インタビュー

【2.5次元の舞台裏】感情の本質を言葉に変えて生み出す 演出家・元吉庸泰「アーティストでありお客さんの代表でありたい」

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『「僕のヒーローアカデミア」The “Ultra” Stage』シリーズで、多くの2.5次元舞台ファンを熱狂させている演出家・元吉庸泰さん。

舞台上に並ぶ個性豊かなキャラクターそれぞれのドラマやアクション、音楽が織りなすエンタメ力抜群のこの作品をきっかけに、舞台沼にハマった人も多いだろう。

登場人物たちのリアルな佇(たたず)まいは、彼の演出によってどう生み出されているのか。今回は「2.5次元の舞台裏」として元吉さんにインタビューを実施。数奇な縁によって開けた演出家への道や、2.5次元作品の演出方法、理想の演出家像などを聞いた。

インタビュー前には、元吉さんのワークショップを見学。俳優自身の解釈で生まれた芝居をもとに、それぞれの性格も考慮しながら感情の道標(みちしるべ)を指し示していく。わかりやすい例え話を駆使しながら、登場人物の置かれた感情を“自分ごと”として捉えられるよう助言する姿が印象的だった。

――ワークショップを拝見しました。シーンを渡してまずやってみようという進め方が印象的でしたが、これは普段の稽古の雰囲気に近いのでしょうか?

近いですね。自分で最初にカードを切ることもあるんですが、ルールだけ決めて「やってみようぜ」って結構自由にやってもらうことが多いです。

――稽古に入る前の段階で、演出家としてはどのあたりまで具体的にイメージしてから取り組まれているのでしょうか。

大きいテーマとセットプランはしっかり考えて、あとは意外と「野となれ山となれ」じゃないですけど…(笑)。演出家と俳優の関係性って、演出家さんによってそれぞれ違うと思うんですが、僕はちょっと特殊かもしれないですね。

僕の場合は、演出家は“ルールを作るのが仕事”だと思っていて。

例えば、みんなで広場で鬼ごっこをします。「早歩きはオッケーだけど走るのはダメ」というルールを作るのが僕で、あとは俳優に思いっきりそこで遊んでもらう感じです。「ここでこういうことが起きてほしい」「その時にこの関係性でありたい」とかっていう大きなルールを作りながら、もうあとは俳優の感覚に任せてしまうことが多いですね。

――その際、どんな部分を意識して、各々が持ってきた芝居を観ていますか。

必ずチェックすることは、演じる登場人物をあくまで他人として考えているか、それともちゃんと自分のこととして考えているか、という部分です。

例えば『「僕のヒーローアカデミア」The “Ultra” Stage』(以下『ヒロステ』)の緑谷出久だったら、緑谷出久という他人には絶対になれないじゃないですか。だから、「あなたがもし高校生で、本当に“無個性”のまま育ってきて、周りのみんながどんどんすごくなっていく中で、ヒーローになりたいって気持ちだけが残っている。自分自身だったら今それをどう感じている?」っていうことをベースに本を読んでいるかどうかは、すごく確認します。

「このキャラだったらこう考えると思います」じゃなくて「自分がどう思うか」でやっていかないと、嘘が重なっていっちゃう。嘘を重ねていくと、最終的にどこかで「それはそのキャラじゃなくない?」って全部が覆ってしまうことになるので。他人で考えているか、自分で考えているか、はすごく気にしていますね。

――原作がある場合は、自分の考えが原作のキャラクター像と乖離(かいり)してしまうこともあるかと思います。そういった場合、どう演出をつけるのでしょうか。

そのキャラクターが、なぜこの選択肢を選んだのか、なんでこの言葉を選んでいるのかっていうことを徹底的に討論します。

例えば先日の『ヒロステ』だと、かっちゃん(爆豪勝己/演:小林亮太)が「スタングレネード」って技名を叫ぶシーンがあって。芝居としては技名を叫ぶことで流れが1回止まっちゃうので、亮太が「言わなくてもいいですか?」っていう提案を持ってきたんです。

そのときは、「でもかっちゃんはオールマイトが勝つ姿に憧れてたじゃんか。オールマイトって必殺技の名前叫ぶじゃん。てことは、ここで技名を言うのは、すごい深いと思わない?」っていう話し合いをしました。その結果、技名は言うけれど流れを考えて別のセリフを切る、みたいな調整をしましたね。

