シリーズ5作目となるミュージカル『憂国のモリアーティ』Op.5 -最後の事件-が、9月10日(日)に千秋楽を迎えた。
竹内良輔が構成、三好 輝が漫画を手掛ける『憂国のモリアーティ』を原作とした同シリーズは、“犯罪卿”であるジェームズ・モリアーティと、名探偵シャーロック・ホームズが、階級制度はびこる大英帝国で紡ぐ物語だ。
この「Op.5」では、その2人の関係に1つの決着がつく原作でも人気のエピソード「最後の事件」が描かれ、魂震えるその内容に、東京公演では立ち見客が出るほどの熱狂を生み出した。
2.5ジゲン!!では千秋楽を迎えたばかりのモリアーティ三兄弟へリモートインタビューを実施。ウィリアムを演じる鈴木勝吾、アルバートを演じる久保田秀敏、ルイスを演じる山本一慶に、千秋楽直後の胸の内を聞いた。
大ボリュームのインタビューとなったため、前後編の2本立てでお届けする。この前編では、千秋楽を終えての思いや、演じていて苦しかったシーン、印象に残っていることなどをたっぷり語ってもらった。
――大千秋楽を終えたばかりですが、改めて「モリミュOp.5」を終えての率直な気持ちをお聞かせください。
鈴木勝吾(ウィリアム役):ちょっとネガティブな印象が入るかもしれないですが、率直にということで話すと、やっぱり「足りなかったな」っていうことを千秋楽が終わった瞬間に思いましたね。もっと自分に力があればもっといろんな可能性があったのかな、っていう反省が最初に来ました。
お客さんに楽しんでもらえたことはすごく嬉しいし喜ばしいことだなと思っているんですけど、一方で、4、5年やっていると、自分の中でもすごく大きな存在の作品になっていて。「最後の事件」という一区切りつくエピソードまで終えたことで、もう1回「Op.1」からやり直したいという思いも含めて、「もっともっともっともっと」っていうのが大きく残っているかな。
そのうえで、反省しているときにやっぱり思い浮かぶのが、カンパニーのメンバーや制作陣、原作のことで。みんながいろんな思いを抱えて研鑽(けんさん)して作り上げたことを思うと、すごくありがたい時間を過ごさせてもらったなと。感謝と反省…自分に対しての反省があるが故に周りへの感謝がある。そんなことを、終わってから1番感じましたね。
山本一慶(ルイス役):僕は単純に「寂しかった…」ですね。ルイスとしては、「兄さんを待っています」っていう歌詞で終わっていて、最後のウィリアムとシャーロックが歌う姿っていうのはあまり観てはいなくて。辛さや寂しさもあるけれど、信じて待つというところで終わったのでそのルイスの気持ちと、山本一慶としてのこの4年半の思いもあって、終わったときはやっぱり寂しかったですね。
めずらしいんですよ、ほかの舞台作品ではあまり寂しいとか思わないタイプなので(笑)。普通に寂しいって思えたのは自分でもびっくりしましたし、それだけこの作品、このメンバーに、愛があるんだなっていうのを終わって実感しましたね。
久保田秀敏(アルバート役):僕も「寂しい」って思いはもちろんなんですけれど、「Op.3」あたりからだんだんと楽しさ以上に苦しみが上回ってきていて。舞台袖から観ているだけでも苦しい画(場面)が続いてたから、原作で続きのストーリーは知っていても、やっぱり気持ちがどうしてもそこに比例せず、いい意味でわだかまりが残るような結末で。
結局のところ僕(アルバート)が元凶になっているわけなので、そうなるとは分かってはいましたが、だんだん苦しさが増えていったなっていうのが率直なところです。でも、公演を終えて、山を1つ登り終えたところから見た景色っていうのは、やっぱりとんでもないものがあって。めちゃくちゃすごい“光”が見えたなと。なので、苦しい思いと清々しい思いが交錯した感情ですね。
――今作は計画の完遂に向けてそれぞれに苦しい展開が続く物語となりました。演じるなかで、重く心にのしかかってきたシーンを挙げるとするとどこでしょうか。
鈴木:すごく個人的になってしまうんですけど、「Op.5」でみんなが苦しかったであろうシーンは、俺はもう「ありがとう」と見えちゃっていて。舞台袖からみんなの歌とかを聴いていると、愛をもらいすぎちゃって、天に昇っているような気持ちだったんですよ。
5年も連れ添ってきた仲間っていうのも重なって、ルイスの歌は一慶が俺に歌ってくれていることだと勝手に思っちゃうし、ヒデ(久保田)くんの曲もウィリアムとして受け取りながら、ヒデくんが自分に歌ってくれているって感じていたし。
