染谷俊之主演、稲葉雄介監督と4年ぶりのタッグとなる映画「パラダイス/半島」の完成披露試写会が3月25日(土)に開催された。
2.5ジゲン!!では、主演の染谷俊之にイベントの合間を縫ってインタビューを実施。
本作で染谷は、“長期療養中の人気俳優”という役柄を演じている。役への思いや稲葉監督作品に感じる魅力などの質問を通して、染谷の本作へかける思いを紐解いていく。また「帰りたい場所」や「1年の休みがあったらしたいこと」なども聞いた。
――映画拝見しましたが、すごく不思議な雰囲気と余韻のある映画でした。染谷さんは今回の台本を読んだ最初の印象はいかがでしたか。
映画としては、具体的に描かれていないな、と。(染谷演じる)真英が療養した理由とか、心情の変化の瞬間とか、登場人物の「なんでそういう行為に至ってしまったのか」っていうところが描かれていなくて。クランクイン前に監督とお話しさせていただいたら、「表現しないことで、お客さんの想像できる枠を増やす」ということだったんですね。
本当に演じ方と撮り方次第ですごくガラッと変わる作品だなっていうのを、台本を読んで思いました。
――表現せずに想像の余白を出す演じ方の難しさはどんなところにありましたか。
難しさはやっぱり手応えがないというか。本当に日常を切り取っていて、見た方に想像していただく部分が多かったので、これでいいのかなっていうのをカットオッケーがかかる度に思っていましたね。でも、この映画はそれが正解で、手応えがあっちゃダメというか。
普通の映画だったら、例えば手元の寄りのカットがあって、何かに気づいた瞬間にその人の気づいた顔がカット割りで入って…となる。そういうのもないので、もう監督を信じてやっていた感じです。
表現しないっていうのは、すごく難しいです。ついつい表現したくなるんですけど、あえて削ぎ落とした作品でしたね。
――休養中の人気俳優という役を演じるにあたって、どう人物像を作っていきましたか。
まず、真英という役は、僕よりももっと売れている設定にしようと。CMが流れていたり、カットにはなっちゃったんですけど、ガソリンを入れに行ったら自分のノボリがあったりとか。そういう売れている俳優さんが、ふと1年間休むようになったっていうところから作りました。
僕とはちょっと違うけど、僕と重なる部分もあるしっていうところで、重なる部分は自分の中から出して、そこにプラスアルファしていく形で演じていたような気がします。
――重なる部分というのは具体的にどんなところに感じましたか。
この撮影に入る前にコロナになってしまったんです。自宅での療養期間が1週間くらいあったんですが、「何もできないってこういう感じなのか」と。それまで舞台の稽古や本番で結構忙しかったんですけど、急にぱっと空いたので、仕事には行けなかったけど逆に役作りができました。
物語上は竜(演:立川かしめ)が家に来て匿(かくま)うっていうお話で、確かにそれがばれてしまったら、自分の身も危ういかもしれない。僕も同じ立場だったら、かなり悩んでしまうかもしれないです。僕自身、エキストラとかからコツコツやってきた身なので、それが今全部なくなっちゃうのはちょっと嫌だなって。
その葛藤も、多分、俳優にしか分からないんじゃないかなって思うので、そういったところは役作りの参考にできたんじゃないかなと思います。
――染谷さんが真英の立場だったら、悩んだ結果、友人を匿いますか?