漫画原作だと、原作がしっかり練られて描かれている分、登場人物の芯も通っているんです。なので、大きな乖離が生まれるっていう事が実はほとんどないんですよ。

――なるほど。それぞれのキャラクター像が確立されているからこそ、ブレもあまりないんですね。

そうなんです。すごいなって思うのは、実は『ヒロステ』の現場では、あまり(原作)アニメは観ないでと言っているんですよ。声もアニメに寄せなくていい、自分の声でやってね、と。

だけど、お客さんからは「みんな声も寄せていてすごい」という感想をすごくいただくんです。これは音楽劇『ロード・エルメロイII世の事件簿』とか、ほかの2.5次元作品でもそうで。

やっぱりそのキャラクターを突き詰めると、みんなそういう表現になっていくんだなっていうのは、演出家として気づかせてもらった部分でしたし、自信にもなりましたね。2.5次元作品に対しても新しい教えをもらって、より尊敬できるようになりました。

――ここからは、元吉さんの演出家としての歩みについてお聞きしたいと思います。多くの演出家のもとで演出助手を経験されていますが、昔から演出家を志されていたのでしょうか?

実は演劇を始めたのが「好きな子が演劇をやっていたから」っていう、ほんとしょうもない理由なんです(笑)。高校時代に、好きだった女の子が、仲代達矢さんの無名塾に受かって高校を辞めちゃったんですよ。卒業後にサンシャイン劇場に立つその子の姿を観て、「あの子にできて俺にできないわけがない」って思ったんですよね。

それで、大学でそのまま演劇サークルに入ったのですが、役者をやるのは恥ずかしくてスタッフを選んで、舞台照明をやっていました。そのまま25歳くらいまでは、舞台照明で飯を食っていましたね。当時は役者もちょっとやっていたのですが、共演した満島ひかりちゃんの芝居を目の当たりにして「僕はこうはなれない。役者は無理だ」と、辞めました。

そのタイミングで偶然、劇作家の鴻上尚史が演出助手を探しているということで、会うことになったんですよ。当時、ものすごく怖くて有名なあの鴻上尚史が、初対面の僕に「お前は何になりたいんだ」っていきなり言ったんです。

演出助手に就くんだったら演出家(になりたい)って言った方がポイントが高いだろうなと思って、「演出家になりたいです」って咄嗟に言ったのがすべての始まりで。それから鴻上さんがいろいろ教えてくれたので、これは演出家にならなきゃダメだな、と(笑)。

そこからは鴻上さんの演出助手につきながら、宝塚歌劇の演出部だったり、大きな商業舞台の映像オペレーターだったりして、そのうち演出助手としてほかの演出家さんからも声がかかるようになって…という感じですね。

――演出家になりたい、から始まったわけではなかったんですね。

まったく、そうではなかったんです。演劇で志そうっていうものが最初はなくて、だけど、自分の中には演劇しかないっていう気持ちはなんとなくあったんです。

だから舞台照明を続けて、劇団も続けていました。そのなかで師匠(鴻上尚史)に出会って縁がつながって、次第に自分のやっていることが具体的になっていったという感じですね。

――「自分の中には演劇しかない」と思ったきっかけとは?

大学の演劇サークル時代、4年生の先輩たちが就職活動する姿にハッとしたんです。これだけ時間とお金を使って毎日熱く演劇を語っていた人たちが演劇を辞めるということが理解できなくて。「みんなプロになるためにこんなに時間かけてたんじゃないですか?」って思った時に、僕は辞められないって思っちゃったんですよね。

当時の先輩たちと大喧嘩した結果、劇団を立ち上げたんですよ。その時に「自分は演劇が好きで楽しくて、だからこんなにお金も時間もかけてやってるんだ」っていうのが実感として湧いたのが大きいですね。

――本格的に演出家として携わった外部作品を挙げると、どの作品でしょうか?

自分のなかでは辰巳雄大(ふぉ~ゆ~)くん初主演の舞台『ぼくの友達』が最初という認識ですね。その前に「終わりのセラフ」The Musicalも担当させてもらっていますが、この作品は実はピンチヒッターだったので。

――初の演出作品で大変だったことなど、思い出はありますか。

演出助手経験をたくさん積ませてもらったので、進行はとても得意なんです。やるべきことをやって初日を開けられる自信はあったのですが、大御所の田中健さんや、自分が大ファンだった香寿たつきさんに対して、「いまの芝居はここが違う」と伝えるのは本当に緊張しました。

――そこからいろんなジャンルの演出を手掛けていらっしゃいますが、2.5次元作品の演出の難しさとは?

