5月11日(木)、東京・渋谷区文化総合センター大和田 さくらホールにてステージ『エロイカより愛をこめて』が幕を開ける。
青池保子原作の漫画『エロイカより愛をこめて』は、男色の美術品窃盗犯「怪盗エロイカ」を名乗るドリアン・レッド・グローリア伯爵の法を破った美術品収集活動が、NATOのクラウス少佐の作戦行動と遭遇することで騒動を引き起こす、コメディ色を含んだ怪盗&スパイ活劇。
1976年に連載を開始し、今なお愛されつづけている名作だ。
2.5ジゲン!!では、今作W主演のクラウス・ハインツ・フォン・デム・エーベルバッハ少佐役の村田充にインタビューを実施。役作りのポイントやキャラクターとの共通点などの質問を通して、今作への思いを紐解いていく。
――まず最初に、今作へ出演が決まった際の気持ちをお聞かせください。
オーディションではなかったので、出演が決まるかどうかというのは僕次第だったんです。企画をくださった(主催の株式会社)Lolさんは、今までも出演してきて間違いないですし、久しぶりに一緒にお仕事をしたくて「やる!」と言いました。出演を決めた後に企画書を見たくらいですね(笑)。
――原作の「エロイカより愛をこめて」は、シリーズ開始から今年で47年を迎えます。ここまで長く愛されている作品が原作の2.5次元作品はなかなかないかと思いますが、何か感じることはありますか。
2.5次元作品も多様化してきていますよね。エンタメに特化したものも多くなりましたし、お客さまを巻き込んでサービスを前面に打ち出したようなものも増えたりしています。だからこそ、本質である「お芝居」の部分をしっかりと大切にしたいな、と感じました。
多様化してきているからこそ、根底にあるお芝居の力を大切にしないと原作に到底追いつけないという危機感もありますね。
当然、今作だけで終わりたくないとも思っています。僕自身、原作のこの先の展開も(舞台で)やりたいですし、この1作目はシリーズ化していくに向けて非常に重要なスタートです。内容はもちろん、動員も含めて結果を出したいですね。
シリーズ化のためにはお客さまの力をお借りするしかない部分も大きいので、まずは原作に負けないよう、テーマを持って、それを皆さんと共有しながらやれたらいいなと思っています。とはいえやれることは限られているので、一生懸命お芝居を作ってお客さまにお届けすることを大切にしていきたいです。
――「2.5次元作品が多様化している」とのことですが、今作だからこその魅力は何でしょうか。
今現在で70年代を描いている作品はあるかもしれませんが、実際に70年代に当時を描いた作品の舞台化はなかなかないかと思います。そんな作品を令和の時代に、僕たちがやるというのもなかなかないことですね。
テーマ自体は重いですが時代背景にとらわれ過ぎず、ユーモアや歌・ダンスを交えながらエンターテイメントにしたいと思います。
――それでは、村田さんが演じるエーベルバッハ少佐の魅力を教えてください。
すごくはっきりしているところですね。自分に自信を持っているし、裏表もないですし、自分が目指したい人物像に近いと思います。原作を読んでいても「気持ちがいい人間だな」と感じます。
――少佐とご自身との共通点はありますか?
ありますね。僕も少佐と同じで、わりと好き嫌いがはっきりしています。人に高圧的な態度は取れないので、そこは違うかな?
ただ少佐は、高圧的な態度で部下を従えているというより、厳しくて怖いけど、ちゃんと信頼されて愛されている人だと思います。
――村田さんも、どの現場でも信頼されて慕われている印象です。確かに、似ていますね。
年を重ねて、だんだん角が削れて丸くなってきましたのでね。若い頃は、現場で揉めたりすることもありましたけど(笑)。
少佐と違って口には出さないですけど、嫌いなものは嫌いなんです。1回嫌いになるとなかなか好きにはなれない人間ですね。ただ、嫌なのを周りに言う必要はないですし、なるべく人と争わないようにっていう生き方を今はしています。基本的には怒るのも嫌だし、怒られるのも嫌ですね。怒られるのが嫌なので、頑張っています(笑)。
――“嫌い”は出さないとのことですが、逆に“好き”は表に出しますか。
そうですね。例えば、好きだなって思った俳優さんには自分からコミュニケーションを取りに行きます。僕は依怙贔屓(えこひいき)をする人間なので…(笑)、頑張っている人が大好きです。
――ちなみに、今作で依怙贔屓している俳優さんはいますか(笑)?
アンサンブルの方々ですかね。どの現場でもそうですが、アンサンブルの方々が舞台を支えているので、よくコミュニケーションを取るようにしています。彼らに愛されないと僕らも愛されないので、可愛がっています(笑)。
――2.5次元作品のキャラクターを演じられる際に、役作りのポイントはどこでしょう。
基本的に僕の役作りは一貫しています。向き合うのは脚本だけなんです。
まずは脚本に描かれている情報と、描かれていない行間を埋めて芝居を作ります。そこで何となく形ができて自分の中で筋が通ったら、原作を読んでキャラクターの所作や仕草などをトレースしたり、すり合わせをしたりしますね。
「真似から入らない」というのが大事だと思っています。最初から原作を読むと答えがあるので、選択肢が1つになってしまいます。物真似をしても仕方がないのでね。
アニメ化された作品は声優さんの影響を絶対に受けてしまうので、アニメは観ないようにしています。原作へのリスペクトを後から引っ張ってきてトレースをする中で、自分のイメージと違う点があったらどんどん削り落としてシンプルにしています。
自分の感覚とアイディアを信じているので、表現してみて「怒られなきゃオッケーかな」と思っています(笑)。
――先程も「怒られるのが嫌」とお話しされていましたが、実際怒られることはあるのでしょうか?