そこに、死ぬことを決めているウィリアム、物語の一区切りである「Op.5」をやりきる自分っていうのを重ねると、こんなにも人に想ってもらえるウィリアムってすごい幸せだなって思っていました。
苦しかったシーンでいうと2点あって、1点はシャーロックとのタワーブリッジのシーン。殺陣が終わった後に、ウィリアムが「サヨナラだ、シャーロック」と言うまでの、引き留めようとしてくれている(シャーロック役の平野)良くんのセリフを聞いてるときはしんどかったな。その後、助けに来てくれた喜びがグラデーション的に増えていくから受け止めていくんですけど。やっぱり橋落ちするまでの眼前に迫っていることに対して、シャーロックがまだ何かを伝えようとしてくれている表情を見てるのは、すごくしんどかった。
もう1点は、今回唯一、モリアーティ陣営全員でいるソファーのシーンですね。アルバート兄さんは計画変更を優しく聞いてくれていて。辛かったのは、納得できないルイスのセリフを聞いているときで、そのシーンは本番では1回だけルイスの方を向いたかな。
山本:そう! 1回だけ見てくれた。
鈴木:だけど俺は基本的にルイスを見ないんですよ。見ないんだけど、捌けたあとにふとルイスが気になる感情はあって。ルイスがそう言うだろうことも分かっていて、それでもこれからやろうとしていることをルイスが聞いているのは、すごくしんどかった思い出がありますね。
ほかにもいっぱいあります。アンサンブルがみんなすごくいい芝居をしてくれるので、これまで味方だった者たちが、段々と敵になって恨みをぶつけられるのもしんどかったですし。ほかのシーンは恐らくしんどそうに見えて、実は喜びが勝っていて。死に向かう幸福の光に包まれていた感じですかね。
――山本さんはいかがでしょうか。
山本:「Op.4」とは大きく違う感覚があって、「Op.5」は辛いとかそういう思いを最初から最後まで抱えた3時間だったなと。これまでは話の中でどんどん気持ちの変化があったんですが、今作ではある程度自分たちの気持ちが定まっているところから始まっていて。ルイスとしては3時間ずっと「どうにかして兄さんに生きてほしい」という思いだったので、どこがしんどいかと聞かれると「Op.5」って答えになってしまうかもしれないですね。
鈴木:冒頭からしんどいもんね。
山本:そう。でも、最後の屋上のシーン前に勝吾くんと舞台袖で顔を合わせるときは、すごく不思議な気持ちになりましたね。ifの世界じゃないけれど、「もしかしたら、こうやってすぐ兄さんに会える世界線もあるのかな」と。だから最後のあのシーンは直視できなくて、辛いわけじゃないけど、不思議で複雑な気持ちになりました。
――久保田さんはいかがでしょうか。
久保田:1番辛かった点でいうと、最後の2人のベンチのシーンです。あの背中になにを感じ取るかは人それぞれで、僕らも横顔しか見えていなくて。でも、そのすべての感情が受け取れるほどの横顔を観ていたり、「白紙」っていう言葉に込められた思いとかを考えたりしていると、「やっとここまで来れたんだ、僕たちがやってきたことは間違いじゃなかったんだ」と思えて。
現実での苦しい状況のなかで公演を続けてきたことともリンクして、ウィルの歌う「すべてが白紙なんだ」を聞くと、自然と涙が溢れてきましたね。お客さんと一緒に僕らも浄化されたなっていう思いで観ていました。
――ラストのシーンも印象的でしたが、民衆の歌う「大英帝国」ではなく、ウィリアムの独唱(「この世界を」)から幕が開けるという演出にも驚きました。
鈴木:あのシーンには実は裏話があって。「Op.4」が終わってすぐに思いついたんですけど、そこから1週間くらい悩んで、プロデューサーと(脚本・演出の)西森さんに連絡したんですよ。そこで、例えば兄弟で歌い始めるけど、もうウィリアムは1人で死ぬからアルバートとルイスは歌い続け、ぼくは歌えないとか。
「Op.1」から続けてきたことへの変化というか、開幕して最初にサプライズがあったら絶対おもしろいと思うんですよねって話をしていたんです。それを一部採用していただいたのですが、いざ本番に入って、あんなに緊張すること言わなきゃよかったと思いました(笑)。
一同:(笑)
鈴木:途中から緊張しなくなったんですけど、今度はどう歌っていいかわからないというか、「正解がわからない…」みたいな感じになってしまいましたね。
――それは本番のなかで、なにか心境の変化があったのですか?
