インタビュー

【2.5次元の舞台裏】人間と一緒か、人間よりも美しく 毛先1本にまで魂を込めるウィッグデザイナー・西村裕司(後編)

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舞台「文豪とアルケミスト」シリーズやミュージカル「ヘタリア」シリーズ、2023年3月上演のミュージカル「フィーダシュタント」など、数々の舞台やTV・雑誌でヘアメイクを手掛けるearch代表・西村裕司さんのインタビュー後編。

前編では舞台ヘアメイクを担当するに至ったきっかけや、2.5次元作品での再現性を求められる舞台ヘアメイクへのこだわりについて話を聞いた。この後編では、実際のウィッグ制作過程や思い描く理想のウィッグ、舞台ヘアメイクを目指したい人へのアドバイスなどを聞いていく。

(C)2022 Happy Elements K.K/ASエリオスR製作委員会

――実際のウィッグの制作はどういった流れで行われるのでしょうか。

太田:ベースは基本的に私が担当しています。うちは既製品のウィッグをバラしてから手作業で毛を1本ずつ縫い付けていくのですが、まずは色選びですね。資料とにらめっこして、髪に使われている色が複数あるので、それを全部洗い出して同じ色の毛を集めます。

髪がどう動くのかというのも、このベースの作り方で変わってきます。なので、どう動いてほしいかというのをキャラクターにあわせて作っていき、ベースができあがったら西村さんにバトンタッチします。そこから西村さんが仕上げていくという流れです。

▲太田夢子さん

西村:作業としては、もうオリジナルのウィッグを1つずつ制作している状態ですね。僕の作業としては、フィッティングして、撮影前や本番前にも調整して、本番中にも調整して。シリーズものならまた次回作の前に調整して。ずっと調整していますね。本番中も、観ていて気になった部分があれば随時調整しています。

――試行錯誤のうえにこの制作方法にたどりついたのですね。

西村:そうですね。いまでも進化し続けていますね。

もう10年くらい舞台用ウィッグを作っていますが、最初はそれこそボンドなどで切り貼りしてっていう作り方もしていました。ただ、それだとやっぱり僕が目指す髪の動き方にはどうしてもならないんです。それに、感覚として小道具さんや造形さんのようなモノづくりに近い感じになってしまうんですよね。

美容師として“髪を作れる環境”を整えるなかで、いまの形になってきたのかなと思います。

――西村さんが目指す理想のウィッグの動きとは?

西村:人間の動きと一緒か、人間よりも美しく動いてほしいです。役者が演じている感情の表現が、髪に出るというのが1番の理想ですね。感情表現とともに動くはずの髪の動きがないと、役者の出した感情が半端に伝わってしまうと思っているので、それは避けたいんです。

ダンスや殺陣で髪が動くのは当たり前ですが、「ねえ」と呼ばれて振り向いた瞬間のようなふとした仕草で、そのキャラらしい動きが髪にも出ているのが理想ですね。

――観劇の際、注目してほしい部分はありますか。

太田:1つのウィッグに何色も使っていることは肉眼ではわからないと思うのですが、細かい仕事が積み重なって自然なウィッグになっているので、余裕があればぜひ毛束1つひとつを観てもらえたら嬉しいです。

動くウィッグを作っている分、毎公演後のメンテナンスも時間をかけてやっているのですが、そうして生まれた“髪も含めて役者の感情の乗ったお芝居”を楽しんで、劇場を後にしてもらえたら嬉しいですね。

西村:サラサラのウィッグというのをうちのこだわりとしてやっているので、毎日のメンテナンスがすごく大事になってくるんですよね。

太田:劇場入りしてからは入館・退館時間との戦いです(笑)。入ってまず1回ウィッグのメンテをして、ヘアメイクして、本番中もウィッグを直すために袖に構えていて、公演が終わったらまたメンテして…。毎日それを繰り返していますね。

西村:あとはキャストがSNSに投稿した写真もチェックしています。毛先の動きで気になる部分があれば、それをスタッフ間で共有して、翌日に現場で調整して。

コロナ禍に入ってから配信が増えたことで、役者のアップが全世界に届く機会が圧倒的に増えました。そこでキャストたちがより良く見えるように、僕らはこういう毛先1つに対してもこだわって、どの瞬間に見ても「違和感を感じさせない髪」にしたいんです。

▲西村さんらが制作したウィッグ

――それだけのこだわりを注がれたヘアメイクでビジュアルが完成するキャストも、幸せなのではないでしょうか。

西村:そうであってほしいですね。僕自身、やるからにはなんでも1番になりたい人なんですよ(笑)。この舞台ヘアメイクの世界に入ったときも、どうせやるなら1番になろうねって始めたので、今では「西村さんにお願いしたい」と言ってもらえることも増えて嬉しいです。

