インタビュー

笹森裕貴「新しい扉が開きそうな予感がしています」 朗読劇で『人間失格』を魅せる

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劇団飛行船が贈る純文学ステージブランド『桜花浪漫堂』が10月に始動する。その記念すべき船出を飾るのは朗読劇『人間失格』だ。

道化を演じながら生きる主人公・大庭葉蔵を演じるのは、朗読劇2度目の挑戦となる笹森裕貴。

2.5ジゲン!!では主演の笹森裕貴にインタビューを実施。この日はビジュアル撮影だったこともあり、艶やかな赤い着物に袖を通しての撮影及びインタビューとなった。大庭葉蔵の内側に迫る『人間失格』になぞらえ、笹森が抱く演じることへの思いや自分との向き合い方、役へのアプローチ方法などをじっくりと聞いた。

――まずは出演が決まった際のお気持ちを教えてください。

誰もが知る太宰治作品を、自分の芝居人生で演じることができるとは想像もしていなかったです。しかも、朗読劇という形の作品にお声がけいただいたこともすごく嬉しかったですね。

――もともと「人間失格」という作品にはどんな印象や思いを抱いていましたか。

実は、(出演の)お話をいただくまでちゃんと読んだことがなかったんですね。もちろん有名な作品なので触りの部分は知っていて、率直に言うと、すごく重いイメージがありました。

ですが、出演が決まって読んでみたら、すごく人間の本質を突いている作品だな、と。意外と共感できる部分もあったので、「大庭葉蔵」を演じるのが俄然楽しみになりましたね。

――ちなみにどんな部分に共感したのでしょうか。

なんだろうな…不安定なところというか、揺らぎがあるというか。人間としての揺らぎがあって、それを人に見せられるっていうのは、人間失格というよりも逆に人間力があるなって思いました。

僕は、不安定な自分とどう付き合っていくべきか、この仕事を始めてから結構模索していたんですけれど、やっぱり(そういう自分を)人には見せないようにしていたんです。けれどこの作品は、人に気づかれることによって新しい物語が生まれていく。

それを読んで、「心の揺らぎすらも美しいな」という風に感じましたね。共感とはまた違うのかもしれないですけど。

――不安定な自分との向き合い方を模索していたとのことですが、自分なりの方法は見つかりましたか。

自分自身に嘘をつかないように、人よりも時間をかけて作品と向き合うようにしています。

そこまで器用でもないので、例えば他の人が1時間かけてできることを、自分はみんなに見せないところで2時間やって、「30分でできましたよ」って見せる。そっちの方がかっこいいじゃないですか(笑)。できない人だと思われたくないっていうのが本心で、そういった面では常に自分と戦っている気がします。

本当に極度の心配性というか。役者としてそうあるべきだと思うんですけど…どれだけ準備をしても、自分の納得がいく準備ができていないと現場に入るのが怖くなってしまうので、日々相当頭を使っているなというのは感じますね。

そういう自分がいたからこそ、きっとこの作品にも呼んでいただけたし、他の仕事もさせていただけているなという自信はあるので、これが自分なりの“僕との付き合い方”なんだと思っています。

――準備を万端にという部分では、今回は大庭葉蔵を演じるにあたってどう準備して挑んでいきたいと思っていますか。

前もって自分1人で準備できるものって限界があると思っていて。役作り的なことで言うと、今回はあえて、そんなに作り込みすぎない方がいいのかなと思っているところです。朗読劇なので、会話している人から伝わるものを、舞台のお芝居よりもリアルにしていかないといけない。

自分と真逆の役だと、わからないからこそ1から作り上げていく感覚だったのですが、今回は似たものを感じているからこそ、台本が来てから照らし合わせていく作り方をしてもいいのかなと思っています。

――これまでとは違った役へのアプローチになりそう?

そうですね、新しい扉が開きそうな予感がしています。新しいもう1人の自分と会話する感覚で役作りをしてきた部分があるのですが、いつもは隣にいる役と作ってきたものが、もしかしたら今回はここ(自分と重なる位置)にいるかもしれない感覚というか。言葉にするのが難しいですけど。

――いつもと違う感覚を持ってらっしゃるんですね。それを聞いてますます楽しみになりました! 朗読劇は昨年夏の作品が初挑戦だったかと思います。その経験を経て、今作で活かしたいことや、ご自身のなかで課題としている部分はありますか。

正面を向いて、人の顔を見ずに演じるというのが、最初はすごく難しいなと思ったんですけど、だからこそ広がるものがあって。

例えば、普段のお芝居なら、自分が怒って相手が悲しい顔をして悲しいセリフを言った時に、自分がリアルにそれを目で見た時の感情を表現しますけど、朗読劇では相手の声が目の前じゃなくて左右とかから聞こえてくるわけじゃないですか。相手のことを想像しながらお芝居するっていうのは難しいけれど、逆に言えば、自分の思い描いた通りにやってみるのが正解なわけで、それを試せるというか。

視覚からの情報がない分、音で感じ取ったものを自分の中でどう解釈して返すのかというのが難しいけれど、“耳から入って頭に入って口に出す”の感覚を研ぎ澄ませて、頑張っていきたいなと思っています。

――朗読劇をしているとやっぱり動きたくなってしまう瞬間もありますか?