鈴木:「この命果てても」のパートを歌うときはサビでもあるのでいつも強めに歌っていたのですが、西森さんからは「歌い上げるのではなく、違う方向で歌ってほしい」という言葉があって。そこに対して常に挑戦し続けたって感じですかね。
毎公演、舞台袖でルイスと(井澤勇貴演じる)モランに見守られながら、(ヴァイオリンの)林くんに音をもらって調整して。舞台袖に帰ってきたらみんなと握手してから次のシーンに入っていました。
――その冒頭からはじまり、ずっとクライマックスが続くようなエピソードで、観ていて驚くシーンや楽曲も多数ありました。皆さんが演じていて、とくに印象に残ってるシーンはありますか。
一同:(口々に)むずかしい。
鈴木:もう本当に全部なんですよ。でも、そうだな~。(七木奏音演じる)ハドソンさんって、すごいシャーロックのこと好きじゃん、とか(笑)。
久保田:そうね。
鈴木:あと、見えないから印象に残っているという意味では、ヒデくんのソロで俺は坂を登るんですけど、ヒデくんどんな顔してるんだろうなとか。ルイスが独り立ちしていくのも、シャーロックが毎回違う芝居してたのも、しゅんりーさん(レストレード役の髙木俊)の日替わりも印象的だし。だからもう全部印象的で、全部めちゃくちゃよかったです!
山本:ぼくも同じなんですけど、そのなかでも本当によかったって思うことが1つあって。今回、1幕ラストのナンバーがとにかく難しかったんですよ。ラストのモリアーティ陣営のところは、みんなで毎日本当に挑戦を続けていて。ただすけさんや歌唱指導の先生方も合格ラインだとは言ってくれたんですが、心が完璧に1つにそろう瞬間を目指して挑み続けて、最後の最後で「これだ!」っていうクリティカルヒットが出たんですよ。
久保田:出たね。
山本:あの瞬間は、こんなことってあるんだなって思いましたね。
久保田:必ず出番前にみんなで何回か練習するんですが、「心狂おしき」の「こ」がなかなか合わなくて。でも、大千秋楽の前に1回練習したらバチっとはまって、「もうこれで行こうよ」って本番を迎えたら、今までにないぐらいドンピシャで。
山本:すごかったよね。本当にぼく、いまのところ今年1番嬉しかった瞬間。それくらい、本当にすごいことだって思えたんですよ。
久保田:それが毎回あるのが当たり前なんだけれど、劇場の音響の環境とかにもよるし、やっぱり難しい部分があって。ただすけさんも言っていましたけど、「Op.4」で藤田玲くんが演じるミルヴァートンに「これは歌えないだろう」っていう難しい楽曲を提供したんですって。でも、玲くんがいとも簡単にそれを歌いこなしちゃったから、ただすけさんとしては、もっともっと難しいやつを作ってやるっていうので、あがってきたナンバーが難しすぎて。
そういう難曲が最後の最後にきちんとモリアーティ陣営としてハマったっていうのは、もうすごく嬉しかったですよね。
鈴木:ぼくはそこを歌ってないんですけど、本番中のある朝、劇場に早く行ったら(モリアーティ陣営の)5人が舞台上でその練習をしてて。なんかその光景が、すごく印象的でしたね。眺めていただけなんですけど、ぼくのほうが「心狂おしき」でした。
一同:(笑)
***
前編はここまで。3人とも穏やかな表情で、互いの言葉に耳を傾けあっていた姿が印象的だった。後編ではさらに3人の「モリミュ」愛に迫るべく、好きな楽曲やアーカイブ配信を楽しむポイント、作品が“心の部屋”にもたらしたものなどを聞いたので、楽しんでもらえたらと思う。
取材・文:双海しお
配信情報
ミュージカル『憂国のモリアーティ』Op.5 -最後の事件-
■東京千秋楽公演 アーカイブ配信
■販売期間
2023年9月23日(土・祝)12:00~10月6日(金)23:59まで■販売価格
全景映像:各2,800円(税込)
スイッチング映像:各3,700円(税込)■視聴期間
購入から7日間■海外アーカイブ配信実
配信サイト:ローチケ LIVE STREAMING
配信公演:東京千秋楽公演 2023年9月10日(日)17:00(大千穐楽)スイッチング映像
販売価格:JP¥3,700 ※別途手数料が発生いたします。
販売期間:2023年9月23日(土)12:00~10月6日(金)23:59まで
視聴期間:視聴開始から1週間※詳細は、ミュージカル『憂国のモリアーティ』公式サイトをご確認ください。
https://www.marv.jp/special/moriarty/streaming.html
(C)竹内良輔・三好 輝/集英社 (C)ミュージカル『憂国のモリアーティ』プロジェクト
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