードアウトすればいいし、気に入れば追加でチケットを増やせばいい。ある意味臨機応変に動きやすいタイプといえる。
このタイプの場合、気をつけなくてはならないのが作品の人気度合いだ。観劇してから増やすかどうかを判断するので、その時点でチケットがSOLD OUTしていて買えない……という事態に陥りやすい。
「(チケットが)時すでに遅し」という状況にさえならなければ、作品との相性の善し悪しで観劇回数を調整できる。合う作品と合わない作品がはっきり分かれやすい人にはおすすめかもしれない。
複数回観劇をするときのポイント→「定点カメラで変化を追え」
複数回観劇をするとき、みなさんはどこを観ているだろうか?
推しがいる人なら、推しの役者や推しキャラを定点カメラで追っていることが多いのではないだろうか。定点カメラをしていると、繰り返し観たときに変化に気が付きやすいように思う。
「昨日と台詞の言い方変わってる! かっこいい!」「今日はアドリブで笑い必死に堪えてた……かわいい……」
一瞬たりとも見逃すものか、と必死に追っている分、些細な変化にも気が付く。そしてその変化に興奮の大洪水が起こるのだ。
公演回数の分だけ、違った推しの演技が観られる。そう思うと、1回きりでは足りない、と思ってしまうのがファン心理なのだろう。
目が足りないのなら回数を増やせばいいじゃない
推しがいれば複数回観劇のメリットがありそうだけど、じゃあ推しがいない場合はあまり意味がないんじゃないか……。と、思う人もいるかもしれない。
たしかに定点カメラをする必要はないかもしれないが、推しがいないからこそ目が足りなくなる場合もある。
2.5次元舞台はたくさんのキャラクターが登場する作品が多い。推しが決まっていればそのキャラクターにロックオンできるが、いないとなるとあっちこっちを忙しなく観ることになるだろう。
そうなってくると、1回で端から端までを網羅することは難しい。
「あれ? あのシーンであのキャラって何してたっけ?」「見聞きした観劇レポで気になってたシーン、見逃してた!」
そんなときこそ複数回観劇をしてみよう。2度目以降の観劇は、初回のときとはまた違った感動や発見にあふれている。
同じものを何回も観るなんて……という気持ちは捨てて、心ゆくまでその数日間しか味わえない世界を満喫してほしい。
「複数回観劇のすすめ」ということで今回は同じ作品を何度も観ることについて肯定的に述べてきたが、複数回観劇をしないというのももちろん楽しみ方のひとつだ。
宝箱を一度だけ開くような、一度限りの観劇体験も素敵である。回数に限らず、その公演はその先にも後にも同じものは二つとない。「一期一会」を胸に刻んで、全力で観劇する時間を楽しむ。いつまでもそんな観劇ファンでありたいと思う。
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