漫画原作の場合は、メディアの違いが1番難しいところです。来年上演の『ジョジョの奇妙な冒険』の脚本を担当したのですが、僕らの喋り言葉と、漫画の言葉って全然違うんですよね。漫画の言葉をそのままセリフにしちゃうと、すごく長いんですよ。

絵・セリフ・効果音・コマ割りで表現されている漫画の“視覚のメディア”の情報量を、話し言葉の“聴覚のメディア”にするのは大変で。『ヒロステ』では、すごく信頼している脚本家の西森英行さんが原作のセリフを脚本に落とし込んでくださっているのですが、それでも実際に俳優に喋らせるとうまくいかない部分もあって。

原作の名台詞を削るわけにはいかないし、でも演劇である以上、会話が成立していないといけないし。そこのバランスを取っていくのが、2.5次元作品ならではの難しさだなと感じています。

先日上演した『ヒロステ』最新作の、デク(緑谷出久/演:田村心)とかっちゃんの戦闘シーンも、心ちゃんと亮太と一緒にだいぶ悩みました。漫画では戦闘の合間に回想シーンや心の声が挟まるのですが、それをそのままやると流れが止まるし、録音したセリフを流すのも違う。3人でいろいろ考えた結果、2人だけのワンシーンを戦闘の前に新たに作って、バトル中はセリフを全部間引くことにしたんです。

――以前、田村さんと小林さんにインタビューさせていただいた際は、「元吉さんの原作愛がすごい」とおっしゃっていたのが印象的でした。

そこはやっぱり1番大切にしなきゃいけないなと思っています。「僕のヒーローアカデミア」に関しては、もともと漫画オタクなので全巻持っていて、心に残っている作品でした。

演出する上では、「なんでこの人はこの話を描いたのか」っていうことをすごく考えますね。(「僕のヒーローアカデミア」の)堀越先生がこの作品を描いた理由を第1に考えないと、その人が描いたことに対して失礼だなって思っちゃうので。

これは『ヒロステ』だけに限らず、シェイクスピア作品やニール・サイモン作品でも同じで、そこがきっと「愛」って言ってもらえている部分なのかなとは思います。

どうやって舞台で表現しようか悩むエピソードも当然ありますが、そういうときは「堀越先生は何を描きたいのか、先生自身が何に救われているのか」っていうことをすごく考えます。『ヒロステ』に関しては、それをもう4年も考えさせてもらっているので、そういう意味でも本当にかけがえのない作品という感覚がありますね。

――貴重なエピソードをありがとうございます。では最後になりますが、元吉さんにとって“理想の演出家”とは?

演出家っていう仕事がなんなのか、というところに直結すると思うのですが、1番はあくまで“アーティストでなければならない”とは思うんですね。

アート作品を生み出す。それと同時に、何よりもお客さんの代表でなければいけない、ということを1番に考えています。お客さんの代表として観た時に、俳優が安全に動いていなきゃいけないのはもちろんですし、俳優が楽しそうにしてなきゃいけないのももちろんです。俳優と一緒に楽しみながら、お客さんに向き合うアートを作れるっていうのが、理想の演出家だと思いながら、日々取り組んでいます。

***

ワークショップとインタビューを通して、ロジカルな思考で物事の本質を見抜いていく姿勢に多くを学ばせてもらう時間となった。シーン自体はシリアスなワークショップだったが、参加者が感覚を1つ掴む度に、「いいじゃん!」と顔をほころばせる様子には、演劇愛があふれていた。2024年2月には元吉さんが脚本を手掛ける『ジョジョの奇妙な冒険 ファントムブラッド』が上演される。こちらも楽しみでならない。

取材・文:双海しお/撮影:泉健也

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WRITER

双海 しお
 
							双海 しお
						

アイスと舞台とアニメが好きなライター。2.5次元はいいぞ!ミュージカルはいいぞ!舞台はいいぞ!若手俳優はいいぞ!を届けていきたいと思っています。役者や作品が表現した世界を、文字で伝えていきたいと試行錯誤の日々。

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