どうするかなあ。ちょっと想像しますね。(しばしシミュレーションして)いや、難しいな。匿うかなあ。でも、真英は竜がやってないって思っているので。うーん…うん。自分を信じてやってないって言うんだったら、匿ってしまうかもしれないですね。でも怖いので、絶対家から出るなって言うと思います(笑)。
――4年ぶりとなる監督とのタッグです。染谷さんが感じる稲葉監督作品の魅力はどんなところでしょうか。
本当に映画が好きなんだろうなって思いますね。今回は脚本も監督も稲葉さんで、撮影のだいぶ前からロケハンされていて。真英が竜を迎えに行くシーンとか、監督がずっと思い描いていてくださったみたいなんですよ。
で、実際に僕やかしめさんがそこに立つと、具現化されているって感動してくださったんですね。そのくらいこだわりを持ってらっしゃいますし、優しくて穏やかな方なんですけど、すごく熱くて芯を持っている素敵な監督だなって思います。
――ロケ地となった伊東はいかがでしたか。
伊東はとっても素敵なところでしたね。海も山もあるし、温泉もあるし、すごく素敵なところでした。
――撮影は夏だったそうですね。
撮影させてもらった家や畑は、監督の実際の家なんですが、けっこう山の中で。僕セミが好きなんですけど、ああいう田舎のセミの鳴き声って、めちゃくちゃノスタルジックな気持ちにさせられるというか、すごく胸がきゅって切なくなるような感覚があって、素敵だなって思いました。
――セミといえば毎年、染谷さんはセミツイートをされていますよね。
よくご存知で(笑)。めちゃくちゃバズるんですよね。
――伊東のセミの声はツイートされましたか?
あ~どうだろ。あえてはしてないんですけど、伊東よりももっと前につぶやいちゃった気がするので、あれは都会のセミだったと思います(笑)。
――そうなんですね(笑)。セミが気になって脱線してしまったのですが…また作品についてお伺いします。作中では立川かしめさん、吉田美月喜さんとの3人のシーンがメインとなっています。3人は今回が初共演とのことですが、雰囲気はいかがでしたか。
とてもいい感じだったと思います。(立川)かしめさんは本来落語家で、今回映像作品が初めてということで。加えて、かなり年の離れた(吉田)美月喜ちゃんがいて、僕がいて。この3人のバランスはかなり絶妙だったんじゃないかなって思います。
――役に入っていない状態の3人の空気はどんな感じでしたか。
シーン以外の方が和気あいあいとしていましたね。真英はわりと姪っ子のことを雑に扱うし、(吉田演じる)夕起もサバサバしているので叔父さんに対して雑だし、竜は竜でああいう感じだし。実際の3人と役の3人は全然違うんですけど、でも、実際の3人が和気あいあいとできたからこそ、ああいう3人の何もない時間のフラット感が作品に出たんじゃないかなって思います。
――余韻を含めていろいろな受け取り方ができる作品だと感じました。染谷さんはいち観客としてこの作品からどんなものを受け取りましたか。
不思議だなと思うのは、観た時の自分の心情によって全然見方が変わる作品だなって思っていて。この時はこう思ってたけど、2か月後に見たら「あ、こういう感じに変わっているな」とか。それが面白い作品だなって思いますね。
――作品にちなみ、染谷さんにとっての「帰りたい」と思える場所・人などを教えてください。
僕、犬(名前:おこげ)を飼っているんですけど、その犬が家に帰ったらもう全力で喜んでくれるんですよ。家を出る時はもう今生の別れかっていうくらいずっと鳴くんです。「いや、もう2度と会えないんか」って思うぐらい別れを悲しんでくれて、帰ってきたら全力で喜んでくれて。
この子は今僕がいないと死んじゃうんですよね。だからこの子のいる場所が、僕が帰る場所だなって思っています。もう腕が折れても、足が折れても絶対に帰らなきゃいけないです。
――では、もし1年間の長期休暇があったら何をしたいですか。
語学留学もしたいんですけど、もういっそいろんな国に行くっていうのはありかもしれないですね。絶対に人生で1度は行ってみたいところってあるじゃないですか。万里の長城とかナイアガラの滝とか、マチュピチュとか、ウユニ塩湖とか、オーロラを見たいとか。
いつか行ってみたいだと、結局行動しないまま人生終わっちゃうような気がして。もし1年間あるんだったら、そういうとこを全部回ってみたいですね。
――長期のお休みがあったら、仕事のことは1回忘れられるタイプですか。
絶対忘れられないですね! もう1年間も空いちゃったら不安で不安でしょうがないです。1ヶ月だったらまだって感じですけど、1年ってなると本当にちょっと怖いですね。
――それは何に対する怖さ?
