東啓介の1st Musical Concert『A NEW ME』が11月28日、東京・山野ホールで開催。コンサートのレポートが到着した。
公演レポート
コンサートのオープニングは『マイ・フェア・レディ』より「君住む町角」。日本で初めて上演されたブロードウェイミュージカルである本作からの選曲は、日本のミュージカル界の王道を歩み始めた東に相応しい。シックな黒のスーツに身を包んだ東が伸びやかであたたかみのある歌声で歌うと、客席からは自然と手拍子が巻き起こった。
「新型コロナウイルス感染症でいろいろと気遣わなければいけない時期に、この『A NEW ME』を選んでいただき、そして、マスクとフェイスシールドの着用をご協力いただき、ありがとうございます」と、最初に観客への感謝の気持ちを口にする。
「僕自身の新たな誕生という意味で『A NEW ME』と名付けたコンサート。些細な力ではありますが、歌声で明日への活力をお届けして、皆さまとつながる素敵な時間を過ごしていきたい」と思いを述べた。
このコンサートは「時」にフォーカスをあて、東のミュージカル俳優としての過去・現在・未来を旅するのがテーマ。ステージ上の大きな時計を模した舞台美術がひときわ目を引く。東が指を鳴らすと、時計の針が逆回転し、「過去」パートへ。
初めてのグランドミュージカル出演となった『スカーレット・ピンパーネル』より石丸幹二が演じたパーシーのナンバー「ひとかけらの勇気」を歌う。勇気をもって前に進もうとするパーシーの力強さが歌声にみなぎって、困難な今の時代に東が送る応援歌となった。さらに、目標としていた帝国劇場出演がかなった『ダンス・オブ・ヴァンパイア』より「サラへ」を愛情深く歌う。
夢を歌う「未来」パートでは、東が出演したいと熱望する『モーツァルト!』より「僕こそ音楽」、『ムーラン・ルージュ!』より「Your Song」を熱唱。また、2019年に初めて訪れたブロードウェイで観劇して、激しく心を動かされた作品『Dear Evan Hansen』より「For Forever」を英語で歌った。繊細に心を揺らしながら始まる序盤から、原曲よりもロックなアレンジを利かせる後半部分に25歳の青年、東の等身大の息吹が伝わってきた。
続く「現在」パートではサプライズゲストが登場! 今夏『ジャージー・ボーイズ イン コンサート』で共演した尾上右近が登場し、二人で「December ‘63(Oh What A Night)」をデュエット。「とんちゃん」「けんけん」と呼び合う二人は『ジャージー・ボーイズ イン コンサート』で意気投合。「階段で二人で喋りながら待ち時間を過ごしていたら、あっという間に1時間たっていた。お互い、出会いを大切にしているという共通点があることがわかる時間だった」というエピソードを披露した。
右近が「Can’t Take My Eyes Off of You」を歌った後は事前に集めた質問に答えるコーナーへ。さらに、「一番緊張する(笑)」と語ったギターの弾き語りで阿部真央の『嘘つき』を披露し、現在のコーナーが続く。
今春上演され、コロナ禍により期間途中で公演中止となった『ホイッスル・ダウン・ザ・ウィンド』より「独白」を歌う。ザ・マンの持つドラマを体現する大ナンバーを渾身で歌う姿からは、東のミュージカル俳優としての「覚悟」と「決意」が感じられた。
そしてラストは『マタ・ハリ』より「普通の人生」。「3年前、アルマンを演じてこのナンバーを歌ったときは自分では納得がいくように歌えなかった。3年たって、自分の成長を聞いていただきたいと思ってこの楽曲を選んだ」と語ったとおり、より豊かな表現で聞かせて観客を感動の渦へと巻き込んだ。
鳴りやまぬ拍手に応えて、アンコールで登場した東。
「これからもっと成長した姿を皆様に観ていただけるようになりたい。この場所がスタートの第一歩。25歳からの成長を楽しんでいただきたいと思います」と語った。今の東の思いに最も当てはまる曲だという「時が来た」(『ジキル&ハイド』より)を情熱的に歌って、コンサートは感動のうちに幕を閉じた。
アンドリュー・ロイド=ウェバー、フランク・ワイルドホーン、シルヴェスター・リーヴァイ、ベンジ・パセク&ジャスティン・ポールと、世界のミュージカル界を代表する巨匠の楽曲を次々と歌い、その実力を示した東。曲ごとに、ときにはあたたかく、ときにはドラマチックに……と多彩な表現で聞かせ、伸び盛りの勢いを感じさせるコンサートは、1日だけの開催なのがもったいないと思えるほどだった。
今後もミュージカル俳優としての階段を一歩一歩上りながら、また新たなコンサートで観客を魅了していただきたい。
文:演劇ライター・大原薫
写真:岩村美佳
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