あります、あります! あと僕、台本を読みながら演じることが苦手なんですよ。カンペを読むのとかもめちゃくちゃ苦手で。覚えないと喋れないんです。だから今回もたぶん台本を暗記しちゃうと思います。

まだまだ未熟なので、手元で読んでしまうと、次のセリフはこうだなっていう心持ちになってしまう気がするんですよね。“リアルなやり取り”が薄れてきそうであまり台本は見れないので、脳みそを使って読むんじゃなくて、ちゃんと伝わるようにここ(心)でお芝居をしてしたいなって。動きの少ない朗読劇はとくに思っていますね。

(台本を)読むだけなら、正直誰がやっても変わらないですから。誰が演じるかによって変わるのがお芝居のいいところだし、僕が演劇を好きになったのもたぶんそういうところで。だから、「自分がやる意味」みたいなものを最近すごく考えるようになりましたね。自分にしか出せない色を出したいし、今回こうしてこの役に選んでいただいたのも、きっと誰かが僕のお芝居を観てくれたからだと思うので。

“笹森裕貴が演じる大庭葉蔵”というのをしっかり残したいなって思っています。

――今作は純文学ステージと銘打たれています。本はお好きですか?

小学生の頃から活字は好きでしたね。ミステリー小説とか読んでいたのかな。何かしら純文学と言われる作品にも触れてきてはいると思うんですけど、あまり記憶にないんですよ(笑)。

数年前かな。役作りのために純文学といわれる作品を読んだことがありました。難しかったですけど、その言葉選びとか空気感は数年経った今でも心に残っているので、好きになる理由もわかるなと思いましたね。

普段は自分を奮い立たせる系の本が好きで、どうしたらより良い人間になれるか、みたいな本ばかり読んでいます。

――日頃、台本や本を読む際のルーティンやこだわりはありますか。

台本に関しては覚えることを第一に読みます。立ち稽古に入るまでには絶対全部覚えるというポリシーがあるので。さっき言ったように、読みながら動くことができないし、立ち稽古の時点で「読む」のではなくて「お芝居」をしたいので。

――もともと暗記は得意なタイプだったんですか?

いや、勉強はまったくできないので、暗記もできないはずなんですけど、やっぱり好きだからですかね。台本だとできるんですよ。

その作品のなかで「自分がどういう立ち位置なのか」を瞬時に理解して準備を始めたいし、その作品のために自分がどうするべきなのかを念頭に置いてやっていきたい。その向き合い方は間違ってないと信じてやっているので、台本が送られてきた瞬間からもう勝負は始まっていると思って、すぐに覚えます。いかに早く開いて読んで覚えて、何回も繰り返し読めるかどうか。それを貫いている感じです。

――その先にできあがる笹森さんの大庭葉蔵を楽しみにしています。では最後に、ファンへのメッセージをお願いします。

こんにちは、笹森です! こういう役どころを演じることが初めてなので、まだどうなるかも僕自身わかっていません。スイッチが入った時にどう脳みそが動いて、どういう顔をして、どういう言葉を発するのか。ここまで自分でもわからない作品や役って初めてなんですよね。

生で声をお届けして、役者がリアルに今演じている姿を見ていただけるという面に関しては、今回の作品にすごくマッチすると思います。みなさんに良い意味で驚いていただけるお芝居をしたいと思っているので、楽しみにしていてください。

***

新たなアプローチで、どんな“笹森裕貴の色”を観させてくれるのか。話を聞いているだけでワクワクする時間となった。公演期間はちょうど10月。この朗読劇『人間失格』が読書の秋を彩ってくれることだろう。

取材・文:双海しお/撮影:梁瀬玉実

公演情報

タイトル

桜花浪漫堂朗読劇『人間失格』

原案

『人間失格』太宰治

公演日程・会場

東京・I’MASHOW
2023年10月27日(金)~10月30日(月)

出演

笹森裕貴、井澤勇貴、平賀勇成/北村健人(Wキャスト)伊藤昌弘(Wキャスト)/佐奈宏紀

声の出演:三森すずこ/難波圭一

津軽三味線:小山清雄 尺八:瀧北榮山 Key.:山本真央 Key.:KeiTaro ※10月28日(土)のみ

脚本・演出

吉田武寛

音楽監修

小山豊

衣装

キサブロー[FOGHORN]

ヘアメイク

earch

主催

株式会社劇団飛行船

協力

株式会社ブシロード、株式会社ブシロードミュージック

公式HP

https://hikosen.co.jp/oukaromando/

公式Twitter

@Ouka_Romando

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WRITER

双海 しお
 
							双海 しお
						

アイスと舞台とアニメが好きなライター。2.5次元はいいぞ!ミュージカルはいいぞ!舞台はいいぞ!若手俳優はいいぞ!を届けていきたいと思っています。役者や作品が表現した世界を、文字で伝えていきたいと試行錯誤の日々。

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