12月17日(日)に26歳を迎える前川優希が、誕生日を記念して挑むのは初のプロデュース公演「青いはる」だ。自身初となる舞台の脚本・演出にどんな思いで挑むのか。
2.5ジゲン!!では本格的な稽古始動を目前にした前川にインタビューを実施。日頃から言葉に対して強いこだわりを持ち、ブログやSNSに自ら“ポエム”と呼ぶ長文を投稿することも少なくない彼は、脚本・演出という新境地でどんな表現をしようとしているのか。
作品への思いや26歳に向けての胸中を語ってもらった。
――脚本が書き上がったとお伺いしました。現段階でこの舞台「青いはる」はどんな作品になりそうですか。
始動した時からもうずっとそうですし、“なりそう”というか今すでに、自分にとって一生忘れることのない作品になっていますね。役者人生でもそうだし、前川優希という人生の中においても、忘れられないかけがえのない時間になると思います。
作品のでき、という部分では、僕はもうわかりません! 自分が1番わからなくて、不安です。脚本を書き上げてみたはいいものの、自分の頭の中にある語彙力のみで綴られた作品に人が息を吹き込む。
僕はずっと(役者として)息を吹き込む側だったので、自分の作ったものに息が吹き込まれる感覚はわからない。もしかしたら、めちゃめちゃつまらなかったらどうしようとか、今すごい思ってる(笑)。
だから、未知っていう部分がでかいですかね。心強い役者やスタッフの皆さまに集まっていただいて、きっと大丈夫だろうとは思っているのですが、千秋楽を迎えた時の自分の感情はまだちょっとどうなっているかわからないですね。笑顔で終われていたらいいなと思います。
――前川さんは今作が初の舞台演出・脚本となります。まずはその経緯をお聞かせください。
最初は「演出をやらない?」というお話をいただいていて、実現できそうという段階で僕のわがままを言わせてもらいました。(演出をするのは)初めてだし出演と演出の両方はきっと僕にはできない、中途半端な形にするのは好きじゃない。
であるならば、僕が考えたお話を言葉にするところまで僕がやって、演出もやるという形にさせてもらえないか、と。せっかく初めて「自分で作った」と言える物語は、日々大切にしている自分の言葉で、長い1つの物語にしてみたいという欲求も昔からあったので、脚本・演出を担当させていただくという運びになりました。
――そこから実際のテーマはどう決めていったのでしょうか。
お話の種みたいなものは、メモや頭の中にいくつもあるんですけど、このタイミングでこの公演が持つ意味、みたいなものを総合して考えた時に、あまり背伸びをしてもしょうがないとたぶん最初に思ったのかな…。
身の丈に合っていないことに挑戦しているという自覚があるんですよ。先輩たちのなかにも脚本や演出を手掛けている方はいらっしゃいますけど、やっぱりまだ自分には早いんじゃないかなっていう気持ちがどこかにあって。
でも、その時期尚早に感じることも利用してというか、早くやることにも意味を見出して自分の糧になるものだと思って取り組むなら、いっそ劇的な話にするより、誰もが共感できるようなもののほうがいいのかなと。
僕たちが送っている日常って物語のような劇的なできごとが訪れるものではないけれど、そのなかで何か胸の中に残り続けるものがある、あったらいいな、きっとあるはずだと思って。そういう話にしようと考えて書きました。
――実際できあがった脚本を改めて読んでみていかがですか。
ムズムズしますよ(笑)。でも、苦しみながら書き上げた言葉なんで、自分で言うのもですけど、まあまあいい話なんじゃないかなって思いましたよね。これをどう言ってもらおうとか、このセリフを言わせるのか、とか悩む部分もありますけど、ここからはもう演出の域になってくるのかな。うん、でも、そうね…息を吹き込んでいただくのが楽しみな作品にはなりましたね。
――脚本家として作品に向き合う感覚は、役者としての感覚とは違うものなのでしょうか。
違いますね。長いこと演じさせてもらっているのが脚本家の役(MANKAI STAGE『A3!』の皆木綴役)というのもありますし、もともと本が好きで、この仕事をしていなかったら出版とか言葉にたずさわる職業を目指していたんじゃないかというくらいだったので、「脚本家」という職業に対しては並々ならぬ思いがありまして。
役者としてセリフを吐くのが仕事ではありますが、セリフを生んだ人への敬意を持って取り組んではいたので、それが一層深まったというか、現実味を増した感じです。今までは、ふわっと、脚本家ってすごいなって思っていたんですけど、いざ自分が書き上げた後に見ると、「いや、すげえな!」って。「1本書くだけで死ぬほど大変だったぞ」と(笑)。
――今回は演出も担当されるわけですが、目指したい理想の演出家の姿はありますか?
