室龍太が主演を務める舞台『いいね!光源氏くん』が8月に上演される。普通のOLのもとに、突如現れたのは狩衣に身を包んだ光源氏を名乗る男で…というところから始まるタイムスリップコメディ漫画が原作。
雅なビジュアル解禁が話題となったが、なかでも異彩を放っていたのが北村健人演じるフィリップだ。スマートな気品あふれるアメリカ人のフィリップ役に彼はどう挑むのか。2.5ジゲン!!では北村にインタビューを実施。コミカルな作品になりそうな本作への意気込みや役作りについて、じっくり話を聞いた。
「広く浅く」より、「狭く深く」
――まずは原作や脚本に触れた際の作品の印象をお聞かせください。
いわゆる“タイムスリップもの”ってジャンルとして色々な作品があると思うのですが、その中でも(本作は)異質だなという印象です。
気持ちが高まると和歌を読む、みたいな時代が違うことの面白さにプラスして、平安貴族ならではの要素がたくさんあって。他のタイムスリップものとは一味違う面白さがあるなと思いましたね。
――演じるフィリップに関しての印象はいかがでしたか。
研究者ならではの、好きなものに対してまっすぐでピュアで、一生懸命だからこそちょっと空回りしちゃうところが面白いな、と。周りが「それどういうこと?」って言った後の説得力をすごく求められる役なので、そういう部分は原作でもすごく大事に描かれているなと思いました。
――では役作りとしては、フィリップの持つ説得力の部分を軸に作っているのでしょうか?
そうですね。説得力と、あとはダブルキャストもいますが1公演を9人で作る作品なので、その中で中盤に登場するフィリップは“爆発力”を意識していきたいなと思っています。爆発力っていうと、自分でハードルを上げてるような気がするんですけど…(笑)。
歌やダンスやアクションで派手に、というよりも日常的なものを描いている作品なので、1人ひとりの役が濃くあるべきかなと思いますし、お客さんには“うねり”を届けるべきだと思うので、フィリップとしてその1つのうねりを作れるように頑張りたいなと思っています。
――フィリップは日本古典文学の研究者です。北村さんには研究者気質な部分は?
あると思いますね。好きなものはすごく調べる一方で、興味ないものには本当に興味ないので、広く浅くというよりは、狭く深くです。
――最近深くハマったり調べたりしたものは何でしょうか。
電化製品とかインテリアがすごく好きです。台本を読んだりするときの椅子が最近ちょっと合わなくなってきたなと思って。もっといい椅子が欲しいなと色々調べて、候補の椅子を展示している家具屋さんに1人で行ったんですよ。その椅子がオットマン付きと、付いてないタイプと2種類あって。1人で30分ぐらい、2つの椅子を往復しながら延々と座り心地を比べていました。
――無事決まりましたか?
はい! 身の回りのものはこだわりたいので、納得してから買うようにしています。
――そんなところはフィリップに通じる部分かもしれないですね。さて、今回は演出が村上大樹さんです。かなりコミカルな作品になるんではと感じているのですが、北村さんご自身はコメディ色の強い作品は得意ですか?
イジリー岡田さんの劇団(東京アンテナコンテナ)に毎年出させてもらっていた時期があって、本格的なコメディ作品の経験でいうとそれになるかと思うのですが、難しいなというのが率直なところです。
とんちんかんなことを連続ですれば笑いが取れるかっていうと、きっとそうじゃなくて。正常なレールを引く人が必要で、その上で変更を加えたり、変化球を投げたりするからこそ、1つの笑いにつながるのかなと思うんです。だから「今、自分はレールを作るターンなのか、それともレールから外れるターンなのか」っていうのは、台本を見ながら、そして稽古場の雰囲気を見ながら計算してやっていかなきゃいけないなっていうのをすごく思いますね。
――今回のフィリップで言うと、どちらの役割が多くなりそうですか。
レールを外れる方だと思います。
――そういった役割は得意としている部分?