最近はオリジナル作品でウィッグを制作することも増えています。原作がないぶん、より自然なウィッグを作れるので、そういう部分でも活躍の場を増やしていけるんじゃないかなと思っています。自分から売り込むと安っぽくなっちゃうのでしませんが(笑)、ウィッグでの新しい表現も、縁があれば挑戦してみたいですね。自分が持っている技術や感性で、業界をちょっとでも既存の軸からズラせたらおもしろいと思っているんです。

2.5次元作品では自分のテイストっていうのが伝わるようになってきたので、今あるものから少し変えたい、違った表現に挑戦したいと思っている人や業界があれば、ぜひそこでも自分の技術を生かしてみたいです。

あと、2.5次元に関していえば、そこに出演しているキャストたちって本当にかっこいいんですよ。もっと彼らを世の中の人に見て欲しいという気持ちもあるので、その助けになるようなヘアメイクの仕事をやれたらいいなと思いますね。

――舞台ヘアメイクの仕事を目指す読者に、アドバイスはありますか。

西村:僕から言えることは、「ヘアメイク」なので、ヘアもメイクもどちらも大切だということです。そして、あたりまえのことだけどヘアもメイクもたくさんやらないと上手くならないので、とにかく数をこなすこと。

その上でもう1つ大事なのは、自分から「やりたい!」とたくさん手を挙げることだと思います。やっぱり、待ってないで自分から動かないと機会は得られないので。

――ちなみに舞台は観ておいたほうがいいですか?

西村:舞台は好きでもいいと思いますが、誰かのファンということであれば、制作側ではなく観る側にいる方が絶対に楽しいと思うので、そちらを僕はおすすめしたいですね。

僕自身は、唯一観た舞台が小学生の頃に母親に連れられて観た『オズの魔法使い』だけで、まさか自分が舞台の仕事をやるようになるとは思っていなかったんです。そんな状態で舞台の世界に飛び込んだので、本当に何も分からなかったんですよ。

だから最初の頃は、裏側を知らないと迷惑になると思って、身体を動かして手伝えることであればなんでもやろうと思って積極的にやっていたんです。ですがそこで怪我をしてしまって…。それ以降は、ヘアメイクに徹するようになりました。こんなふうに右も左も分からない状態で入ると、そこでどう動いていいか分からなくなってしまうので、舞台に関していろんなことを知っておくというのはすごくいいと思います。

――実際に飛び込んでみないとわからないこともありますよね。

西村:そうですね、そこは飛び込む勇気が大事かな。「いつかやりたい」じゃなくて、やりたいと思ったらすぐ動けるかどうかですね。うちもそうですが、熱意があればアシスタントとして勉強させてくれるところも多い業界だと思いますし、飛び込むだけの熱意と勇気を持って、ぜひ挑戦してほしいです。

――最後に、西村さんが感じる舞台ヘアメイクという仕事の魅力を教えてください。

西村:各ジャンルのプロの方しかいない業界で、いろんな人と出会って話をして、刺激を受けられるのがすごく楽しいですね。

それに、ファンの方々がヘアメイクという部門の仕事まで見てくれて、なかには僕の名前まで覚えてくれる人もいて。そういうところまでしっかり見てもらえる世界で、細部までやり込んだプロの仕事をできるのも、すごくやりがいを感じます。

多くの人に出会って、役者さんやファンの方からもパワーをもらって、本当に人生が華やかになる仕事です。この仕事に出会えて本当にラッキーでした。10年前、吉谷さんに「できます!」と言ったことに悔いはありません。

***

終始、柔和な表情ながらも、言葉の端々にはこれまで培ってきた技術への自信と、彼らの手によってキャラクターとして舞台を生きたキャストへの愛が満ちていた。観客がバックステージ映像以外で舞台の裏側を目にする機会はほぼないが、多くのファンを魅了する作品は、ファンの熱量に勝るとも劣らない愛情とプロの仕事によって作られていることを実感できるインタビューとなった。

取材・文:双海しお/撮影:井上ユリ
(C)2022 Happy Elements K.K/ASエリオスR製作委員会

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WRITER

双海 しお
 
							双海 しお
						

アイスと舞台とアニメが好きなライター。2.5次元はいいぞ!ミュージカルはいいぞ!舞台はいいぞ!若手俳優はいいぞ!を届けていきたいと思っています。役者や作品が表現した世界を、文字で伝えていきたいと試行錯誤の日々。

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