(食い気味に)松崎史也さんですかね。やっぱりどうしたって僕にとっては松崎史也さんの存在が大きすぎるので、演出をしようとすれば史也さんみたいになっちゃうんじゃないかなって思っています。
もちろんこれまでご一緒させていただいた演出家さんも素晴らしい方ばかりなんですけど、言葉の使い方とか、僕が役者として演出家にこうあってほしいという姿とか、いま思い描く演出家の理想の姿に“演出家・松崎史也”がフィットしすぎているんですよね。
――演出に挑戦するということは松崎さんとお話をされましたか?
ちょうど情報解禁になった時が、MANKAI STAGE『A3!』ACT2! ~SUMMER 2023~の地方公演終わりだったんですよ。そのあとの凱旋公演の場あたりに史也さんがいらっしゃっていて。
すっごいドキドキしましたね…。喋りながら自分の思いを組み立てるのも普段は得意なんですけど、そのときは本当にめずらしく、なんて言葉にしたらいいかわからなくなっちゃいました。でも史也さんが、「脚本・演出やるんだよね。本当にすばらしいことだと思う。役者としては、今のみんなの方が知見が広かったりするから、そういう君たちが演出に取り組んでくれるのは嬉しいし、早めにやっていい。悪いことなんてないと思う」と、僕が気にしていた部分を言ってくれたので、本当にありがたいなと思いましたね。
ここで自信を持ってやろうみたいな気持ちになれましたし、声とか足とか、いろんなものを震わせながら「よかったら観に来てください」ってお伝えしました(笑)。
――脚本・演出を経験している役者仲間も多いと思いますが、仲間からはどんな反響がありましたか。
解禁前のタイミングでご報告をさせていただいた役者さんが1人だけいて、それが植田圭輔さんですね。植さんも先日「はじまりのカーテンコール~yourNote~」で原案・演出を手掛けられていて。
僕も拝見させていただいて、すごいなと思っていたところ、その登場人物の1人に僕の要素が入っていたという話を聞いて、すごく尊敬している先輩の初演出作品の世界の中に少しでも自分がいたことがめちゃめちゃ嬉しかったんです。自分が演出をやるってなった時に、意識させてももらったし、力ももらったようなものだから、植さんには事前にご報告をさせてもらって「頑張んな」って言ってもらいました。
ほかには古谷大和とか鯨井康介さんとか、演出を手掛けた経験がある方には、けっこう同じことを言われましたね。スタッフさんに甘えて、愛と敬意を持って、みんなと色々作っていきな、と。みなさんにそう声を掛けてもらって、より一層気が引き締まった感じですね。
――今作は26歳を記念しての公演となります。いまの前川さんから10年前の自分にメッセージを届けるとするなら?