お芝居の感覚がなくなっちゃうんじゃないかなとか、お仕事が今後あるのかどうかっていうのとか。あとはやっぱり応援してくださってる方のことを考えると、なかなかできない決断ですよね。
――そう考えると真英の1年休むっていう決断ってすごく勇気がいることですね。
すごいと思う。だから、きっとよっぽどのことがあったんだと思います。俳優って結構孤独だったりするので、本当に疲れちゃった場合、そうなっちゃうのかなって。
――1年くらい休みたくなる気持ちも理解できる?
めちゃくちゃわかります。うまくいかなかった時とか、すごく深く傷ついた時とかはダメだ~と思うこともありますね。だから真英も挫折みたいなことがあったのかなとか。
そこはぜひ皆さんにも何があったのかなって想像していただきたいんですけど、個人的には彼の気持ちはわからなくもないという感じでした。
――貴重なお話ありがとうございました。では最後に作品を楽しみにしているファンに向けてメッセージをお願いします。
今回、完成披露試写会をやらせていただいて、 7月21日(金)の公開が正式に決定しました!かなり夏にぴったりの作品だなって思います。夏に休まれる方って結構多いじゃないですか。お盆休みがあったり、学生さんは夏休みがあったり。
それぞれ違った立場の3人の登場人物が何もない時間を過ごすという映画なので、まさに普段お忙しい方、これからお忙しくなる方、今休んでいる方とかに観ていただいて、「あ、こういう時間もいいんだな」と思っていただけたらなって思います。
本当にいろんな捉え方ができるので、間隔を空けて何度でも観て、何か感じていただけたらと思います。
映画「パラダイス/半島」完成披露試写会トークイベントレポート
3月25日に開催された映画「パラダイス/半島」完成披露試写会トークイベント。この日は全3部のイベントを実施したとあって、ラストにあたる3部はキャスト登壇時から、全部に登壇した染谷俊之と立川かしめを中心に和気あいあいとした空気感ができあがっていた。
本作が演技初挑戦となった立川が「(染谷を)染様と呼ぶくらいには信用していたし、染様におんぶに抱っこでした」と緊張した撮影を振り返ると、すかさず染谷が「(立川を)立様」と呼んで笑いを取るなど、序盤から軽快なトークを繰り広げる。
またこの3部には真英(演:染谷俊之)のヘアメイクを担当する土橋陽子役の西村季里子、ライブ配信番組のアシスタント・手嶋未来役の谷川愛梨が初登壇。
作中では共演シーンがなかった立川と西村、谷川はこの日が初めましてだったことや、西村らが出演するシーンの撮影中、立川は撮影現場となった家屋の2階で寝ていたことなど、裏話が飛び出した。
染谷は残念ながらこの日は登壇が叶わなかったディレクター田中朋紀役の松村龍之介についても触れ、「美男美女のスタッフで、一気に画面が華ぎましたね。3人のシーンが多かったので、新たな風という感じですごく助けられました」とコメントした。
演技に苦戦したことを語る立川に対し、染谷は「初めてだからこそできるお芝居みたいなものから僕自身すごく学ぶことが多くて、すごく素敵でした」と返し、2人の信頼関係も垣間見えるトークイベントとなったのではないだろうか。
抽選会やフォトセッションタイムも設けられ、約25分のイベントはあっという間に終わりの時間に。映画公開日も改めて7月21日(金)と告知され、本作のメガホンを握った稲葉監督は「違う劇場で見ればまた違う作品に見える、そんな映画だと思うのでまた見てもらえたら嬉しいです」と挨拶。
立川は染谷のYouTubeチャンネル「染チャンTV」のお決まりの挨拶を真似して「映画「パラ半」、7月21日からはっじまるよ」とポーズ付きで披露。会場のファンからは「おお!」とどよめきと拍手が起きた。
最後に染谷が「撮影しながらこの光景を夢見ていたので、今日こうして完成披露試写会ができたこと、そして7月21日(金)に公開が決まってとっても嬉しく思います。自分の状況によっても見方が変わる作品なので、映画が公開されたらぜひ劇場まで足を運んでいただけたらなと思います」と挨拶。映画同様、アットホームな雰囲気漂うトークイベントとなった。
取材・文・撮影:双海しお
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