はみ出るにも何パターンかあると思うんです。例えば、ボールを投げて、相手がどう返してくるのかを楽しむタイプの人もいれば、ボールを投げるけど、相手が動いた先の回収もしてあげなきゃっていう責任を感じるタイプの人もいて。相手役にもよると思いますが、僕は後者のタイプなので投げた後の“もしも”のパターンを自分の中で考えておかないとって思いますね。
これから稽古を重ねて、相手のタイプが見えてくればお互いに任せられる部分も出てくると思うので、しっかり関係を築いていけたらと思っているところです。
この役で違った一面を見せられるように
――今作は全員が初共演とのことですが、現時点での稽古場の雰囲気を教えてください。
全員が初めましての現場は何年ぶりだろうっていう感じですが、主演の室(龍太)さんがすごく率先していい雰囲気を作ってくださってるのは、多分全キャストが思っているんじゃないかと思います。まだ稽古の序盤ですし9人でやらなきゃいけないことも多くて、今は覚えることがメインでそこまで多くのコミュニケーションが取れているわけではないんですね。
ですが先日、パンフレット掲載用の座談会をやったらすごくいい空気で。「このカンパニー素敵だな」っていう感覚を感じられたので、ここからもっと良くなっていくんじゃないのかなって思います。
――村上さんとの作品づくりはいかがですか。
きっと村上さん流の演出だったり進め方だったりが見えてくるのはこれからなのかなと思うのですが、現時点ではすごく受け皿が広い方という印象ですね。演出家の立場からっていうのはもちろんなのですが、同時に役者と同じ目線に立って向き合ってくださる方なのかなっていうのをすごく感じています。
これから本格的に演出がついて、村上さんがどう色をつけていくのか僕自身も楽しみにしています。
――今作では光源氏が現代にやってきますが、架空の人物が現代にタイムスリップしてくるとしたら、北村さんは誰と会ってみたいですか。
架空か~。やっぱり僕らって、ゲームとかアニメのキャラクターもそうですし、歴史上の人物もそうですし、演じる役を通してその時代に思いをはせることが多いんですね。
先日はロシア人芸術家のボルコフという役を演じさせてもらいましたし、ほかにも新撰組の沖田総司を演じたり。演じるにあたって色々調べますが、教科書や歴史書には載っていないことを、タイムスリップしてきた彼らに聞いてみたいですね。
――逆に北村さんが、どこかの時代や国にタイムスリップできるとしたら?
すごく近い時間軸なのですが…。コロナ禍の前に中国公演のミュージカルで4カ月ぐらい中国に行っていた時期があったんですね。中国の観光名所のなかでも、とくに万里の長城は子どもの頃から行きたいと思っていた憧れの世界遺産だったのですが、公演期間なので怪我をしたり万が一があったりしたらすごく迷惑がかかるなと思って行きたい気持ちにブレーキをかけたんです。
それはすごく今でも後悔していて。本音を言えば行きたかったな、っていう気持ちはいまだにありますね。でもタイムスリップしても結局公演中なので、同じ選択をしそうですけど(笑)。
――ちょうど本作の公演期間が夏休みシーズンと重なりますが、長期の夏休みがもらえたらやっぱり海外旅行に…?
そうですね。海外旅行はやっぱり行きたいな。あとは、同い年の男のいとこがいて、その子の趣味がキャンプで以前連れていってもらったんです。テントを張ってバーベキューをしたのですが、これがすごい楽しくて! 今年も行けたら行きたいなと思っています。
――ありがとうございます。では最後に、フィリップとしてのこの見どころと、ファンへのメッセージをお願いします。
まずはフィリップの見どころですが、僕が近年演じさせていただいた役の中では珍しい役なのかなと思うので、その違いみたいなものも楽しんでいただけたらと思います。僕も違った一面を見せられるように、精一杯稽古に励んでいきたいなと思います。
実は舞台出演させていただくのが、意外と久しぶりで。1日だけの公演を除けば4月ぶりの舞台作品となるので、この期間を楽しみに待っていてくださった皆さんに素敵な時間を過ごしていただけるよう、いい作品を届けたいなと。
そして、今回は笑えるシーンも多いと思うので、帰り道に楽しかったと思ってもらえて、劇場に来たときにワクワクした気持ちで扉を開けられるような、そんな作品を作っていきたいなと思っております。
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プロデューサーいわく「舞台経験豊富な北村さんは、現場でもみんなが頼りにしている」とのこと。新しい役、新しい顔ぶれのなかで、今度はどんな姿を見せてくれるのだろうか。慎重に言葉を選びながらも、新しい作品に心躍っている様子を見せてくれたその姿に、舞台『いいね!光源氏くん』への期待が高まったことは言うまでもない。
取材・文:双海しお
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