10年前っていうと…高1か。「いいぞ、そのままやれ!」かな~。僕がいま何かを伝えて、過去の自分の行動選択を変えたとするならば、たぶん、今の俺はここにいない。いいことでも悪いことでも、何か1つでも違ったら、絶対俺はここにいないし今の俺ではないから。
「10年後のお前は楽しくやってるよ、安心しろ」って伝えますかね。今の自分が自分に満足していて、自分のことが好きで、毎日を楽しく生きていけているので。
――演劇に打ち込んだ高校生活を過ごされたと思いますが、パラレルワールドで別の高校生活を送れるならどんな青春を過ごしてみたいですか。
もう、一切表現をやらないと思います! おしゃれなカフェでバイトしたりとか、放課後にみんなでファミレスでだべったりとか、そういうのを経験することなく、本当にずっと表現ばっかりやってきたので。バラ色の高校生活…(しみじみと)いいですね。
10年後には思い出せもしないようなことで笑い転げるとか、今こうして言葉にしながらも“いいな”って思うぐらいにはまるで生産性のない高校生活を送ってみたかったです。
――憧れの高校生活への思いを熱く伝えていただきありがとうございます! また真面目な話に戻りますが、役者人生を振り返ってみて、芝居への向き合い方に変化はありましたか。
役者人生のなかでというか、役者を始めた時に思ったことはありますね。高校でアクションもダンスも歌も3年間みっちり教えられて、それを発表する機会もあって、「表現をやってきた」っていう自負があったんです。高校卒業直後が、たぶん人生で1番尖ってた時期なんですよね。
プロとしての初舞台(舞台『K -Lost Small World-』)が安西慎太郎くんと植田圭輔さんのW主演で、植さんは他の現場があって遅れて稽古に合流だったんです。今思いだすと恥ずかしい話ですが、尖ってた当時の僕は「なんで来ないんだ!」って思っていたんですよ。
合流した日はいまでも忘れもしません。植さんは別舞台の千秋楽の翌日で、いきなり通し稽古をやる。「え、できなくない?」って思っていたら、台本も持たずに合流初日で通し稽古ができたんですよ。これがプロか、と。
“役者”という言葉の重さに感動したのは、そのときですかね。仕事として表現することって、今までやってきたものとは違う世界なんだってひしひしと感じました。
――プロデュース公演という挑戦からはじまる26歳、ほかに挑戦したいことはありますか。
自分をもっと知る年にしたいなって思うようになりました。最近「もう26歳か」ってなってしまって…。先輩方とご一緒させていただく機会が多いからか、まだまだ自分は下の方だと思っていたんですよ。だけど、演者にもスタッフさんにもちょっとずつ年下が増えてきて、自分がそんなに若くないということをだんだん認識し始めました(笑)。
若さにかまけてがむしゃらにやってきたことがたくさんあったけど、自分は何が得意で、何が苦手で、何がしたくて、何になりたくて、とか。思ったより自分で自分を分からないとダメだなって思ったんですよ。
先輩の赤澤燈くんにもそういうアドバイスをもらって、改めてそうだなって思ったんです。この役者という、いろんな世代が同じ土俵で戦っていく世界で、自分は何を武器にして、どういう役者ですって胸を張って言うようになっていきたいだろう…というのを考えなきゃなって思ったんですよ。
だから、26歳は自分を知る年と、力の抜き方を覚える年に、ですかね。
――ありがとうございます! では最後に、本作を楽しみにしているファンへのメッセージをお願いします。
お芝居で皆さまの前に立つだけでなく、近年は皆さまの応援に力をいただいていて、歌だったり、言葉に感動してもらえたり、いろんな表現に挑戦させていただいてきた中で、また新しい表現を届けようとしています。
常々思ってないことを言っているつもりはないので、いろんな言葉を思ったままに伝えてきたつもりです。それらの言葉の根底にあるのは「いつもあなたがそばにいてくれるから、ありがとう」という思いです。今回はそんな自分の思っていること、表現したいことを文字に乗せて、人に演じていただくという運びとなりました。
皆さんにはまた新しい受け取り方をしていただく表現になるかもしれません。ですが、受け取ってほしいあなたがそこにいるからこその挑戦です。挑戦させていただける場所があるのもあなたのおかげだということを、常に胸に進んでまいります。
どうか応援のほどよろしくお願いします。観に来てね!
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彼の届けてくれる芝居や言葉を楽しみにしているファンにとってこの「青いはる」は、また1つ、違った角度から“前川優希”のことについて知ることができるまたとない機会になるだろう。彼が真摯に言葉を紡いでくれたこの作品への思いを胸に、11月29日(水)から始まる舞台「青いはる」の世界を味わってみてはどうだろうか。
取材・文:双海しお/撮影:遥南碧
公演概要
■タイトル
前川優希プロデュース舞台「青いはる」■期間・劇場
2023年11月29日(水)~12月3日(日)
東京・シアターアルファ東京
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