今回は、今のところないですね(笑)。原作へのリスペクトが、しっかりお芝居に乗っているからだと思います。
――村田さんは、役を作りあげるのに時間がかかるとお伺いしたことがあります。今回はいかがでしょうか。
少佐は今まだ役を作っている途中です。今は最初から最後までオーバー気味に演じているんですが、ここから捨てるところは捨てて、伝えるべき点が際立つようにシンプルに整えていきます。
他のキャラクターを生かすような立ち回りも考えていきたいので、脚本を客観的に見ながら作っていますね。自分が「こうしたい」というより「こうした方がいい」「これはしてはいけない」という客観性が大事だと思っています。
僕はアイディアが浮かんでからは早いのですが、台本に書かれていないところを埋めたり、考える時間が長いんです。稽古の時も、すごく考えています。舞台に立ってはいるけど、基本的に客席側と舞台側で目線は50:50ですね。
何となくで演じると、気が抜けた、隙がある芝居になってしまいます。だから、所作の1つひとつまで作りこみたいんです。瞬きのタイミングや歩幅・歩数も全部決めたい。
俳優って資格がいらないし、1度でも舞台に立てば誰でも名乗れてしまうのですが、それらが全部できたら“プロ”だろうなって思っています。他人にもそうであってほしいとは思わないですけど、自分はそうでないと続ける意味がないです。自分に甘くしたくないですし、自分で自分を評価したいですね。他人がやっていないこと、できないことをやって、プロフェッショナルを極めたいと思っています。
――怪盗エロイカ役の中山優貴さんについて聞かせてください。第一印象はいかがでしたか。また、今の印象はどうでしょう。
彼との初共演は、2016年ですね。舞台上での絡みはほぼなかったんですけど、すごく印象に残っていました。その印象は、今もいい意味で変わっていません。この6、7年の間で役者としてどう変わられたのかは今も見ている途中なんですけど、初々しいですね。
こういう界隈で順調に仕事をしていく人ってどこかで変わると思うんですけど、彼は本当にいい意味で初々しさが残っています。なかなかないことだと思いますよ。あとは、圧倒的に見た目が良いですね(笑)。
――中山さんと共演するうえでの楽しみはどんなところでしょうか。
全面的に信頼してもらえている感じがあるので、それに応えられるようにうまく(中山演じる)伯爵をキラキラさせたいと思います。彼自身でもできちゃうとは思うんですけど、さらに力を添えられるような立ち回りができればいいなと思います。
伯爵と少佐って原作でも真逆のような対比になっていることが多いですが、舞台ならではのやり方で彼をうまく立てながら演じられたらと思います。あくまで彼が主役だと思っているので、伯爵を引き立たせるための相手役が僕だと思っています。
「分かり合えないけど分かり合える」という関係性を描きたいですね。テーマは愛なので。
――今作は、歌も台詞も膨大な量だとお伺いしています。
ここ数年を振り返ってみると、台詞が多い舞台もなくはなかったのですが…。今作は歌も多いですし小道具も着替えも多いですし、とにかく覚えることが多いですね。少佐は独特な台詞回しもありますし、崩しにくいキャラクターでもあります。時代背景もあるので、崩すことで現代風の言い回しになることは避けたいです。
今回はスケジュールがタイトなので、先ほど言った役作りの作業とは逆転させています。台詞を最初に入れて、考える時間を後で使えるようにしていますね。覚え切れるかなっていう不安があって…間に合わないことが一番怖いのでね。
歌はまだ新人ですよ。歌がメインの作品に出演してからまだ1年くらいなんです。歌唱指導の先生からいただいたアドバイスを家で練習して、現場に来るっていう感じなので、今年で46歳になるんですけど、伸びしろしかなくて楽しいです(笑)。
お芝居も、この歳になってもうまくなれると思うので楽しくて仕方がないのですが…歌に関しては常識を知らないし怖いものがないです。恥じらいもないし、自尊心もないし、すごくフラットな感覚で楽しめています。そもそも歌唱力でキャスティングを受けているわけではないと思うので、不安はないですね。
今回はミュージカルに近い作品なので、少佐というキャラクターのまま歌う、というテーマでやっています。最悪下手でも、僕ではなく少佐が音痴な分には大丈夫かなと思います(笑)。
――それでは最後に、意気込みと楽しみにしているファンへのメッセージお聞かせください。
『エロイカより愛をこめて』は、歴史のある、今も愛され続けている作品です。きっちりとプレッシャーを背負って、重圧を作品愛に変えて、皆さんに楽しんでいただけるような作品を作りたいと思っています。
趣向を凝らしたおもしろい作品になっていくと思いますし、おもしろい人たちがそろっています。2作目、3作目と次のステージにつながる長寿作品を目指していきますので、何卒よろしくお願いします。演劇というのは敷居が高く、気軽に「観て」と言えるわけではないですが…そのプレッシャーを作品に込めていきたいと思います。ぜひ、観てください。
取材・文:水川ひかる/撮影:泉健也
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